日本召喚2021   作:秋津とんぼ

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秋津とんぼの悪いところ
・ネクロフィリア
・遅筆
・ネーミングセンスがない
・小説書いてるより設定作ってる方が集中できる上に速い
・説明に熱が入ると止まらなくなって文章の流れを悪くしてしまう
・モブにも大層な設定をつけがち
・たまに変な文章を書いてしまう


25 トゥリフィッロは散る①

 6月2日、午後9時ごろ。

 レミジャンティア公国本土レテミラ島東方30余km沖。

 唯一満ちている第三の月(ミンマルフェ)の鴇色の光に照らされながら、2隻の大きな帆船が進んでいた。一般的な戦列艦よりも高い船尾楼を持ち、三本のマストを持つその船は、パッと見ただけなら地球でいうところのガレオン船によく似ている。その船体は、度重なる改修によって優雅さを失っていた。

 海賊船——おっと、今は私掠船だ——ンデルナ号、ロガナスル号。100年続くヴェガラヴ海賊団の主力艦隊である。

 先頭を行くンデルナ号に、二つの人影があった。ンデルナ号の船長であり、海賊団の首領でもある若きンザム・ヴェガラヴと、その腹心であり操舵手のゾハル・ンゲイドだ。

 皺の刻まれた頬を動かし、ンゲイドが口を開く。

 

 「来る」

 

 「またか、爺。この海に来てからもう七日だ、いい加減慣れたらどうだ」

 

 「そうではない。確かにここはンエデサナの揺籠よりもだいぶ涼しく、水面もその色を異にしておるが、わしはもうそのような間違いをせぬ。本当に何かが来るのじゃ」

 

 「俺は何も感じないが」

 

 「ディヴィムのやつがネウラでなく北の色の抜けた女を娶るからじゃ。恨むなら父親を恨みなされ。にしても朝はちときついの。いかなガシャール人とはいえ寒さには不慣れ。帰ったらコムロにでも譲って陸に揚がろうかの」

 

 「おう揚がれ揚がれ。船の上にいられると見てるこっちがヒヤヒヤするんだ」

 

 そう言うと、ヴェガラヴは懐から出した煙草を吸い始める。吐き出した紫煙が彼の浅黒い肌を流れていき、ンゲイドの褐色をした皺だらけの鉄壁にぶつかり霧散した。

 千二百年もの昔、大内海南東部を牛耳った海の民ガシャール人。その末裔が一つである彼らは、本来この海になどいるはずがない。彼らの縄張りよりずっと東でずっと北なここに行く理由も辿り着ける技能もないからだ。わざわざ行かなくても、西大東洋中部の物産など彼らの故地に陣取っていれば自然と手に入るし、そこで時に略奪し、時に護衛するだけで生計を立てることができた。それにそもそも彼らはあまりよく知らない海で東方連盟の大海軍相手に逃げ切れるほどの化け物ではない。

 それが変わったのは、レミジャンティアが私掠船免状を発行すると宣言してからだ。

 ネイヴィスト西方沖での大敗が確実になった後、レミジャンティアは開戦前の2割に落ち込んだ正面戦力を質ではなく数で補おうと、本土まで武装した船で駆けつけることを条件に私掠船免状をばら撒いたのだ。しかも()()()()ものを。これさえ無くさなければいつまでも()()()()()()()()()()()()()()()の傘の下海軍に追い回される心配のない清々しい心持ちで略奪できる上に、奪った物資の量に応じて別途報酬まで払われるのだ。東方連盟に属す商船を襲えないという条件はあるが、それによるデメリットを補って余りある利益に、世界の海賊たちは群がった。

