融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合− 作:桐型枠
かなりどうしようもねえ事態に陥った僕たちだが、警察は「どうにかしろよお前らの知り合いだろ」という理屈のもとグリム某を僕らに押しつけ別の通報場所に向かっていった。
……理屈は分かる。個々人の間でどうにかなる事態は本人同士で解決してもらった方がいくらか楽だ。警察は人体変異症のせいで大量に色んな案件を抱えているし、無数に時限爆弾がある状態なのでこういう事態に手を回すだけの余裕が無いのだ。
お疲れ様です。ついでに僕らのことも助けてはくれませんか。無理ですか。そう……。
とりあえず僕らがどうにかしないといけないようなのでグリムさんをそのまま連れて帰ることにした。はたから見ると童女誘拐だが、こればかりはどうしようもない。竜族ということはつまりあの連中に狙われる可能性が高いということでもあるし、色んな説明が必要だし……。
「つまり、その現象に巻き込まれた結果、儂はこのような体になってしまった……」
そして、グリムさんはと言うと、一回の説明で割と具体的に状況を理解したようだった。
しかしこの人も理解が爆速だな。口調から考えると年齢も相応に高いようだったし、大人って理解こんなに早いもんなの? ヤバない?
「お茶です」
「うむ。ありがたい……」
「今IDを確認した。肉体的には文字通り混ざりものだな。ドラ……竜族の要素があり、かつ俺の世界のサイバネ技術が使われている。カナタさんと似たような状態だ」
「つまり貴公はヴァルトルーデ」
「ではないです……」
いや、混ざってるからその人の要素も多分、だいぶあるけど……。
「あなたはどういう人で、そのヴァルトルーデって人はどんな人なんですか?」
「儂はデルピュネス帝国において将軍の座に就いておる。貴公――ヴァルトルーデはその同僚だった」
「へー。将軍」
「俺より階級高い……」
そういえばディセットは一応特殊部隊の部隊長だっけ? 当然、階級としてはそれなりのものになるだろうが、一国の将軍格となると……いくつ階級違うことになるんだろう?
まあいいか、別に僕にそんな将器とか無いし、大仰な階級とかあっても困る。
「最年長の儂に対して史上最年少で将軍の座に上り詰めた神童、であるが故にその驕りもひどく、他人や部下を小馬鹿にしておった」
「…………」
「こっち見んな」
確かにちょっとそれらしい兆候こそあったけど、そんな無差別にやってるわけでも罵ったりバカにする目的でやってるわけでもない……はず……。
混ざってるから断言はできないけど……。
「それがこんなに落ち着いて立派に大きくなって……!」
「あー……そういえば椿さんもなんか『でっか』とか言ってたっけ……あと僕本人じゃないです……」
「融合だけに、年齢にも影響が出てるってことか。しかし、じゃあグリムさんは今いくつなんだ?」
「500からは数えておらん」
「あ、やっぱそういう感じ……?」
竜族って言うくらいだから長命だったりするのかなと思ったけど、やっぱりそういう点でとんでもない長命なのか。エルフじゃん。
でもエルフはエルフで別にいるんだよな。ややこしいな。まあ、長命種って言っても別に一種類だけじゃないか。
グリムさんは大きくため息をついた。
「しかし、よもやこの老い先短い爺がこのような幼子の体を乗っ取ってしまうことになるとは、情けない……」
「婆さんじゃなくて爺さん……!?」
「僕の前例あるじゃん」
「そりゃそうだが」
ある意味、性別が変わってるのが僕に限った話じゃなくて安心したくらいだ。
多分、男から女になった人も相当数いるだろうし、逆の人も結構いるんじゃないかな。
「……えっと、グリムさん。気持ちはわかります」
「うぅ……ヴァルトルーデが共感性を……」
「別人です。てかどんな人格破綻者なんすかヴァルトルーデさん」
さっきから聞いてる限り幼さから来る全能感とかそういうレベルで留めていいやつじゃなくない?
そんなのを将軍として登用するとかどんなイカれた国?
