日本召喚2021   作:秋津とんぼ

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21 ネイヴィスト西方大海戦④

 「ク、クンバン艦隊の魔信を受信、艦隊右舷後方より敵艦隊を奇襲されたと言っています!」

 

 耳元で叫ばれたその報告は、ホエイルにとってまさしく寝耳に水だった。

 

 「はあっ!?おい魔探班、何をしていた!」

 

 「すみません、後方は現在戦闘中な上に先の竜母艦隊の残留魔力のせいで大分精度が落ちてまして、ほぼ何もわかりません……」

 

 そうだった。

 少し焦りすぎていたかもしれないと思い、ホエイルはその顔を般若じみたものから元に戻す。

 しかし、現在の戦況は焦ってもおかしくないほど不利だった。

 ヒゼキヤら四カ国艦隊は明らかに尋常ではない命中率と射撃間隔、貫通力でこちらの戦列艦を多数()()、現在は本隊の戦列を食い破りつつあった。

 本来戦列艦同士の戦いというのはお互いが非常に沈みにくい——というか砲弾の威力と船に使われる板材の硬さが同程度なために1発当たっただけではほぼ沈まないのと、撃っても当たる確率が非常に低いために、決着がつくまで長い時間がかかり、それこそ朝から夕までかかった例すらあった程だ。

 だというのに、彼らは1時間にも満たない間にレミジャンティア艦隊を半壊させ、ドスカータ艦隊も蹂躙し、現在は本隊の10ある戦列のうち6列目までを食い破っている。突入した箇所がちょうど砲門数の少ない船が多い辺りだったのも悪かった。彼らは対峙した船のほとんどを沈めており、その総数はおおよそ120隻に及び、一方彼らの船は僅かに1隻が沈み、3隻がマストをへし折られるなどして損傷したのみだ。しかも憎たらしいことに、彼らは多数の狙撃手を艦上に配置したようで、多数の将校が撃たれ指揮系統が乱されているという。

 あまりの混乱ぶりに魔信は雨飛し混線して使い物にならず、旗旒信号は魔石火薬の陽炎で碌に見えず、また四カ国艦隊によって物理的に距離があるため、連合艦隊はおよそ十数分前からホエイルらデリア本隊のいる前方から後方へまともに指示が伝わらない状態に陥った。

 冒頭にて報告がクンバン艦隊から”報告を受けた”のではなく”魔信を受信”しているのも、彼らが情報を届けようと方位を指定せずに魔信を最大出力で発信したからである。

 一応後方の艦隊は四カ国艦隊を押し包むように陣形を変更しろと命令を出したものの、伝わっているかは怪しく、ましてやそれを乱戦の中実行できているかはわからなかった。

 

 後ろの状況が知りたい。

 こういう時、魔探は役に立たない。

 というかそもそも、魔探及びその元となった探知魔法(セアルーク)は戦闘時に戦闘している敵以外の対象を探知するという使用法を想定されていないのであるから、それは至極当然である。

 その時、ホエイルは魔探員の様子がおかしいことに気づいた。

 

 「……!?どうした……これは」

 

 何やら惚けているように見えた彼女の顔を覗き込むと、その両の鼻口からダラダラと鼻血が垂れ始めていた。

 

 「交代!次の当番を呼んできなさい!魔探員が鼻血を出しているぞ!」

 

 呼ばれてやってきた魔導師が、杭が脳を余計に傷つけないように気を付けながら機器と導線で繋がれた兜型端末(ヘッドギア)をゆっくり取り外して治癒魔法をかけ、魔探員を二人の水兵にかかえさせて席から退かす。

 戦闘中に魔探員を交代させるなど通常では考えられないが、「ジュティーリア」と四カ国艦隊はかなり遠く離れており、尋常な砲撃では届かない。次の人員が来て魔探を稼働させるまでのほんの数分なら、目が失われようとそこまで重大事になるとは思えなかった。

 

 「ケサルレメク一等兵、参上致しました」

 

 次の当番が入室し、席に腰掛ける。魔導師は兜型端末(ヘッドギア)を被せんと彼の頭へ向けて魔術短杖(ワンド)を構える。

 それを見ながら、ホエイルはふと自分たちだけ先行してもいいのではないかという考えが頭をよぎった。

 掻き乱されているといえど四カ国艦隊はこちらの2割にも満たない小勢であり、現在彼らが有利なのはその砲がよく当たり、よく船を壊すからであって、数で押し潰して仕舞えば問題はない。流石にこちらを上回るほどの船を——それも砲を搭載した船を用意することは不可能だろうし、もし新たな敵が十分な数を持っているとしても、それこそ数が互角になるだけだ。それに、大飛竜(エルドワイバーン)がついているとなれば負けることはないだろう。前述した四カ国艦隊の被害のほとんどは大飛竜(エルドワイバーン)が与えたものだ。

 今回の作戦の目的はネイヴィストの制圧及びそこに駐屯しているだろうニホンの前衛戦力の殲滅だ。竜母艦隊を葬った古代兵器らしい攻撃は弾切れしたのかこの1時間全く来ておらず、なんらかの航空戦力が来る様子もない。アルチルにおいて我々と同程度の高速を発揮したのには驚いたが、彼らには我々のバンデルンのような巨大な鉱床が残っていないはずであり、それならば防御力はこちらが圧倒的に上だ。

