日本召喚2021   作:秋津とんぼ

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月曜投稿すみません



22 ネイヴィスト西方大海戦⑤

 接近戦をしよう。

 その提案を聞き、アミノグルタルはネストリウスのことを見直した。軟弱な輩と思っていたが、今回の戦に自ら出てきたことといい、なかなかに見所がある。

 魔信をしまうと、彼は無意識のうちに舌なめずりをしながら、大声で叫ぶ。

 

 「皆の者、聞け!」

 

 それだけで、甲板上にいた者のほとんどが彼の方を見た。

 しかし、砲手たちだけは時折彼の方を見遣るだけで、砲撃を続ける。

 

 「今我々は、東方連盟と撃ち合っている。彼奴等と同じ海で、同じ武器を持って戦っている。大砲、素晴らしい武器だ」

 

 砲手たちの幾人かが頷いた。

 

 「鳴らされる爆音、重々しい威力。使っていると、まるで自分たちが巌を投げる巨人であるかのように感じられる。

  だが、同胞よ。

  ……物足りなくはないか

 

 全ての者が彼の方をみた。

 

 「大砲の為す荒々しい偉業もまたいいだろう。だが……我々は海の男だ。

 

  海神の領域で戦う守護者だ。

 

  グルタミアの海の男だ!

 

  ……相手の攻撃が届かない遠くからただ相手を打ち据えることに何の意味があろう。

  技では敵わないからといって持ち替えた得物の力のみによって勝つことに何の誇りを見出せよう。

  自らの拳を叩きつけない戦いで、何の昂揚が得られよう!」

 

 複数の船員が同意の言葉を叫んでいる。

 そうでない者もその表情を輝かせ、期待の目でアミノグルタルを見る。

 彼は侍従が差し出した、魔獣の甲皮で作られ魔真銀(ミスラール)で装飾された籠手を両腕に嵌め、それをぶつけて打ち鳴らした。

 

 「これより我々はあの敵艦隊に吶喊し、勇と礼をもってこれに勝つ!」

 

 大きな鯨波が起こった。

 侍従が繋いでいた魔信からは各艦長からの力強い返事が聞こえ、すぐ後ろからは操舵手が鼻歌まじりでガーっと舵輪を回す音が聞こえる。船は指示に従い敵艦隊に舳先を向けるようにゆっくりと回頭し始めた。

 先ほどより増した熱気が心地良い。

 やはり、戦とはこうでなければ。

 喜ばしかった。軟弱者など、親にそういう体を与えられてしまったあやつ以外要らないと、はっきり言い切れたから。そして、友邦の新たな王が、そのような軟弱者ではなかったから。

 率いるのは軟弱者を悉く追い出して作った、理想の軍。共に戦う友邦の軍も軟弱者でないならば、一体どうして自分が負けようものか。

 10年前とは違う、違うのだ。

 

 

 

 魔導師たちの作り出す風を受け、艦隊はスルスルと進んでいく。

 当然近づいていく内に被弾する数は増えていくが、それよりも相手側の被弾数の方が多い。

 

 「そろそろか、榴弾を撃たせろ」

 

 すでに準備を終わらせていた砲手たちは、彼我の距離が500mを切った辺りで、アミノグルタルの言葉を聞くまでもなく猛然と榴弾を撃ち始めた。

 弾体が石製という都合上大雑把な加工しかできず、飛竜(ワイバーン)などの火炎弾程度しか燃焼系の攻撃がないためにそれらへの対策がないに等しい連盟の戦列艦はなすすべもなく弾薬庫が吹き飛び、またはマストが吹き飛び、もしくは甲板の乗員が殺傷される。

 急激な損耗に連盟側はロクな対処も取れないままさらなる接近を許し、そしてさらなる打撃を受ける。

 

 「まっ、魔導師だあっ!」

 

 そう叫んだ水兵は次の瞬間には目の前に降り立った男によって黒焦げにされていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 単体で最低でも雑兵十人以上に相当する彼らに乗り込まれた船は確たる抵抗もできないままあっという間に制圧され、沈められる。これには遠距離砲戦を基本とする連盟が移乗攻撃を想定していなかったというのもあるが、彼らのような魔導師が乗艦していない、というよりそもそもの数が少ないことが理由であった。