 ヴェガラヴ海賊団も、それに惹かれてやってきた輩の一つである。

 彼らの主力を為す稼業は独航商船を襲撃して積み荷を奪い、それを何食わぬ顔で売り捌くことである。彼らの故地である大内海南東部は東方からメテリアスの岸伝いに大内海へ続く沿岸ルートとデリア亜大陸からラステリス島を通って大内海へ至る南方ルートという二つの主要航路が共に通る場所で、南方、アオラフトゥのアストラル島への往還航路すら掠めている。拠点たる諸島から遠いので、流石に南方往還航路までは手は出さないが、前述したような要地にあるためそれでも彼らは儲かっていた。最近になって通行料を取り始めると儲けはさらに上がった。成功するか不確実で損害だけを被ってしまうこともあり得る襲撃と違い、積み荷を奪われることで生じる損害と比べるとだいぶ少額な通行料を払うことを躊躇する船はいなかったからだ。

 そんな黄金時代が終わりを告げたのはおよそ26年前。スピリダテス神王国の滅亡である。

 整理された巨大市場の消滅は、大十二ヶ国(マグナ・デュオデキム)の介入による彼らに統制された小市場(の勢力圏)の成立だけでなく、メテリアス南方の二本の主要航路の衰退を引き起こした。高い山脈に阻まれ陸路で大内海に移動できない東海岸及び元はメテリアスの繁栄の中心だった南部が戦争や無秩序な内乱で荒廃し、人的、物的資源を飲み込んで消費していく無産の大地へと変貌を遂げたのだ。しばらくすればデリア及び大東洋の島国との交易のために南方ルートは復活したものの、その交通量は以前より確実に減っていた。交通量が減ると言うことは、彼らの獲物も減るのであり、すなわち転売する品物が少なくなることを意味する。

 そうして減収に苦しみ始めた彼らだが、デリアのテコ入れによってメテリアス南部の国々の海軍が増強された頃さらなる苦難が降りかかる。

 海賊大征伐。

 ザシアン、デリア、ティフォン、ラスター、ジャルフィーの五ヶ国によるガシャール人の海洋勢力——海賊に対する大軍事作戦だ。1326年から’28年まで行われたこの戦いでヴェガラヴ海賊団は浅海用のスループに相当する一本マストの帆船数隻と、数十年前海賊団の初代首領ゴルヒムが拿捕して以来使われ続けた2隻の古い大型船、ンデルナ号とロガナスル号のみを残してその戦力を喪失し、ディネポリスに坐すザシアン王へ忠誠と重税を課された。しかし、他のほとんどのガシャール海賊はこれよりもっとひどい末路を辿ったのだから、彼らは幸運だったと言うべきだろう。

 こうして大内海の片隅でザシアン海軍に目をつけられないよう細々と寄港地たる島ぐるみで独航商船相手に海賊行為を働く程度のことしかできなくなった彼らにとって、レミジャンティアの行動は福音に等しかった。

 私掠船免状があれば東方連盟側から襲われることはないし、襲った船の量に応じて出すと言う報酬は自転車経営に近い彼らにとって甘露ともいえる。

 知らせを聞くなりすぐさま出航し、5月26日にツィヴィタス・レミジャントに着いて、今に至る。

 

 

 「右前方に艦影!数1!中型です!」

 

 上から声が降ってきた。

 

 「どこだあ!どこの船だ!」

 

 「今確認中です!」

 

 「さっさとしろ!」

 

 マストの頂にいる見張りに怒鳴り返すと、ヴェガラヴはンゲイドの方を見る。ほれみろと言わんばかりに微笑んでいた。こいつめ。

 

 「……旗見えました!レミジャンティア海軍旗です!」

 

 今度はヴェガラヴが口角を上げる番だった。

 

 

 

 『レミジャンティア海軍フリゲート、メデューズ艦長のテルク中佐だ』

 

 『ヴェガラヴかい……あー、私掠船団長のヴェガラヴだ』

 

 青と黄色の航行灯がぶつかりそうになるほどの近さでゆっくりすれ違いながら、魔信を交わす。

 

 『南海の賊徒か。商船の尻ばかり追いかければいいものを。せいぜい鳴子の役目を忘れるなよ』

 

