許せる人だけ残って下さい。
1 接触
中央暦1339年、未だ寒い1月27日早朝、冷たく肌を撫でる風を感じながら、クローヴェル王国竜騎士メクリアルは、本土北東約28kmの空を哨戒飛行中であった。
折しも夜が明けようとする頃、遠くにある雲は柔らかな風にたなびき暁の光で茜色に染まる。
彼の所属するクローヴェル王国のある〝最果ての陸地〟カラキア亜大陸には、三つの国家が存在する。
一つは豊かな農業国で自給率300%を越すクローヴェル王国、一つはクローヴェルとの間の山脈の影響で不毛の砂漠が広がり、また唯一まともな鉱山を有するデ・ロイテル王国、最後はこの亜大陸の半分近くを占め、純人至上主義を掲げるナクリア王国である。
ナクリア王国は純人で全てが占められており、奴隷にすらエルフは愚か、獣人もいない。一方クローヴェルとデ・ロイテル両王国はそういった〝亜人〟が人口の三分の一から半分強を占めており、友好関係など築けそうになかった。そもそもナクリアに滅ぼされた国の人々が逃げ込んだせいで両国の亜人比率が高くなっているというのもそれに拍車をかけていた。
このカラキア亜大陸は〝最果ての陸地〟の名の通り、東、北東、南東、真南にはしっかりとした陸地すらないと言われている。実際、その方向に船出して帰って来た者はいない。
そのためそれらの方向に位置する勢力からの襲撃などは警戒しなくて良いのだが、ナクリアが海から向かって来る可能性は十二分にあるため、それを早期に発見、阻止——できなくてもせめて妨害——することが彼の任務である。
「ん?」
メクリアルは、自分以外何もいないはずの空に、差し込んで来る日の出の光を背にした黒い点を見つける。
黒い点は近づいてくる。
「鳥、か?」
いや、遠い上に早すぎる。メクリアルはただの鳥の可能性を捨てたが、しかしそれのシルエットは鳥の様だった。
彼は腰から下げた魔信と略称される魔法通信機の子機を手に取り、発信ボタンを押して司令部に連絡する。宛先は司令部に固定されているため、弄る必要はない。
「我、未確認騎を発見。此より邀撃し、確認する」
連絡を終えると、メクリアルは手綱を引き、愛竜を加速させる。互いの距離は彼の想定よりも早く狭まっていき、未確認騎が詳細に見えてくる。
「羽ばたいてない…?!」
それは真っ白で、胴体に赤い丸が書かれており、翼には四つ何かがぐるぐると回っている面妖な姿をしていた。
全く聞いた覚えがない、絵などで見た覚えもない姿だった。
すれ違った後、メクリアルは未確認騎に追いつこうと旋回する。旋回半径はおよそ2m、熟練の竜騎士でないと難しい値だ。おそらくすぐに追いつけるだろう、その彼の判断はすぐに裏切られた。
「なぜ!」
おかしい。すぐに再び大きくなるはずの未確認騎の姿が、一向に大きくならない。
「なぜ!」
それどころか、少しづつ小さくなっている様にさえ見える。
「そんなまさか、まさかっっ!」
芝生より少し濃いくらいの緑色の鱗に覆われ、鋭い尻尾と蝙蝠のそれによく似た翼を持つ雄々しい竜、人の騎乗可能な大きさで時速235
そんなはずはないという常識の叫びに、それは事実であると視覚が、直感が反論する。
未確認騎は、こちらの
彼は迷わず魔信の発信ボタンを押し、叫んだ。
「司令部!我未確認騎に接近、すれ違うも追いつけない!未確認騎は我が方よりも優速なり!繰り返す、未確認騎は我が方よりも優速なり!未確認騎は本土ネクサリア方面へ進行した!」
その報告を聞いた魔信員は耳を疑った。
それの真偽はどうあれ、未確認騎は哨戒騎を出し抜いたのは事実だ。報告を受けた司令部は迅速に動き出す。ネクサリアは王国の経済の中枢であり、もしも攻撃を受け防げなかったなら軍の威信どころか経済的な損失も計り知れず、ナクリアとの緊張が高まっている今それは致命傷にすらなりうるかもしれないからだ。
