融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合−   作:桐型枠

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13.エーテルとD粒子

 

 

『うお……すっげ……規格を伝えただけでD粒子とバッテリーがどんどん溜まっていくの何だこれ……』

「………………」

 

 さて。ディセットのワーカーは、以前からD粒子の貯蔵量とバッテリーに大きな懸念を抱えていた。あちらの世界には普通に存在しているらしいD粒子がこちらの世界に存在せず、給電設備も存在しないため、それらが一度枯渇してしまうとデカいだけの置物になってしまうからだ。

 じゃあ置物(インテリア)としてお台場にでも置いとくかというとそういうわけにはいかない。……という話はともかく。

 この世界における補給という最大のネックを解消するのに、僕の能力はうってつけだった。D粒子を生成し、電気を放つ。部品の損耗を除けば、これで概ね活動時間の問題は解消できる。

 が……。

 

「虚無いわこれ」

 

 やることが充電である以上、電気の量も質も可能な限り一定であることが望ましく、創意工夫の余地とかあんまり無い。ただコードを両手に持って、一定の強さで電気を流し続けるだけの単純作業。充電器代わりだから当然と言えば当然なんだが、機械の部品にでもなった気分だ。

 社会の歯車になることに特に抵抗は無かったが、どうやらガチの機械部品扱いは結構心にクるらしい。

 

「でもなっちゃんこういうのやっぱり得意だよね~」

「得意と好きは違うんだよ」

 

 計算で示せることなら概ね頭の中でパッと導き出せるが、それで充電器になってじっとしているだけというのは「好きなこと」の範疇には無い。

 せめて会話がしたいけど、姉さんは配線の調整中で迂闊に話しかけたら危ないし、ディセットはコックピットの中。椿さんは落ち込んでるから下手に声をかけ辛い。

 もしかしてこれ、このまま黙ってるしか無いパターンだろうか。いや、しょうがないけど……状況的に。スマホも無いから暇潰しもできないし。

 

「ところでなっちゃん、その背中のやつって何?」

「何って……僕が聞きたいんだけど」

 

 ふと思い出したように姉さんが闇夜の中でも煌々と光を発する光輪を指差す。

 僕も分からない。雷使ったら、飛び散った電気を回収するように背中に集まってきたような状態なので……そういう霊術? が自動発動しているのかもしれない。

 

「ふ~ん…………あっ」

 

 実際に電気が寄り集まっているものなのか、それとももっと別のエネルギー的な何かなのか。それを判断しようとしたのだろう、姉さんがその辺に落ちてたいい感じの枝をかざすと、先端から一瞬にして削り取られるようにして焼失してしまった。

 どうやら相当量の電気が集まっているようだ。自分の使った電気をそのまま光輪にリサイクルしているようだし、電圧とか電熱とか相当なものになっているんだろう。

 ……これ背中につけてて大丈夫なやつ? 衣服なんかに影響は無いみたいだけど、寝相で自分の周り焼き削ったりしない……?

 

「…………」

「ちょ、姉さん」

 

 姉さんはそれを見てゆっくり離れていった。

 離れて当然だけども。今ちょっと心細いんだけど!?

 

『ナルミ、今いいか?』

「あれ、ディセット?」

 

 軽くため息をついていると、ディセットの声が聞こえてきた。

 

「そういえば外部スピーカーがあったっけ。何か問題でもあった?」

『いや、順調すぎるくらい順調だ。それより、さっきのヤツの話なんだが』

「ワーカー? 鎧男?」

『どっちとも言い辛いな。どっちもだ。あいつら、同じ能力を使ってただろう?』

「そうだね」

 

 最初に空間を裂くようにして現れたのがあの黒騎士。次に現れたワーカーも、同じような現れ方をした。

 どちらもあの黒い霧を使っていたわけだし、その部分は明らかな共通点と言っていいだろう。逆に、それ以外に共通する部分は全く見受けられない。

 

「ワーカーの方、見覚えある?」

『ある。知ってる企業製だ』

「ってことは、パイロットも知ってたり?」

『どうだろうな。あっちは一方的に俺のこと知ってるみたいだったが。俺も知ってる……かもしれない』

「何でそこが曖昧なんだよ」

『有名なパイロットの情報が出回るっていうのは別に珍しいことでもないんだ』

「今言外に自分が有名だって言った?」

 