 こちらに対する不快を隠そうともしない物言いにヴェガラヴは眉根を寄せる。

 

 『生憎そうでもしないと生き残れないもので。見つけた獲物は全て報告してるんだから、それでいいだろう?』

 

 『……ふん』

 

 それだけで、通信は終わった。

 ヴェガラヴにも、ンゲイドにも、特段怒りの色は見られない。

 ()()()からだ。

 この七日余りで海軍の方々から悪し様に罵られた回数は優に三十を超える。それに、逆上し相対していた士官の胸ぐらに掴み掛かった同業者がその場にいた兵士らに寄ってたかって抑えられて容赦無く射殺されたのを見せられれば、慣れる以前に何か仕返しをする気すら起きない。

 やられたのがガシャール海賊の中でも屈指の知名度を誇る名うての女海賊であれば尚更だ。

 テルク中佐の言はこれでも今まで浴びせられたものに比べると優しい方だと言うのも、怒りを抱かせなかった。或いは根底にある自嘲のせいかもしれないが、ヴェガラヴの方はそんなものは持ち合わせていないだろう。

 いや、自分は一体どうして自嘲などしているのだろう。

 ンゲイドがそう思った時、何か音が聞こえたような気がした。ヴェガラヴを見ると、彼も気付いたようで、ちょうど顔を見合わせる形となった。

 

 「爺。何か、音が聞こえないか?風を斬るような」

 

 「そうじゃな。聞き覚えはないが、ひょっとするとモグワルかも知れぬ」

 

 モグワルとは彼らの故郷に伝わる水妖だ。夜の水のような色をした、ヌメヌメする表面を持つ悍ましい長虫で、細く長い尻尾で空を打ち、その音で人を誘き寄せ船ごと喰らうとされる。

 

 「モグワルなんて寝物語の話だろう。それに今は夏だ。そんな海魔なんか————」

 

 ヴェガラヴの言葉を遮るように突如として轟音が響き、同時に目の前の水面が橙色に染まった。

 

 「なんだ!?」

 

 振り向いて、驚く。

 つい先ほど別れたばかりのフリゲートが、前後に真っ二つにされて燃えていた。船体はあっという間に水の中へ消えて行き、視認できなくなる。

 

 「お頭お頭!*1空です!空に何か居ます!」

 

 マストの上にいた見張りの叫びが降ってきた。

 

 「何い!?何が見えた!?」

 

 「分かりません、お頭!けんども、確かに宙から光の筋が伸びて向こうの船に刺さるのを見ました!」

 

 そのような攻撃手段を持つ生物など聞いたことがない。目を凝らしてみるが、後ろは水平線の方まで延々雲で月光が遮られているせいで何も見えなかった。そのうち、先ほどの轟音で飛び起きた船員たちが甲板に上がってくる。

 

 「本当に見たんだろうな!」

 

 「はい!」

 

 「一体何なん————」

 

 瞬間、闇に光が弾けた。

 少しく眩むほどの輝きの光条が何の前兆もなく現れ、ロガナスルに刺さって彼女を弾けさせた。爆炎はマストを上端まで焼かんと(きつ)立し、轟音は肌を揺らして後方へと抜けていく。

 そして、沈みゆくロガナスルを追い越して、()()が姿を現した。

 長い柄のついた錘のような形をし、側面に何かが突き出しているのが見える。上面では何かが高速で回転していて、それが先ほどから聞こえてきた風を斬るような音の発生源らしかった。第三の月(ミンマルフェ)の光を浴びて鴇色に染まった()()は、その前の方だけまるで鏡のように光を反射して輝いていた。

 今まで見てきたあらゆるものからかけ離れたその姿に、誰も動かず、誰も口を開かない。

 ただ、()()を見つめていた。

 ()()はしばらく直進していたが、やがてこちらへ向き直る。

 そして火箭が放たれた。

 

