日本召喚2021   作:秋津とんぼ

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魔術と魔法の表記揺れが激しい
一応それぞれの定義はつけてるんだけどなまじ"魔法"の語感が良いからつい使っちゃう


27 列強の落日?①

 7月1日午前2時半頃、フンザ・ボンバ諸島連合北東部サタワル諸島、ララヴォラケ島。

 西大東洋南東部、デリア亜大陸から北東におよそ2800kmに位置するこの珊瑚礁の成れの果てには、一つの飛行場があった。飛竜(ワイバーン)用の短いものではなく、2200m程もある立派な滑走路である。これは十数年程前に連盟内の航空交通網の整備計画が持ち上がった際に作られたものだ。西大東洋全域をカバーし、要人輸送の簡便化と物流の革新、主にケントラリスの観光客の呼び込みを目的としたこの計画は資金を提供していたサ帝の企業が軽い恐慌を引き起こしながら倒産したことで潰えたが、初期に着工していたここの飛行場は既に完成が近かったため、勿体無いとデリアが人資を注ぎ込んで完成させたのである。(もっと)も、フンザ・ボンバも隣国のムター王国も何もないため、運営している国営企業は赤字続きだった。

 そんな場所で32の鉄の大鳥がその羽を広げ飛び立とうとしていた。

 海上自衛隊所属P-3C、その爆装改良型である。

 改良型といっても、翼下にパイロンを雑に増設しただけなので、あまり積載量は増加していない。しかし、目的が目的だけにソノブイなどは全く積んでいないから、改良前よりは確実にペイロードが充実したと言えるだろう。

 次々プロペラが回り始め、騒音を立て始める。

 やがて巨鳥達は、約束の地(デリア)へ業火をもたらすために、星空へ飛び立っていった。

 到着予定時刻は午前7時、エルローイア派に渡したビーコンから発せられる電波を頼りに、長いフライトを始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前4時、ラトルスカ邸2階、北東隅の寝室。

 ラトルスカは、驚いた表情のまま完全に脱力した嫁の一糸纏わぬ豊満な肢体を体の上に載せていたが、その柔らかな感触を味わう余裕もなく、それを為した()()()と向き合っていた。

 

 「貴様、何奴だ」

 

 このような手を使ってきそうな政敵はいないかと記憶をまさぐるが、出てくるのは阿()追従する輩ばかりだ。このような手に明るそうなのは師たるハーシレイアか師を裏切ったあの前任(フェスタル)だが、前者は失脚してからは地元で大地主として悠々自適に隠居生活をしているそうだし、後者に関しては自身が頑張って投獄した。あまりこう言う手を取らなそうだが次なる対手と見ていたオーガニアは丁度よく奴が遥か南方に左遷してくれたため、本当に心当たりがなかった。

 しかし、ここに乗り込まれている時点で自らの敗北は必至かと思い至る。このような国難の時に内ゲバを起こすとは、随分と祖国も落()れたものだと思ったが、それもこうなっては詮無いことか。

 

 「答える名はない、と、言いたいところだが私は————」

 

 「いや、いい。私は走狗諸共に咒うより、飼い主だけを咒う方が常々良いと思っていたんだ。*1

 

 「ん?」

 

 暗殺者が素っ頓狂な声をあげているのに構わず、彼は続ける

 

 「どうせ君のような者は私の想像も及ばない時を過ごしてきたのだろう。幼い身空で裏に堕ち、酷い所業に手を染めさせられてなんとか生き延びる……」

 

 「え?」

 

 「私のような生まれた時から何不自由なく暮らしてきた人間にそう言葉にされるだけでも苛ついてしまうかもしれない。でも、その道が幸せだとは思えないが、君は生きていくといい」

 

 「……は?」

 

 ラトルスカは自分の体に視線を落とした。先ほどまで動いていたから汗まみれで、このまま自分の死体が朝出勤してきた使用人に見つかるのは避けたく思えた。

 