 所属会社のトップエースだって言ってたことが事実なら、有名でもおかしくはないけど。

 対して、ディセットも知っているかもしれないと言っているわけだし、相手もそれだけ強いパイロットという可能性がある。

 あの時先んじて主砲を破壊したのは半ば反射的なものだったけど、それ以降の攻撃を封じられたのはある意味幸運だったのかも。

 

『元の世界じゃ有名だよ俺……』

「で、相手も有名パイロットってこと?」

『武装と機体を考慮すると、その可能性がある。あれはカナールって企業の最新鋭機だ。あれが配備されるような部隊はそう多くない』

「割となんとかなったけど」

『そりゃお前……その能力がワーカーに致命的すぎんだよ……俺のはともかく』

 

 まあ……磁気と電気はロボットには大敵か。散々家電を破壊したのでそれは理屈と経験で納得できる。

 で、ディセットのワーカーは対ドラゴンを見越して防磁・防電処理が施されているんだっけ。その処理がされてない限り、僕がいれば対ワーカーは問題無いか。

 巨大ロボット一機を容易にスクラップにするほどの力って途方もないな、改めて……。

 

「だとすると、ディセットのワーカーと同じ処理がされたらまずいね」

『まずいが……それだけの処理ができるのは俺のいた世界だけだぞ。無理だろ?』

「あの人たちはある程度自由に世界を行き来できる可能性があるよ」

『……冗談だろ?』

「冗談で済めばいいんだけどね。あんな鎧姿の人間、ディセットの世界にいる?」

『いるわけがない』

「でしょ。そんな奴をワーカーのパイロットが助けに来るなんておかしいよ。事前に話を通しておかないと、あんなタイミングで救援に来られるわけがない」

 

 つまり、彼らは世界をまたいで話をつけられるだけの技術や技能がある。

 彼らの共通点はと言えば、あの「黒い霧」だ。理屈や原理は不明だが、実際にそれができている以上は最初からそういうものだということを前提に考えるのがいいだろう。

 

「……でも、そんなことができるなら、あんな古めかしい鎧姿なこと自体が不合理だよね。よっぽどのこだわりが無い限り、ディセットの世界の最先端の装備でも使った方がいいはず」

『確かに……そうだ。ってことは、世界を渡る能力それ自体は限定的なものと考えるべきか』

「装備をやり取りできるほどの自由度は無いんだと思う」

 

 時間的な制約か、空間的な制約か……ワーカーをこちらの世界に持ってこられるということは、質量の問題じゃないのか?

 ……こちらの世界に持ち込むのは難しくないが、黒騎士のいる世界に持ち込むのは難しい……それぞれの世界をA、B、Cと仮に分類するとして、AとB、AとCの間ではやり取りが容易だけど、BとCの間ではできないとか?

 んー……ダメだ、情報が足りない。この状態で無理に考察すると、逆にドツボにハマるパターンだな。

 

「……この話は、後で皆で共有しよう。僕らだけじゃ判断が難しい」

『今出せる結論だけでも出しておかないか?』

「あいつらは僕らの命を狙ってる。敵。以上」

『そりゃそうだが』

 

 色々と回答は思いつくけど、情報という途中式が無ければ結論としては手落ちだ。

 可能なら思いつくことはできるだけ列挙しておきたいが、今それをやっても先入観で本当に知っておかなければならない重大な問題を見落とすことがありうる。

 まだ僕はディセットが実際にどういう話を聞いたか、椿さんがどういう情報を持っているかという部分を知らない。後で皆が揃ってそのあたりのすり合わせをしてからでも、結論を出すのは遅くない。

 

「それより、先に分かってることの話なんだけど」

『……霊術……というより、エーテルってやつのことだよな?』

「あれ……D粒子だよね? 多分だけど」

『だよな……? 俺も反応を検知したから不思議に思ってたんだが……』

 

 僕はさっきの戦闘から、D粒子の動きをある程度感じ取ることができるようになっている。これはどうやら粒子を変換することでディセットの言っていた「魔法のような現象」を起こしていることが原因のようだが、椿さんが霊術を使っている時にも同じような粒子の動きを感知できた。だから違和感があったんだ。

 ディセットも、ワーカーやインプラントにD粒子を検知する機能がある。これは反応からデータにある個体を判別できる程度には具体的で詳らかだ。

 

『同じ物質……なのか?』

「そう考えるしかないんじゃないかな。世界によって呼び方が違う程度の話だとは思うけど」

 

 性質が違う……というわけでもない。どちらも生体に結びつけることができ、何らかの作用で魔法のような現象を引き起こしている。

 ただ、人間との接し方はそれぞれ違う。便宜的に霊術の世界と機械の世界と呼ぶことにするけど、D粒子(エーテル)をテクノロジーとして用いることに特化したのがディセットたちの機械の世界。対して霊術の世界は生体との結びつきを強めた……というところだろうか?