 ほんの数十年前、具体的には連合王国が成立する以前にデリア亜大陸には"魔導騎士団"に類するものが存在したし、メテリアス大陸に少なからず"強者"がいた。しかし、彼らはデリア戦役、デリア=スピリダテス戦争とその後巻き起こった戦乱の中で、死ぬなり重傷を負って戦えなくなるなりして後継が育つ前に戦場から消えた。そうすると、かつて中央大戦にてケントラリスで起こったように、前線に出て近接戦闘(インファイト)を仕掛けるような魔導師はその軍事上の地位を戦列歩兵や火砲に置き換えられていった。

 別に、戦列歩兵に魔導師が戦力で劣っているわけではない。むしろ圧倒していた。劣っていたのは効率だった。

 単騎で一個連隊を軽々と屠る魔導師がいようと、彼または彼女の育成および維持に歩兵の一個師団を賄えるようなリソースが必要であるならば意味はない。

 故に、銃火器が普及した連盟諸国が"魔導騎士団"の維持を止めるのは必然であった。

 しかし、東大東洋諸国に銃火器など欠片もない*1*2

 この世界の銃火器のない文明において、魔導師とは飛竜(ワイバーン)と並んで最大の火力を出せるものであり、同時に戦場の王者でもある。

 であるからして、移乗攻撃のための戦闘員として魔導騎士を乗艦させることは斬新でもなんでもなく、当たり前のことをしただけだった。

 だが、それが刺さった。

 

 「雷槍魔法(サンデアスティリウム)

 

 「氷生成魔法(アイシャーディ)

 

 ある者は雷を迸らせて水兵を巻き込みながらマストの基部を焼き倒れさせ、またある者は生み出した氷を手斧(ちょうな)のような形にして人員を斬り伏せ、飛んできた銃弾を弾く。

 

 「火炎弾生成魔法、三倍(トリノ・ビギャノン)

 

 「礫魔法(エスピンガルダ)

 

 中にはマストからマストへ飛び移りながら火炎弾で船を炎上させる者や、制圧した船のマストの上から礫をばら撒き固定砲台になっている者もいる。

 総じて優勢と言えた。

 アミノグルタルは、その暴れ具合を見て同等の魔導士がいないならこんなものかと思うが、同時に明確な脅威がいないなら危険も少ないと思い当たり、思わず舌なめずりをする。

 

 「私も出よう。指揮は貴様がとれ」

 

 命令した提督が敬礼するのを尻目に、彼は籠手をぶつけて打ち鳴らし、しゃがむ。

 

 「……身体強化魔法(モアストロン)

 

 そして一気に甲板を押し退けて高く跳躍し、比較的近くにあった敵艦目掛けて降下する。

 

 「さァ……弱いものイジメの時間だァっ!!」

 

 そう、叫びながら。

 

 

 

 誰も、自分たちの後ろに()()()()()()()()()()が移動してきたことに、気づかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「かが」CICにて、芳賀は瞠目しながら報告を聞いていた。暗闇の中長時間浴びるブルーライトは目に悪い。

 

 「敵艦隊との距離、およそ10.4km。そろそろ砲撃開始距離に入ります」

 

 「敵艦隊、進路、速度ともに変わらず。こちらへ進んできます」

 

 敵艦隊は、すでにこちらの射程に入っている。どころか、地球における現代戦において至近と言えるような距離まで接近してしまっている。

 これには転移後の日本の資源事情が関係していた。

 転移によってそれまであった鉱産資源の輸入先が消えてしまい、現在日本では新しい鉱産資源を使った製品が作られることはなく、すべてリサイクル品もしくは木材などの非鉱産資源を使用したものとなっている。幸いプラスチック製のものは最近ようやくデ・ロイテルで石油を採取できるようになったため流通量は回復しているが、金属資源の方はイマイチだった。

 というのも、デ・ロイテルから産出される鉱産資源は、すべて粉末状だからだ。

 砂鉄や砂金なんてチャチなものではない。文字通り()()()()()()()()()()()()()()()()()()粉状になって砂漠の砂と混ざってしまっているのである。まずその砂との分別に時間がかかる上に、砂に含まれる金属の割合は採取が容易な手前であればあるほど低くなっていく。そのくせ奥地に行こうとすると機器が乱れて天測でしか方向が測れなくなるような事態に陥る。実際一度調査隊が現在位置をロストし、結果半分が無尽の砂に呑み込まれる凄惨な事故も起こっている。