 「ああ、流石に裸のままで死ぬのは嫌だから、服を着ても良いだろうか。あそこのクローゼットにあるんだ、逃げる気はないし、武器も隠してはいない」

 

 「あ、ああ、いいぞ」

 

 ラトルスカは、リケンザの骸を退けるとすっかり縮こまった自らの槍を揺らしながらクローゼットの前に立った。扉を開けると、そこにあったのは雑然と積まれた服の山だ。そこから一番上にあった下着を取り、穿く。さらに山から適当にシャツを抜き出し、羽織った。

 これでなんとか格好はついたと言えるか。名誉を思えばリケンザも綺麗にしてやった上で一階の彼女の寝室に戻さねばなるまいが、流石に許されないだろう。

 

 「さあ、殺せ。こんな肥満体だが、我が父祖は代々アリテトス王に忠誠を誓った騎士なんだ。醜い殺し方はするなよ」

 

 沈黙が流れた。

 ひょっとするとだいぶ短いのかもしれないが、体感ではものすごい長い間、何も起こらない。

 辛い。いつ仕掛けてくるのかが全くわからない故の常に大きな恐怖感が彼を苛むので辛い。この時間が早く過ぎればいい。早く殺せ、殺してくれ。いつまでも恐怖を味わい続けては居たくない。

 そう思い始めた頃、暗殺者が突如として笑い出した。

 

 「……どうした。何が可笑しい」

 

 問うが、彼女は笑い続ける。

 やっと止まった時、笑いすぎて息ができなかったと見え、彼女はゼーゼーと肩で息をしていた。

 困惑していると、彼女はフードをずらし、その顔を露わにした。

 

 「アッ……」

 

 「普通、声で気づくものではないか?」

 

 情報局長、ミネグモであった。

 先ほどまでの自分の言動を思い出し、ラトルスカは赤面する。

 

 「至急、貴様を呼ばなければいけない事態が起きてな。来てもらうぞ」

 

 「ああ、わかった。わかったが……どうして彼女を殺した?血は繋がっていないとはいえ、大事な私の義娘だ」*2

 

 「む、少々勘違いをしているようだな。彼女は————」

 

 「あれ?お義父様は……!?」

 

 その時、死んだと思っていたリケンザが身を起こした。

 

 「リケンザ!」

 

 「お義父様……」

 

 彼女の死すらも自分の勘違いであったことに安堵と多少の羞恥を覚え、ラトルスカは彼女を抱擁した。彼女も少し困惑しながらも抱き返し、にこやかに微笑む。

 数秒の抱擁の後、彼女は辺りを見回し、ミネグモを見つけて目を見開いた。

 

 「ミッ……どなた!?何でここにおりますの!??」

 

 対するミネグモは純粋に驚いているようだった。

 

 「ほう?10時間はぐっすりかと思っていたのだが。*3 生まれてから口にしたのは全てこちらの食材だろうし、これは異世界……()()()()()()()()の血か?」

 

 「貴女ッ……!どこでその名前を!」

 

 リケンザはラトルスカを手荒に振り解くと、血相を変え裸身のままミネグモヘと踊りかかった。ラトルスカでは押し倒され、組み敷かれること必至だろうその突撃を、ミネグモはサッと避けて、丁度目の前に差し出される格好となったリケンザの首筋に手刀を落とした。

 

 「ぐぇ」

 

 ひとたまりもなく彼女は気絶し、髪を振り乱して床に臥した。

 ミネグモは懐から手錠を出して、後ろ手にしたリケンザの手にかける。

 

 「7月1日午前4時13分、暴行未遂でリケンザ・メクシルド・ラトルスカ・ヴォン=スケーンビュルグを私人逮捕……っと。これでよし」

 

 ミネグモはさらに猿轡を噛ませ、そのまま担ぎ上げた。

 

 「さあ、王宮へ急ごうではないか」

 