「第三飛竜隊、全騎発進セヨ!」
ネクサリア郊外にある基地では、魔信のアナウンスに従い
第三飛竜隊は幸い未確認騎の目の前に占位することができた。
「火炎弾一斉発射!5、4、3——」
「未確認騎、上昇します!」
「!?何だと?」
既に
「司令部!我迎撃に失敗!み、未確認騎は超高高度でネクサリア方面に進行!」
ネクサリア魔導騎士団長ノエル・シルヴェは、日の出から間も無く快晴というには若干雲が多い空を見上げる。先ほど報告にあった未確認騎がそろそろ上空に達する頃だ。
そこまで考えたところで、それの姿が見えてきた。
「…鳥?」
姿だけは似ている。
彼女は周りを見渡し付近に人がいないことを確認してから、未確認騎に向けて矢を射った。魔法で加速されようが、
それは高度を下げ、街の上空を何度か旋回したのち東へ去っていった。
翌日朝、王都クローヴィエムでは、緊急会議が開かれていた。
もちろん、昨日の未確認騎に対してである。
「さて、皆の衆、何か意見はないか」
中年というには少し若い王の呼びかけに対し、緑龍騎士団長が手を挙げる。
「それは鳥に似ていたのでありましょう?だとすれば網を設けて仕舞えば良いのではないですかな?」
此に対し、飛竜騎士団長が反論する。
「其奴は
「なあにい?」
「双方待て。ここは会議じゃ」
宰相が宥める。
一人が挙手し、話し始める。
「諜報部です。件の未確認騎は、その形状から西方の大国
要するに分からないのだ。会議は振り出しに戻る。
と、そこへ外交部の若手幹部が扉を強引に開き、息急き切って駆け込んできた。
「何事だ!」
「報告します!今朝、王国東の海上に200
その場に激震が走った。
その後会議は王と宰相の二人の主導により日本と会談する方向となった。
翌日、午前九時ごろ、王都クローヴィエム内、
「ん、あれは……」
空気を叩く音を立てながら東の空からCH -47JAチヌークが来た。
チヌークのタンデムローターによる強風に三人は2mほど転がされる。
ヘリから防護服に身を固めた数人の兵とガスマスクを装備した外交官二人が出て来る。
フェルミンは面妖な格好だなと思いつつ声をかける。
「貴公らが日本の使節でよろしいか?」
「はい、そうです」
「では」
かくして会談が始まった。
この後外交官はクローヴェルとデ・ロイテルの資源状況を聞き、我を忘れて歓喜の叫びをあげ、その後我に帰り恥入ったと言う。
とりあえず週一、日曜での投稿を目指します。
前書きにもある通り、粗探しも目的の一つなので、そもそも小説を書くなといったものは例外として、どしどし御批難、御感想お寄せ下さい。
小ネタ解説
・あらすじにある転移時期と今回の接触との間がなぜこんなにも空いているか
某所で実際に日本が異世界に行ったらどうなるかというとてもリアルな想定を読む機会があり、その際に改訂した結果。チョコレートがなくて自家用車を動かせない四ヶ月弱だった。
・頭の悪い緑龍騎士団長
当時は此しか思いつかなかった様子。かすみあみにP3Cが引っかかるわけがあるかw
・アルタトニスとアトランティス
読み間違い。A
・単位
旧作クオリティその一。初っ端から独自単位が登場する。
1
ー各国の反応ー
旧作よりそのまま。
日本「穏便そうな国で良かったあ」
クローヴェル王国「国交結べそう…助かるかも!」
デ・ロイテル王国「どれどれ、こちらも…」
ナクリア王国「蛮族同士が手を結んでも何も支障あるまい」
デリア連合王国「ふーん、潜入調査はじめ!」
ー次回予告ー
————「確実に防げません。よくて一年です」
日本と国交を開き、繁栄していくクローヴェル。そこに、忍び寄る影が居た——
次回、「惨劇」