 これならば、我々だけで十分に勝ち目はある。

 そう思った矢先、微かに砲声が聞こえ、続いて船体が揺れた。

 

 「なっ、なんだ!」

 

 「砲撃か?どこから——」

 

 「ギュワァッ!」

 

 野太い叫び声の方を見ると、先ほどの揺れのせいでぶつかってしまったらしく、穿孔も済んでいない魔探員の頭部に兜型端末(ヘッドギア)の杭が深々と突き刺さっていた。傷口からは、杭と頭蓋との隙間を通って染み出してきた体液がテラテラと輝きながら零れ落ちていく。

 

 「ッ……早く、早く彼を医務室……いや、誰か治癒魔導師を呼んでこい。エチャスでは無理だ」

 

 「があ゛あぁぁぁあああぁぁぁああぁぁぁぁあぁああ!!!」

 

 「こらっ、暴れ ぅぐはッ!」

 

 暴れる魔探員を取り押さえようとした士官の一人が、かなりの勢いで振り回された腕で顎を強打される。

 彼はそのままの勢いで回転しながら倒れ、その先にいたホエイルを組み敷くような形で床に横たわる。

 機器に後頭部がぶつかったことで強い衝撃をくらい、ホエイルはそのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「至近弾1!命中はありません!」

 

 望遠鏡を覗いていた水兵がそう報告する。

 

 「ふむ、上出来ではないか。1発目でこれはなかなかないと聞いておるぞ」

 

 バルバロッサ4世は、砲艦「クラッセルブリア」(5代目)の艦上にいた。

 彼は自慢の赤髭を弄びながら砲撃がなされていく様を見ていたが、ふと何かに気づいたような顔をして、懐から金鎖を首にかけた大ぶりな懐中時計のように見えるものを取り出し、続いて取り出した華美な装飾が施された鉄筆のようなもので時計ならば文字盤がある平面に何かを書き付け始めた。

 共命石式魔信だ。

 

 『こちらもやっと砲撃を始めたぞ。奴がどこかわかるか?こちらからは遠すぎて見えん』

 

 『こちらから見て真東に見えますね。砲撃を開始したようです』

 

 ネイヴィスト艦隊は連盟艦隊の側方、南側にいたはずだ。ちょうどいい。

 

 『こちらは奴らの鼻先を横切る形で南下している。進路そのままで良いな?』

 

 了解と返事が返ってきたのを見て、バルバロッサは魔信をしまった。

 その時、近くにいた水兵の呟きが耳に入る。

 

 「ん?……なんだ、あれ?」

 

 「ふむ、どうかしたか?」

 

 「へっ、陛下!?あいやその、こちらでご覧になればわかると思うのですが」

 

 水兵が望遠鏡を差し出してくる。

 

 「彼らの先頭の船の舳先のあたりから、何か黒いものが出てきたんですよ。大砲にしては大きすぎて、あれは一体なんだろうなと……」

 

 「ふぅむ……」

 

 実際に望遠鏡で見てみると、なるほど確かに先頭の指揮官旗を掲げた船の船首楼の上部からニョッキリと何か黒い筒状のものが出ているのがわかる。

 

 「なんであろう、確かに大砲とは思えぬが」

 

 その時、その筒がこちらに向くのが見えた。それが、バルバロッサに一つの気付きを与える。

 

 「そんな……!そんなまさか!」

 

 あれは……巨大な旋回砲?

 次の瞬間筒の先が光り、わずかに遅れて「クラッセルブリア」を衝撃が襲った。

 

 「ぬわっ!」

 

 バルバロッサは数瞬宙に浮き、その後傾斜し始めた甲板の上でフラフラと立つ。

 が、巨大な破口から流入する水のせいで傾斜は増すばかりであり、程なくしてバルバロッサは海面へ滑落した。

 そこからさほど時間もかからず、「クラッセルブリア」は水の下に姿を消す。先ほど「ジュティーリア」艦首30fn砲の放った()()()に破砕されてできた破口からの海水流入が原因だった。

 

 「……くそっ」

 

 目を疑うような速さでこちらへ迫りながら艦隊を滅していく敵を前に、バルバロッサは海水を飲まないようにしながらそう吐き捨てるしかできなかった。

 

 

 

 これぞデリアが列強に成り上がれた理由の一つであり、エルフィリア級が首都の名を賜る程に重視され、一時期は”大東洋最強の軍艦”とまで言われた所以。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。かつてサッカラール家がアトレウスの武器庫より持ち出して解析し、大反乱にて戦場に蘇らせた光の矢。神聖皇国軍歩兵を蹴散らし、中央大戦においても猛威を振るって帝国の栄達への道を切り拓いた、門外不出の秘匿技術。

 それをだいぶ古い術式とはいえ盗み出し、運用に必要不可欠な魔導機関を制作する企業を経営が苦しくなっていた老舗を狙って引き抜き、実用まで漕ぎ着けた偉業の成果。

 魔力成形式魔導砲。

 本家本元のように、異なる属性の魔力を混ぜ合わせることはできないし、若干圧縮が甘いためか射程がやや短いが、紛れもなくそれは世界最強の矛であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『おい、おい、おい!』

