3月31日。
現在知られている範囲で最も西にある大陸、アトランティス。そこから西の海には一つの亜大陸を除き群小の島々が浮かぶのみであるはずだったが、今現在、それらの島々を全て過ぎた向こうに、今一つ大陸が存在していた。
そこを統べるのはチュンライ朝、またの名を第6帝国。その呼称は彼らが6番目に大陸を統一したことから発生した。
その帝都、エッリャノ・バングベルン、第8街区。住宅街にひっそり佇む、
「部長、カラキアからの情報来ました」
「おう、どうなった」
先ほど手渡された紙に視線を落とし、報告していた部下は驚愕に顔を染める。
「ニホンと名乗る国の介入でクローヴェル、デ・ロイテル両国は滅亡を免れ、ナクリアが大敗を喫しました」
「なにぃ?!!」
部長は驚き、その拍子に撫で回していた髭を数本抜いてしまう。
「いてて……ぁぁ、ニホンか。詳細は?」
「はい。ナクリアは開戦直後に国境付近の都市を落とし、それから3日余りで百数十
「駆空機は?」
「確認できていないそうです」
「ふぅむ、Bと言ったところか。……例の件は?」
「はい、『ファーディビシャ・デ・チェンジエン』単艦で相手させるそうで」
「閣下は……
同じ頃、第二開明圏とも呼ばれるアトランティス大陸西側、最寄の陸地から二百数十キロ、そこには西へ向かう第五列強ド=フラミンゴ王国の主力二個艦隊、蒸気戦列艦56隻蒸気飛竜母艦4隻がいた。
保護国の一つであるアクン王国を滅ぼしたイェリムールなる蛮族に鉄槌を下そうという目的だ。
旗艦「ムスタファ」
「先行していた大飛竜隊から魔信!『敵は飛空船一隻なり』」
「ひ、飛空船だと?!」
提督は驚いた。
彼の知る飛空船は、第三開明圏——西大東洋で運用される鈍重で大砲などとても積めないような代物でしかなかったからだ。
「火炎弾は弾けても
「……大飛竜隊との通信、途絶しました」
「オクテシアン卿……!」
提督は涙した。
「……全速前進。なぜ我々の帆が黒いか教えてやれ」
指示に従い、これまで魔術による人工風のみで進んでいた各艦の中程から折り畳まれた煙突が展開され、ややもすれば煙が出てきて外輪が次々回り始める。
人工風と蒸気機関の併用により、速度は15ノット強にまで増速し、程なくして敵が見えてきた。
「敵の飛空船確認!距離およそ4.1
「全艦、第二種から第一種戦闘配置に転換——」
「!?敵の飛空船発砲しました!」
「な」
前述の通り、通例飛空船というものは対艦戦闘に使えるような大砲の搭載はできない。できない、はずなのだ。
なぜ、なぜ積んでいる!?なぜ積んだまま空に浮かべる!?なぜ!?
そして何より、異様に大きかった。この距離であの大きさというならば、一体今彼がいるこの艦の何倍はあるのか。
「……デカイ」
思わず漏れた呟きが、提督の最後の言葉となった。
2秒後、「ムスタファ」は「ファーディビシャ・デ・チェンジエン」の45.45㎝砲弾が直撃し、轟沈した。
それから30分もすれば、全てのド=フラミンゴ艦が海の藻屑となっていた。
「主砲残弾は50、爆弾倉は一個のみ充填済みか。……針路を
「ファーディビシャ・デ・チェンジエン」のCICで、艦長ラウが言ったその言葉に従い、”皇帝の戦艦”は動き出した。
数日後、夜。
〝世界の中心〟と呼ばれる、第1開明圏とも呼ばれるケントラリス大陸の王者にして世界最強の第1列強、聖サッカラール帝国、その南部にあって船都と呼ばれ、夜も煌々と明るい港湾都市ネクシミルア。
ここは今日も多くの人々で賑わっていた。
繁華街の片隅に佇む、数ある酒場の一つ。
そのカウンター席で、ある商人が言い出す。
「そういえばよ、カラキアってあるだろ」
「ああ、あの最果ての陸地な」
「あそこに行った友人から聞いた話なんだが、あそこにナクリアて国があっただろ」
「あれか。人口だけは準列強の」
「そうそう。亜人殲滅とかいうトチ狂ったこと掲げて、二つの隣国のうち片方にこの間攻め入ったらしい」
らしいというのは、1万km以上も離れているため、この世界の通信速度では情報の確度が著しく落ちるためだ。それがなにを経由して伝わったかに関係なく。
「頭大丈夫なのか、その国?」
「第一このサッカラールの皇帝陛下がエルフなんだ、ダズルカンの獣王も黙っちゃいないだろう」
「で、その続きは?」
「ああ、それがな、ニホンとかいう国が介入して、ナクリアがその軍を壊滅させられて大敗を喫したそうだ」
「「「オイオイ、嘘だろ!??」」」
唱和されたその声に、酒場はどっと沸いた。
「ナクリアは周辺に比べて頭一つくらいは抜けてたはずだぞ!?」
「どうもほんとらしい。俺も最初に聞いた時は信じられなかった。死者一人も出さずに勝ったなんていうことも聞いたな」
「そ、それは流石に……誇張では?」