「ともかく、この現象に何か法則性や原因があるなら、元に戻れる可能性もある……かもしれません。まずは前向きに考えましょう」
「前向きにか……うむ、そうだな……」
「まずはドラゴンの命を狙っている連中どうにかしないといけないけどな」
「新たな不安要素が差し込まれて前向きになるのは難しいと思うのだがのう」
「仰る通りで……」
でも結局いつかは直視しないといけないことでもあるし……先送りにしてもいい問題なんて滅多に無いものだと言える。
さて……こうなると、どうするべきか。まず、緊急時への対処のためにウチにいてもらうのは半ば確定。とはいえ……どう部屋割りをすればいいんだ?
一応肉体的には女性というかもっと言うと小学生くらいの童女なんだけど、精神はおじいちゃん……だから姉さんの部屋にというわけにはいかない。ただでさえ椿さんもいるし。ディセットの寝泊まりしている父さんの部屋にというのも論外だ。
……僕かぁ。
「で、とりあえず……グリムさんは僕の部屋に滞在してもらうことにして」
「それしかないか」
「構わぬのなら、ありがたいことだが……」
「代わりに、いくつか頼みたいことがあります。霊術の指南、戦闘への加勢……情報提供も」
「うむ。委細承知した。ヴァル……」
「ナルミです」
「ナルトルーデ」
「ラーメンの具みたいになっとる」
NINJAじゃないんだぞ。
ともかく名前については問題ではなくて。
協力できる人間が増えたのならそれに越したことはない。特に、霊術やそれに関する知識をサポートしてくれるのは極めてありがたいことだ。
椿さんに知識が無いとは言わないが、それでも年季というものがある。あちらに無い知識をグリムさんが持っているということはあるだろうし、グリムさんが持っていない知識を椿さんが持っていることだってあるだろう。知識は多角的に用いることでより精度が上がる。一人ブレーンがいれば大丈夫などということは無い。
戦闘力についてどうかは分からないが、一国の将ということはそれ相応のものがあるだろうし戦術・戦略に関する知識がある……はず。あってほしい。いやでもどうかな。ずいぶん変な国のようだし……戦闘力特化で軍略はそれなりとか……。
まあそこはいいだろう。ともかく、人材としては極めて重要なことには変わりない。
問題は、そのうちまた帰って来るだろう父さんにどう説明するかということ。
「とりあえず、昼食にしましょう。まだお昼食べてないし」
……あと、更に人が増えたせいで食費がかさむことかな……。
「こ……これがグリムさん……!?」
「貴公……まさかアリサ筆頭か!?」
夕方。家でやるべきことを一旦終えてこちらに来た椿さんは、グリムさんを目にして驚きを口にした。
やっぱ知り合いだったのかと思うのと同時に、グリムさんも驚きの表情になっていることから、どうも椿さんの容姿はあちらの世界とそう変わりないらしいことが分かる。
一国の将軍と知り合いってどゆこと? いや、それは
ふふふ。厄ネタが大量に舞い込んできてウケる。
「てか名前同じなんだ」
「あ、はい……アリサ、までは同じです……」
単純な話でもないだろうが、個を示す名前が同じというだけあって自我を維持することができる確率がそれだけ上がるのだろうか。
そもそも偶然同じ名前の人間と融合する確率がどれだけあるかは別としてだが……現状、椿さんはどちらが主体とも言い辛いくらい、どちらの記憶も人格もほぼ完全に保持している。それが良いことなのか悪いことなのかは別にしても、精神的には最も安定していると言えるだろうか。
「二人はいったいどういう関係なんですか?」
「…………」
グリムさんが椿さんに視線を向けると、彼女は口の前で思いっきり指を交差させて「×」の字を作っていた。
なんか色々オフレコらしい。
「……霊術の世界では、巨獣を狩って人類の生存圏を広げることを目標にする『開拓者』という職業があります。その筆頭として、仕事を下ろしてもらっていて……」
「何を黙ってもらったのか知らないけどその話だけでも大概だよ」
筆頭ってなんだよ。
そんなの名乗っていいくらいなんだから、国家とか一組織単位での代表者、ないしはナンバーワンってことなんだよね。ディセットに続いて人類最高峰の人材がまた増えてる。
軽く戦慄していると、ディセットの方から「お前もだぞ」と言いたげなぬるい視線が刺さった。
そうだった。僕もなんか蛮族国家*1の神童とかだったっけ。そこに機械の世界のドラゴンも盛ってドラゴンの二乗。もしかして僕は相当強い方なのでは?