 

「ディセットの世界でD粒子が発見されたのは何年前?」

『……230年くらい前だったと思う』

 

 ……こっちの世界で言えば江戸時代か。よっぽど機械技術が発展してたんだなあの世界。

 

「どういう形で、いつ発見されたか、何を目的として発展を遂げたかによって方向性も変わるだろうし、そもそも世界が違うんだ。どういう差異が出てもおかしくはないよ」

『じゃあ……もしかして俺も訓練次第ではあんなことが?』

「…………」

 

 よくよく思い返す。さっき椿さんが霊術を使っている時のD粒子の流れとその強さ、体内に存在すると思しき総量……。

 決してあれが標準的な量ではないだろう。むしろ強い方――と、なんとなく感覚で分かる――だが、それに対してディセットはどうだろうか。

 ほんのかすかに粒子が体内にあるようには見えるが……さっき椿さんがやっていたようにちょっと体外に粒子を放出して空中に紋様を描いたらそれだけで枯渇しそうだ。

 

「無理じゃない?」

『いや、でもさ……』

「無理だよ」

『そこまで重ね重ね断言する!?』

「できもしないのに慰めて無駄に期待させる方が僕は残酷だと思う」

 

 無駄な努力とかそういう言葉をあまり使いたくないけど、見当違いな方向に努力すればそれだけ無闇に時間がかかる。

 どうやら命を狙われているらしい今、無駄に時間をかけるのは良いことではない。

 できるとしたら……姉さんだろうか。身内の贔屓目抜きに、粒子(エーテル)保有量が極めて大きい。エルフの肉体故のものだろう。

 多分、霊術に対する適性も相応に高い。記憶力を思えばなおのこと。

 そうこうして会話しているうちに充電が終了したようで、ディセットはしばらく「すげェ!」と叫ぶだけのオカメインコと化していた。

 

 


 

 

 これで充電が完了したことで、ワーカーの遠隔操縦にかかる諸問題は一部を除き解消。自宅に帰り着くと、ワーカーはそのまま人のいない山奥に向かって飛び去っていった。

 一応、光学迷彩も併用していたので人に見られることは無いと思うけど、人が乗ってないのに飛んでいかれると、ディセット以外の誰かに勝手に盗まれているように見えて違和感が強かった。

 椿さんは意気消沈しているが、さっきよりはいくらか気を持ち直したようだ。薄っすらと残る涙の後には、とりあえず言及しないようにした。

 さて。だいぶ夜も更けてきたが、色々とやるべきことは残っているし食事もしていない。とりあえず晩ごはんを作ってから、敵について分かってる情報を共有することにした。

 長い下ごしらえをする暇は無いので、単に切って焼いて味付けするだけの鶏の照り焼きである。椿さんがいるので黙ってこそいるが、ディセットはそれでもご満悦だった。

 椿さんについては……あんなことがあった後だから食欲は無いようだったが、それでも全部食べていたのでもしかすると結構食べる方なのかもしれない。

 

「じゃあ、今わかることだけ軽くまとめよう。一つ、あのワーカーのパイロットと黒騎士は同じ能力を持つ。二つ、彼らは何かしらの理由で僕らの命を狙いに来てる。三つ、彼らは世界を渡ることができる。ただし、かなり限定的なものらしい」

「……分かってることだけ並べても、わけわかんねえなこの状況」

 

 この件に関してはディセットの言う通りである。現状はあまりにわけがわからない。

 融合現象が起きてそれほど時間が経ってないし、僕らにそれが降り掛かってもまだ三日と経ってないぞ。

 

「ん~……彼らが明確に命を狙ってきたのは、椿さんとなっちゃんかなぁ。もし狙いが全員なら、わたしとディセくんを逃さないはずでしょ?」

「フカシの可能性もあるが、狙いはドラゴン……とも言ってたしな。だが、何でナルミやツバキさんを狙う必要が……ああ、いや、ナルミは分かるが……」

 

