日本召喚2021   作:秋津とんぼ

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クリスマスプレゼントにするつもりは無かったんだ、信じてくれ……


閑 とある酒場

 5月3日夜、聖サッカラール帝国港湾都市ネクシミルア。

 繁華街の一角にある、いつかも見た少し扇情的な看板が特徴の酒場。

 ここには、今日も商人達が飲んでいた。

 『こんばんは、世界のニュースの時間です』

 軽やかな旋律と共に、テレ・ウィシオから声が響く。世界でも聖サッカラール帝国しか実現していないフルカラーの遠隔受像機。そんなものがこのような普通の酒場にあることに、多くの人は驚く。

 

 「お、待ってました~」

 

 「相変わらずミリアちゃん可愛いなあ」

 

 中年に相当する男らが、エルフの美人アナウンサーで盛り上がる。

 画面の中ではオープニングトークが終わり、ニュースの報道へと移る。

 

 『今年の中央十二国会議の参加国が決定したと、今日の午後5時、帝王府は発表しました』

 

 「おっ、変動はあるか?」

 

 「そりゃ、有るだろ。あのイェルムーリだったか?あの国がどうなるかだよな」

 

 「おーい、腸詰めのおかわり、2皿頂戴ね」

 

 『今回は、以下の十二カ国となりました』

 

 聖サッカラール帝国(Beati Imperii Sacqaraali successor Charlotor)

 アトランティス帝国(Ail Ymerodraeth Atlantis)

 ダナン連合王国(Gadrod Cynedom of Danan)

 ダズルカン大公国(Pedyra Ducatia Dazhlcan)

 パンドーラ魔法連合(Pandora Magiae Iunionie)

 デリア連合王国(Deria Ormherkes er sa Orm)

 キリア王国(Regineme de Quilia)

 ザシアン王国(Herdeia Zhasian)

 ドクレアン王国(Dokrearch Histbir)

 ダンヴェ王国(Regineme de Danvet)

 トゥーダ王国(Uasaros Turda)

 アオラフトゥ(AoRftW)

 

 『固定参加国の一つド・フラミンゴ王国が滅亡した為、代理としてダンヴェ王国が招待されます。ダンヴェ王国はドクレアン王国に枠を明け渡した為1198年の会議を最後に招待されておらず、今年で実に142年ぶりの参加となります』

 

 (どよ)めく酒場。

 

 「おお、やっぱりか」

 

 「まあ、そりゃ、七要件を満たしていて会議に呼ばれていない国なんてダンヴェくらいだからな」

 

 「店員さん、ドギラゴンもう一杯!大ジョッキで!後サレミも!」

 

 「よく食べるな、お前」

 

 「なぁに、これからさ。さっきのニュース聞いたか?我が祖国、ダンヴェが再び会議に参加するんだぞ」

 

 そう言いながら移民の時計屋はどんどん追加の注文をする。

 

 『開催予定は来月の10日です。アミキウスさん、会議ではどのようなことが議題になると思われますか?』

 

 『そうですねぇ。色々ありますが、まず確かなのはイェリムール帝国についてでしょう』

 

 『列強を滅ぼしてしまいましたから、正しく一大事な訳ですが』

 

 『まあ、もちろんそれもあります。一つ空いた列強の枠にどの国を入れるかというのは当然俎上に上るでしょう。彼の国に会議への参加・議決権を付与するかというのも重要です。ですが、それ以上に大ごとなのが、パワーバランスです』

 

 『えぇ、それは……そうでしょうか?デリアの時のように落ち着くのでは無いでしょうか』

 

 『いやぁ、それはちょっと考えづらいですね。デリアの時は明らかに"既知"でしたし、メテリアスの扱いの方に焦点が置かれていたため、それほど波風が立たずに二帝同盟が二帝一王同盟へと移行できましたが、どうもそうは思えないんです』

 

 『と言いますと?』

 

 『まず、これを見てください』

 

 そう言ってアミキウスが取り出したのは、国ごとに色分けがされた世界地図だ。サッカラール、アトランティス、デリア、及び彼らの属国・保護国・友好国が赤に、ダナン、キリア、ダズルカン、ダンヴェ、ド=フラミンゴ、及び彼らの属国・保護国が青に塗られ、それ以外の土地は白いままだ。

 

 『こちらは去年1月時点での世界地図です。赤が二帝一王同盟側、青が大秩序同盟側の国です。みてみるとわかると思いますが、ちょうど大秩序同盟諸国が、帝国とアトランティスを半包囲しているような形になるんですね』

 

【挿絵表示】

 

 『一方、こちらが現在です』

 

 

【挿絵表示】

*1

 

 『緑が現在イェリムールが支配している地域です。包囲の南翼が崩れてしまっているのがわかるかと思います。これ——え?速報?

