日本召喚2021   作:秋津とんぼ

19 / 34
月曜投稿すみません


17 緊急!御前会議!

 9月31日、デリア連合王国北部、王都エルフィリア、新宮殿(ファラス・ヌーエ)

 

 「では、最後の議題に移ろう」

 

 その上層の構造から白き花弁の宮(ファラス・イウィススルリエ)とも言われる純白の宮殿の、言うなれば皿の部分。下層にある大広間に、厳かな声が響く。ここにはこの国を動かす重役たちが集まっていた。

 今の今まで会議をしていた彼らの表情は皆、揃って硬い。

 何も、会議が終わるのが嫌なわけではない。最後に残った議題が厄介すぎるのだ。

 誰も身じろぎすらせず、静寂が続くのを見て、宰相フェスタルは玲瓏たる声で発言を促す。

 

 「まずあなたが説明しなさい、ヒルトン」

 

 「は、はっ」

 

 呼ばれた()()()()()()ヒルトンは、どこかぎこちない動きで立ち上がった。返事の声も震えている。

 

 「えー、では、第二外務局よりこの度の開戦までの経緯を説明させていただきます。

 まず、7月6日にレミジャンティア及びレプリア海軍からなる懲罰艦隊がネイヴィスト王国の王城へ向け攻撃を開始し、ニホンの艦隊に殲滅されました。監督として同行していた第8水上艦隊は戦闘を避け撤退し、この件が我々に伝わるところとなりました。

 その後7月末からニホンとレミジャンティア及びレプリアの交渉が始まり、今月の19日に決裂、宣戦奏上がなされました。

 現在、東方連盟はニホンと戦争状態にあり、しかし未だ戦闘はありません」

 

 言い終えた後、ヒルトンは頼りなさげに周りを二、三回見回してから、席に着いた。この有様を見てフェスタルはオーガニアの罷免は時期尚早だったかと思った。確かに彼の属する対外強硬派閥は現在その勢力を急速に伸長しているが、オーガニアは今オドオドしているヒルトンよりは優秀に思えたし、派閥の力を削げたとは思えない。むしろ誘い込まれたような気さえした。ヒルトンには自らの元を訪ねてきた時のような強かさを保身以外にも使って欲しいと思わずにはいられなかった。そうでなければ、今も自分の隣でこちらを虎視眈々と狙っているラトルスカを蹴落とせる自信がなかった。

 ちなみに、オーガニアは局長を罷免された後第一外務局へ異動となり、南方のアオラフトゥ公使館へ左遷された。

 

 「その、ニホンとはどう言う国か、わかっているか?」

 

 国王、エㇽラダン1世が問いかけられた。父たる先王エルロンド1世陛下が亡くなってまだ一月も経っていないにも関わらず、毅然とした態度を取るその姿は、まさに王の風格と言えるとフェスタルは思う。

 

 「はっ、いえ。」

 

 「ほう?」

 

 「そっ、そのぅ……前局長が盛んに情報を集めていたようなのですが、その殆どが尾鰭のついた噂や欺瞞情報などで……はっきり言えるのは彼の国がカラキアより東にある島国であるくらいでございます、陛下」

 

 「……つまり、殆ど何もわかって————」

 

 「情報局が無能と言いたいのですか、ヒルトン」

 

 「ヒィッ⁉︎」

 

 エㇽラダンの言葉を遮る形でヒルトンに問いかけたのは、当の情報局の局長であるミネグモだった。のしかかる圧に、ヒルトンが悲鳴を上げる。

 

 「い、いえ、前局長の指示が悪かったのです。そういう意味で言ったのであって、そちらを貶める意図は一切ありません」

 

 あからさまに怯えている声を聞き、ミネグモはつまらなさそうな顔になり、とりあえず圧をおさめたが、フェスタルはヒルトンへの失望を深めるばかりであった。

 

 「では、これに関して他に共有すべき情報のある部署はありますか?」

 

 そう問いかけると、二人が手をあげた。ミネグモと、第一外務局長のエンだ。

 

