日本召喚2021   作:秋津とんぼ

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15 接触(正規)

 7月29日午後7時、外務省職員の阿佐田はデリア第二外務局から連絡を受け、補佐の篠原と共に第2外務局へ向かう馬車の中に居た。

 街灯に照らされているラテライトのレンガで作られた赤い街並みには、接近した台風による大雨が襲い掛かり、壁を覆うように数多の煌めく銀の筋となって流れていき、街路樹のヤシ科のような植物は風で葉が一方向に偏っている。馬車も夥しい雨粒が叩き付けられとてもうるさく、おまけに道は砂利を敷いただけの未舗装の悪路ではあるが、車内からは馬車はゆらゆらと多少揺れた程度にしか感じなかった。阿佐田はカラキアで乗った馬車の乗り心地を思い出し、流石列強は進んでるなと思った。

 外務局に着いたようで、馬車が止まる。

 御者が貸してくれた巨大なデリア傘から出ないようにしながら、二人は玄関に入った。

 

 

 

 

 

 通された部屋はだいぶ凝った装飾がされていて、連合王国の力を見せつけているかのようだった。

 部屋の中央にある長机の片側に、男が3人座っていた。一番奥の男の頭に猫か犬らしき耳が揺れているのを見て、篠原は壁にかけてある何の変哲もない静物画を見て落ち着こうとした。

 二人が長机の反対側にある椅子にそれぞれ座ったところで、先程から気になっていた一番奥の獣人が言葉を発した。

 

 「嵐の中、よく来てくれた、ニホンの外交官よ。私はコルネリウス・オーガニア、この第二外務局の局長だ」

 

 デリアは先進国以外との外交を全て第二外務局が担っているため、これは日本で言うと国交開設を求めてきたカイラサ合衆国の使節に対して外務事務次官が直々に対応しているようなことだ。これには篠原は目を剥いたし、彼女の翻訳を聞いた阿佐田も驚かざるを得なかった。

 微かに震えているような気がする声で自らも自己紹介を済ませた阿佐田は、早速相手へ質問を放つ。

 

 「我が国のようなぽっと出の国にわざわざ局長自ら応対くださり、非常に有難いのですが、何故このような時間に呼ばれたのでしょうか」

 

 「そのように改まらなくても良いでしょう。六倍の数の戦列艦を滅ぼせるような国にとって我慢は毒だ。こんな時間になってしまったのはまあ、こちらの二方が着くのが遅れたせいだが……」

 

 バレている……!

 篠原の翻訳を聞きそう戦慄する阿佐田をよそに、オーガニアは、先程の発言を聞いてから自分に暗に自国の失態を詰ったことを責める(ジト目の様な)視線を向けている横の二人に話をふる。

 

 「今回用事があるのは、遅れてきたこの二方の方だ。」

 

 「レプリア王国外務首班付き補佐官、ドゥルガッロだ」

 

 「レミジャンティア公国外務衙門第二課課長補佐、バラフラ・エスト・レミ=ジャント=ジャントである。此度は————」

 

 『今月初頭のネイヴィスト王国懲罰艦隊に対する不当な攻撃に関して、交渉に参った』

 

 阿佐田の額から、汗が一筋流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「で、我が国はそれを仲介したわけだ。そちらは二国には使節を派遣していなかった故にこの場となったが、何か言うことは?」

 

 「……言うこと、とは?」

 

 少なくとも自らの手元にある情報の限りでは、こちら側に非はないと言っても良かったはずだ。

 そう思った上での阿佐田の発言は、3人の失笑を生んだ。

 

 「まあ、思い当たらないならそれもよし。どちらにしろ直接交戦していない我が国にはほぼ関わりがないので、そんな輩がいつまでも居るのもないだろう」

 

 それでは、失礼。

 そう言い残してオーガニアは退出した。

 後には、無表情のドゥルガッロ、何やらニヤニヤしているバラフラ、そして困惑している阿佐田と篠原が残された。

 

 「まったく!オーガニア殿も人が悪い!毒舌の相手を選ばぬとは!」

 

 「そうですな、こちらまで流れ弾が飛んでくるとは思いませんでした」

 

 なぜだか悠長に会話し始めた二人を見て、阿佐田と篠原は余計に困惑を深める。

 痺れを切らした篠原が立ち上がりかけたところで、ようやっと二人は会話をやめ、こちらに問いかけてきた。

 

 「さて、まず確認だが、貴国は()()()()()()()()()()()()()と言いたいのか?」

 

