日本召喚2021   作:秋津とんぼ

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大東洋の覇者は誰ぞ
8 波乱の星祭り①


 6月1日、日本の外務省に一つの便りが届いた。

 「星祭り?」

 「はい。4月にネイヴィストと国交を結んだため、招待されることになったようです」

 星祭りについての招待状である。

 星祭りとは、簡単に言ってしまえば世界を創り給うた創造神に感謝し、大いに言祝ぎ敬い奉る祭りである。

 かつては、全世界で行われていたというが、やがて廃れていき、今では大東洋の東側、最も中央から遠い場所、ネイヴィスト王国の王都アルチルただ一カ所でしか行われていない。

 「ふむ、何日だ?」

 「7月の6、7日です」

 「七夕かあ。面白い偶然もあるものだな」

 思えば、転移したことによってベトナム行きが消えたため、今回の星祭りが、総理となって以降初の外遊となる。持病のガンの悪化を理由に退陣した、前任でありゴルフ仲間でもあった武田は、歴代最長在職日数を誇ったのであるから、海外公務も幾度となく行ってきたが、流石に異世界の国に行ったことはなかった。また銀座の焼き鳥屋で自慢してやろうかな。そう思うと自然と口角が上がった。

 

 日本国第99代総理大臣、菅田文偉(すがだふみひで) 参加

 

 「何?ネイヴィスト王国にある飛行場は全て1000m未満だから政府専用機が使えない?US-1……は退役したんだったな。オスプレイはどうだ?何?遠すぎて届かない?ロイテルに寄って補給しても届かない?……船舶移動しかないって?

 電話を終えた部下が菅田に報告をする。

 「総理。例の星祭りなのですが……諸事情で、船舶で行くしかないそうです。長旅になります」

 これを聞いた菅田は、目の前が真っ暗になった。

 「総理!?総理?気を確かに!総理!

 彼は船に弱いことで知られていた。

 

 

 

 大体同じ頃、ナクリア王国港湾都市ゲルニカ、ラスル9世離宮、王の私室。

 退位式を明日に、娘の即位式を明明後日に控えたラスル13世は、私室で何をするでもなく座っていた。

 扉をノックされる。

 「失礼致します、陛下」

 そう言って入ってきた侍従に手渡された封筒の封蝋にある交差した戦闘鎌に獅子(ネイヴィスト王家の印章)を見て、ラスル13世は目を見開いた。

 彼はそのまま封筒の蓋を持ち上げて封蝋を砕くと、中に入っていた羊皮紙を広げ、何も言わずに読み出した。

 ややもすれば、ラスル13世はあの炎龍の魔導師(クワトロ・シルヴェ)によって一つになった眼から涙を流していた。

 祖父より続く大願の成就を目前にして、全てひっくり返された時の絶望感。王都上空に敵が現れた時の恐怖、娘が殺される直前に間に合った時の安堵と驚愕。ゲルニカより遡上してきたニホン部隊の異様を見た時の不安、その後の彼らの迅速な仕事に対する感嘆、新たな政体への困惑。

 開戦から今に至るまでの思い出が走馬灯のようにラスルの脳内を駆け巡った。

 やっと、自分は生き残った、国は滅びずに済んだという実感が湧いた。

 顔を上げると、侍従も涙(てい)を留められなかったようで、蝋燭の光に照らされ2条の筋が彼の頬に輝いていた。

 ラスルが手紙を置くと、二人は抱き合った。

 「乗り切った!乗り切ったのだ!あの国難を!」

 「これで!これで安心です、陛下!」

 この時だけは身分の隔たりはなかった。

 手紙の一番上には、Shtromēa Rejis(星祭り)と書いてあった。

 

 ナクリア王国第14代女王、レイシア・バンブュラス 参加

 

 ラスルは、ふと窓の外を見た。すでに日は没しているにも関わらず、ゲルニカは数多のカンテラに照らされ、商人たちで賑わっていた。この光景を守れたのだと思うと、落ち着き始めた感情が再び昂り始めた。

 彼は目の前を見た。侍従がいた。

 あとはもう、止まらなかった。

 

 

 

 誤差に収まる程度には近い時刻、デ・ロイテル王国王都ロイテル、フラトブリウ城。

 「祖父上!星祭り!星祭りの招待状が来ましたよ!」

 孫娘に呼ばれ、スナワ2世は寝台からゆっくりと身を起こした。

 「ラフェル。王たる者が、そのように舞い上がってはならぬと何度言うたか覚えておるか?」

 「覚えているわけがないです、祖父上。それは生まれてから今まで一体幾つのパンを食べたのか覚えているかと言うのと同じくらい無理難題ですわ」

 相変わらずの饒舌に、スナワは頬を緩ませる。

 「ねえ祖父上、今年の夜市はどこへ行きましょうか。二番大路のカナメ焼き?王城前の氷酒庭園?それとも舞楽堂に——」

 「ラフェル、今年は一人で行きなさい」

 途端に孫娘は頬を膨らませた。

 「今回はちと、障りが大きくての」

 「そんな……去年のように、私が支えるのではダメなのですか?」

 不安げな表情が可愛くて、スナワはつい意見を翻しかけた。

 「ぃ……ぅうむ。あー、ほら、即位した後の予行演習だと思うて、な?」

 「祖父上、たとえ即位した後でもサトフォが付いてくるのですから一人にはなりませんわ」

 「おぅ、そうだったの」

 忘れていた。

 サトフォは飛竜(ワイバーン)に振り落とされて死んだ兄の孫で、来年にはラフェルと結婚して王配となる男だ。女王はただ君臨するのみで、男子たる王配が政務を差配する。息子が男児をもうける前に落馬して首を折ったせいで生まれるこの国初の女王に対する、王国の回答がそれだった。

