絨毯を焼き切った焔は、パチパチと音を立てながらその舌を床に這わせ始めた。
部屋にいた人々は、爆風で吹き飛ばされた体勢から起き上がったり、焦りから足をもつれさせるなどしながら、皆一様に入り口の、階段の方へ逃げていく。
主塔が、炎上を始めた。
それは先ほどのビラよりもよほど、効果のある警告だった。
「ヴィンスの若造もやるではないか」
そう呟いたのは、レミジャンティア公国第9大飛竜隊長セプト・クローバルだ。
「にしても、皆素早いことだ」
クローバルは現役の竜騎士としては軍内最年長のベテランであるが、近年連続滞空時間の低下や、演習成績の低下が目立っていた。老いだ。流石に彼も心の底では分かっていたが、空を飛び続けたい彼にとって老いなど人生を邪魔するものでしかなかった。彼は今回の襲撃で成果を上げ、未だ衰えてはいないことを確かめたかったのだが、アルチル上空に達した時には、すでに他の隊員は何かしらの目標に対し攻撃を加えており、残り物はあまりなかった。
故に、彼は柄にもなく少々焦っていた。
「お、大物が残っているではないか。ちょうど良い、あの白い船を屠ってやろう」
この焦りさえなければ、クローバルは勘を鈍らせず、死の気配を感じるなり、その船団だけが狙われていないことに気づくなりして、助かっただろうし、その後の大戦争に発展する可能性すら消えたかもしれなかった。
しかし、クローバルは手綱を握り締め、相棒に行けと囁き、「にっぽん丸」へと高度約500mから緩降下を開始した。
「ワイバーンらしきアンノウン1騎此方に来ます!」
「っ!対空戦闘用意!」
「敵、飛翔体発射しました!」
「しまった!攻撃を許可する!撃てーーーっ!」
クローバルの乗る
「はっはっ!残りの四隻もすぐに……!?」
クローバルは哄笑したが、それはすぐに悲鳴へと変わる。「ちょうかい」の前部高性能20㎜機関砲の容赦ない銃撃により、相棒と共にその身を引き裂かれたのだ。
彼は、それまで沈黙を保っていた灰色の船団が、自身を墜したような火箭を放ち始める様を見ながら、バラバラになった相棒と根本を消し飛ばされくるくる回りながら落ちていく自らの左腕と共に水面へ叩きつけられた。
アルチルより
水平線まで、見渡す限り海原が広がるそこは、南北から海岸線に沿って来るアルチル詣りの航路のすぐ外にあり、まずまともな目的の船などいない場所である。
そこに、25隻の船がいた。嘴状の鋭い船首に流麗な船体、優美な装飾と数多くの砲門を備えた、「クラッセルブリア」など比べ物にならない程の威容を持つ彼女らは、今回連盟でアルチルに対し懲罰攻撃を仕掛けた三艦隊の二つ、レミジャンティア公国第4艦隊12隻と、レプリア王国第5艦隊13隻の連合艦隊である。
レミジャンティア公国第4艦隊旗艦、一等戦列艦「ダィムラー」
「!?、大飛竜隊との通信、途絶しました!」
「な?!!一体何があった!」
「判りません!」
「ぜ、前進、前進だ!アルチルに向かえ!」
リムパックが裏返り、震えている声で発したその指令を受け、第4艦隊12隻は風神の涙で帆に人工風を孕ませ最大戦速12ノットでアルチルに向かう。
レプリアも同じ事になっていた。
しばらくすると、単独で先行させている三等戦列艦「ロウグ」から
「前方に装甲らしきものを持った不明船だと?」
「はい。外観も何もまるで見覚えがない船で、国旗と思しき旗も識別できるいずれの国旗にも当てはまらなかったようで」
「目視範囲の魔探には何も映っとらんぞ?」
「ですが、確かに報告が————」
「て提督!例の船が隣に来てます!」
「何い!!?」
その通りだった。
先ほどの「ロウグ」の発見報告からまだ十分と経っていない。それにも関わらず、その船は隣と言えるほどの距離にまで近付いていた。
目の良いリムパックは、その船の舷側に、微かに
「て、敵だ!奴こそ我らの
指令は魔信で各艦に伝えられ、また同時に誤解を防ぐため旗旒信号も掲揚される。それを見た各艦が次々と信号受信旗を上げていく様は、まさに壮観であった。
それから5分もしないうちに、最初の砲撃が放たれた。
装薬は黒色火薬ではなく魔石火薬であるがゆえに、発砲時に出るのは黒煙ではなく魔力の揺らぎによる陽炎のように景色を歪める靄だ。
錬鉄製の砲身から放たれた球形砲弾は一直線に不明船へ進むが、目標に届くことなくその手前の海へ着弾し、まるで並木のように一列に水柱を立てた。
「は?すでに射程には入っている筈……まさか!」
そこまで言って何かに気付いたのか、驚愕のあまりリムパックの口があんぐりと開かれた。
