融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合−   作:桐型枠

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17.ホームセンターと幼女

 

 

 幸いなことにと言っていいのか、警察に事情聴取を受けた後二日ほどは襲撃も無く穏やかに経過した。新記録更新である。

 翌日以降も事情聴取があったり、椿さんのご両親の葬儀などがあったりしたが、いずれも大人の手が必要になることから、椿さんのご両親の親戚縁者への説明などのため、父さんがこの間休みを取ってサポートしてくれた。こればかりは子供だけでどうにかなる事態でもないので本気で頭が上がらない。

 襲撃が無かったことについては、流石にあちらも及び腰になっているせいだと思うことにした。

 ワーカーの修理には時間がかかるだろうし、黒騎士にも大概酷いダメージを与えた。黒い液体のせいで胴体を両断されてもなお接着して生きているようだったが、起き上がれずに仲間に回収されていたところを見るに、アレだけで全部治るものではないのだろう。あくまで応急処置で、ダメージは一定以上蓄積していると見た。

 何も対策しないままでは同じことの焼き直しだ。次に遭遇することになったら厳しい戦いになる可能性は高いが、とりあえず休めるなら、一旦はこれでいい。うんざりするけど。

 

 さて。

 僕らの周囲はある程度穏やかだったが……穏やかだったのは僕らの周囲だけとも言える。世間はこの二日間で大混乱に陥った。人体の変異現象について、正式に発表があったためだ。

 海外では差別や宗教に係る問題が急増。活動家団体が活性化し、区によってはデモや抗議を通り越して暴動に発展。誘拐や殺人も相次いでいるとか。

 そんな中で日本はというと……SNSが活気付いた。

 自他ともに認めるHENTAIガラパゴス国家である。なぜか動画配信者が急増し、突発的なサブカルイベントが開催。明らかに融合現象――突発的人体変異症と名付けられた――に遭っているらしい獣耳だったりエルフだったりサイバー装備だったりというコスプレイヤー(?)が見られたという。

 更に、企業はこの症状に対応した商品開発を発表。公的機関もDNA検査などを通じて個人の特定と社会保障の整備を急ぐことになる。混乱は小さくなかったものの、他国に比べればよっぽどマシ、という状態に落ち着いたと言えるだろう。

 ディセットの感想は「この国どうかしてるぞ!」だった。

 ごもっとも。

 

 ともかくそんなわけで、父さんも仕事に戻ることにはなったが、同時に僕らも大っぴらに表を出歩けるようになった日のこと。

 大学に行った姉さんを見送った後で、僕とディセットはホームセンターにやってきていた。

 

「何だここ?」

「武器庫だよ」

「日本にそんな施設が……!?」

「嘘だよ」

 

 ホームセンター。主に日曜大工の道具や家具に関わる品物を取り扱っている店だけど、どうやらディセットには馴染みが無いようだった。あっさり嘘に引っかかった彼は思いっきりしかめっ面を返した。

 でも嘘っちゃ嘘なんだけど、実際はそれほど間違ってない。もし街がゾンビ映画のようになったら? なんて思考実験の時、ホームセンターに行くと答える人が多いのは伊達ではない。

 

「あながち嘘ってほどでもないけどね。見てよこれ、ネイルガン」

「……まあ、確かに武器っぽいな」

「チェーンソー」

「うん」

「ハンマー」

「うん」

「角材」

「うん……うん!?」

 

 棒状の長いものは振り回すだけでそれ即ち武器と言える。

 ……という暴論は置いといて。

 

「護身用の武器でも買うのか?」

「そうとも言えるし、そうでないとも言える」

「……?」

 

 言いつつ、かごにワイヤーの束を入れると、先に入れていた釘や鉄杭(ペグ)と当たって小さな音を立てた。

 

「こういうもの、普通の人には大した武器にはならないよね」

「ならないこともないけど、まあそうだな」

 

 釘もペグも使いようによってはいくらでも危険物になりうるけど、実際に武器として使うなら使い勝手も威力も優れているものはいくらでもある。

 だから武器かと言われると、はっきりそうだと断言はし辛い。

 

「けど、僕にとってはそうじゃない。こんな風に」

 

 手の中で磁力を生み出し、ペグを浮かす。あとは、磁力のレールでも作ってそれに乗せれば簡易コイルガンの完成だ。

 ここじゃやんないけど。

 ディセットはそれに納得しつつも、軽く首をかしげた。

 

「しかし、あいつらに通じるか?」

「タイミングによると思う」

 