 国の予算には限りがあり、すべての金属需要が賄えるほどの採取に必要な予算を出すことは叶わなかった。

 それゆえ金属に関して日本は未だ心許ないため、比較的優先的に供給されるとはいえ消耗は避けたかった。

 長々と説明してきたが、つまりは砲弾の節約がしたいのである。

 最大射程の半分以下。元々精度がいい現代砲なれば、ミスはより少なくなるだろうと目されたからだ。

 それに加えて、連盟の採用している艦砲は射程がおよそ2km前後であり、向こうから撃たれる心配も無い。

 距離が、10kmを割った。

 

 「撃ちィ方はじめ!」

 

 各艦の主砲が一斉に砲撃を始め、程なくして「かが」を揺れが襲った。

 

 「なんだ!?」

 

 唐突な出来事に、芳賀の頭は少なからず混乱する。

 

 「『すずなみ』より通信、敵艦より砲撃を認む、と!」

 

 前提が崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 「なななななななななななな」

 

 前提が崩壊したのは、こちらも同じだった。

 先程目を覚ましたホエイルは、壊れたように「な」を吐き続ける副官を見て、なんとか冷静さを保つ。自分より慌てた人間を見てかえって冷静になるのはこれで2度目か。

 しかし冷静さを取り戻したとして、目の前の情景は変わらなかった。

 最大射程ギリギリでの砲撃。もとより命中など期待しておらず、牽制と脅かしのための砲撃でしかなかった。しかしニホンは同じ時点で発砲したのにも関わらず、外したのは僅かに一発だけ。それも滞空していた風竜に当たったせいで船に届かなかっただけであって、他はすべてあやまたず命中し、甚大な被害を艦隊にもたらしていた。

 幸い一発で沈む艦はいなかったが、被弾した艦の殆どは風車が折られ、動力を喪失した。そうでない艦も、帆が焼けるなどして速度の低下は否めなかった。

 ……まあ、風車が折られなかったのはエルフィリア級、すなわち「ジュティーリア」のみなのだが。

 その衝撃が抜けきらないところに再び砲撃が入り、風車という空間装甲が消えた艦は簡単に甲板を貫かれ弾薬に誘爆、撃沈される。

 そして今、ホエイルの目の前でニホンの艦隊から3回目の白煙が上がった。

 撃ってから次撃つまでの間隔が異様に短い。こちらはまだ最初の一回しか撃てていないと言うのに!

 

 「どういたしましょう、提督」

 

 このまま彼らの射程圏内にいれば一方的に削られるばかりだ。こちらがまともに撃ち返せるようになるのは距離が5kmを切ってからで、魚雷なるものもあるがあれは同じかそれより近い距離でないと当たらないそうだし、試製なため信頼が置けない。

 

 「提督!ご指示を!」

 

 となれば遠ざかるしかない。しかし敵前回頭は隙が多すぎるし、勢いを殺さずに直進したとしてもすれ違うまでの間に艦隊は殆ど壊滅しているだろう。

 何か敵の注意を引くものがあれば大きく回頭しても敵からの砲撃はさほど多くはなくなるだろうが、一体何が————。

 

 「提とクォワァッ!」

 

 そこまで考えたところで「ジュティーリア」が大きく揺れた。

 

 「左舷に被弾!着弾した箇所の装甲が酷く抉れていると報告が!」

 

 「くそっ、風竜は何をしている?」

 

 それだ。

 

 「そうだ、風竜!」

 

 ホエイルは酷くすっきりした面持ちで風竜に責任を転嫁する発言をしていた士官の両肩を持った。

 

 「そうだそうだ、よくやったぞ貴君は」

 

 「は、はあ?」

 

 「風竜に敵艦隊へ突撃するように指示しろ、我々は変針し、敵の射程外へ逃れる」

 

 幸い、風竜は無傷だ。

 風車を一発で折る砲撃も龍鱗には敵わなかったらしい。

 これで一旦態勢を立て直して、あとはどうにか……。

 これまで受けたことがないほどのプレッシャーから逃れられそうとあってか、ホエイルの表情は泣き笑いにも近いような凄絶なものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 「あれに突っ込めだと?」

 

 パルトの風竜騎士マティ・ソガ・ミパルトワケは、僚騎に向かって思わず聞き返した。

 

 『そのようです、殿下。味方の逃げる時間を稼ぐ光栄な役割と存じます』

 

 「御託は良い。だがまあ————」

 

 見ようによっては貧乏くじだが、かえってこれは良い機会かもしれない。

 初陣の相手が愚劣な蛮族と聞いて落胆したが、デリアが諦めるほどの敵なら手柄と言っても良いのではないだろうか?