 「!!防壁魔(ウォーリ)ッグァ……」

 

 火箭はンデルナを舐めるように船尾から船首へと走り、ヴェガラヴを守ろうと前に出た魔導師を魔法を使わせる暇もなく貫いた。30mmという人体には過剰な銃撃を受けた彼女は足が消し飛び、ヴェガラヴに受け止められる。

 

 「ヘミルダ!?」

 

 「ン……ザ……」

 

 混乱が収まらないままに、ヴェガラヴは腕に抱えた幼馴染諸共ンデルナに積んであった火薬の誘爆でその体を砕かれた。

 

 

 

 『……こちらヴァイパー03、敵艦と思しき武装船3隻の排除に成功。このまま本隊に合流する』

 

 ほんの数分でヴェガラヴ海賊団とフリゲートを海の藻屑に変えた()()、第一護衛隊群旗艦いずもより飛び立った戦闘ヘリAH-64Dアパッチ・ロングボウは、そう通信をすると、本隊を追ってツィヴィタス・レミジャントへ飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、ツィヴィタス・レミジャント上空。

 竜騎士シャルル・クローバルは月光に当たることのできる雲の上でゆっくりと飛行していた。飛竜(ワイバーン)、またはその改良種による夜間飛行は飛竜(ワイバーン)側が夜目が効かないせいで不可能に近いが、満月ほどの光量があればやれないことはない*2。やり遂げられれば良い竜騎士の証とされるこの任務を任されて、シャルルは少々舞い上がっていた。

 眼下はところどころ切れ目があるとは言えほとんどが雲に覆われ、月光に照らされて一面鴇色の目に悪そうな雲海を作っていた。そんな中、左手のアリス=ジュヌヴィエーヴ山地と、右手はるか遠くに見えるロサ山地、海を隔てて向かい合う両国の天井とも称される高峰のみが雲海の中より(そそ)り立っている。上の方の光は魔探基地の照明だろうか。そう思いながら見ていると夜風が襟元の隙間から入ってきて、思わず震えた。夏の夜は涼しく過ごしやすいとされるが、雲の上ともなると大分寒いし、風が強いから余計に肌寒く感じられる。離陸前は暑く感じた外套が今はありがたかった。

 

 「乗騎がそわそわしていますね。初めての夜が随分と楽しいごようすで、クローバル一等竜騎士?」

 

 声をかけられて、シャルルは僚騎の方を向く。

 オルタンス・ヴェルヴィエ。レミジャンティアの全ての女性の憧れの的がそこに居た。

 女性初の竜騎士にして、平民初の飛竜隊長*3。三軍を統括する大元帥であるワレラン殿下の覚えもめでたく、最近ではあの大貴族オービュソン家の跡取りから縁談があったという噂も聞こえてくる程の時の人だ。

 そしてシャルルの上官でもある。

 

 「伝わってましたか?」

 

 「丸わかりです。動揺を乗騎に伝わらないようにするのは竜騎士の基本ですよ」

 

 そういうとヴェルヴィエは一旦前を向いた。

 

 「ですがまあ、私も初めて夜間飛行した時は浮ついていました。あそこの山スレスレに飛んで宙返りをしてクローバル先輩——貴方の叔父君に怒鳴られた覚えがあります」

 

 「叔父上に?」

 

 「ええ。『俺の真似事をするんじゃない!』と」

 

 それが本当だとすると、あの真面目そうな叔父も宙返りをしたことになるが、シャルルには想像ができなかった。

 

 「……雑談はここまでにしましょう。最期まで真似たら向こうでどう言われるか分かりませんから」

 

 数瞬、言わんとするところを図りかねた。

 シャルルの叔父、セプト・クローバル。士官学校時代からワレラン殿下と切磋琢磨し、長い間現役で飛び続け半ば伝説と化した彼の、およそ12ヶ月前に卑劣にも横から殴りかかったニホンによるアルチルでの戦死。それと先ほどの言葉が結びついてようやっと理解する。