 ドラゴンだからね。

 ディセットの言う通りなら、ドラゴンには企業の特務部隊に狙われるほどの経済的価値がある。

 僕を殺して粒子製造器官のような素材を取り出すつもりならその理屈も納得できるが……だとして、椿さんを襲い、その家族を皆殺しにするのは理屈が通らない。

 椿さんは外見的特徴から見ても、ドラゴンのような異種と融合したような様子は無い。体内の器官を狙うということはありえないはずだ。

 

「……狙ってるのは……あたしよりこっちかもしれません」

 

 と、椿さんが差し出してきたのは、彼女が使っていた巨大な剣だ。

 肉厚で幅広、装飾過多で、およそ戦闘に使うとは思えない代物だ。ディセットがメチャクチャ体跳ねさせている。

 

「で、出た……」

「"墜星"……竜族の素材を使って作られた宝剣です」

「墜落に星で墜星?」

「です……はい」

「ふ~ん……隕鉄でも使ってるのかなぁ?」

 

 それよりも、問題は「竜族の素材を使っている」ということだ。

 竜族ってことはドラゴンだよね。え、これ僕もこんな風にされるん……? という恐怖感と、しかし生物由来の素材使ってよくこんな精緻な作り物をしたな……という感嘆がせめぎ合う。

 よくよく見れば薄っすらと粒子(エーテル)が放出されているから、霊術の世界の竜族にも同じ器官があるのだろうか?

 となれば、これを狙ってやってきて、目撃者になった椿さんの両親をついでに殺した……と考えると辻褄は合う。

 

「先に霊術の世界について知っておいた方がいいかもしれないね。あっちってどういう世界なの? 僕ら、そのあたり何も知らないんだけど」

「あ、ご存知ないんですね……」

「ちなみにディセットの世界は端的に言うと『サイバーパンク風ロボットアニメ』って感じ」

「端的すぎんだろ」

 

 もっと深く言えば、侵略的外来生物と戦っていたり人類が地球で住めなくなっていたりと色々な問題はあるが、一定以上サブカル知識があればこれで多分概ね通じるだろう。

 

「あちらの世界は……巨大モンスターがいる狩りゲーム……です」

「同じ要領で返せるのかよ」

「もうちょい詳しく」

「あ、はい」

 

 椿さんが語るところによると、あちらの世界にはエーテルという未知の元素が満ちており、これによって生物が巨大化したり霊術という魔法のような技術が使えるのだという。

 ただ、生物が巨大化するということは同じ生物である植物も相応に巨大化するということ。こうした植物と、エーテルによる肉体強化と突然変異で特別な体内器官を持つようになった巨大生物によって人類の生存圏は大きく制限されているとのことだ。

 霊術を使うには、基本的に術式――「術」を使うための「式」にエーテルを通す必要があり、先の戦いで椿さんがやっていたのはそれだという。あの魔法陣のようなものが術式だ。

 

「竜族ってどういう生物?」

「こっちの世界で言ういわゆる、ドラゴン……ということでいいと思います。生物の中で唯一、エーテルを生み出す臓器を持つ……」

「唯一? つまり、他の生物が使ったエーテルって自力じゃあ回復できない?」

「そこは……大気中のエーテルを取り込んで、回復できます……」

「人型なのか? それとも、巨大生物?」

「どちらもいます……ね。古い時代に、巨獣の方の竜族から、枝分かれした……と」

 

 どうやって枝分かれしたのかは聞くまい。

 

「……竜族は、術式を介さずに不思議な現象を起こせる?」

「あ、はい……竜族は、術式を用いることなく、エーテルを直接現象に変換することのできる種です……」

「ディセット、これって」

「あ……ああ」

 

 ……おかしい。共通点が()()()()

 エーテルがイコールD粒子であるとして、僕のやったことを考えると……椿さんの語る霊術の世界の竜族と機械の世界のドラゴン型イーバは聞く限りほぼ同一の性質を持っているようだ。

 いや、ドラゴン以外でも人類や数々の動物も、細部では全く同じ種類の存在はいるだろう。しかし、竜族はあくまで恐らくは地球内の生物。ドラゴン型イーバは地球外の生物のはずだ。例え収斂進化の賜物だとしても、ルーツが違うのに全く同じ能力を持った生物なんて……存在しうるのか……?

 漠然とした不安感が募る。

 何か、見落としていることは無いだろうか。

 

 

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