 「いや待ってくれ。理解が追いつかない」

 

 この急展開には、いかに名宰相と言われたハーシレイアの薫陶を受け、姉弟子フェスタルを蹴落として宰相についた強かなる彼とて、流石に説明を必要とした。

 

 「ふむ、では時間が惜しいから移動しながら話そう。いや、その前に貴様はもう少し服を着た方がいい。真夏とはいえ今は夜明け前だ。寒いぞ」

 

 「まあそうだが、まさかリケンザはそのまま担いで行くなどとは言わないだろうな?」

 

 「……そのつもりだが、何か問題があったか?」

 

 「彼女は裸なのだぞ!寒いし、それ以前に人としての尊厳を犯す行為だ!」

 

 「国賊の尊厳がいくら失われようと関係ない。いい罰だ」

 

 冷ややかな目はそれが本心であることを物語っていた。

 

 「国賊だと……?」

 

 「その話は移動中にすると言っただろう。上着は羽織ったな?騎士の出なら身体強化魔法(モアストロン)くらいは使えるだろう。行くぞ」

 

 「待て、私は魔力量が少ないんだ」

 

 「そういえば貴様は魔力量が少ないから政治家の道に進んだのだったな」

 

 彼女は少し考え込み、こう続けた。

 

 「魔力は年齢によって増えるものだ。ここは郊外で王宮からは少々遠いが、今の貴様なら大丈夫だろう」

 

 そういうとミネグモは寝室の窓ガラスをぶち破って外へ踊り出た。

 

 「……仕方ないか。身体強化魔法(モアストロン)

 

 続けてラトルスカも窓から飛び降りる。

 そしていきなり撃たれた銃弾に驚いて情けない声をあげた。

 

 「なな、なんだ、なんだというのだ!?」

 

 「おっと、これは出る前に言っておいた方が良かったな。まあ過ぎたことを言ってもしょうがないが」

 

 「それはそうだがっ……!先に銃撃をなんとかしてくれ」

 

 言う間にも、ビシ、バシと外れた銃弾が外壁にあたっては地面へ転がり落ちる。ラトルスカは数分前よりもより多くより冷たい汗をかいていた。

 ミネグモは拳銃を抜くと、先程から発砲炎が見えていた建物の屋上へ向けて1発撃ち込んだ。すると10秒もせずに、グシャという音が聞こえた。

 

 「こちらは最初気付けず一箇所に止まっていたというのに1発も()てていない、射撃の間ずっと火点を変えず遮蔽物に隠れることもしない……奴らは訓練中の部隊でも投入したのか?」

 

 そう言ってミネグモが走り出したので、ラトルスカも続いた。

 

 「教えてくれ、一体何が起きているのだ。敵の特殊部隊でも攻めてきたのか?」

 

 「まさか。クーデターさ。厳密には今は準備の最終段階……襲撃開始直前のようだが。先程の狙撃手は動かれては困る貴様を封じ込めるための部隊の一人だったのだろう。早くしないと他の兵が……ほら来た」

 

 後ろから放たれた銃撃を、ミネグモはまるで見えているかのように避けてみせた。

 そして振り向きざまナイフを投げつけ、見事追ってきていた兵士の頭に直撃させる。

 

 「回収している暇はないな。急ぐぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 「それで、なぜリケンザが国賊なのだ」

 

 暫く後、二人は立ち並ぶ建物の屋根の上を走っていた。正直言ってラトルスカには少々きつかったが、接敵の可能性が低いこのルートは兵士としての教育を受けていない彼が安全に進める唯一のものと言って良かった。

 

 「まず、色々省いて簡単に言わせてもらうが、彼女はスコルズ——いや、やはりショルツラントと呼ぼうか。前々から思っていたんだがユペシ語の発音は非常にダサい。で、彼女はそのショルツラントの手下の一人で、貴様にハニートラップを仕掛けていたんだ」