……やめよう。力の使い方すらよく分からないのに増長するのもアホらしい。
「アリサお……嬢。消息が知れずに不安だったが、無事で何より。貴公は姫様の行方を知らんか?」
「アズ様? あっちの世界に残ってるんじゃ……」
「儂だけがこの世界に来たのなら、わざわざ行方など聞かぬよ」
唐突な問いに椿さんは首を傾げる。そういえば、グリムさんを見つけた時もすごい剣幕で姫様がどうとか聞いてきたっけ。
言われて思い出してみると変な問いかけだ。普通、自分が見知らぬ土地にいると気付いたらまず「ここはどこか」を問うのが筋だろう。それだけ気が動転していたとも思えるけど、この口ぶりだとそういうわけでもないようだ。
「姫様はあちらの世界で二日ほど前から行方知れずなのだ」
「行方不明? 一国の王族が?」
「お忍びで街ブラついてるとか無いのか?」
「そういうことをされるお方だが、もしそうなら必ず誰かが影で監視している。行方知れずなどと表現はせんよ」
そういうことする人なんだそのお姫様……と軽くヒいていると、不意に脳裏に聞いたことが無いはずの高笑いが響いてきた。
そういうことしそうな雰囲気のやつだ。
なるほど、自分が見ず知らずの土地に飛ばされた上に、先に行方不明になっていた知り合いもいた。となればその姫様も同じようにこっちの世界にいると考えるのは自然なことではある。
「じゃあ、こっちに来てる可能性はあるね」
「確認だがグリムさん、その姫様とやらはドラゴン……竜族か?」
「無論」
確信があった。何せ自分自身が経験したことだ。僕みたく精神が別人になっているという可能性も決して低くない。
良くても見知らぬ土地で行き倒れ。悪ければもうとっくにあの連中に襲撃受けて殺されてるまである。たまたま僕らはこの近所に集まれたが、必ずしも近所にいるとも知れないし何なら海外にいる可能性も相当高い。捜索範囲が尋常じゃなく広い。
じゃあ仕方ないし探さなくていいか、ってわけにもいかないんだ、あまりにも要人すぎて。
本人の人格が残ってれば霊術も使って派手に動いて目立ってくれる可能性もあるが……。
「なんとかならんか?」
「……ディセットのワーカーって確かD粒子の固有反応検知できたよね?」
「流石に登録されてない粒子反応までは検知できないって」
「……警察に聞いてみるのは……どうでしょう」
「あっちもだいぶ手一杯だろうけど……情報を聞いてみるのは悪くないかもね」
対応してくれるだろうか。流石に難しいだろうか。困ってるのも僕らだけじゃないからなぁ。
昼間に見た限り、今の警察は死ぬほど忙しい。どこにいるとも知れない、戸籍すら無いような何者かを探してほしい……などと言われても困るだろう。そういうのは探偵の仕事だろうし、まさか捜査資料を部外者に見せるわけがない。
自分たちで探すのもかなり難しい。ディセットのワーカーの粒子レーダーがこういう場合にあんまり役に立たないっぽいのが痛い。
「……待てよ?」
レーダー。レーダーか。
「ディセット、レーダーの原理って分かる?」
「電波の反響で距離や方角を――電波?」
どうやら気付いたらしい。ディセットはまさかとでも言いたそうに訝しげな顔をした。
電波とは電磁波の一種だ。電磁波は電場と磁場が密接に絡む物理現象で――つまるところ、ディセットの追っていた木星在住一般通過ドラゴンの得意分野である。
「僕がレーダー代わりになって探す手ってアリ? ナシ?」
――役割が充電器だけじゃなくなった。