日本召喚2021   作:秋津とんぼ

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寝落ちと難産で月曜投稿になってしまい誠に申し訳ございません。
It's 判断が足らんかった〜


12 事後騒動

 7月9日、デ・ロイテル王国王都ロイテル。

 面する湾が細長く陸に切り込んでいて深くいため波が立ちにくく、また入り口にある大きな島が波消しとなりとても穏やかなことから古来より良港として知られ、それが為に砂漠地帯から産出する鉱産資源の日本への二つの輸出港の片方として大きく拡張され、旧来の櫂帆船に混じり日本の輸送船や巡視船が屯するこの港に、見慣れない船が5隻停泊していた。

 輸送船ほどは大きくないが、それでも住民らの見慣れた木造船よりは遥かに大きく、またその5隻のうち灰色をした4隻は、巡視船よりも大きな〝光線弩砲〟をはじめ、様々な見慣れないものを載せているのも目を引いていた。

 だが、残った一つ、白く塗られた宮殿のような船も、よく見ると一箇所だけ少し溶けているのがわかることから数人が眺めていた。

 そんな彼らよりも遠く、はるか港を見下ろす城の中からその船を眺めるものがいた。

 

 「壮観ですねえ」

 

 星祭りからの帰路の途中の、菅田一行である。

 

 「護衛艦そのものは見慣れてきましたが、異世界の港にいるとこう、違和感がかえって良く感じますね。港の方も良い風情ですし」

 

 「うう……まだ揺れている気がする……相田君はよく平気でいられるな」

 

 「むしろ総理が弱すぎるのでは?」

 

 菅田は相田外務副大臣の言葉に唸った。いや、ひょっとすると酔いに唸ったのかもしれない。

 

 「にしても、今回は凄いことになりましたね。帰国したら会見は不可避でしょう」

 

 「あぁ……」

 

 「まあ元々新国連結成に関して記者会見は予定されてましたから、総理に話して頂く内容が増えただけなのですが」

 

 「うぅ……」

 

 「ほんと、やれやれです。異世界なんてのに飛ばされて、半年も経たずに戦争に巻き込まれ、それが終わったと思ったら襲撃事件」

 

 「ちょっと……横になる……」

 

 「今回は日本国民の死者が出ているというのが前の戦争と違うところですが、ライフライン途絶と国民の命は同じくらい大事ですし」

 

 「すまん……薬は……ないかね……」

 

 「まあ()()巻き込まれるとなると、自衛官の皆様方には頭が下がりますね」

 

 「そぅ……だな……ぅあ……薬……」

 

 先だってのアルチル襲撃において、レミジャンティアの竜騎士(焦ったクローバル)の放った火炎弾が「にっぽん丸」に直撃した際、クルーの一人が炎に巻かれて重い火傷を負い、数時間前に治療の甲斐なく死亡した。現在彼女の遺体は船首側のロッカーのいつも余らせている一角に安置されている。

 

 「全く、この世界の人間は頭がスポンジか筋肉でできている人しかいないのでしょうか?」

 

 「おぁぁ……いや、それは無いと思うぞ

 

 「帰国してひと段落着いたら彼の国に使節を送らなくては」

 

 「あぁ……レミ……れ……何だったか?」

 

 「西方の各国に送った使節も一部はそろそろ帰ってくる頃でしょうし、忙しくなりそうです。胃薬買おうかな」

 

 (薬欲しいのはこっちだっての)

 

 「んーさて、暇な時間が出来てしまいましたしソシャゲでも————」

 

 (お前が勝手に進めて終わらせたんだろうが)

 

 「ン総理!?総理どうしましたか!?具合が?悪い?ちょ、誰かー!誰か来てくれ!」

 

 

 

 翌日、菅田は無事全快したが、その日はロイテルを発つ日であったので、またすぐに悪くなった。

 

 

 

 ネゲヴ2世は退位が決定した。

 今の王家は元はアルチルの最高神(エアヴェルミーン)神殿の神殿長の家系に過ぎず、それまでネイヴィストを治めてきた聖王家が断絶した際に今ある家の中で最も神に近いということから王に選ばれただけであるため、強権を振るえるのはアルチル周辺の一帯に限られ、王は島内の領主たちのまとめ役でしかなかった。

 しかもネゲヴは王権を拡大しようと西方から人材を呼び寄せて改革を推し進め、領主の権限、権益を狭めていった。外戚政策で巧みに規制から逃れたフラキヴェール家のような例外もいないでもないが、ほとんどの領主は王の専制を気に食わなく思っていた。一度南部の領主たちが手を組んで兵を起こしたこともあるが、僅か半年で領主側は瓦解し、最後に残った一家も2年の孤独な戦いの後滅び去った。締め付けは強まり、不満は余計に溜まった。