 「それに、私とサトフォの二人で支えればきっと祖父上も——」

 「わしゃちょっと昨日から腰が痛くてのう。膝も痛むし、なんだか少しぼうっとするわい。男女の仲にはわしのような翁は不要じゃろうしのう。さっさと行かんか、ほれ」

 スナワ2世、人生で一番早口になった瞬間であった。

 「……はい」

 

 未来のデ・ロイテル王国第9代女王、ラフェル・デ・ロイテル 参加

 

 「ぐがっ!」

 スナワが叫んだ。寝返りを打つときに腰をやったらしい。

 嘘から出た真とは、このことか。

 

 

 

 

 ほとんど同刻と言ってよい時間、グルタミア王国王都グルタミウム、王城グルタマーテ。

 「とうとうこの時がやってきた!」

 アミノグルタル2世は招待状片手に鼻息を荒く(ヒャッハー)していた。

 「六ヶ月前にファンポック!一ヶ月前にネイヴィスト!」

 彼は起立する。

 「おとといは!あの!ニオウタの協力すら取り付けた!」

 アミノグルタルは招待状を握りしめた。

 「HAHAHA待っていろよクラッセルブリアの赤髭!不忠者の曾孫め!フィアラーンを荒らし、海賊を使(そう)して無辜の民の命を奪い、数多の船を沈めた貴様を!滅ぼす!始まりの日だ!」

 

 グルタミア王国第20代国王アミノグルタル・オキソグルタル・ヒドロキシ・グルタミネ 参加

 

 「おぅらぁ破壊拳閃ん!」

 バギィ、ガチャン。

 「あ」

 調子に乗って放った拳打が、花瓶の乗った黒檀の小机を割っていた。

 

 

 

 残り:クローヴェル王国第13代国王ケイラ・クローヴェル 参加

    ニオウタ王国第38代国王ファフドソウ・サマルブュラス 参加

    ニュルンベッゲル侯国第3代侯爵エルンスト・ニュルンベギア 参加

    ジェスティマ公国第5代公爵レフイスフル・ゲヒウール・ジェスティマ 参加

    ライデンシャフト大公国第87代上級公ギド・イリーガル・デヴィスバルト・ライデンシャフト 参加

    スールー王国第7代国王レヒエーヴ・セイウ 参加

    ファンポック王国第15代国王/ファンポック帝国初代皇帝フィルウェデス・ファンポック 参加

    クラッセルブリア大王国第4代国王

バルバロッサ・ヴィルヘルム・コムスタ・テングレラ・フォムト・バーガー・クラッセルブルク

    参加

 

 

 

 

 というわけで、一年に一回、7月6日・7日は大東洋東側の諸国()()が一堂に会し、大いに祝うのである。今となっては、軍事力を誇示し合う、往年のディム王国の【軍祭】のようになっているのも悲しい事実であった……

 




今話は原稿が356字しか無かったのでおよそ9割が加筆となっております。
具体的に言うと”「ふむ、何日だ?」”から”クラッセルブルク 参加”までがまるまる加筆です。

小ネタ解説
・武田と菅田
 モデルは言うまでもなく直近のトップ三人。残り物の岸・義・雄の三文字で官房長官にしようか

・オスプレイが届かない
 福岡-アルチル:約5675km
 与那国島-アルチル:約4884km
 ロイテル-アルチル:約3872km
 オスプレイ航続距離(ペイロードなし、補助燃料タンク付き):約3593km

・なぜフィール・バンブュラスではなくゲルニカなのか
 ラスル13世とノエルちゃんの仇取り隊の戦闘が激しくて王城ぶっ飛んだせい

・戦争鎌
 英語war scytheの和訳。通常柄に対して直角についている刃を柄の延長線上に打ち直したもの

・夜市
 星祭りの夜市の平穏は誰にも犯せない。
 神が、それを望まないから

・グルタミア王国諸々
 グルタミン酸およびグルタミンの関連用語から名付けました(キリッ
 筆が乗ってたとはいえ正直蛇足

・軍祭
 ディム王国の首都クスで5年に一度催される多国籍軍事パレード。もっとも最近の開催は1338年で、次の開催は1343年

ー次回予告ー
————「おお、凄いな。此は魔法か?」
 アルチルに着いた菅総理は、異世界流の歓迎を受ける。
 未だ、静かだ————
 次回、「波乱の星祭り②」
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