 

 「別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

 『ま、まあ、そうでしょうが……本気でいらっしゃるので?』

 

 こいつはこんなに馬鹿だっただろうかと、マティは思わずにはいられなかった。

 

 「本気だ。奴らを見てみろ。

  確かに金属で覆われているようだが、所詮貧しき東夷ではこちらの吐息(ブレス)で破れる程度のものしか用意できないだろう。それに遠眼鏡で見るとわかるが、バリスタだとか、空を向ける旋回砲だとか、そういった空の敵を想定した武器が見当たらない。

  竜母のような船も見えるが、奴らが連盟の厳重な管理を突破して飛竜(ワイバーン)より上等なものを持てると思うか?それに、たとえ持っていたとしても亜竜では真竜に勝てはしない。

  世界最強を謳うサッカラールの機竜もあの毒竜より遅いのだから、あのよく当たる砲とて船を捉えられる程度では我々を墜とすことなどできないだろう。

  どうだ、これだけ言われても心配か?」

 

 数秒の間の後、返事が返ってくる。

 

 『な、なるほど。砲撃に気圧されていましたが、殿下のお言葉で目が覚めました』

 

 そういえば彼は先程奴らの砲撃を喰らっていたなと思い出す。まあ、わかれば良いのだ、わかれば。

 最初は驚いたが、これほどの好機は2度目があるか怪しいものだ。友軍を追い詰めた敵の前に立ちはだかり、彼らを逃すために戦って、そのまま返り討ちにする。

 良い、実に良い。

 マティは両の口角を上げた。

 彼我の距離は10kmほどだから、低空で行ったとして36秒ほど。上昇してから急降下するにしても1分もかからないだろうと思われた。

 

 「行くぞ」

 

 そう言って首から提げた魔信を鎧下着の胸ポケットに戻し、右の踵でトントントンと乗騎の腹を叩くと、鱗の並びが変わり始め、同時にマティは乗騎に体を密着させる。

 傍目から見れば、それまで何もなかった空に急に飛龍(ドラゴン)が現れたように見えただろう。

 次の瞬間には彼と彼の相棒は猛烈な勢いで斜め上方飛び出し急速に加速、20秒もすれば既に高度は5000mにまで達していた。マティはそこで上昇を止める。

 

 「ぐっ……」

 

 彼が呻きながら酸素マスクも兼ねた分厚い兜ごしに頭を抑えるのを見て、遅れて上がってきた僚騎が呆れて言う。

 

 「またですか殿下。良い加減無茶な機動はやめましょう。それで何度演習で撃墜されたと思ってるんですか。ましてやここは実戦ですよ」

 

 「それはそうだが……うぅ」

 

 マティは何かを言おうとしたが、ここで言うべきではないと思い直し口を噤んだ。

 

 「では、まず最初は殿下があの竜母らしき船を、私がその隣の2番目に大きな船をと言うことでよろしいでしょうか」

 

 「……そうしよう」

 

 その時、眼下の船の一つから大きな白煙が上がるのが見えた。

 

 「なんだ?一体な——ぅおわっ!?」

 

 砲撃の時とは違う位置からの白煙にマティは身を乗り出すが、突然乗騎がのけぞって広げていた翼を腹を守るように閉じた事により跳ね上げられ、急な動きに驚く。

 命令していない動きをしたことを叱ろうと思うが、それよりも先に更なる衝撃と爆炎が彼を襲った。

 「ちょうかい」の放ったSM-2艦対空ミサイルだ。

 

 「い、い、今のは何だ。まさか下から撃ってきたと言うのか!?」

 

 その言葉を言い終えないうちに僚騎の方からも爆音が聞こえてきた。

 

 「ヘンシェェェェル!」

 

 爆炎が晴れると、腹の方の鱗が煤けた風竜と、その上に跨るヘンシェルが見えた。62kgの炸薬では龍鱗を貫くことはできなかったと見える。

 

 「ヘンシェル、無事だったか」

 

 「殿下こそ。何やら翼が無惨な事になっていますが」

 

 見ると、乗騎の翼は焼けてボロボロになり、何やら金属片も刺さっているようだった。

 

 「まずいな。ここに留まっていたら余計に喰らう事になるだろう。急降下するぞ」

 

 「で、殿下!?行くのですか!?」

 