と話が盛り上がってきた頃、俄かにこれまで黙って話を聞いていた商人が立ち上がった。
「俺はニホンに行ったことがある!」
あまりの大声に、店の客のほとんどが彼を見た。
「冗談だろ」
「酔った勢いって怖いね」
「目立ちたがりめ」
客たちは口々に酒の席での与太話と否定する。
「本当だ!俺は行った!あそこはすごかった」
「へえ、どうすごかったんだい?道端で房事が行われてるとか?」
「てめえはまたそういう方向に走りおって」
「そんな蛮族みたいにはしてなかった。もう、全てが列強を超えてた」
「はぁ?第3開明圏の向こうの東大東洋の辺境の辺境、超開明圏外のど田舎国家が全てにおいて超列強?」
「嘘じゃない。俺が言ったのはニホンの玄関口の、ふ、フクォカって街なんだが。俺はアトランのネジ巻き時計を売りに行ったわけさ。あれは
「まあな。以前第三開明圏のレミジャンティアという国に行った時、それの類がここの三倍で売られていたのを見たな」
「ああ、あのレミ家の生き残りの国な。普通ならそうさ。でもニホンは全然違った。このネクシミルアのような街並みが広がっていて、アトランのような機械動力魔導車が、ここの倍近くも走っていたよ」
「は?」
「おいおい、いくらなんでも冗談がすぎるぜ」
「冗談ではないと言っているに。さらにいうとそこが首都ではなく一地方都市に過ぎないそうだ」
「首都はもっと発展していると、そう言いたいのかねきみは!」
「はっ!そんなのどうせ全部酔った勢いでしゃべったでまかせのハッタリだろ!」
「じゃあこれはなんだ!」
全てを否定する声に対し、叫ぶように声を出しながら男がチョッキの右ポケットから取り出したのは、一つのキラキラした腕時計だった。
「こ、これは?』
一人が尋ねる。
「日本で土産に買った腕時計だ。確かデンパソーラーウォッチいったな。これはな、なんだかいっで誤差が10000年に1秒の何万分の一しか出ないって説明された。これが作れる国があるか!」
その性能に誰も言い返せず、静寂が訪れた。
「で、時計は売れたの?」
「ああ、なんか日用品というよりアンティークとして骨董品店がまあまあの値段で買ってくれたよ」
「あ、アンティーク?」
別の一角。
エールを飲み干しジョッキをどっかりとおいた髭面の商人がいう。
「最近の衝撃的なニュースといえばやっぱり、ド=フラミンゴ王国が新興国の第6帝国とやらに敗れたことよな」
「ああ、中位列強国が敗れたんだ。史上初めての大事件だ、誰か第6帝国について知ってる奴はいるか?」
それを聞き、頭に飾り帯を巻いた狼獣人の青年が話し始める。
「同業のおささなじみから聞いた話なんだけどよ、第6帝国テェのは通称で、本当はイェリムールつうらしいぜ」
「へえ、なんで第6帝国なんて通称がついたんだ?」
「そこまでは知らねえよ」
楽しげに盛り上がる中、大きな音を立ててローブを被ったアトランがジョッキを置いた。
「おまえたちはまだイェリムール帝国を知らない!」
そのあまりの剣幕に商人たちは押し黙る。
それを肯定と捉えたのかアトランの男は話し始める。
「俺は運送業をしていたんだ。あの日、俺はフラミンディアで香辛料を荷下ろししてね。次の荷物の受け取りまで少しだけ市街をぶらついていたんだ。
そんな時、急に警備が厳しくなって、ちょっとしか配備されてなかった砲台に大量の人員と魔導砲が設置され、更に古代の高角砲まで引っ張り出されたんだ。
郊外にある竜騎士基地に全国からだろうが大量の
俺ら商人の間でも噂になったよ。
どの兵隊さんに聞いても今は話せないの一点張り、第6帝国が攻めてくるんじゃ?と言った声もあったにはあったが、誰もド=フラミンゴの勝利を疑ってなかった。
おまけに戒厳令が敷かれて、スパイの疑いが〜とかで港内の船はすべて出航禁止になった。
そしてその翌日、早朝から
そして、それは昼頃にやってきた…
全く、でかい飛空船だったよ。小山のような飛空船、いや飛空戦艦というべきかな。とてつもなくでかい、ああ、こう……今、ここの港に泊まってる大半の船よりでかいんじゃないかな。
飛空戦艦はフラミンディアの10knほど沖に停船した。砲台の魔導砲の完全な射程圏外さ。
その時後ろから大きな爆発音がして、見ると高角砲が爆散してたんだよ。大方補修を怠ったんだろう、馬鹿が……
そのすぐ後、それは砲撃を始めた。
その威力は火天使アファールでも作り出せないんじゃないかと思うほどの威力があってだな、その轟音は鼓膜が破れるかと思ったほどだ。
当然、砲台なんか一発で消えた。
砲撃は無差別に行われたもんで、俺は逃げた。なんとか市街を抜けた頃、やっと砲撃は止んで、飛空戦艦が市街へ動き出した。
その後、フラミンディアへ向けて爆撃を始めたんだ!