 

 「は?」

 

 予想外の返答だった。

 

 「最も最初の標的は貴様の息子の……サリエスだったか?彼が死んだから、貴様に目標を切り替えたようだな」

 

 「いや、その……え?」

 

 献身的に息子に尽くしてくれる、良い嫁だと思っていた。

 息子の死に涙していたあの姿は、とても演技だとは思えなかった。

 悲しむ私を慰めようと見せたあの微笑みが演技だなんて、信じたくなかった。

 

 「……何か言いたげな顔だな、余程堕とされていたと見える」

 

 彼女はふっとラトルスカを馬鹿にするように笑った。

 

 「彼女は残念ながら法に触れるようなことは全くやっていなかったから、今のような機会でもなければ合法的に確保できなくてね。彼女から突っかかってきてくれたのは思わぬ幸運だったよ。最も暴行未遂がなくとも要人の親族を保護する名目で連れ去るつもりだったから大して変わらないが」

 

 ラトルスカの胸中には当然の疑問が湧いた。少し聞くのが怖かったが、尋ねてみる。

 

 「……その、彼女は、この後、どうなる……?」

 

 「向こうの情報を引き出すため尋問にかける予定だ。恐らく貴様とはもう2度と会えないだろう」

 

 「そうか……」

 

 ラトルスカは暫く沈んだ表情で走っていたが、こんなことを尋ねた。

 

 「では、このクーデターはショ……スコルズランドが起こしたのか?」

 

 「違う。確かに奴の息子のハインリヒがこれに加担しているが、奴の本命ではなさそうだ。あとショルツラントだ。正直いうとこのショルツラントという姓がそもそもダサいと思うがな。主もアンヘーレンに変えるとか言っていたし

 

 「……ヘインリックのことか。何をどうしたらそういう発音になるのだ?」

 

 「まさか貴様、東シャルディア語派を知らないのか?東高地シャルディア語、通称クルマイア語は今でこそ公用語とする国はいないが、中央大戦以前の昔は旧ロイヒトトゥルム四王国の公用語として北西ケントラリスで一定の地位を築いていたんだぞ?」

 

 「中央大戦より前など、1300年以上も前のことではないか!知るわけがあるか!」

 

 「落ち着け、貴様。大声を出しては敵に気付かれるぞ」

 

 「最初に煽ったのは貴様ではないかミネグモ」

 

 「それで、このクーデターの下手人が誰かというと————」

 

 話を逸らしたな。ラトルスカはそう思った。

 

 「————エルローイア殿下だ」

 

 「殿下が!?」

 

 「そうだ。今はギリギリ戦闘が始まっていないだけでな。今なんでもいいから動きを止めるような勅命を打てば、これまで後手後手だった奴らにやっと先手を取れる」

 

 なるほど、勅命は宰相が一回は目を通さないと発せられない。ラトルスカを抑えることはクーデター側の必要条件だったわけである。

 

 「少々不敬だが、私は陛下を見直した」

 

 「それは違う。陛下は今も凡々だ」

 

 「……侍女がそれを言って良いのか」

 

 「私はアルウェン殿下の侍女だからな。それに殿下の功績を殿下のものと言って何が悪い」

 

 「何ッ、これはアルウェン殿下が!?」

 

 「そうだ。因みに、これが原因で情報局も三つに割れてな。それで確実に任務を遂行できる私がわざわざ出張らされたわけだ」

 

 「……なるほど。クーデターに参加しているのはどの部隊かわかっているのか?」

 

 「先程言ったハインリヒの率いる第二戦車連隊は確実だ。他にも幾らか判明しているが、少なくとも貴様が呼び寄せた第23師団は一人も裏切ってはいないようだぞ」

 

 「それは重畳————ッ!」

 

 飛んできた銃弾に足を止める。

 3度目の接敵だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「艦隊の人員諸君!」

 

 数分後、シアウィルスは海上にあった第一艦隊にて、演説を開始したところだった。

 

 「今、祖国は危機にある!それは、諸君らもよくわかっていることだろう!

