融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合− 作:桐型枠
一旦、竜種とドラゴンの違いについては考えるのは置いておいた。
ディセットが「全ての世界は同一の世界で、時間軸が違うのでは?」という珍説を示したが、そもそもこの世界に霊術やD粒子が存在しないため、どこで繋がりが途切れているんだという話になってしまう。これはすぐに取り下げた。
姉さんは「単純にそういう収斂進化で別世界には変わりないのではないか」。椿さんは「いくつもある世界の中で偶然類似した世界が接近してこうなったのでは」……とのこと。
結局のところ、情報は全く揃ってない。いずれにしても、現段階で説を確定させる時期尚早だろうと結論付けた。何より僕たち学者でもなんでもないし。
「現状判明している世界は三つだな。この世界、俺のいた機械の世界、それから霊術の世界……恐らく、昨晩の大怪鳥は霊術の世界のものだろう」
「……ここからまだ増えるのか……それともこれだけなのか……」
「増えてほしくないねぇ~……」
一応、現状は三つの世界以外の要素は確認できてない。もしももっと多くの世界が存在するなら、多分もっと変な要素が発現しているはずだが……。
「でも、昨日から状況が悪化し続けているからもっと状況が悪化するものと考えた方がいいかもしれない」
「悪化するのを前提にしすぎないでくれ」
「するしかないじゃないか現状。昨日までなら、命の危険が自分からこっちに近付いてくるってことは無かったんだよ」
「前例が酷すぎる……!」
最悪、状況がどんどん悪化していくことを前提にしていけば、何も起きなかった時は「何も起きなくてよかったね」で済む。
昨日は朝から融合現象、夜には怪鳥の襲来。今日は朝からは何も無かったが、夕方にはヤツらの襲来。もっと言えば昨晩から奴らは動き出している。
前例が前例だ。明日は複数人に襲われるかもしれない。
「まず、彼らはあの時見せた空間転移能力を使って襲撃に来ると思った方がいい」
「……できる以上は、使ってきますよね……」
「狙ってるのは
「ナルミ以外にもそういう人間がいて当然だが、場合によっては動物とドラゴンが融合している可能性はあるな」
そうなると、昨日のあの怪鳥と同じようにドラゴンの形質が圧倒的に大きく発現し、そのままの巨体がこの世界に出現する可能性はある。
そもそも
「で……問題が一つ。彼らはどうも
「ちょっと待ってください、そんな――嘘でしょう!? エーテル抜きに超常現象を起こすなんて不可能です!」
「でも、現にできてる」
興奮した様子の椿さんを手で制する。
現実は見なければならない。実際、あれらの能力を使用するのに
「そもそも、機械の世界でも空間転移なんて便利な技術は開発されてないみたいなんだ。霊術で空間転移とかってできるの?」
「それは……無い、です。高速移動はできますけど……そもそも、あの変な黒い霧が何の体系に属するものなのかも……」
「あの結界みたいなのは? 僕ら以外の人たちあの場からいなくなってたよね?」
「そっちも、ありません……人払いができるなら、先にあたしの方が使ってます……」
つまり、現状どこの世界にも存在し得ない技術。
機械の世界にも霊術の世界にもこの世界にも存在しないのなら、あるいはそれ以外の世界という可能性もあるだろう。だが、そうすると僕の記憶が鎧男のことを「黒騎士」と称したこと、もう一人が企業製のワーカーを使っていることと辻褄が合わない。ディセットのことも知っているようだったし……。
世界の外からこれらの世界を観測できる何者かが裏で糸を引いている? ……突飛な考えか。
「不幸中の幸いだけど、僕はあの能力を使われたらある程度察知できると思う。メチャクチャ嫌な感覚がするんだよね」
「嫌な感覚って?」
「ヘドロん中で無数の虫が寄り集まって蠢いてるの見てるみたいな」
「変なジャンルの嫌さだよぉ……」
ともかくそういう調子なので、近付いてきたらまず間違いなく分かる。たとえ寝てる最中であってもだ。
……もっとも、これは逆に言うと、しっかり察知できるのは僕だけだということだ。同じく命を狙われているらしい椿さんはこれを感じ取れない。下手すると、奇襲を受け放題ということになってしまう。
あの連中はただそこにいただけの一般人を殺すことにも躊躇がない。今日の戦いでは僕が前に出たからそちらを優先したようだけど、邪魔になると分かったら次は姉さんたちを殺しに行こうとするだろう。そんなことは許せない。
「これからの対応について、いい?」
「言ってくれ」
「この中では僕しかあいつらのワープを察知できない。だから椿さんを一人にしておくのは危険だと思う。最低でも何か対処が打てるようになるまではウチにいた方がいいんじゃない?」
「でも、先輩たちに悪いです……」
「困った時はお互い様ってことで~」
姉さんがそう言うと、椿さんはややためらい気味に頷いて返してくれた。
単に今一人にすると危ないというのもあるし、なぜか命を狙われているという共通点もあるため、お互いを守れる立ち位置を作ることができる。実利を取るにしても心情的にも、今は近くにいてくれた方がありがたい。
「えーっと、じゃあ寝室は……」
「効率を考えるなら、あたしが先輩の部屋で一緒に寝るのが筋では?」
……もうちょと躊躇ってくれてもいいんだよそこは?