全てが終わった後には、フラミンディアは完全に廃墟になっていたさ。
逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて、逃げに逃げたよ!!奴等は、途轍もなく強い!!!たったの一隻で列強の首都を消滅させたんだ!!!!祖国も、いやサッカラールだってあれにはどう足掻いたって負ける、逆立ちしたって勝てっこないぞ!!!!!世界はイェリムール帝国に跪き、その足の甲に接吻することになる‼︎‼︎‼︎」
「待て待て、ド=フラミンゴに勝つとは確かに強いが、世界に冠たるサッカラールに勝てる訳がないだろう。内戦時でさえも他国の侵略を軽々と跳ね返した国だ、それこそ格が違いすぎる」
「アトランティスだって世界二位と謳われるからには、強いし、アトランどころかダナンにも勝てんだろう。なんだかんだ言っても、西の果ての蛮国になんか負けぬさ」
「その蛮国にド=フラミンゴは負けたのだ!!!!!!!アトラス大帝の御代から2万2千年に渡ってアトランティスの民が治めてきたアトラスの帝冠の一角が奪われたのだぞ!!!!!!!!」
アトランの男は大声で喚く。
「でも、ド=フラミンゴって、言っちゃ悪いが……その、中の下だろう?サッカラールと比べれば——」
「お前らはイェリムール帝国の恐ろしさを知らないからそんなことを言えるんだ!!!!!!!!!あんなもの、とてもとても悔しいが今の祖国やサッカラールなどでは絶対に敵わない‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
そのあまりの騒ぎように、酒場の店主が通報し、アトランの男は警邏に引っ立てられていった。
前話で言った通り、次の日曜はお休みです
小ネタ解説
・アトランティスの西側
アクンを滅ぼしたことによりほぼ全てがイェリムールの支配下になった。
・
更なる改良種である
・オクテシアン卿
名前は超える(beyond)と引っ掛けてビヨンドBiyondというしょうもないネタが存在する。
・開明圏
一定以上の文明水準の国家の集まりとされるが明確な定義が決まってない。後には准開明圏なんてのも出てくる。作者は読み直すまで忘れてた
・飛空船
彼の知っているのは列強第六位のパンドーラの保有するもの。
・ネクシミルア
人口870万人を誇る、単独では帝国最大規模の港湾施設を持つ都市。
・獣王
ケントラリス大陸南東部、ダズルカン半島を占めるダズルカン大公国の君主の称号。
・アトラス大帝
アトランティスの伝説の皇帝。生年不詳
・アトラスの帝冠
アトラス大帝が戴冠した当時のアトランティス帝国の領土。アトランティス大陸南部とド=フラミンゴの治めていた諸島が範囲
・地理
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_ _ く\/ \/| ⚪︎ ⬜︎L
N / V B =K= \ | ⬜︎
V\_>— く/\ /
E。 V
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赤道——————————————————————————————
A 聖サッカラール帝国
B シュトラハイム朝アトランティス帝国
C ダナン連合王国
D ダズルカン大公国
E ド=フラミンゴ王国
F パンドーラ魔法連合
G デリア連合王国
H キリア王国
I ヂッテリア公国
J シュザークト朝ドクレアン王国
K ザシアン王国
L 日本
N グンライ朝イェリムール帝国
M 魔物の地グラウメス
・一章どこまで続くの
正規の話は次で終わりです。
ー次回予告ー
————「だ、大事なものとは思わず、出すのを先延ばしに…」
突如として転移してきた日本は、この世界の国々に対して全く外交関係を持たない。この事態の打破を目的として、日本は書状を先行させた後外交使節団を出発させた————
次回、「新世界外交」