 物理攻撃が全く通用しないわけじゃない。ワーカーのような超質量、あるいは……街灯を意識外から打ち込んだ時も、普通に当たってはいた。

 磁力のように実体のないものも防げない。ある程度明確に防げるものと防げないものの区分けはあるはずだ。

 

「ゲームのオートガードみたく、勝手に防いだりするわけじゃない。目視で認識できているか、『来る』と分かってる攻撃しか防げないはず」

「意識外の攻撃なら行けるか……」

 

 なんか当たり前みたいに意識外から攻撃できるみたいなこと言ってるけど、ディセットって別に特別な能力何も無かったよね? キミただのエースパイロットだよね?

 狙撃とかじゃなくてその場のヨーイドンで行けるの? どういうこと? 正気?

 ……まあどっちでもいいか。ワーカーの大質量ぶつければどっちにしてもあの防御貫通するし。

 

「というかお前さ……雷を直にぶつけた方がよっぽど強くないか?」

「強さと便利さは別問題だよ。それに下手したら殺しちゃうし」

「そう言われるとそうかもしれないけどな」

 

 もっと電磁操作能力がしっかり制御できるようになればそうでもないのかもしれないけど、現状の僕ではそこまで緻密な雷の操作はできない。

 というか、元々のドラゴンがデカすぎるせいで、人間のスケールに合わせきれてないんじゃないだろうか。少なくともワーカーよりも大きいはずだし、野生動物だ。生息地も宇宙だし、微細なコントロールなんて必要も無かっただろう。

 だから、求めないといけないのはやっぱり利便性だ。雷で痺れさせることはできても拘束とかはできないんだし。

 

「だとしても、あんな連中殺すしかなくないか?」

 

 ……何の気もないように、ディセットはそう続けた。

 思わず、眉根が寄るのが分かる。ちょっとこの辺は感覚が合わないんだよなぁ。

 確かに、こっちのこと殺そうとしてきてるような相手のことを気遣ってられるような余裕は無い。殺されないようにするためには、そうする方が楽で確実なのも分かる。

 けども。

 

「一般人にさぁ……そんな殺すのどうのって話するかよ普通……」

「う……わ、悪い」

 

 殺すのを前提にするのは違うし、殺し殺されが当然の世界の感覚で語られても困る。

 少なくともこの世界で命を奪うっていうのはそんな軽いことじゃないし、軽く扱っていいことでもない。

 だって、それじゃあ、何か……こう……。

 

 ――あんたが――。

 

 溢れ出した記憶に蓋をする。

 余計なことは考えない。もう随分前の、過ぎたことだ。

 どちらにせよ、今僕の倫理観が悲鳴を上げているのは事実だ。そういう訓練を受けているわけでもそんな世界に生まれついたわけでもないし、復讐なり怒りなりで一歩踏み外すだけの理由も無い。

 多少でもまともな神経が残っていれば、殺人なんて忌避感の方が勝って当然だ。

 

「……ワイヤーなら殺さずに拘束もできるし」

「そうだな……納得した」

「本当ぉ?」

「むしろ一般人に戦いを考えさせてる自分を恥じてる」

「ざーこざーこ。腕相撲最下位」

「お前らが強すぎるだけだろこの全身D粒子の塊がよぉ……!」

 

 僕が一位で椿さんが二位、姉さんが三位。流石に凝縮された質量の暴力は強かった。

 

「おかげで戦力にはなるでしょ」

「そりゃ……そうかもしれないが」

「僕だって別に好き好んで戦いたいわけじゃないよ。ディセットにできないことを僕がやるだけ」

 

 軍人として一般人を戦わせたくないらしいのは分かるけど、そんな悠長なことを考えていられるほど余裕があるわけじゃない。

 何より、この数日の付き合いで散々ディセットの性質は見せてもらった。その上で断言するけど、彼はただ別の世界の別の常識のもとに生まれついただけで、僕らと何ら変わりない感性を持った……同い年の、普通の少年だ。

 ゲームしてればその内容に一喜一憂するし、ソシャゲの露出度高いキャラにめっちゃ反応してドギマギしてるし、美味しいものを食べれば頬が緩むし、眼の前で起きてる理不尽には当たり前に怒りを見せる。どこまでも僕らと変わらない、普通の人間なんだ。だから、一人で戦わせるなんてしちゃいけない。どれだけ動揺したりしないよう訓練してたって、きっと心は摩耗する。