「あの船は、距離感が狂うほどに巨大なのか!」
その時、リムパックは不明船の甲板上に一つだけある巨大な旋回砲が、とてもこの世のものとは思えないような速さと揺らがなさでこちらに向いたのを見た。
「レミジャンティア・レプリア艦隊が殲滅されたか……」
魔探兵からの報告を聞き、ホエイルは間に合わなかったことを知る。
デリア連合王国第8水上艦隊32隻は、連合艦隊より南東に数十km行ったところにいた。
その姿は異様だった。
普通の戦列艦に比べて大きく、銀色の船体が陽光と海面からの反射を受けきらめく様は装甲を持っていることを示していた。だが、それよりも目を引くのは、やはり船体中央に聳り立つ風車だ。
風車とはいっても、一般的にイメージされる、かの低地の国で干拓地の排水用に建てられた風車とは違い、その風車は垂直に
この奇異な
連合艦隊が撃滅された以上、今回の作戦は明らかに失敗であり、支援すべき友軍がいないためそのまま海域にとどまる必要もなかった。その上激突するであろう敵は戦列艦とはいえ三倍の数の敵を完封できるほどの戦力を持つと推測された。付近にデリアが掌握している魔信の中継局は無く、物理的に情報を届けるしかでき無さそうだった。
面子を一切考慮に入れないのは、非常に彼女らしい思考だった。
「百害あって一利なし、ね」
第8水上艦隊の逃げ足は、とても速かった。
その後、滞りなく正統大東洋諸国会議は行われ、日本はこの場にて国際連合を作り、共に発展しようという提案を持ちかけ、満場一致で全国が参加する事になった。
そして、翌日、夕暮れ時。
各国元首達はアルチル郊外…どころではない鬱蒼とした林の中をとある場所へ向かっていた。
「あの、バルバロッサ殿、我々は一体何処に…」
尋ねる菅田総理。
「ああ、そういえばこの儀式の事は一般市民は知らないんでしたよね?初参加国は勿論。」
「はい、一体何でしょうか?」
「星祭りの本番ですよ。この先に何万年も昔に造られた神代の神殿が有りましてね。そこにある巨大な魔石————創造神の宝珠と呼ばれてますが————に自分の
「あ、あの、失礼ですがわんどとは何でしょうか?」
「え?」
「いえ、我が国は先の会議でも申し上げた通り転移国家でして、その、前の世界には魔法が存在しなかったので…」
「な、
「…「何だって!」…」
バルバロッサは素っ頓狂な大声をあげ、11人の元首達は見事にハモって見せた。
「どうしましょうか。」
「取り敢えず、私の
「いやいや、是非とも余のを。」
「我のは馴染みやすいと思うが、どうか。」
恩を売っておきたい各国の元首達は
が、結局、一番品質の悪い粒魔石すら満たす事が出来ない程微弱な魔力しか無いなら、奉献しなくても良いと言う事になった。
絶対にしないと決めていた筈の定期試験一週間前以内の投稿をしている……だと?
小ネタ解説
・床が燃えてる
木製なため。
中世の塔は下部の壁を厚くし、階を重ねるごとにその厚みを階段状に減らし、生まれた棚に木材を渡して床とする壁段という技法で作られることがままあった。イギリス、ヨークシャーのコニスボロー城の主塔などはその模範的例である。
壁段より一般的だったのは持ち送り式の持出しを壁面に取り付け、それで梁の両端を支える方式だったが、作者は壁段の方が好きなので壁段にした
・ヴィンス
主塔攻撃した竜騎士の名前
・海自の
両者の差異は運動性能を除くと胸の斑紋しか無く、レーダーからでは判別しにくい。
因みに上位列強国も見分け方を忘れている
・連合艦隊の場所
アルチル湾の地形は誇張して描かれています(実際はこの5分の1程度の大きさ) 白の連続する矢印はアルチル詣り航路、赤の連続する矢印は連合艦隊を発進した大飛竜隊の進路です
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・リムパックの血の気が引いた理由
上記の進路偽装がバレたと思ったから
・デリアの戦列艦の風車
モデルは漫画版風の谷のナウシカ第7巻100ページが初出の風車。ナウシカが「なんて古い型の風車」と評しているアレ
・創造神の宝珠
小学2年生の平均身長ほどもある
ー各国の反応ー
日本国「びっくりしたあ。」
ネイヴィスト以下参加国「ファッ!?」
レミジャンティア公国「ファッ!?」
レプリア王国「ファッ?!」
デリア連合王国「あのばか…」
ー次回予告ー
――――「…はい。」
あっさりと東方連盟の派遣艦隊をのけた日本、動き出す列強、ふにゃふにゃした会話を続ける提督と基地司令――――
次回、「事後騒動」