「じゅ……純粋な
「あと、今僕の腕力ゴリラだから下手すると寝相で殺しかねない」
「鎧着込んだ人間一人ぶっ飛ばすのはゴリラどころじゃねえだろ……」
拝啓、京都にいる父さん。
僕はどうやら親しい後輩の女の子にあまり男と意識されていないようです。
とりあえず椿さんは姉さんの部屋に滞在してもらうことにするとして、来客用の布団などを用意している最中のこと。
女性の身の回りの準備を邪魔するわけにはいかないので、僕はディセットと自室でゲームなりネットなりすることにしたのだが、その最中のこと。
「え……エッチなゲームが配信されている……!」
横でパソコンを弄っていたノッポはそんな胡乱なことを言い出した。
「おめェ何言ってんの?」
「いや……いやいや、見てくれ。半裸の女の子が……!」
「よくあるソシャゲってかブラゲ……あー……待った。こういうの無いのかそっち」
「無い!」
……冷静に考えると、全年齢でできるソーシャルゲームなのに、当然のように半裸かもっと言って七割方裸だったり時には全裸だったりする女の子だらけなのって、相当異様ではあるな……?
日本が格別に寛容な社会なのもあるか。海外だと、日本のアニメは児童ポルノに認定されてたりする国もあるようだし。
「今言うそれ? 不謹慎」
「それはそうなんだが」
人死にが出た直後ってわけでもないが、後輩の家族が亡くなってまだ少ししか時間が経っていないのもあるのでハシャぐのもどうかなという思いがある。本人がいない場だからまだいいけど……。
……それだけ人が死ぬことに慣れてて、気持ちの切り替えも早いってことなんだろうか。少しため息をつく。
「こんなのこっちの世界には腐るほどあるよ。ディセットの世界にはあの……そういう産業発展してないわけ?」
「レーティングはっきりしてるから個人IDで制限かかるんだよ。ハックするわけにもいかないし、俺17だし」
紐づけがはっきりしている分、こっちより厳格そうだな。
というか、見ようとしたことはあるんだな……この年頃なら当然っちゃ当然か。思えばクラスでもそういう話は絶えなかった。
「ディセットさ、インプラントにこっちの世界のデータってダウンロードできる?」
「規格の問題はあるが、大丈夫だろ。こっちが合わせれば起動しても別に問題ないと思う」
「……興味あるならやってみようぜ」
「え、ええ……? あの、いいのかぁ?」
「いいっしょ。郷に入っては郷に従えだよ」
うわすっげえにちゃっとした笑顔してるこいつ。
語尾に「ゲス」って付けてそう。
「このムッツリ野郎め」
「ぐっ……! い、いや、お前だってお前……知ってるんじゃんコレ」
「そりゃソシャゲの一つや二つ普通にやってたし」
「おま……ムッツリって言葉そのまま返すぞ!?」
「僕はそういう目的で始めたわけじゃないしィ~」
「
ソーシャルゲームというのは煽情的な外見のキャラクターで集客するケースが多いが、ゲームを始める理由は何もそればかりじゃない。魅力的なストーリーだったり、時には友人との話題作りのためだったりするので、性的目的一方向というのは逆に珍しい。
時にはそっち全振りなものもあるから一概にはそうとも言えないが、まあ、ともかく友人との話題作りのためにやっていた面もあるわけだ。
「まあ……肝心のそのデータも吹き飛んだんだけど……」
「お、おう」
もっとも、融合現象のせいでスマホが壊れ、引き継ぎもできなかったため哀しいことにデータは全てオシャカだ。
サルベージすればできないこともないのかもしれないけど、その方法も分からない。泣き寝入りするしかなかった。
「でも、能力が制御できるようになったんだろ?」
「……できてない」
「え?」