 

 『はい、お話は一旦……

 

 画面が急に切り替わる。

 

 『此処で、速報です。先ほど、ニホン国が数時間前に東大東洋のネイヴィスト島西方沖で東方連盟七百余隻と戦い、これを撃破したとの声明を先程発表しました。繰り返します——』

 

 わずかな静寂ののち、酒場が(どよ)めいた。

 先ほど祖国の中央十二国会議参加に喜んでいた時計屋などは、驚きのあまり腸詰を床に落としてしまう。

 

 「店員さん、乾酪を3つ!あと腸詰ももう一皿!」

 

 「おいおい、わざわざ犬の餌にしたのに代わりを頼むのか?」*2

 

 「抜かせ、驚いただけだ」

 

 報道は続く。

 

 『ニホンは最近できたとされる島国で、昨年秋に外交使節に攻撃をされた東方連盟が宣戦布告を行なっていました。この声明はつい先程、ツツル王国のリシュタグから現地時刻で午後9時頃に発信されたものです。これについて東方連盟およびデリア連合王国側からの発表は未だありません』

 

 客の一人が、壁にかけてある時計を見る。午後7時22分を周り、3分になろうとするところだった。

 

 『これで、速報を終わります。

  ……アミキウスさん、どう思われますか?』

 

 アミキウスはちょっと狼狽えたような表情を見せたあと考え込んだ。

 

 『……これは荒れるかもしれませんね』

 

 『それは、世界会議直前だからでしょうか』

 

 『それもありますね。ですが……発信場所がリシュタグ、と言うのが気になるんです』

 

 『確かに。リシュタグはツツル王国の首都ですが、そのツツルは東方連盟の加盟国のはずです』

 

 『それです。ニホンと敵対しているはずの東方連盟の加盟国が、なぜかそのニホンの声明を代理で発信していると言うのが、やや信じ難いんです。東方連盟は自由と開化を標榜していて、非常に文明的であり同時に昨今稀に見る慈悲深い集団なんですが』

 

 『ニホンに対しても、本来は黙って国際法違反に対する軍事制裁権を行使するだけでいいところを、わざわざ交渉の席に着き、その上戦争の形に持ち込んであげるその律儀さと丁寧さが話題になったことがありましたね』

 

 『ええ。まだほとんど情報がないので、一体何があったのかわからないのですが、これは非常に大きな出来事だと私は思います。

  私がこの速報を聞いたときまず何を思い浮かべたと思いますか?フラミンディア爆撃ですよ、イェリムールの!まあ、私がすぐ前にイェリムールの話をしていたというのもあるとは思いますが、よくよく考えてみると、状況がとても似ているんです』

 

 『そうなのですか?』

 

 『はい。……あー、ちょっと押してるようなので簡単に言いますと、どちらも最近現れて国際秩序に反する行動をした国が列強に勝ったという状況なのですよ』

 

 『なるほど』

 

 『で、それが先ほどのイェリムールの話にも繋がるんですがね、あの国が亡ぼしたド=フラミンゴは知っての通り列強第五位であり、大秩序同盟の包囲の南翼を形作っていました。それが突如現れた得体の知れない謎の国に滅ぼされてしまったわけです。これは、アトランティスにとっては少し受け入れ難い状態かも知れませんが、我が国にとっては西方戦略の転換点になりうる好機なんです』

 

 『確かに、イェリムールがこちらに着いてくれれば、帝国は南方を気にすることなく戦うことができますね。こちらに着いてくれれば、ですが』

 

 『着かないはずがないでしょう。敵の敵は味方です。それに誓約などと言うバカなことをしない限り、この帝国に楯突くものなどいるはずがないでしょう。それに、彼らによる利点はそれだけではないのです。ドクレアン王国、現在中立で通しているあの国が、こちらに来てくれるでしょう。ちょうど三方を包囲される形になります』

 

 コメンテーターが適当なことを抜かし始めると、酒場の客たちは雑談に集中を向け始めた。

 