 「では、第一外務局から話しなさい」

 

 「はっ、大十二ヶ国(マグナ・デュオデキム)は基本的には本件に対して静観的どころか無関心ですが、アトランティスのみ非常に注目しています。規制が厳しくて詳細はわからなかったものの、軍の一部を東方に動かすような動きが見られています」

 

 「それはメテリアスがらみの問題ではないのか?先月の洪水でベルクが大損害を被っただろう、それのカバーかもしれないではないか」

 

 そう言ったのは国土管理局長のサンゼルティアだ。

 ベルクことベルク連邦はメテリアス大陸南西部のベルク半島を領有するアトランティスの傀儡国家であり、メテリアスにおけるアトランティス勢力の策源地として同じくアトランティスの傀儡国家である正統南ツェーレリア共和国とベルン・パフカス王国とともに、サッカラールの保護国である北ツェーレリア自治共和国及び支援を受けている北パフカス戦線と対峙していた。それが先月はじめの洪水で国土の3割が被害を受け、一時的に国力及び戦力が低下していた。

 

 「だとすれば遅すぎです。第一それに関してはすでに幾らかの兵力がソワソンから渡っていったと確認できています。これは明らかにニホンとの開戦に対する反応です」

 

 「どう言うことだよ……アトランティスは同盟国じゃないのか……」

 

 そう技術局長のマリスがうめく。それに隣に座っていたサンゼルティアが噛み付く。

 

 「ならなぜサッカラールとアトランティスはメテリアスで陣取り合戦を繰り広げているのかね?世の中単純な理屈では成り立たんよ」

 

 大人気ない。そんなフェスタルの思いをよそにサンゼルティアは続ける。

 

 「それに、もしあなたの考え方で世の中が回っているなら、ミネグモ氏の部署は必要ない」

 

 「ああ悪い悪い。俺は政治の話に疎いんだ。予算くれ予算。あ、そういえばこうだったか?『予算は!予算は来るんですよね!』」

 

 お世辞にも綺麗とはいえない裏声を聞いて、サンゼルティアは顔を顰めた。それは昨年、取り乱して叫んでしまった彼の数少ない黒歴史の一つだったからだ。

 

 「ナ、静粛に。無用な発言は控えなさい」

 

 フェスタルが注意するとマリスは口を閉ざし、怒鳴りつけようとしていたエンも落ち着きを取り戻した。流石にこれで止まらないようであれば困る。

 

 「では、情報局、話を」

 

 「はい。8月の24日頃から、()()()()()()()()()ヒゼキヤ籍の船がクローヴェル王国の港湾都市ネクサリアに出入りしていました。ルートを辿ったところ、その船はヘフツィ・バ(ヒゼキヤ王国王都)を出航した後、ジュネーブ(クラ王国王都)リシュタグ(ツツル王国王都)にも立ち寄っていて、最初に確認されてから今まで、何度も4都市の間を往復していました。おそらく、この三国はニホンと密通、そこまでいかなくとも、何らかの交渉をしている最中である可能性があります」

 

 電流が走ったかのように、その場の全員が驚いて鋭い声を漏らした。

 

 「現在ネクサリアのニホン所有と見られる建物に情報局員が潜入していますが、めぼしい情報は得られていません。しかし、建物内部においてそこそこの頻度でニホンのものと思しき意匠でもカラキアの意匠ではない服を着た高官らしき人物を確認しているそうで、確度は高いと思われます」

 

 「……それはどれくらい前の情報なの?」

 

 かろうじて絞り出した声で、国軍総司令官スコルズランドが質問した。連合王国が掌握する魔信の中継局はリシュタグにあるものが最も東であり、到底カラキアの東端からは届かないため、時間差がない方が不自然だった。

 

 「9月18日、二週間近く前です」

 

 スコルズランドは天を仰いだ。

 それだけあれば、より進展しているのは確実だろう。連合艦隊からその三国の艦隊を実質外した状態で戦わなければいけなくなる。クラ王国はその歴史的経緯から海軍が非常に充実しており、一艦隊当たりの隻数は連盟第三位である。また、クラ王が参加するとなれば、その腰巾着たるイニェル公も当然付いていくだろうから、実質四ヶ国が一気に敵側に回ったようなものだった。

