融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合−   作:桐型枠

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12.先輩と後輩

 

 

 昨晩と同じく、光学迷彩で姿を隠しての離脱に成功した僕らは、人気が無い山奥で落ち着くとようやく新たな問題に目を向けることができた。

 一応、腕の怪我という問題もあるにはあるが、今すぐどうにかできることでもない。これはディセットが保管していた包帯を巻いてとりあえず姉さんに応急処置してもらった。

 

 で、本題は――結局この子は誰やねんという問題である。

 しっかり共闘したし、お互い指示に従ってあの鎧をなんとか撃退したけど、一緒に戦うことになったのもその場の流れだし結局何者なのかはお互いよく知らない。

 身の丈ほどもありそうな大剣を振り回してたし、僕や姉さんと同じく異世界から何かの影響を受けてるんだろうということは想像できる。しかし服装は普通にその辺で見るのとそう変わらない普段着だ。

 じゃあ誰かってなると……。

 

「腕出して」

「ん……?」

 

 両腕が文字通り抉られた痛みに耐えながら、考え事に頭を傾けて気を紛らわせていると、ふと件の女の子から急にそんなことを言われた。

 言われるままに手を出すと、彼女の手から発せられた光が図形……というか紋様? を描き、直後に腕を光が包んだ。

 

「どう?」

「……おお?」

 

 どんどん痛みが薄れていく。麻酔……のような感覚ではない。代わりに小さな痒みがある。

 しばらくして光が消えると、ほとんど元に戻った僕の腕が現れた。

 

「何だこれ……!?」

「わ、すごい。回復魔法だねぇ」

 

 おお……なんかすごい。魔法らしい魔法だ。

 さっきまでの僕と違って魔法陣みたいなものも出てて、すっごいそれっぽい。

 ……けど、何か違和感があるんだよな。なんだろう。ディセットも同じように何かの違和感に行き着いたのか、軽く首をかしげている。

 

「魔法? 霊術でしょう。エルフの人がそんな言い間違いなんて……」

「あ~……ごめんね、わたし見た目だけのなんちゃってエルフだから」

「え? ……あー……」

 

 どうやらこの魔法のような技術は、あちらの世界では霊術と称されているらしい。

 姉さんの見た目に関しても、その霊術が存在する世界に属するものでほぼ確定……と。

 話の流れで僕らの「中身」が、あくまでこの世界の人間だということも気付いてもらえたようだ。軽く咳払いをして、姉さんたちの意識をこっちに引き戻す。

 

「とりあえず、治してくれてありがとう。あと、さっきの戦いも」

「やりたくてやったことだからいい。それより……えっと……」

 

 彼女は僕ら三人を見て困惑したようだった。

 ……まあ意味わかんない取り合わせだよね。ドラゴンにエルフにあと機動兵器パイロットって。特に最後。

 

「俺はこの世界の住人じゃないぞ」

「でしょうね。じゃないと機動兵器(あんなもの)動かせないだろうし。あなたは?」

「神足ナルミ」

「は?」

「何さ『は?』って」

「何さも、なにも……え、コータリー・ナルミとか、そういう英名じゃなくて……?」

「民浜高校二年の神足ナルミ。君はどこの高校?」

「……せ……先輩……?」

「え?」

 

 ……なんか、明らかに聞いたことがある声音だ。具体的に言うと学校で。

 球状に整えた電気をその場に浮かべ、よくよく顔を確かめる。

 

「……椿さん?」

 

 その名前を呼びかけると、あからさまなまでに凄まじい表情を浮かべられた。

 椿アリサ。僕にとっては一つ下の後輩にあたる。同じ組織に所属している関係上、割りと親しい方の間柄だ。

 が――なんか明らかに口調が違う。こんな活発じゃなかったし、あとびっくりするようなことが起きた時変顔するような子でもない。

 だからこそ、今の今まで気付けなかった。見る間に椿さんの雰囲気がしおっしおに萎びれていくのが分かる。こっちが素……ってワケでもないんだろうけども……。

 

「そ、そちらは……?」

「姉さん」

「神足カナタ。よろしくねぇ」

「あ、どうも……」

 

 姉さんたちが握手を交わす。そういえば二人は初対面だったか。

 

「知り合いか?」

「うん。今朝言った……」

 

 ディセットの問いかけに応じたところで、僕はふとその時のニュースを思い出した。

 ――死亡していたのは、会社員の椿ヤスタカさんとその妻、トモエさんの二名。

 椿さんの状態は、恐らく僕たちと同じような状態に陥ったのだろうと推測できる。あの剣がどうやってこの世界に来たのかは分からないが、ディセットのワーカーと同じような原理だろうか。

 ……彼女が殺意を剥き出しにして、かなり明確な目的意識を持って鎧男に襲いかかってきた。それはもしかして……。

 

「……後輩の子」

「世間狭いな」

「狭いとは思うけど、今回の件は流石に想定外だよ」

 

 僕に姉さんに椿さんと、知り合い縁者に集中して融合現象が起きているのは確かだが。

 それだって別に父さんには起きていないようだし、他の友人に関しても同じようになったという話は聞かな……いや、そもそもそこに関しては僕が外に出られなくて情報を仕入れることすらできてないという問題もあるが、少なくともこの件で大きな騒ぎにはなっていない。

 作為的にそうした、とは考えづらい。やはりあくまでランダムに選ばれ、徐々に「こう」なっていく人が増えていくのだろうが……。

 そうだ、これだけは確認しておかないと。

 