 父さんも以前、「何でもないように見える人ほど壊れやすいから、よく見ておいた方がいい」と言っていた。

 それに、同い年の友達に負担かけっぱなしなのは……違うじゃん。何か。

 

 軽くボヤくディセットを置いて会計を済ませる。釘にペグ、ワイヤーの束でしめて3000円ちょっと。

 ……懐が大激痛だ。生活費除き月5000円のお小遣いの半分以上が消えた。あの連中マジ許さん。

 店員はわけのわからない二人組(ぼくら)をガン見していた。何かニュースでやってたけど本当にああいう人いるのか、とでも思っているのだろう。

 

「昼はどうするんだ?」

「梅屋」

「……丼物か。俺どうしようかな」

 

 ディセットはインプラントで調べたから内容の説明はいいだろう。まずは財布を開く。

 期間限定メニューを頼むと1000円弱。牛丼は500円しないくらい。

 ……死ぬな、このままの出費では。常々外食するたびに思うけど、帰って自炊した方が効率が良いのでは……?

 交際費扱いで計上って手もなくはないけど、それって結局父さんに負担ぶん投げてるだけだし、そもそも家計簿の管理は僕の仕事なので、後回しにしすぎると結局僕が後で苦労するだけだ。

 まあいいか、たまには。

 

「――! ――!! ……――!」

「……!! ――……!」

「……何だ?」

 

 ふと、そんな折に外が騒がしいことに気付く。ここ最近よくあることだが、多分人体変異症のせいだろう。

 基本は本人の意図しないうちに突然起きる現象のため、誰がいつどのように変異するかも分からない。その辺にいる人が突然別人になるなんてことも、極端な例だがありうるくらいだ。

 そのため、現在は常に警察が過重労働を強いられている。車道に巨獣が飛び出してきて車を壊していくくらいのことはしょっちゅうのようだ。今日もそういう事例か、と思ったが……どうやら違うようだ。

 

「今日も大変だね警察の人たち」

「見に行くか?」

「野次馬するのも馬鹿らしいし、別に」

 

 興味はあるけど、無関係の人間が近付いても邪魔になるだけだ。誰かの命が危ないとかなら介入するのも一つの選択肢だが、別にそういうわけでもないようだ。

 今後、どうしてもこういう事例は増えるだろう。無関係なのに首突っ込んでったらキリがない。

 

「――Damnit……通じぬか、んん! だから迷子ではない! 確かにここがどこだかは知らぬが!」

「えー、女性署員を至急……」

「む! ちょっと待てそこの竜族、待たれよ!」

 

 ……甲高い、やや舌足らずな声で、何やら知ったワードが聞こえてくる。

 なんか明らかに僕らの方に声がかかってる気がする。いや気がするじゃないな。明確にこっちに声かけてきてる。

 竜族。これは霊術の世界の言い回しだ。

 

「貴公! その月光のような色味の髪に黒い角、もしやヴァルトルーデではあるまいか!?」

「誰ぇ……」

 

 そして明確にこちらに向かって駆け込んできた幼女が、古めかしい口調でそのようなことを告げてきた。

 桜色の髪に、枝分かれしたような真紅の角。その見た目はまさしく霊術の世界における竜族のそれだ。

 ふふ。どう考えても関係者確定です。勘弁してください。

 

「……おい、多分知り合いだぞ」

「知らないよぉ……」

「知らぬはずがあるまい! いやこの見た目では分からぬか!?」

「すみません、お知り合いですかね」

「知りません……」

 

 警官からすると、どうもこの幼女が僕らの関係者か知り合いという結論に至ったようだ。いや、多分肉体的には知り合いなのだろうけど……全然知らない……誰この幼女……。

 

「儂だ! グリムだ! グリム・アンピプテラ!」

「知りません……」

 

 というかよくその噛みそうな名字言い切ったな。

 

「知り合いですか?」

「ご存じないです。俺たち、ただの通りすがりなんで……」

「えぇ……」

「ええい知らぬはずがあるまい! 貴公がなぜここに……姫様はどこへ!? あとなぜ儂の体がこのようなことに!?」

「存じ上げません……」

 

 大混乱であった。

 オマケにこの知らない人から問いかけられた内容の全部に全く心当たりが無い。

 何言ってんの本当に。困る。警察の人もマジで困ってる。何ならほぼ無関係なディセットも相当困ってる。

 さっきから軽く頭を指で叩いたりしているあたり、インプラントに何らかの反応があるのだとも思う。

 ふふふ……この融合現象マジで分からん……。

 

 

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