 

 「ふむ、スコルズランドよ。確かに三ヶ国が一気に敵に回ると聞けば由々く思えるが、その三国はいずれも開明国に過ぎないだろう、そこまで問題はないのではないか?」

 

 「あのですねぇ、陛下。確かにヒゼキヤとツツルは何とかなりましょう。ですがクラは、クラの船は海魔に抗するため金属でその腹を覆っていて、加盟国程度の魔導砲では致命の一撃を与えることはできません。幸い帆柱まで硬いわけではないので船足を止めることはできますが、大分戦力が釘付けにされます。要するに、弾除けが減ります」

 

 クラの船は甲板は非装甲なため臼砲などの曲射できる砲があれば撃沈は可能だが、舷側砲の長射程・高威力化により遠距離砲戦を海戦の基本戦術とした連盟では、射程の短い臼砲は搭載されなくなって久しかった。

 

 「……クラが厄介なのはわかった。では、それを踏まえて、どういう戦の進め方をする?」

 

 「えぇまぁ……シャークン」

 

 スコルズランドは説明を海軍総司令官にバトンタッチした。

 

 「はい。まず国軍としては、最初の()()は来年5月初め頃を予想しています」

 

 「〝獣どもは雨より生まる〟か。そういえば既にそれらしき被害の報告がありましたな」

 

 シャークンはサンゼルティアの言葉に頷く。

 〝獣どもは雨より生まる〟とは、雨季になると海魔が活発になる様を表した言葉である。その通り、冬に相当する間、海魔——海に棲息する魔獣は活動を活発化させる。その度合いは西に行くほど強まり、東に行くほど弱まるとされ、事実カラキアでは最盛期の一月でさえ海魔は両手の指におさまるほどしか見かけられないが、連合王国の縄張りたる西大東洋ではそれよりはか大分暴れ回っていた。赤道付近になると少々おとなしくなるため、デリア亜大陸付近ではそこまで脅威ではないが、西のケントラリスやアトランティスでは千年程前に金属船が現れるまでは冬の航海は7割が遭難していたという。

 その期間は長く、10月から3月までおよそ半年強も続く。しかし、生まれてから殆ど船に乗ったことがないフェスタルには実感が湧かない話でもあった。

 

 「アルチルに於いては、恐らく何らかの発掘兵器で大飛竜(エルドワイバーン)を落とした後、数押しで懲罰艦隊を殲滅したと推測されますが、かの海魔たちならニホンの艦隊も容易く喰らうでしょう。何せ、我々の友や同僚、先達をたらふくその腹におさめてきたのですから。

 そうしてできる時間のうちに改装作業を終わらせた上で、4月頃には各加盟国の艦隊を出航させ、5月頭には連合艦隊をロヒリアム東部にて集結させ、海戦に臨む予定です。おそらく場所はネイヴィスト島沖となるでしょう。そこで敵海軍を撃破したのち、レミジャンティア及びレプリアの艦隊の一部をアルチルに残しさらに東進、カラキアのニホン拠点を攻撃しながら、最終的には彼らの本土を目指します」

 

 「そうか」

 

 エㇽラダンがそれだけで済ましたのを見て、フェスタルは口を挟んだ。

 

 「それは、いったいどれほどの戦力を当てるつもりですか?」

 

 「えー、2個艦隊を予定しておりましたが、先ほどの情報局からの発言を受けまして、ある程度増強するつもりです。第8をつけるなど……でしょうか」

 

 「わかったわ、ありがとう。では、最後に何か意見などある人はいないのですか?」

 

 広間を見渡すが、誰も挙手する様子はなかった。

 

 「では、ただいまを持って、御前会議の終了を宣する」

 

 そう言った瞬間机に突っ伏したマリス以外の人は、次々と席を立ち、入り口の方へ歩いていく。フェスタルも立ち上がり、少し歩いたところでエㇽラダンに呼び止められた。

 