「椿さん、酷いことを聞いてしまうようだったらごめん。朝のニュースの殺人事件ってもしかして……」

「あたしはやってません!」

「いや、そこは疑ってないから。落ち着いて」

 

 両親を殺す動機が微塵も無い。今だって普通にしているし、性格が変わるようなことはあっても本質は特に変わっていない。力を持て余して暴走しているということも無いようだし、そこは最初から考慮にすら入っていない。

 

「あの鎧男が真犯人で、アリサちゃんはその行方を追ってた、ってところかなぁ」

「そう……そうです。でも……信じてくれる人がいなくて……」

 

 ヒートアップしていた感情が落ち着いたのか、椿さんは一気に意気消沈した。スマホを取り出してSNSの画面を見せてくるが……なるほど、心配している人も少なくないが、疑いのニュアンスも見受けられる。

 そもそも現状、この世界には異世界に関する情報なんてものはほぼ存在しない。争った形跡が無かった、深夜の犯行、盗み目的ではないという状況証拠だけで考察すれば、椿さんが犯人だと思っても何もおかしくないんだ。

 

「椿さんは現場に居合わせたの?」

「眠ってたら悲鳴が聞こえて……目が覚めたら、あいつが」

「争った形跡は無かったって聞いたが……反撃しなかったのか?」

「普通の人が反撃とか考えられるわけないでしょ。まず逃げたんじゃない?」

「はい……体が勝手に動いて……」

「わかる」

 

 現に僕も身体が勝手に動いて電気をぶっ放したので、その感覚はよく分かる。

 で、さっきの戦闘のように風……の、霊術? を使ってその場を離脱。剣と霊術の使い方もその時に分かった……ないしはその後で冷静になったら「思い出した」から、改めてあの鎧に復讐に行ったというところか。

 しかし落ち着いていくと、どんどん態度が僕の知ってる内気な椿さんのそれになっていく。興奮状態になると融合した相手側の人格が出やすく、上手い具合に二重人格になっているのだろうか?

 人格も記憶も基本的には脳機能の産物だ。意志の強い弱いは関係ない。僕や姉さんのように記憶があまり鮮明でなければ影響は薄いようだが……椿さんの場合は霊術だとかの知識もあるようだし、あちらの記憶がはっきりしている分人格への影響もそれなりに大きいと言ったところか。

 これは、場合によっては「あちら側」に人格や記憶が塗り潰される可能性もあることを意味している。いや、異世界の人にとってはむしろ僕らに塗り潰されているのか?

 ……このあたりは深く考えないようにしよう。規則性が存在しないなら最初から気をもんでもどうしようもない。

 

(でも、そうか。できれば椿さんのことであってほしくなかったけど……)

 

 普通に話を聞くだけでも気が滅入るニュースなのに、知人のこととなれば余計に(はら)に重いものが溜まってくる。

 あの鎧男、騎士みたいな見た目しといてなんて卑劣な奴だ。騎士道も何もあったもんじゃない。まして一般人を抵抗も許さずに斬殺なんて、黒騎士の風上にも……。

 ……なんか今、僕も変な記憶が流入したな。確かあいつ、名乗るどころかまともな言葉も発してなかったのに。

 ともかく、ただでさえ僕を殺しに来たっぽいのもあって印象は最悪だ。少なからず怒りを心の奥で燃やしていると、姉さんが椿さんに見えないようにこちらに向かってピンと指を一本立てた。一人にしてあげよう、ということだろう。

 今日は――僕らにとっては今日「も」だが――彼女にとってあまりにも多くの出来事が起きすぎている。心の整理をつけるのに時間が必要なのは確かだろう。

 

(女性は誰かついてるほうがいいってことがあるのはどうなんだろう)

 

 経験上、学校で女子が泣いている時は誰かに慰めてもらっているのを見ることが多い。一人でいるよりは、姉さんのような同性がついて声をかけてあげる方がいいんじゃないだろうか? そう思って目配せすると、姉さんは手振りで「そうじゃない人もいる」と伝えてきた。

 男性でも辛い時に話を聞いてほしいと思う人もいるだろうし、逆に泣いてるところは見せたくない、一人で気持ちを整理したいって人がいるだろう。

 親しい人が亡くなった時の心の機微は姉さんの方がよく知っているだろうから、僕は何も言うまい。

 

「そうだ、ディセット。ワーカーのバッテリーについてだけど」

「え、おい。情報のすり合わせは……」

「それは後でもできるからね~」

 

 後ろからディセットを押してワーカーの方に向かう。実際、雷がある程度でも扱えるようになった今、これも必要な話だ。じゃないと帰るに帰れないし。ここは強引にでも、というやつだ。三人で作業するためにその場を離れていく。

 

 ――椿さんの押し殺すような嗚咽が聞こえてきたのは、それから数分ほどが経ってからだった。

 姉さんもディセットも、何ら変わった様子は無い。それは二人の情が薄いということではなく、単にこの声が聞こえていないだけなのだろう。

 逆に、僕の身体の性能はこういう部分でも良いようだ。聴力、聞き分けも相当なものなのだと分かる。

 

(……気が重い)

 

 泣いていた「らしい」と実際泣いているのを知っている、とではまた感じるものが違ってくる。

 知っていた方がいいってわけでもないし、素知らぬフリをするのも難しい。

 それならこんな能力無い方が良かったんじゃないか。

 ……このわけわからん融合現象に対して、少なからず恨みが募った。

 

 

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