 「そもそも、こちらとしては、一体何がそちらが国際法違反と見做した行動なのかがわからないのです」

 

 少々ムスッとした調子の阿佐田の声を聞き、篠原の通訳で意味を理解して、バラフラは哄笑した。

 

 「何が、おかしい?」

 

 「いやぁいやぁ、いやぁ。私はこれまで幾度となく小国の聞くに耐えない言い訳を聞いてきたが、ここまで堂々としらを切った国は初めて見た。それではなんだ?貴国は懲罰艦隊が壊滅したのはL(伝説)級の海魔のせいだとでも言うのか?」

 

 「こちらとしては、虚偽を言った覚えはありません。何かそちらが、勘違いをされておられるのでは?」

 

 「そもそもそちらから攻撃しておいて何が国際法違反なのですか!?その国際法とやらは攻撃されたら反撃してはいけないとでも書いてあるんですか?」

 

 「ほう、では攻撃したことは認めるのですね?」

 

 阿佐田の後を継いで篠原が言った言葉に、ドゥルガッロが食いついた。

 篠原のハッとした顔を見て、バラフラは笑みを深める。

 

 「しかも自分から文盲であると言ってきたか!そんなものは通らんぞ!条約締結に関するバーラト条約第8条第1項、ある地方の大国がその地方を代表して条約を締結した場合、その地方の国家は時代に関わらず、その条約が破棄されるまで(すべから)く条約の締結国の一つである!第二項、前項の内容のみは第4条の例外事例であり、遡及適用される!外交官なら必須の知識を知らぬとは、なんたる蛮族!」

 

 そういうと、バラフラは反論しようとした篠原を押し留め、懐から一枚の書類を出した。

 

 「しかし!斯様(かよう)な蛮族にすら、我が公爵閣下及びレプリア王陛下は慈悲を与えられる!そこに書かれている条件を飲めば、両陛下は此度の件を不問にし、その度胸から東方連盟への加盟を総会に推薦するとまで仰られた!そうであろう、ドゥルガッロ殿?」

 

 静かに、ドゥルガッロは頷いた。

 

 「ええぇ……」

 

 篠原は困惑しているが、阿佐田は差し出された紙をさっと受け取り、中身を見た。

 

 「……読めん」

 

 「私が訳します!」

 

 そう言った篠原に紙は奪い取られ、阿佐田は彼女の訳をありがたく拝聴するしかなかった。

 

 「えー、

  ・日本は、現在知り得ている又は今後開発する魔法技術を全てレミジャンティア公国及びレプリア王国に開示し、また許可しない国家・集団に対しそれらを開示しない

・日本は、現在保有しているまたは今後発見した発掘兵器の使用権を東方連盟に預ける

・日本は、レミジャンティア公国に対し、75百万レアルの補償金を内密に支払う

・日本は、レプリア王国に対し、75百万レアルの補償金を内密に支払う

・日本は、許可していない国家・集団に対し、武器を販売しない

・日本は、現在把握している資源の全てを東方連盟に開示する

・日本は、今後日本国内、又は日本籍の団体が採掘した全鉱物資源を1/4ずつデリア連合王国、レミジャンティア公国、レプリア王国に献上する

・日本は、政務に携わる人員の半数をデリア連合王国、レミジャンティア公国、レプリア王国の人間とする

  ……何ですか、これは?」

 

 思わずと言った様子の篠原に、バラフラは不思議そうな表情で言葉を返す。

 

 「何ですか、とはなんだ。普通ならば国際法に違反した辺境の小国なぞ問答無用でその国から最も近い大十二ヶ国(マグナ・デュオデキム)に武力制裁を科されて滅ぶのだぞ?そこを金と利権のみで揉み消してやるのだ、何を疑問に思う?」

 

 自らの正しさを微塵も疑っていないその言葉に、二人は口を開けて固まった。

 どうしてそうなったかわからなそうな表情で二人を見つめるバラフラを見かねて、ドゥルガッロが声をかけた。

 

 「バラフラ殿、彼らは一気に情報を浴びせかけられて何も考えられなくなったのですよ。世界は我々のように()()()()物事を考えられる人間だけではないのです」

 

 お前が言うな。阿佐田は呆れを深めた。

 

 「えー、なかなか見る機会のない申し出なのですが、何分私たちの職掌は連合王国との国交開設であって、アルチル事件に関するものではないので、この場での即答はできかね————」

 

 「ならば連合王国外務局の斡旋もつけよう!なぁに面子がどうとか言っていたが、やった輩が自ら軍門に降ってくれば面子は保たれるであろう。さあ、どうだね?飲むか、死ぬかだ」