 「にしても、これで去年言われてた死者ゼロ勝利の信憑性が増したな。列強に勝つほどなら、それも納得がいく」

 

 「けどよ、いったい奴らはどんなカラクリで勝ったんだ?皆目見当がつかないんだが」

 

 「何、大方古代兵器でも見つけたのだろう。礎建帝陛下と同じさ」

 

 そこで、珍しく頭の禿げた鍛治師だろうドワーフが口を挟む。

 

 「そうポンポン見つかってたまるか。そこらじゅうにそんなもんが埋まってみろ、あっという間に世界は焦土だ」

 

 「じゃあ他に何があるってゆんだ。言ってみろ」

 

 そう詰められるとドワーフは目を逸らして黙りこくる。

 少しして、その豊かな顎鬚がかすかに揺れた。

 

 「……大魔法

 

 「なんだって?聞こえないよ」

 

 「……大魔法

 

 「すまんが、爺さん。もっと大きな声で言ってくれないか。まさか鍛冶場の喧騒を忘れたわけじゃないだろう」

 

 「ああもぅ……大魔法!

 

 酒場がどっと沸いた。

 

 「本気か爺さん、そんなおとぎ話をまだ信じてたのか?」

 

 「流石にこの魔導工学全盛の時代にそんな艦隊を全滅させるような魔導師は存在しないだろう」

 

 「別にいいではないか、爺だろうと荒唐無稽な夢を見るのは自由だ」

 

 「うるさいッ!儂はビオラムテスが好きなのだッ!」

 

 再び大きな笑い声が酒場に響いた。

 ビオラムテスとは帝国本土南部の"鉱都"ロイテンバーツ近郊のドワーフ氏族に伝わる、鍛治と魔法に長けた偉大なる女酋であり、また彼女の伝説を元に最近作られた少女向け映像作品であるが、どうやら酒場の客たちは後者の方だと思ったようだ。

 

 「まあ、一人で見る分には咎めないが……お好きにどうぞ?」

 

 「違う!そうではない!あーーーーーーー!」

 

 鍛治師がジョッキに入った麦酒を煽って卓に突っ伏し、三度笑い声が響いたあと、カランカランと扉の鈴が鳴った。

 客らが雑談をやめて一斉にそちらを向くと、怯えた表情の赤毛の少女が立っていた。

 首には、彼女が第六等級契約労働者、または指定有(きゅう)労働者*3と呼ばれる身分であることを示す、重厚な印象を受ける首輪をはめている。

 

 「……どこのお使いで?」

 

 少女は虚を突かれたような表情をしたが、すぐに先ほどの顔に戻り、やや小さいながらもはっきりとこう言った。

 

 「私自身の」

 

 店主はため息をつくと、そっと彼女を手招きした。

 はめている首輪には、オイテウネム指定有咎労働者商会の紋章と共に、そっと"Rachel"と名前が彫られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、パパールディア国政庁所在都市マラガ。

 かつて栄華を誇った神王国の都マイアクレントから西北西に100km程離れたこの港湾都市の中でも、夜の明かりが少ない下町の辺りに、一つの酒場があった。

 崩れそうなほどではないが、いささか古びた外装のその酒場は、数人ばかりの客がチビチビ飲んでいるだけで、あまり賑わってはいない。

 そこへ、勢いよくくたびれた服装の男が入ってきた。男はまっすぐカウンターへ向かう。

 

 「旦那、イエサの24年物を頼む。青で、水割りだ」

 

 店主は頷くと少年と思しき給仕に目配せする。給仕は外に出ると、看板を裏返して"お休み"とした。

 それを見て、男は話し出した。

 

 「東方連盟が負けたぞ」

 

 客たちがおおぉと声をあげる。

 

 「何と」

 

 「相手はどこだ」

 

 「ニホンだ」

 

 「あの"神の国"か!」

 

 「それは心強い」

 

 「静まれ、あんまり騒ぐと怪しまれるぞ。……確度はどれほどだ」

 

 「まあまあだ。まだニホンが一方的に発表しただけだからな。だが、ツツル王国を経由して発信されているから、実際勝利と言えるだけの戦果は上げたと思える」

 

 「ほう、あそこは連盟加盟国のはずだが……それなら良いだろう、本部へ報告する。サナ、彼へ酒を」

 