  東より彗星のように現れた国の前に比類なき連合艦隊は打ち破られ、かつてその結束は魔金剛(オリハルコン)にも勝ると言われた連盟は崩壊し、世界は我々に背を向けた。我が国は今まさに大洋の只中に孤立しようとしている。

  しかし、それはなぜか、考えたことはあるか?

  サッカラールが裏切ったから?否!

  アトランティスが裏切ったから?否!

  ニホンが攻めてきたから?否!

  全ては————内にある!」

 

 一旦止めて、一杯水を呷る。

 唇についた水滴を手首で拭った。

 

 「飽くなき欲で肥大を続け、国政にまで手を伸ばす資本家!

  金に媚び諂い、自らのことしか考えなくなった官僚!

  特権に縋り、都合の悪いことから目を背け続けた彼ら社会の上澄み!

  そして!

 

  それらをのさばらせるままにして、自らは玉座の上で寛いでいる王、エㇽラダン!

 

  これら、我が祖国を内側から食い荒らす虫をその快適な椅子から蹴落とし、変えなければいけない、戻さなければいけない!

 

  デリアを、理想の国へ、地上の楽園へ!

 

  諸君!これは単なる私欲に基づいた蜂起ではない!

  デリア国民たる、一個の人間たる権利であり責務を果たすべく行う、偉大なる義挙なのであ————」

 

 「提督!」

 

 部下が、切羽詰まった声で彼を呼んだ。

 

 「どうした!」

 

 「そ、それが……エルフィリアより、このような放送が!」

 

 「何?」

 

 部下は、魔信の音量を上げた。

 

 『り返す、反乱者エルローイアがニホンの走狗となり、王位を簒奪せんと兵を挙げた。反乱に加わらず、祖国の尊厳を守らんとするものはこれに当たり、賊徒を殲滅せよ。また、反乱に加担している部隊でも、この放送を聞いて正気に立ち返り、正道に基づいて不埒者を誅するならば、その罪を問わない。繰り返す、反乱者エルローイアがニホンの————』

 

 聞いて、シアウィルスは拳を叩きつけた。

 

 (リディアルトは何をしている!?ヘインリックは、ソデゾグは!?なぜ、なぜ放送局を抑えなかった……!)

 

 悔しがる間に、次々報告が来る。

 

 「巡洋艦ガーラ・セガールより通信、『ワレ、自己ノ良心ニ基ヅキ、叛徒ヲ誅セン。サラバ』!」

 

 「同じく巡洋艦マサカジュ・アイラより通信、『ワレ、貴艦ト相対ス。貴公ハソレガ私欲ニ基ヅクモノト疾ク自覚スルベシ』!」

 

 「小型艦リーダロスより通信、『ワレ、今ノ王冠ヲ戴カン』!」

 

 「空母メセル・デリアより通信、『改メラレヨ、然モナクバ貴艦ト交戦ス』!」

 

 「戦艦カヌハ・オグンウェより通信、『地獄へ堕チロ』!」

 

 「クソがぁッ!」

 

 一瞬で艦隊が二つに割れた。

 それぞれ戦艦一隻、巡洋艦二隻、小型艦四隻。エㇽラダン派にだけ、空母が一隻ついていた。

 次々届けられた拒否の通信が、まるで自身の行動が間違っていると突きつけられたようにシアウィルスには感じられた。

 では、彼らは沈むべきだったのか、連合艦隊は。

 ネイヴィストの海で散っていった彼らは、正しくない情報の元突撃された彼らは、彼は————カイェンネ(カイエンヌ)は!