 「フェスタルよ、ちと待て。聞きたいことがある」

 

 「はい、なんでしょう、陛下」

 

 「その昔そなたが父上と契っていたと耳にしたのだが、真か?」

 

 返答は彼女が手に持っていた扇を落とした音のみだった。




 模試+課題+通信=投稿遅れ

小ネタ解説
新宮殿(ファラス・ヌーエ)
 築66年であり、実質新w宮殿(ファラス・ヌーエワロス)

・会議の面々
 司法省長官、ビアルム・クルシェドラミレス
 財務省長官、カギューオミュラ・シャナル
 国軍総司令官、エリナ・ケキリア・ヴォン・スコルズランド
 国軍隷下海軍総司令官、アルバリア・シャークン
 国軍隷下陸軍総司令官、アンデ・クロイ
 総務省隷下内務総局長官、ディニエス・ディ・マディスマフラ
 内務総局隷下国土管理局長、ダグラマユル・デ・サンゼルティア
 内務総局隷下運輸局長、クラサーン・リュンプール
 内務総局隷下教育局長、ダーダール・ヘプシバ
 内務総局隷下技術局長、ナ・マリス
 内務総局隷下社会保障局長、カイト・アイラ
 総務省隷下外務総局副長官、ロドリオン・エアレンティルム・グラムドリント・ラ・メクサン
 外務総局隷下第一外務局長、エルガン・エン
 外務総局隷下第二外務局長、アシュケロン・ヒルトン
 外務総局隷下情報局長兼王妹アルウェン付侍女頭、アユ=ゴ=マ・ミネグモ
 総務省長官兼大王府長官(宰相)、フェタリヴィナ・デ・フェスタル
 大王府副長官、ドルガス・ハヴァネッロ・ディ・ラトルスカ
 二代国王、エㇽラダン・キュンテルティルム・アランルーシェント・ラ・メクサン
 王弟、エルローイア・ヒェダールレム・グアサンガント・ラ・メクサン
 以上、18名

・派閥争い
 次話で全ての派閥が登場する予定なので、次話で解説する

・なんかアユ=ゴ=マいるんだけど
 前話書いてる途中に思いついたので書いちゃった

・メテリアス陣取り合戦
 東部一帯と中部及び南部の一部をデリアが勢力下に置いていて、残ったパイを他の大十二ヶ国(マグナ・デュオデキム)が奪い合っている状態。どこにも組さないものもいるが、東部でデリアのお目溢しをもらっている連中が殆ど。
 ダズルカン:1支援国(ダナン&ヂッテリアと同担)
 ザシアン:1支援国1支援勢力
 キリア:2保護国1支援国
 アトランティス:3保護国1支援国
 サッカラール:3保護国3支援国4支援勢力
 ダナン&ヂッテリア:3保護国2支援国4支援勢力
 パンドーラ:7保護国1衛星国
 デリア:22支援国

・海魔の冬季活性化
 最初に一章書いてた時には存在しなかったと思われる設定のため、掲載にあたり東西で活性化の度合いが異なることにした

・フェスタルまさかの
 御歳43だったかな?”その昔”なのでもっと若い頃だと思われる

・ところで最初の
 白き花弁の宮(ファラス・イウィススルリエ)は個人的にとても気に入っている

・違うそうじゃない
 じゃあ”皿”の部分?あれは上層が花のような形をしていて、下層は扁平な直方体をしている様を、皿とそれに乗る花に例えた言い方


・いや冒頭だよほんとに頭
 エルフィリアは直球ネーミングだったと思っている

最冒頭、日付が9月31日になっている
 新世界の一年は13ヶ月396日。一月が31日の大月と一月が30日(2月のみ29日)の小月が交互にくる構成で、9月は大月にあたる

 ー次回予告ー
————「内通が、気付かれている……?」
 国王が代替わりしながらも、彼らの戦意は消えない。
 同盟を越えた、国同士の絆なのだから————
 次回、「ネイヴィスト西方大海戦①」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。