 サナと呼ばれた給仕は、傷がついているがしっかりした棚からあまり良いとは言えない蒸留酒の瓶を取って、木杯とともに男にわたす。男は、給仕を見て何回か目を瞬かせると、店主に問うた。

 

 「女だったのか」

 

 「どうした、俺が女を雇ったのが不思議か?」

 

 「いや、あんまり痩せているもんだから、てっきり男かと……イテッ!」

 

 給仕が男の脛を蹴った。

 男は彼女の胸ぐらを掴もうとするが、少し考えて手を戻し、代わりに大きく舌打ちした。

 

 「ったく、どこもこんな生意気に育っちまったガキが大勢いやがる。ああやになったもんだねえ」

 

 「テメェはまだ三十も生きとらんだろうが。何昔のこと知った口聞いてやがる」

 

 四十路も半ばと思われる風采の男が、最初の男に絡みかかってきた。だいぶ息が酒臭い。

 

 「ああ?俺がガキの頃よりも悪くなったっつーてんだ、勘違いすんな。それに、俺ぁこれでも昔は旧王都一の愚連隊の一員でヨォ、兄貴から瓦解より昔の話を寝物語に聞かされて育ったんだよ」

 

 「へっ、育ち自慢か?ならここにいる誰も俺に叶いっこないわ。俺はなぁ、竜騎士の家の四男坊だったのさ。本当なら、今頃はどこか辺境の飛行場の司令官になってるか、そこで部隊長をやってるかしたんだぜ。それが?たかがスラムの孤児集団風情がどうしたってぇ言うんだ、オイ」

 

 「なんだよ、坊ちゃんじゃねぇか。そんなんじゃ、仮に昔んママ続いてたとしても、どっかでおっ死んでたぜ」

 

 「なんだと、やる気かゴルァ」

 

 「こっちの台詞だァ!」

 

 二人とも立ち上がって幅広の短剣を抜いたところで、酒場の扉が勢いよく蹴倒された。

 

 「開けろ!マラガ市警だ!」

 

 そう叫びながら入ってきた男に続き、ゾロゾロと対魔法防御の施されたチェインメイルを纏った機動警察隊員が突入してくる。

 

 「まずいっ!」

 

 先ほどの竜騎士の四男坊は構えていた短剣を投げつけると背を向けて逃げ出したが、盾で短剣を弾いた機動警察隊員の銃撃で倒れ伏す。

 他の客も魔法か短剣かの別はあったが何かしらの反撃を加える。しかし、纏ったチェインメイルの防御はかなり硬いものだったようで、ろくに手傷も負わせられぬまま石弾を受け頽れた。

 

 「……流石は国安隊、一番槍の俺が動く間も無く片付けちまった」

 

 「そう気負うな。装備品も、受けている訓練も違うんだぞ」

 

 呆然とするマラガ市警の男に、また別の——国家安全保障課の——制服を着た別の男が声をかけた。

 

 「ブラス」

 

 「なんだ、その眼は。市民を守ると言って市警を選んだのはお前だろ」

 

 「でも、なんか頼りなく思えて」

 

 「そりゃまあ、うちの連中と比べればどんな警官も頼りなく思えそうなもんだが」

 

 その時、バフッと何かが爆発した音が響き、機動警察隊員の一人が大声で報告してきた。

 

 「フラクテウェリ!*4駄目です、逃げられました!」

 

 「何っ!?地上も地下も、通路は全部封鎖したんじゃなかったのか?」

 

 「未発見の通路があったみたいで、追いかけようとしたらコイツが積んであった火薬に衝撃を加えたもんで、モノの見事に塞がれちまってますわ」

 

 隊員は、ボロ切れのようになった服を纏った少女の首根っこを掴んでいた。隊員が並外れて大柄なせいで、彼女は中に浮いた足をバタバタさせている。

 

 「孤児か。……おい、通路の出口に心当たりはあるか」

 

 「いやー、わからんでしょう。ここの地下は地下納骨堂(カタコンベ)や石灰岩掘りの坑道でアリの巣よりも複雑ですから、こちらのわからないところで新しく繋げられたらどこへ逃げられるか知れたもんじゃないです」

 

 「やはりダメか。仕方ない、可哀想だが、この子供に聞くしか————おい、何をしようとしている?」

 

 見ると、少女は首から提げていた飾りを両手に持っていた。

 

 「!!やめろ!やめるんだ————」

 