 「これならまだ鱗のある部分で受ければ何発かは耐えられる!何、一発でも当てたら勝ちなんだ、行くぞ」

 

 そう言うや否やマティは急降下を始めた。慌ててヘンシェルも続く。

 まさか生き残るとは思わなかったのか、それとも急降下してきた事に驚いたのか、先ほどの船から再び白煙が上がり、今度は白い矢のようなものが飛んでくるのがはっきり見えたが、マティはそれでも変わらず突っ込んでいく。

 矢のようなものを躱そうとするが、躱しても途中でくるりと向きを変えて追ってくるため四発も受けたが、近づきすぎたのかそれ以上矢のようなものは飛んでこない。

 

 「勝った……!」

 

 マティが思わずそう呟いたのも束の間、目の前の竜母らしき船と先ほどから撃ってきていた船の各所からまるでシャワーのように光弾が浴びせかけられた。高性能20㎜機関砲ファランクス、防空の最後の盾だ。

 流石に前後から来る秒間50発の銃弾の雨を避けることはできず、次々と被弾する。

 

 「があっ」

 

 龍鱗も、マティの纏う鎧も破壊できてはいないが、その衝撃の強さにマティは意識が飛んだ。

 マティが気絶して間も無く、彼の乗騎の目に弾が命中し、それまで感じたことのない大きさの痛みで混乱した風竜は宥める者が居ないのもあり我を忘れて暴走、僅かに浮いて「ひゅうが」を飛び越し、艦隊のど真ん中に着水し巨大な水柱を立てる。

 着水後も動いていたが、近くにいた「いなずま」が主砲でトドメを刺した。

 マティの戦死を見たヘンシェルはそのままさらに速度を上げて急降下、結果制御できずに「ちょうかい」手前3mの海面に激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「風竜があんなに簡単に……」

 

 「な、なんと言うことだ、一体どうすれば勝てる」

 

 事ここに至り、「ジュティーリア」に詰める艦隊の頭脳らは劣勢の程を思い知った。

 

 「……降伏する」

 

 「今、何と!」

 

 「降伏する。ここにいる戦力では到底作戦の達成は難しい。そうである以上若人を無駄死にさせる必要はない」

 

 「それはそうですが、相手には何で伝えたら良い。こちらの作法がわかるか怪しいかと」

 

 「全周波帯で最大出力で魔信を送れば届くでしょう。流石に魔信を持たない国はいない」

 

 そう言う事になった。

 彼らの預かり知らぬ事であったが、この時すでに四カ国艦隊に分断された後ろ側の艦隊は恐れをなして秩序なき敗走を始めていた。

 結果艦隊司令部ごと無事に降伏できたのはデリア艦隊残存46隻のみとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2kmほど先で派手な光や炎、煙、雷、その他様々な魔法現象と共に船が入り混じっているのが見える。

 現在、ネイヴィスト艦隊は乱戦の最中のグルタミア艦隊の背後に占位していた。

 奇襲には絶好の位置であり、時機であった。

 

 「撃て」

 

 「は?で、でも、前方にはグルタミア艦隊が敵と入り混じっていて狙いが——」

 

 「良い。戦場に誤射は付き物だ」

 

 戸惑いながら砲手たちが砲撃の準備をする。彼らの練度は高く、その速さはかなりのものな筈なのだが、昂揚しているせいなのか妙に遅く感じられて酷くもどかしかった。

 永遠にも思われる発射準備が終わり、やっと撃てる状態になる。

 撃とうと大きく息を吸い込んだところで邪魔が入った。

 

 「陛下ー!陛下ー!降伏です!彼らは魔信で降伏を叫んでいます!」

 

 「降伏……だと?」

 

 遅かったか。

 ネストリウスは歯(ぎし)りした。

 しばらく見ていると、グルタミア艦隊が連盟艦隊から離れて、こちらへ向かい始めた。

 十数分もすれば、隣にまで近くなる。

 すでに降伏した艦隊は最寄りの陸地であるフィアラーン亜大陸目指して北へ向かっていて、水平線より手前には両艦隊以外いなかった。

 双方の旗艦の間に渡し板が渡され、アミノグルタルが歩いてくる。

 ネストリウスも渡し板の上に乗り、二人はちょうど真ん中で立ち止まった。

 

 「此度の戦い、共によく戦ったが、まずはこうして生きて再び見えることができたことを祝おう」

 

 「はい」

 