 そこに発覚したのがこの借(かん)踏み倒しである。内乱で南部の穀倉地帯が荒廃したのは事実とはいえ、領主たちに無許可で借(かん)を取り付けた上に、それを踏み倒したことは国家に、ひいては彼ら領主たちの顔にも泥を塗ったも同然であり、無事で済むはずがなかった。

 

 7月15日、アルチル郊外。

 城壁の外、深い森の中にぽっかり空いた平地に、かつてまだ王家が神殿長家でしかなかった頃の館がある。今は本館が離宮、別館が中央から派遣されてきたアマテル教司祭たちの宿舎として使われている。

 その館の周囲には、小さな噴水を備えた小綺麗な庭がある。メギストス家二人目の王サリオン1世が造らせたものだ。

 第三王子アリウスは、その庭の一角に立っている父を見つけた。

 

 「父上!ここにおられたのですか!」

 

 「アリウスか」

 

 アリウスがネゲヴの隣に立つと、ネゲヴが見ていた木から小鳥が一斉に飛び立ち、アリウスへ殺到した。

 

 「ワッ。こらこら一気に来るんじゃないってば」

 

 小鳥たちはアリウスの肩、首、頭、その他色々な止まれるところに止まり、もしくは地面に降りて、または空中に止まったまま、口々に(さえず)ったりつついたりアリウスの髪を()いたり嘴を触れさせ撫でるように動かしたりする。

 

 「今は持ってないから、どれだけやっても餌は出ないぞ?」

 

 そう言われても小鳥たちはアリウスから離れなかったが、ネゲヴが左手を伸ばすと、瞬く間に木へと戻っていった。

 

 「相変わらず父上は嫌われていますね」

 

 「私も若い頃はよく止まり木にされた。よく兄上に羨ましがられたものだ」

 

 アリウスは驚いて父の顔を見た。冗談を言っているような顔つきではなかった。

 

 「父上も好かれていてな、低木の木の実(ベリー)を持ってこられたこともあったらしい」

 

 「すごいですね。そんなに穏やかな人だったんでしょうか」

 

 「武烈王の異名を取る人がそんな気性だと思うか?」

 

 そういえばそうだった。

 そんな顔が面白かったのか、ネゲヴは呵呵と笑った。

 

 「小鳥たちが集うあの木にはな、〝王の木〟という呼び名がある」

 

 「〝王の木〟……ですか?」

 

 「そこに集う小鳥は〝王の小鳥〟とか、〝王選む小鳥〟と呼ばれていた」

 

 そこまで言われれば、アリウスも気づく。

 

 「父上、それってまさか……!」

 

 「うむ。あの小鳥は、()()()()()()()しか止まり木にしない。賢き鳥だ」

 

 アリウスの心中に、じわりと形容できない何かが広がった。

 しかし、一羽の小鳥がネゲヴの頭に留まり、不満を表すようにちくちくと嘴でつつき始めた。

 

 「これはこれは。すまぬな。此奴らは単に鳥と言って良いものではなかったわ。この木は聖王家よりも古く、勇者も選定を受けたという話も聞いた。此奴らもその頃から一羽たりとも変わっていないという」

 

 「さ、流石にそれは無いでしょう……?」

 

 アリウスは、話のあまりのスケールの大きさに僅かに顔を引き攣らせた。

 

 「私も流石にそれはでっちあげでは無いかと思うが、人などよりもよほど長生きなのは確かだ。今私の頭に居座っているこの鳥も、最初に見かけたのは初めてここに連れてこられた時だから、だいたい40年ほど前になろう」

 

 ここでアリウスは、この話は兄たちも知っているのだろうかと思った。兄二人はどちらとも酷い嫌われようだが、別段そのことで焦ったような様子はなかった。

 

 「……その話は、父上しか知らないのですか?このような話は、もっと広まっていそうなものですが」

 

 「……あの大火で、知る者が大きく減った。今ではおそらく私とお前以外には、ここの園丁の老人のみであろう。あの者は我が祖父の代からここの園丁をしていたと聞く」

 

 ここネイヴィストで大火と言えば一つしかない。24年前のアルチル大火。星祭りの前日に巻き起こった惨劇。夜市の準備中の失火が風に煽られ町中に広がったと言われるが、確かなことは何もわからない。家屋、橋梁、看板、絵画、書物、食料、衣類、草木、鳥獣、人間、それらアルチルにある有機物でできたもの(命ある、または命あったもの)のおよそ9割が燃えてしまったのだ。

 王族も当時の〝武烈王〟カデシュ2世を始め多くの人が亡くなり、生き残ったのは当時弱冠21だった第二王子と物心ついて間もない第四王女の二人のみだった。

 第二王子は父の後を継いで王となった。ネゲヴ2世である。

 