 マラガ市警の男がブラスの前に飛び出し手を伸ばすが、少女はそれに気を留めた様子も無く、手に持った飾りを勢いよくその薄い胸の左側——心臓に突き刺した。

 閃光、爆風、魔力噴流————一瞬にして生まれたそれらが過ぎ去ると、ブラスの目は目の前で転げる友の姿しか捉えられなかった。

 右腕の前腕の半ばより先が消えている。傷口は大きく花のように裂け、手前で左手がキツく締めているにもかかわらず血が小さな噴水程度の勢いで出ていた。

 周囲の気温が一瞬にして氷点下に達したかのような錯覚を受け、一瞬経ってそれが過ぎ去ると、今度は何も考えられなくなった。

 周りのことが何も頭に入らない。今まさに大声で喚いている友人の声も、大慌てで対応に走る機動警察隊員の焦って裏返った声も、野次馬にきた市民があげる悲鳴や罵声、嘲笑すら耳から耳に通り抜けていく。雨上がりで泥濘んだ未舗装の路面に広がる血溜まりも、接続されているべき胴体が全て細かな破片となったために無様に地面に転がっている少女の顎の欠けた頭部も、腸を曝け出して横たわる先ほどまで少女を持っていた機動警察隊員の骸も、何かしようとして振り上げられただけの彼自身の右腕すら、視界には移れど頭の中で意味をなしていなかった。

 なんだ。なにが。なにを。なんで。

 脱力し、膝から崩れ落ちる。

 地面に顔がつく直前に手を付いた、そのすぐそばに光るものが見えた。

 鋒を下に向けた大剣とそれに垂直をなして鍔の部分に重なる二振りの短剣の形に彫り表され、なんらかの金属を被せられた木製の飾り。大剣の鋒は血によって赤く染まっている。

 剣十字。

 それが目に入ったところで一瞬意識が途切れ、次に気がついた時、ブラスはすでに立ち上がって近くに転がっていた少女の頭部めがけて足を振り下ろしていた。

 がしっ。がしっ。

 何も言わず、ただ何度も足を振り下ろす。

 頭蓋骨というのは案外硬いもので、革靴による衝撃を物ともせず、ただ踏まれるたびに柔らかな路面に沈んでいく。

 踏み応えが土のものに変わり始めたところで、やっとブラスは我に帰った。

 辺りを見ると、すでに友人は搬送されたらしく姿はなかった。あの傷では治癒魔導士が間に合わなければ助からないだろう。

 

 「……すまない、少々取り乱した。何か証拠になりそうなものが残ってたら採取して、あとは戻れ。私は先に帰る」

 

 ブラスは懐から折り畳まれた帽子を取り出すと深く被り、酒場のあったところに背を向けて乗ってきた魔導車へ歩き出した。

 

 「……ジェッス教め」

 

 弱々しくつぶやかれた言葉は、本人以外の誰の鼓膜も揺らさずに消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 「……今のは」

 

 「サナだ。よく出来た子だった」

 

 マラガに数ある地下通路の一つで、元酒場の店主はそう返事をした。

 

 「これまでの子も、ああだったのか?」

 

 「……」

 

 「よくできるな」

 

 「大いなる神の御許へ行くだけだ。何も咎めることなどないだろう」

 

 「……それもそうか」

 

 そういうとサナに脛を蹴られた男は軽く笑った。

 

 「天に栄光あれ」

 

 「おいおい、こんな薄暗いところで聖句唱えんのか?」

 

 「地に平和あれ」

 

 「まじか……預言者イエサに賛美あれ」

 

 「我ら、地の塩、天の雨となりて」

 

 「(あめ)が下に救いをもたらさん」

 

 「全て憎悪は敵の頭上に」

 

 「全て敵意は悪魔の頭上に」

 

 「悪人にこそ憐憫を」

 

 「善人にこそ艱難を」

 

 「この世の全ての栄光は」

 

 「天に(いま)し」

 

 「地を看られる」

 

 「大いなる神にこそあると知れ」

 

 『ベートゥルー』

 

 そう言うと、二人は胸の前で()()()()()()