 

 『どうした、何があった』

 

 『応答願う』

 

 『応えろ』

 

 ……応答がない。

 

 『死んだ?』

 

 そう書き込んだところで、ようやっと返事があった。

 

 『いや、かろうじて』

 

 安堵して、ネストリウスはほっとため息をついた。こんなところで倒れられてしまっては困る。

 

 『デリアめ』

 

 『あいつらはニホンに任せましょう』

 

 『とりあえずグルタミアヘ何かしかけろ』

 

 『元よりそのつもりです』

 

 ネストリウスは、アミノグルタルと繋がる共命石式魔信に持ち替える。

 

 『”接近戦仕掛けましょう”』

 

 『”正気か?”』

 

 『”なあにこちらはまとが小さいんです当たりはしません”』

 

 『”それに榴弾は近距離でないと使えないでしょう”』

 

 『”デリア艦隊を日本が受け持つ以上、我々はこちらを叩かなくてはなりません”』

 

 先程ムセンとかいう機械式魔信で通達してきたことだ。流石にグルタルも聞いているだろう。

 

 『”あの赤髭が死んだ今、すでに我々の策は無意味と化しています”』

 

 『”わかった。突っ込もう。勇猛なるグルタミアの船乗りならたとえ乗り込まれたとしても返り討ちにしてくれよう。その時は私も拳で吹き飛ばすつもりだ”』

 

 『おだてに成功しました。グルタルは敵へ突っ込みます』

 

 『その後ろにわが艦隊が陣取り、奴をその艦隊ごと葬り去ろうと思います』

 

 我々も突っ込むというバカなことはしない。彼奴等だけが突っ込んで、東方連盟と自分の艦隊に挟まれるのだ。流石に仕留め損ねることもないだろう。第一こちらの船は強化木材など使っていないためあちらより脆い。榴弾が使えるような距離まで詰める前に沈むだろう。

 

 『健闘を祈る』

 

 向こうがそう送ってきたのを見て、ネストリウスは苦笑する。

 

 『そちらこそ、生還を祈ります』

 

 そう書き上げて、彼は魔信を仕舞った。

 

 「……ふぅ」

 

 さあ、ここからが正念場だ。




午前で終わらすつもりでしたが結局昼食後にずれ込みました。

小ネタ解説
・四カ国艦隊の所業
 ≒トラファルガーの海戦
 縦陣突撃:ネルソンタッチ(ただし突撃しても数的不利は覆されず)
 狙撃手多数配置:フランス側による縦陣突撃への対抗策(これでネルソンは倒れた)

・魔探/探知魔法(セアルーク)
 場所によって魔力濃度が違い、上空には魔力乱流が吹き荒れたりするこの世界の遠距離探知手段は、受信型(パッシヴ)にすると何が何だかわからなくなるので初めから発信型(アクティブ)
 その方式は自らの操る魔力の濃さを薄くして空間を覆うというもので、異なる魔力を持つものがその空間の中に入ってきたのを感知することができる。わかるのは位置と速度、魔力の大きさ。
 しかしこれも付近に極端に濃い魔力があると感覚が乱れてその先の空間が感じにくくなる。
 人の身で使うと熟練の大魔導士でもせいぜい10kmに届くかどうかであるが、魔探は魔導機関で調律された均質な夥しい量の魔力を接続された人員が操作することでカバーできる範囲を広くしている。その分脳にかかる負担は尋常ではないため、通常は2時間程度で交代する。しかし今回鼻血を出した彼女は戦闘が始まってしまったせいで3時間近く操作しっぱなしだった。
 接続用の機器は2種類あるが、現在デリアが用いている兜型端末(ヘッドギア)は古いタイプ。脳に直接魔力を通す金属でできた杭を触れさせ、のびた導線で機器と接続される。そのため着脱時には細心の注意が必要であり、それがために戦闘時の人員の交代は異例であった

・「クラッセルブリア」(5代目)
 星祭りに来ていた4代目は改名の上貴族に払い下げられた

・魔力成形式魔導砲
 だいたい本文の通りだが、補足↓
 射程は圧縮された魔力がほどけて消えるまでの距離。現在のサ帝の最新の艦載砲はだいたい50km付近だが、砲口から出た瞬間から崩壊が始まるため、その威力の大きさは砲口からの距離に反比例する。また曲射ができない。
 蹴散らしたのは神聖皇国軍”歩兵”であって、他の兵科にはあまり効かなかった。
 騎兵と竜騎士は早くて当たらず、魔導師たちには純粋な魔力の塊であるということを逆手に取られて障壁で無効化されてしまった

 ー次回予告ー
————「があっ!」
 皆さ〜ん、メインディッシュはこちらですよ〜。
 ついに激突するデリアと日本。海戦の行末はどうなるのか。
 アミノグルタルの冥神謁見へのカウントダウンも、残りわずか————
 次回、「ネイヴィスト西方大海戦⑤」
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