「できてない。完全にオフにはできないっぽい、
制御できるんじゃないか、電気や磁気を完全に出さないようにできるんじゃないか、というのは僕も思っていた。これで家電触り放題じゃんやったー! と。だが実情はどうやら普段のこれが最低出力らしい。
この場合における放電というのは、能力というより呼吸のような生態に近いもののようで、短時間止めることはできるが、止めすぎると体によくないといった塩梅だった。
巨大なドラゴンを人間に押し込めた僕の体は、常時その密度に見合う異常な生体電流が流れている。体内にこれを留めたままにしているとそのうち「暴発」してしまうようで、変な所から電気が出てきて大変なことになってしまう。実際口からビームみたいに出た。幸いなことに山奥にいた時だったので目撃者も被害者もいなかったが。
一方、磁気は止められた。こっちは本当に
結局ゴム手袋手放せないんだからどうしようもないのは変わらないけど。
「俺の世界の技術ならなんとかできそうな気はするけどな」
「少々どうにもならなくてもいいよ。手袋で対処できるし」
下手にどうにかしようとしたら実験台にされたりしそうで怖いし、あっちの世界。
「まあそれはいいや。ソシャゲができるんなら多分アニメとかも見られるだろうし、そっちも……」
「アニメェ? 子供が見るもんだろそれ」
おっと、なるほど。あっちの世界、アニメはあってもそれくらいの認識なわけか。
古い教育アニメが作画も演出も変わらないままエンドレスで流れてそう。偏見だけど。
「こっちの世界だとそうでもないんだなこれが」
「そうかぁ?」
手袋をはめ、通販サイトのプレミアムサービスを開いてパソコンの画面におすすめアニメを表示する。
最初にディセットはバカバカしそうに画面を見ていたが、五分もすると食い入るように画面を見つめていた。
――そうして一時間ほどして。
「続きは?」
「案の定ドハマリしたなこいつ」
機械の世界、文明はドチャクソ進んでるのに文化はこっちの世界よりだいぶ遅れてるのではなかろうか。
いやこっちの文化がおかしいだけだな。うん。
「いや、ほら……でもだぞ。相当……思ったよりもちゃんとした作りしてて……いや、確かに技術面だと俺の世界の方が遥かに高いけども!」
「そうだねぇ」
「……掌の上で転がされてるようで少し腹立つ」
「ククク」
ディセットの言う通り技術面は大きな開きがあるだろう。3DCGと2D問わず、美麗なアニメーションを作るだけなら間違いなくあちらの世界の方が優れているに違いない。
ただ、機械の世界は戦いが溢れすぎていて人々に心理的余裕があまり無い。そうした土壌では創作にかかる分野の芽が育ち辛いことだろう。その結果、ディセットが語ったように「子供が見るもの」というようなアニメしか無くなってしまう。
「あっちの世界の技術をこっちに持ってきてアニメ作ったらすごいもの作れないかな……」
「まあ……作れるんじゃないかな、予算、アホほど要るだろうけど」
「普及すればそうでもないんじゃないか?」
「将来的にはね。すぐには無理」
「金、金、金か……」
「あと利権。技術は先に別の分野が使い尽くしてからじゃないと文化方面に……」
「やめようこの話。ただでさえ暗い雰囲気なのに気が滅入る」
一も二もなく頷いて続きを再生する。別に僕もこういう話好きじゃない。ややこしくなった脳味噌をぼーっと見て整理するのに、適当にアニメ見るのはある意味うってつけだった。
……翌日、ディセットが寝不足の状態で出てくるのを姉さんに発見された。どうやら、本当にドハマりして、寝ると言いつつ網膜投影でアニメ見続けながらソシャゲして徹夜したようだった。
こいつ現代社会への適応力すごいな。