 確かに、親より早く死ぬわけにはいかない。歴戦の叔父が死ぬようなことがあったのだから、首都の上空といって周りを気にせずダラダラと喋り続けるのはよろしくないだろう。

 ハンドサインを交わし、シャルルは左へ、ヴェルヴィエは右へバンクする。北を向いたシャルルは山の斜面に沿うように上昇し、先ほどまでいたあたりの三倍程度の高度——およそ1200mに達した。ここまでくると、先ほどは終わりがないかに見えた雲もその終わりまではっきり見える。

 その時、爆音が聞こえた。

 

 「何だ!?」

 

 音の聞こえた方に振り向くが、何も見えない。空耳にしては大きすぎるなと首を傾げていると、前方の海上でパッと炎が上がった。

 慌てて遠眼鏡を取り出そうと腰につけた小袋に手を伸ばすが、そこで急に視界が暗くなった。上を見ると薄い雲が月を覆っていた。

 

 「朧雲かッ!」

 

 光量が一気に制限される。手元が見えにくい。

 ヤキモキしている間にもう一回炎が上がった。それっきり、何も起こらない。

 やっぱり自分がどうにかしていたのではないか?

 そう思った次の瞬間、先ほどよりもだいぶ近い()()で、パッと炎が吹き出した。それも()()

 

 「え?」

 

 炎は見た事がないほどの速さでこちらへと向かってくる。一本は自らへ、もう一本は下の方——ヴェルヴィエの方へ。

 思わすそちらを見た。

 自分よりもやや前方へ出ていたヴェルヴィエは急旋回してその炎、いや違う、後ろから炎を吹き出している槍状の物を避けようとする。しかし、その槍は途中で向きを変え彼女に食い付かんとする。一回、また一回とさすがとしか言いようのない機動でスレスレながら躱すが、4回目の急旋回で乗騎が少しへばったらしかった。

 槍が彼女を捉え、煙の花が咲いた。

 

 我に帰り、前方を見ると槍がもうすぐそこまで迫っていた。

 慌てて避けようと手綱を引くが、間に合わない。

 AH-64の放ったAIM-92スティンガーが彼の乗騎の下部に命中、炸裂した。瞬間とんでもない衝撃が襲い掛かり、音が消える。鼓膜が破れた、そう思う間も無くシャルルは衝撃で宙に放り出された。

 上空の朧雲が一気に遠ざかる。

 ベランダのシミとなるまで、あと26秒。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟音を聞いて、ベッドの中で本を読みながらうつらうつらしていたバラフラは飛び起きた。

 バラフラは自分がなんで飛び起きたのかわからず、キョロキョロと周りを見ていると、再度有り得べからざる爆発音がしたので文字通り飛び上がった。

 寝入るまで読んでいた本——最近流行りの読む戯曲とやら——を脇の小卓に置くと、バラフラは立ち上がり不機嫌さを隠そうともせずベランダの方へ歩きだす。

 きっと()()サレロロガの奴が何か魔術具を用いて失敗したに違いない。あの若造め、母のお気に入りだから放り出さずに置いてるのをわかってるのか。

 見事な刺繍の施されたレースのカーテンを荒々しく開け放つと、薄く切り出したサンゴ石に精緻な透かし彫りが施された淡桃色の扉を押してベランダに出る。蚊遣りの煙と甘ったるい香が一気に薄くなり、代わりに涼しいというには(ぬる)すぎる湿った夜気が体を包んだ。

 

 「ん?」

 

 そこに、バラフラが思い描いていたものはなかった。

 静寂と無(みょう)。かすかに下街の方から喧騒が聞こえてくるが、庭からは草が風に撫ぜられる音以外何も音が発せられておらず、なんら動く影すらもない。

 どうしたことだろうかとバラフラがそこで佇んでいると、急にごくごく軽い風が彼の肌を撫ぜ、ほぼ同時に不快で気味の悪い大きな音が鳴った。何かが砕けたような、鈍い音が。

 顔を向ける。

 