*1
二大陸の地図上の面積の比を間違えています、ご注意ください

*2
食べこぼしを床に落として犬に食べさせる習慣のことを指す。貴族の習慣だったが、新興の富裕市民たちが真似しだして広まった

*3
規定されている法が違う為異なる名称を持つが、どちらも他国でいう奴隷に相当する身分を表す。初出は一章の「閑 まえがき連載① ラケルの冒険」

*4
神王国公用語であったモルッカ語で話者より2個以上階級が上の人物に対する呼びかけ




クリスマスイブに一人寂しくゴアを書く奴がいるってマ?
冗談はさておきこれがおそらく今年最後の更新です
メリー・クリスマス、そして良いお年を

そして皆様ご待望の地図です。全て手書きなので見にくいとは思いますが、画像取り込み機器(スマホ)のカメラがだいぶ良いものだったのでかなり細かく拡大できます
まずはこちら、現状作中に出てきた範囲の世界地図です。ただし1312年時点。カラキアと日本は範囲外ですが……

【挿絵表示】

次が1312年2月3日のケントラリス大陸です

【挿絵表示】

1339年1月29日の東大東洋

【挿絵表示】

続いて1342年6月7日のアトランティス

【挿絵表示】

1312年2月3日の大内海

【挿絵表示】

1300年9月28日のデリア亜大陸

【挿絵表示】

1312年2月3日のメテリアス

【挿絵表示】

1339年1月1日のメテリアスですが、()()()()()()()()()()()()()()()()ので、お手数ですが、"エダンヤ王国スピリダテス及びツォンダル・南モライア信託統治領"を"パパールディア国"に置き換えてくださるようお願いします

【挿絵表示】

最後にミスフォティアだけ拡大です

【挿絵表示】


小ネタ解説
・テレ・ウィシオTele Visio
 カラーではない白黒のものならアトランティス、ダナン、キリア、ド=フラミンゴ、スピリダテスが実現しており、ダズルカン、ダンヴェ、ヂッテリアなども他国企業のものだが国内に製造設備がある

・ドギラゴン
 サ帝国内シェア一位を誇るメクレンブルグ酒造のエールビール。後々入ってくる日本製のビールに次々抜かされることが決定されている悲しきお酒

・大秩序同盟
 中央大戦の交戦勢力の一方である対サッカラール大同盟を前身とする国家間同盟。ダナン連合王国及びダナンと同君連合を組むヂッテリア公国と帝国ザーグ、キリア王国、ダズルカン大公国、ダンヴェ王国、ド=フラミンゴ王国、及び彼らの保護国や属国などで構成された

・礎建帝
 聖サッカラール帝国初代皇帝サッカリウス1世ことサッカリウス・マリウス・ル・サッカラールを指す

・イエサ
 中央暦前6630年代にメテリアスにいたとされる女性。この世で初めてジェッス教を述べ伝えたとされ、最期は沿岸部の神聖皇国領にて捕まり、一本横木の磔台で何日も放置され餓死させられたと伝わる。その遺体は信者たちが引き取り、神殿に保管していたらしいが、前6000年代に地震で神殿が倒壊した際粉々になったと古文書に記されている

・神の国ニホン
 ジェッス教のシンボルは一本横木の磔台を象ったものです。
 日本にも同じく磔に使う架台を象ったものをシンボルにしている宗教の施設がありますねぇ……

・開けろ!マラガ市警だ!
 書いた後に元ネタ確認したらちゃんと扉蹴倒す前に「デトロ!開けろイト市警だ!」と言っていた

・国家安全保障隊
 デリア連合王国大王府総務省内務総局社会保障局社会保全部国家安全保障課の管轄にある、武装警察と政治警察が合わさったような部隊。創設は1314年9月。基本はデリア国内でのみ活動するが、パパールディアのみマイアクレント条約の規定によって活動が可能
 因みにただの警察は警邏課の所轄

・剣十字
 最初に用いたのは前6400年代のジェッス教信者で王であるザルバドリク・チャバルーシュとされるため、「ザルバドリクの十字」とも呼ばれる。さまざまな紋章に使われたが、一番有名な使用例はスピリダテス神王国の聖十字騎士団の紋章だろう

 ー次回予告ー
————「しかし……何故だ?何故艦隊の位置がばれた?魔信封鎖を徹底したし、飛竜の目視圏内には昨日の日没まで入らなかったぞ?」
 唐突に同盟国の海外領土に侵攻するよう命じる司令官に、軍人たちは戸惑うがとりあえず従って目標を攻め落とした。結果、デリア山猫は、アトランティス縞虎の尾を踏み抜いてしまった。
 次回、「バキバキに折れたるは上位列強のプライド」
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