日本召喚2021   作:秋津とんぼ

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9 波乱の星祭り②

 7月5日、午後6時。

 夏至直前ゆえに太陽は未だ沈まず、しかし西に位置する山に遮られその大部分はすでに稜線下に没しているが、創造神の加護によりアルチルは昼かと思うほどに明るかった。

 アルチルを目指して北側から、もしくは南側から海岸に沿って来る夥しい数の船の明かりを見て、ネゲヴはまるで噂に聞く南海の夜光虫のようだと思った。

 彼がいるのは王城の中心、主塔の屋上だ。アルチル湾に蓋をするように突き出る陸繋島の上に建てられた王城は、北に外海、南にアルチル湾を見渡せ、東の足元にはアルチル湾と外海を繋ぐ唯一の水道が見下ろせた。彼はここからのこの眺めが一番好きだった。

 船が次々と白帆を加護の光の色に染めながら入ってくる中、それらより何倍も大きな灰色の船が、船体を橙色に染めながら入ってきた。左を見ると、その船と同じくらいの大きさの灰色の船がもう一隻続き、その後ろに同じくらいの大きさの純白の船が、さらにその後ろに少し小さな灰色の船が二隻続いていた。

 日本だ。

 「父上、そろそろ時間ですよ」

 唐突に声をかけられ、ネゲヴは振り返った。階段の出口から三男アリウスがひょっこり顔を出していた。

 「おお、そうだな」

 ネゲヴはそう答えると、欄干に(もた)れていた身を起こし、階段へと歩を進めた。

 

 

 

 今回、日本政府が星祭りに派遣した艦隊は客船「にっぽん丸」と第4護衛隊群第8護衛隊「ちょうかい」「はぐろ」「きりさめ」「すずつき」の五隻である。

 「おお、凄いな。此は魔法か?」

 菅田総理は、空中に浮かぶ数多の橙色の光を見て思わず声を上げる。

 「いえ、何でも、祭の間だけ斯うして明るくなるらしいです。創造神の加護だとか。」

 「流石は異世界だな。」

 そんな事を言いつつ、総理と外務副大臣とSPの一行は縄梯子を降りていく。

 「にしてもすごい活気だな。中世並みだとはとても思えん」

 夏至直前とはいえ、すでに太陽は西側の山に遮られて見えなくなっており、加護の光と篝火のみが街を照らしていた。

 「おおぉおおおぉ〜〜」

 その時、聞き覚えのある声で汚い叫びが聞こえてきた。

 「あぁ〜あああ」

 「アルチルよ!私は帰ってきた!」

 声のする方を見ると、ケイラ・クローヴェル13世からは汚声涙(とも)に下り、隣の宰相フェルミンもなみだを流しながら両腕を広げて叫んでいた。

 「ケイラ陛下……?」

 「ややっ。これはスガダ総理ではありませんか」

 「あの戦いを生き残れたのは帰国のお力添えのおかげです。誠に感謝をしてもしきれません」

 ケイラ・クローヴェル13世は感激のあまり差し出された菅田の右手を両手でがっしりと掴み、激しく上下に振っている。鍛えられた彼の握力は、菅田の右手にはきつかった。

 「いやぁ、ここに来てようやっと実感が湧きました。昨年はニオウタに阻まれましたし、一昨年は船が難破したもので、3年ぶりの星祭りで——」

 「やあ、ニホン国の皆様。余はこのネイヴィスト王国の国王、ネゲヴです。我が国へようこそ。歓迎致します。」

 フェルミンの言葉を遮るような形で、国王が出迎えてきた。

 「此はどうも、私は日本国内閣総理大臣の菅田です。お出迎えを陛下自らなさるとは。」

 「初めての国は、こうするのですよ。(もっと)も、600年振りですけどね。」

 物悲しげな顔をするネゲヴ。

 「さ、こちらに。」

 そういってネゲヴは、2台の馬車を指した。

 一台は菅田&外務副相とネゲヴ、もう一台はクローヴェルの二人が乗ることになっているようだ。

 「すっ、スガダ殿ぉ〜〜」

 情けない声を上げながらフェルミンに引っ張られるケイラ・クローヴェル13世に困ったような微笑みを向けつつ、菅田は馬車へと入った。

 「何あれ……」

 座った車椅子ごとクレーンで船から下ろされているレイシアがこぼした一言は、その場にいた人々の総意でもあった。

 

 

 

 王城に入り、通された広間には、大東洋東側の国家の元首が勢揃いしていた。彼らが伴ってくる官僚などもいるため、かなりの人が屯していた。

 前夜の晩餐会(始まる前の顔合わせ)である。

 「失礼、貴方が最近噂に聞くニホンの最高大臣でよろしいか?」

 「エッ、私?」

 唐突に声を掛けられ驚く菅田総理。

 「最近のクラッセルブリアの行動は少し目に余る物があると思わないかい?」

 「い、(いや)、そう言われても…」

 返答に困る総理。

 「まあまあ、そう言わずにさ、この私アミノグルタル2世がクラッセルブリアを批難するから、貴方も一緒に、ね?」

 そう言って彼は去って行く。

 そう、ここは(とて)も大雑把ではあるが、只の顔合わせだけでなく、明日の正統大東洋諸国会議の(とて)も大雑把な根回しの場でもあるのだ。(とて)も大雑把だが… 

 そして、朝が来た。

 




次週は実力試験直前なのでお休みです。
さあ、16分の7程残った数学の宿題と無傷の物理の宿題をやるとしますか(夏休み残り6日)

小ネタ解説
・王城の屋上
 元は尖塔がドンと立っていて、ネゲヴは尖塔の端と主塔本体の壁の端の間の狭い縁に足をかけてるものと想定していたが、危なすぎるので、いわゆる王冠型尖塔になっていると加筆中に変更した

・アリウス
 ①アリウス分校の元ネタは初期キリスト教の異端アリウス派
 ②アリウス派の名前は指導者でありアレクサンドリアの司祭であったアリウス(古典ギリシャ語ではアレイオス)に由来する
 ③よってアリウスとは一般に通用する人名である。よってネゲヴの三男にアリウスの名前を使うことはブルアカのパロディには当たらないQ.E.D.

・にっぽん丸
 元はあすかⅡだったが、航続距離がわからないのでわかっているにっぽん丸にした。にっぽん丸ならロイテル-アルチル往復約10000kmも大丈夫

・創造神の加護
 握り拳大の橙色の光がふよふよと浮かんでいる。鬼火見たような感じではない

・ニオウタが親ナクリア
 祖を同じくする為。王家の姓も両方とも後ろ半分がブュラス(バンブュラスとサマルブュラス)

・初参加国が600年ぶり
 ニュルンベッゲルが3代目、クラッセルブリアが4代目、ジェスティマが5代目、デ・ロイテルが8代目だが、これらは全て後付けの設定なので反映されるのはリメイク版になる

・車椅子レイシア
 これも全部炎龍の魔導師(クワトロ・シルヴェ)って奴のせいなんだ!

・クレーン
 意外と歴史は古い。古代ギリシャやローマ帝国で大々的に使われ始め、ローマ帝国の崩壊で下火になるが11〜13世紀頃に再び城郭などの建造物の築造に使われだし、今に至る

・最高大臣
 内閣総理大臣の英語はPrime Minister→Prime+Minister→最高位の+大臣

 ー次回予告ー
————「此について、全く知らされていないのだが、どういう事ですかな?ネゲヴ殿。」
 平穏な一日になるかに思えた、6月2日。
 災厄をもたらす竜は、すぐそこまで来ている————
 次回、「波乱の星祭り③」
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