 「そんな!訳が!ないだろうが!」

 

 吠えた。

 

 「そうか、そうかあ……!大義を理解しない俗物どもめ!」

 

 吠えた。

 

 「目先の正しさばかりに従って、本質を見れていない愚物が!」

 

 吠えた。

 

 「カヌハ・オグンウェだ」

 

 「は?」

 

 「カヌハ・オグンウェに向けて呪文砲を撃て。4門全部だ」

 

 「はっ!」

 

 あれならちょうど良いだろう。実戦で使用するのは何もかもが初めてだが、威力はあるし、何より見栄えが良い。

 シアウィルスは獰猛に笑んだ。

 

 

 

 揚弾機構で上げられた弾体が、薬室内に装填される。

 その色は金属の鈍色ではなく水色——無属性の魔石だった。その表面には、細かく何かが彫られていた。魔術術式だ。

 開戦以前に作られた、ラスターはリュースユリー鉱山の上質な魔石を惜しみなく使った術式カートリッジ、正真正銘デリアが独自開発し、未だどこにもお披露目していない最新技術。

 ()()()()()()()()()

 単に軍艦レベルの巨大な調律された魔力で遠距離へ魔術を放つというのだったら、すでにダナンが開発した魔術長杖機(ロッドタレット)が存在するが、あれはあくまで巨大な魔術長杖(ロッド)であった為に、放てる魔法の種類や精度は杖手の技量に大きく拠るものだった。一方、呪文砲と名付けられたこれは、砲を象ったことによりゼロ距離での使用——船体への直接使用——は不可能となったが、射程距離はより長く、また砲手の魔法能力に関わらず撃てる為、はるかに扱いやすくなった。*4魔導工学に対する神秘の敗北とも言えよう。故に我々は讃えなければならない、"意志"の保存を、幾たびも興っては滅んだ前世代の文明たちが成し遂げられなかったことを成した彼らを。

 そして話は本筋に戻るが、弾体の装填を確認した砲手は狙いをつけると銃爪を引いた。

 直後、30.5fnの口径を誇る呪文砲の砲口から、水で象られた大きな龍が現れた。

 龍は正しく弾丸の速度で標的へと進み————両者のおよそ中間地点で、カヌハ・オグンウェの呪文砲から放たれた炎の龍と四つに組み合い、諸共体を崩して雲散した。

 史上初の呪文砲装備艦同士の戦闘であるこの海戦が、同時に呪文砲が初めて実戦で使用された海戦であるという事実には、何か運命の皮肉を感じてしようがないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シアウィルスはエルフィリアの同士が作戦の開始時刻を早めたから今勅命が下されてしまったのだろうと思っていた。しかし、そうではなかったのだ。

 彼らは確かに放送局を抑えていなかった。正確には抑えようと動く前に『コイツは敵だ』と叫ばれてしまったのである。

 

 「あ゙あああああああッ!」

 

 エルフィリアにある、第八師団第二連隊の基地。

 そこで、エルローイアは頭を掻きむしっていた。

 

 「なぜだ!なんで!なんでバレたあああああ!」

 

 「殿下!お気を確かに!殿下!」

 

 アイラが(たしな)める。

 

 「誰が情報を流した!見つけ出せ!そして殺せ!」

 

 「殿下!落ち着いてください、殿下!まだ助かります!*5

 

 「……なんだと?」

 

 「確かにこちらの目論見はバレてしまいましたが、どうせ襲撃すれば明らかになるものです。すでに準備が整っている我々と違い、他の部隊は叩き起こされ慌てて支度をしているところでしょう。今はまだ、こちらが優勢なのです」

 

 「……そうか」

 

 「では、予定時刻を大幅に切り上げることになりますが、今から作戦を開始しましょう」

 

 「よきにはからえ」

 

 

 指令を受け、連隊は動き出した。

 アイラ麾下の国安隊の支援を受けながら市街に浸透、官庁やインフラ施設、王宮などの重要施設を支配せんとする。

 やがて、各所で衝突が始まった。

 民間警備会社と、何も知らない警察と、近衛兵と。

 デリアの一番長い朝が、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「駄目だわ、これでは!