 「それで…………それでは、兄上方はどうなるのですか!?」

 

 アリウスは弾かれたように顔を上げ、ネゲヴに問いかけた。

 先ほども語ったように、彼の兄二人はどちらとも小鳥たちには好かれていなかった。特に長男で王になることが決まった第一王子ヴァルド・カタリは毎度激しく突かれるばかりで木に近寄ることすらできなかった。

 

 「まあ……小鳥の選んだ通りだろうな。ヴァルドの奴は画家か奏者にでもなったほうが良い。あやつのクラーヴサーンの腕は国に並ぶ者はいないだろうが、あれではフラキヴェールの言いなりになるばかりだろう。教育役の人選を間違ったな。

 一方ネストリウスは利己にすぎる。あの才覚なら王権の拡大は成し遂げてくれそうだが、果たしてその先に繁栄があるのか私にはわからぬ」

 

 次兄はともかく長兄はその通りだろうな、とアリウスは思った。一昨年のネゲヴの誕生日に見事なクラーヴサーンの演奏を披露して「楽士にするためにお前を育てたのではない!」と一喝されていたのは記憶に新しい。

 その時、若い使用人が館の方から駆けてきた。

 

 「陛下!」

 

 「どうした」

 

 「でっ、殿下がっ、第一王子殿下がお倒れなさいました!」

 

 微かに、遠雷が鳴ったのが聞こえた。

 

 

 

 7月10日、午前7時15分頃、デリア第8水上艦隊は、エーガレ・ネツト(鷲ノ巣)と呼ばれる彼らの基地へと帰還した。

 エーガレ・ネツト(鷲ノ巣)は、連合王国が盟主となって結成された国際組織東方連盟の力の象徴として名高い連合艦隊の基地であり、連盟加盟国の一つであるダクリアム王国西部の諸島を連盟が借りる形で運営されている。

 艦隊は4つの島に囲まれた内湾を進み、一番大きな島の港に投錨した。

 

 「おい、レミジャンティアとレプリアはどうした?」

 

 「ああ、やられたよ」

 

 その時、基地内にアナウンスが流れる。

 

 「シェリア・ホエイル提督、シェリア・ホエイル提督。今すぐに司令官室に来なさい。繰り返す、~」

 

 「やっぱりカ」

 

 そう呟き乍ら、彼女は両の義足が立てるコッ、コッという足音を響かせ司令官室に向かう。

 カチャリ。

 

 「やれやれ、好い加減ノックして入りなさい、ホエイル」

 

 「別にノックは要らないと思います、司令官」

 

 「いーや、要る」

 

 「いえ、要りません!」

 

 「ま、低次元な言い争いをしていてもしょうが無いか」

 

 「あっ、話ずらしましたね」

 

 「それはどうでも良い。デリアから通達が来ている。君は呼び戻されるそうだ。理由はあの件だろう。分かるな?」

 

 「…はい」

 

 敬礼して司令官室を出ていく彼女を見て、彼女は年を追う毎に段々子供っぽくなってきてるなあと思う司令官であった。

 




小ネタ解説
・ロッカーに遺体安置
 昔の長距離航路の客船は霊安室があったらしいが、今では船首もしくは船尾の方にある冷蔵機能のあるロッカーの一角を常時余らせておき、もし誰か亡くなられたらそこに遺体を安置するという方式になっているらしい。その遺体安置専用のロッカーを指して霊安室と呼ぶことがあるとか

・相田のソシャゲ
 転移で色々()()()ので純国産か、日本国内で運用できるだけのリソースを持っている海外製のソシャゲと思われる

・王の木の年代
 中央暦1339年は勇者暦8002年なので勇者降臨は8002年前
 勇者一行の”大いなる旅路”が1年間なので魔帝逃亡は8001年前

・メギストス家
 ネゲヴフルネーム:ネゲヴ・トリス・アカーバ・メギストス
 由来は錬金術師のヘルメス・トリスメギストス(三倍偉大なヘルメス)

エーガレ・ネツト(鷲ノ巣) Egale Nezt
 モデルは第一次世界大戦時のロイヤル・ネイビーの根拠地スカパ・フロー
 ー各国の反応ー
 聖サッカラール帝国「世界最強!世界の守護者!」台詞が変わる。
 日本「やべ、世論が…」
 ネイヴィスト王国「ほっ。」
 カラキアの国々「や、やっぱり強い。」
 その他会議参加国「う、うそだろっ!!!」
 レプリア王国・レミジャンティア公国「ばっばかなあ!」
 デリア連合王国「何で今!?」
 ー次回予告ー
————全金属船などというものがあり得るか!?
 列強が、動き出す。
 末席とは言え、その実力は折り紙付きだ、耐えられるか、日本!
 次回「デリアの苦悩(?)」
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