 「なっ!」

 

 見るも無惨な死体が転がっていた。高所から落ちたためか頭蓋は粉砕され中身をぶちまけていたが、革鎧に守られた胴体はどうにか形を保っているようである。その鎧の意匠にバラフラは見覚えがあった。

 

 「王都竜騎士隊のものだ……まさか」

 

 その時、視界の上の方でパッと何かが光出すのが見えた気がした。見上げると、幾つもの光が闇を切り裂いて右から左へと飛んでいく。

 あの方角には何があっただろうか。

 呆然としているうちに光は通り過ぎた。

 間も無く轟音が聞こえ、雲が紅く染まった。

*1
「おカシラつき」

「人を頭のあるサカナみたいにいうな」

*2
ただし三ツ月の中で最も小さい第二の月(メナス)だけが満ちている状態だと光量が少ないので夜間飛行を遂行できるものはごく僅かに限られる

*3
貴族の小辞(ノビリアリー・パーティクル)であるリュがない為勘違いされやすいが、クローバル家は歴とした貴族である。ただ単にリュが持ち込まれる(≒レミジャンティアが建国される)以前から血筋が続いていただけなのだ




量が多いのと詰まったのとで分割しました
次回予告詐欺ですみません
ちなみに分割にあたり前話の次回予告も改訂いたしました
バラフラの迷言も"塔"の出撃も次回になります

小ネタ解説
第三の月(ミンマルフェ)
 鴇色に輝く。2番目に大きい。
 第一の月(コイフェ)が最も大きく、金色に輝いていて、第二の月(メナス)が最も小さくて白銀に輝いている。

・ヴェガラヴ海賊団
 1237年にゴルヒム・ヴェガラヴとその仲間数名により旗揚げされた海賊団。カナカナ海賊団を撃破、吸収しゴルヒムの故郷であったソラヴ島の王権を手に入れたことで1251年に南海十傑と呼ばれる強大な十のガシャール海賊の一つに数えられるようになった
 今話でトップと副官諸共主戦力が消えたために消滅が早まった

・ガシャール人
 南半球に出自を持つという海の民。全盛期は大内海南東部を統一しザシアン王国にまで攻め入った(ンガル・ゾゾラヴのミスルエ侵攻)。統一国家崩壊後も少なくない数の海賊王国が割拠したが、大征伐によりその殆どはザシアン領に組み込まれる。独立を保ったのはテーラ王国のみ
 かつてはガシャール人の王朝がラスターを支配していた頃もあった(ンゴルダン朝)
 なんならジャルフィーもそんな時期があった(ゲゲル朝)
 基本的にガシャール海賊は島ぐるみが基本。島は補給地である以前に船員たちの故郷でもある

・ンエデサナ
 ガシャール人に伝わる海の女神。アマテル教に海神波打つ髭(ガンダルヴァ)の眷属たる下級神ネデュサネーとして吸収されている

・青と黄色の航行灯
 左舷が青で右舷が黄色。ちなみに地球では左舷赤右舷緑

・注釈1
 元ネタはみなもと太郎「風雲児たち」におけるベニョヴスキー男爵初登場時のやりとり

・クローバル
 勘違いして出しちゃったので過去に遡ってセプト・クローバルをレプリア所属からレミジャンティア所属に変えました

ー次回予告ー
————「ふざけるな!……そんな、そんな筈が!そうだ、これは夢だ!そして私は夢から覚めて蜂蜜酒を飲む!」
 しかしそれは夢ではない。理不尽が、暴力がバラフラを襲う。
 ワレラン殿下も出るよ————
 次回、「トゥリフィッロは散る②」

二章終了後に人物まとめおよび設定集入りますか

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  • 設定だけ
  • 両方要らない
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