 二人は固く絡指する。

 

 「この手で赤髭の奴を仕留められなかったのは残念だが、我々の勝利だ」

 

 そう言うアミノグルタルの無防備な腹に、ネストリウスは勢いよく隠し持っていた短剣を刺した。

 

 「ん゛な゛っ……貴公、これは一体どういう——」

 

 表情の七変化は面白かったが、言い終わらないうちに海へ叩き落とした。

 ネストリウスが船内へ戻るのを見て、砲手たちは砲撃した。

 突然の砲撃になす術もなく旗艦は沈み、艦隊の他の船も同じだった。沈みゆく船から魔導士が放った火球が飛んでくるが、近衛が構えた攻撃反射魔法(カウンテル)の術式が刻まれた盾に阻まれ、逆に放った魔導士が焼かれる。

 数分後には、アミノグルタルの艦隊は、一隻残らず彼と彼子飼いの魔導師諸共水底へ沈んでいた。もう、彼らがここにいたことを示すものは漂う帆の切れ端程度しかない。

 ネストリウスは、船が動き出すまで静かな海面を見ていた。何もないそこを、何も見てないような目で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ぶはっ!……ここは?」

 

 「『エセラーズ』の艦内です、陛下」

 

 「そうか、儂は助かったのか」

 

 バルバロッサ4世、生存。

*1
正確に言えばライデンシャフトが実物はないが射出型魔導砲の知識を有していた

*2
リベカ・ジグエンツァも黒色火薬式のものを一つ作らせて戦場に持ち込んでいたが、自衛隊の砲撃によって粉微塵になった




絵スピンがるだけだ。それに、|
↑謎の予測変換
時間ないので小ネタ解説、次回予告は明日つけます
あと次次話から諸事情で不定期更新になりますすみません

12/3 0:33
小ネタ・予告付けました

小ネタ解説
魔真銀(ミスラール)
 自然ではほとんど産出しない希少な鉱物。軽く強靭で、魔力をよく通す。魔力が通されると硬くなる。
 魔帝以前は人工的に生成できたようで、主に古代の朽ちた都市遺跡や兵器から回収されている

・デリア戦役
 連合王国誕生のきっかけとなる戦争。中央暦1312年に起こった。別名は十三日戦争

・中央大戦
 聖サッカラール帝国が世界最強となった戦争。中2年から205年までの間収穫期や疫病、飢餓、服喪などの理由による一年に満たない程度の停戦期間を何度も挟みながら断続的に続けられた。
 この時の対立構造が現在まで尾を引いている

・弱いものイジメの時間
 鬱屈した何かの表出

・風竜速すぎ
 風竜と雷竜が速すぎるだけで、他の属性竜(アットリブタ)は遷音速なんてとてもじゃないが無理。
 ちなみにF-16の上昇能力が約15000m/m

・龍鱗堅すぎ
 戦艦の主砲も一発ではぬけない

 ー各国の反応ー
 聖サッカラール帝国「世界最強!世界の盾!(ドヤア!)」
 第二アトランティス帝国「……ナニアレ」
 日本「…何で戦列艦が10kmも飛ぶ大砲持ってるの?ていうか風竜速すぎなんですけど……怖っ戸締りしとこ」
 デリア連合王国「Alle unsere Feinde werden gemeinsam in die Hölle geschickt!!!」
 ド・フラミンゴ王国「うぎゃぱー」
 ラスター王国「……なんだと」
 ディム王国「ば、バカなバカなバカナア!」
 パルト神国「ふ、風竜が……被撃墜?」
 パパールディア国「被害が多すぎて首が回らなくなるぞこれ」
 ヒゼキヤ王国・クラ王国・イニェル公国・ツツル王国「あっぶね~~、にほんについてよかったぁ~~~~」
 ドスカータ王国「覇権狙えない…」
 ナハナート王国「がっくし」
 ネイヴィスト王国「なんか晴れないな……」
 マルセリータ王国・レミジャンティア公国・ワリクエラ王国「ソンナバナナーーーーー!」
 クラッセルブリア大王国「オールオッケー!」
 グルタミア王国「ガッデム」
 ー次回予告ー
————「仕方がないことだったんだ」
 会議は踊る、されど進まず。彼らは必死に考える。
 一体どうすればこの状況を打開できるか。あるいはどうすればこの現実から逃避できるか。
 次回、「左遷された狼は虎耳宰相の夢を見るか」
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