 

 「私から見ても、貴国にとっては利しかないように見えますが、それでもまだそちらは違反を認めないのですか?もう一度分かりやすく言いますと、私たちは貴国が違反を認め、先ほどの条件を飲み、確実に履行するならば、違反を無かったことにして、東方連盟の加盟と連合王国との国交開設も後押しすると言っているのです。大罪人のレッテルは避けられ、心強い()()が得られるのです。誰がこれを断るでしょうか?」

 

 

 「…………持ち帰らせて、下さい」

 

 長い静寂ののち、阿佐田はたった一言、そう絞り出した。

 

 「ふぅむ、まあ良い。幼子が迷うのを待つのも大人の余裕というやつよ。せいぜい悩め」

 

 

 

 

 

 

 部屋から退出した後、オーガニアは会談の行方が気になった為同じ外務局職員である——と言っても、第二外務局ではなく第一外務局のダズルカン課長である——妻と共に局の食堂で夕食を摂った後再びあの部屋の前に来ていた。

 ちょうど終わったようで、人が出ていく。

 彼らの表情は対照的だった。彫りが浅く扁平なニホンの外交官二人はどちらも大変なる侮辱を受けたかのような顔をして、特に女の外交官の方は鬱憤を晴らすようにどすどすと絨毯を床に踏みつけていった。一方レミジャンティアとレプリアの二人は何がダメだったのかわからない顔をしていた。

 オーガニアは嫌な予感を感じつつ、二人に尋ねた。

 

 「バラフラ殿、ドゥルガッロ殿」

 

 「おお、これはこれはオーガニア殿」

 

 「会場のご用意、ありがとうございました」

 

 「いえいえ、ところで、会談の様子はどのようなものでしたか?何やらニホンの方は不機嫌なようでしたが」

 

 「それがとんと分かりませんで」

 

 「は?」

 

 それまで立っていたオーガニアの尻尾がパタリと下がった。

 

 「いやぁ強者としての慈悲を示して優しくしてみたのですがね、どうも認めませんので、あの有様に」

 

 「これだけの条件を提示されながら心動かさないものがいるとは驚きでした。彼らこそ正しく現代のペリアルコイです」

 

 では、これで。そう言って玄関へ向かっていった二人を見ながら、オーガニアは呟いた。

 

 「……間違えたかな」

 

 いつの間にか中へ忍び込んで鳴いている虫以外、彼の声に返事を返すものはいなかった。




 おかしいな……こんなに手を加える予定は無かった筈なんだが……本来あんな要求突き付けてたのデリアなんだが……ドゥルガッロとバラフラではなくてヒルトンとジキルだったんだが……
 読者「知らそん。さっさと続き書けや」
 あっはい……

小ネタ解説
・ラテライト
 鉄やアルミニウムの水酸化物を主成分とする土壌。成帯土壌のうち湿潤土壌に分類される。サバナや熱帯雨林に分布する

・オーガニアケモ耳問題
 彼は狼獣人です(キリッ

・バラフラ・エスト・レミ=ジャント=ジャント Balafra Est Lemi-djant-djant
 ↑これで一個の姓。レミ家の分家(エスト)家の分家バラフラという程度の意味

・条約締結に関するバーラト条約
 中央暦205年にヂッテリア公国西部のバーラト市で結ばれた。他の4つの”バーラト条約”と合わせて一括りにされることが多いが、普通単にバーラト条約と言った場合はこれではなく中央大戦の講和条約を指す。条約の集合体である現在の異世界の国際法の基幹

・異世界文字を読めない阿佐田
 ハングルも苦手らしいですね、彼

大十二ヶ国(マグナ・デュオデキム)
 中央十二国会議の参加国でもある、世界の頂点に立つ国々。7つの列強国と5つの准列強国で構成される

・オーガニアケモ尻尾問題
 彼は狼獣人です(キリッ
 妻も狼獣人です(ムクッ

・ペリアルコイ
 神話に語られる古代の民族の一つ。彼らは非常に頑なであったとされ、今でも頑固者はペリアルコス呼ばわりされる

 ー各国の反応ー
 レミジャンティア&レプリア「ヒャッハーーー!!」
 日本「ななななな」
 国際連合加盟予定国「あーあ…」
 ー次回予告ー
————「我が国では賄賂は禁止されています。」
 法外な要求を突きつけられ、東方連盟との()()()()を深め始める日本。
 そんな中、ネクサリアの日本大使館に、とある三人が訪れる————
 次回、「崩壊」
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