  間に合わない、来てしまう。来てしまう!破壊の大鳥が……

  空の戦士は助けに応じず、雄々しき竜では太刀打ちできず、浮舟は彼岸の民の元。

  やがて鉄の大鳥は舞い降り、諸雄は集った蕾と共に散らされる……

  拉し去られる我が身は綿津見の主(オーケアノール)に抱かれ、再び輪廻に乗る……」

 

 彼女はそこで独り言を切ると、花瓶に生けてあった黄色いシランの花を握りつぶした。

 

 「ああ、アユ……其方は、何故いつまでも仕えてくれる?」

 「命令の故、そして貴女への愛の故に」

 独り言は、誰の耳にも届かなかった。

*1
死に際に自分を殺した奴に一矢報いたい……そんな方にオススメなのがこちら!縛名咒!下手人の名前を最期に恨みを込めて言うだけであら不思議、ころっと逝ってしまいます!それになんと、下手人に指示役がいた場合、そのつながりを通して指示役にまで咒いは伝播します!名前さえわかれば下手人をすっ飛ばして指示役のみを咒うこともできちゃうんです!

※あくまでデリアの民俗的習慣であり、実際に魔法的拘束力はありません

*2
その大事な義娘と数分前まで一体ナニをしてましたか?

*3
針の先端位の量だけでも一瞬で昏倒する程の効き目、某米花の人でもなければ死ぬ危険性すらある

*4
因みに魔力成形式魔導砲は魔法そのものを撃ち出すのではなく、攻撃魔法の初歩中の初歩たる魔力弾を打ち出す術式を別のアプローチで再現したものであるため原理が異なる。

*5
マダガスカル!




ラトルスカの勘違いは書きながら笑ってましたw

小ネタ解説
・ハーシレイア
 フルネームはサーラディエス・ディ・ハーシレイア。アリテトス出身で、"不世出の鬼才"と呼ばれた前任のマサカジュ・アイラが過労死した後、彼の後を引き継いで二代目宰相となる。魔獣暴走(スタンピード)の対応で名声を確固たるものにした。フェスタルの罠にかかって収賄の冤罪をかけられ失脚

・縛名咒
 なんで古代中国の人々は諱と字を使い分けたか知ってるかい?これのせいだよ(大嘘)
 発想元ではある。

・正しい発音
 リケンザ→リヒェンツァ・メヒティルト・フォン・シェーンブルク
 スコルズランド→エリナ・ツェツィーリア・ツー・フォン・ショルツラント
 ミネグモの言った通りリメイク版ではショルツラントからアンヘーレン/アンオレンに変更する予定です
 エリナ・アンオレン……エリナ・ツェツィーリア・ツー・フォン・アンヘーレン……いい響きだ

・東シャルディア語派
 シャルディアとはケントラリス北西部、ジュラール山脈とグディニア湾に挟まれた地域を指し、聖典に語られる時代にこの地に居住した上つエルフの氏族から名付けられた。
 東低地シャルディア語は通称をヂッテリア語といい、ヂッテリア公国の公用語の一つである。ちなみにもう一つはダナンの公用語でもあるバーニック語。
 西シャルディア語はガレン・フェリベール語のこと

・旧ロイヒトトゥルム四王国
 ロイヒトトゥルム王国崩壊後にできたディトルム、パラス、ハイデンハイム、ヒルデスシュヴァイクの四つの王国のこと。中央大戦にてサ帝に飲み込まれた

ー次回予告ー
————「見逃してくれないかな?」
 いよいよ勃発した、エルローイアによるクーデター。先に攻撃を開始したエルローイア側が比較的優勢に進んでいく中、新たな戦力の参戦で天秤はどちらへ傾くか————
 次回、「列強の落日?②」

人物・用語まとめでいらないものに入れて下さい

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