融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合−   作:桐型枠

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20.虚像と巨象

 

 

「自衛隊に動きは無い? 確か近くに海自の基地があったはずだけど」

「レーダーに反応はある。だが……」

「そもそも自衛隊の戦力だと、巨獣の進行を食い止めるのは難しいと思います」

 

 なにも、現代兵器が通用しないと言っているんじゃない。問題なのはどちらかと言えば相性の悪さだ。

 基本、この世界の兵器というものは対人用のものが大半を占める。対戦車、対航空機……みたいな分類はあるだろうけど、今迫ってきている特撮の怪獣か何かみたいな巨獣を相手にする場合など想定していない。

 長距離ミサイルやバンカーバスターみたいな高威力の兵器なら通用するだろうが、まず自衛隊に配備されているかという問題があるし、あっても国内の、それも市街地で使うなんて言語道断だ。

 一定以上に効果を発揮するだろう戦車は……現着まで時間がかかるだろうし、砲弾が効くか効かないかに関わらず進行を「止める」ことは難しい。ビックリさせることはできるかもしれないけど、怒って進行速度が早まることもありうる。だいいち、近くにあるのは飛行場だ。多分戦車は無い。

 

「グリムさん、あんたらの世界だとああいうやつはどう止めてんだ!?」

「止まらぬぞ」

「は!?」

「質量差が大きすぎる。軍の役割は、止められぬことを前提に死ぬ気で巨獣の進路を『誘導』することだ」

「あっちの世界の人間の生存圏は狭められていますが、その分人的被害を気にせずに済む場所が多いんです」

「日本で使える手じゃない……!」

 

 人口密集地以外全てが無人という極端な状態に陥っている霊術の世界だからこそ使える手だ。そもそも、既に市街地に入っているヤツに使えはしない。

 人的被害の出そうにない場所に誘導するのは必要なことだが、まずどういうルートを取れば被害が出ないかも分からない。

 

「目算、全高40mほど。横幅もガッチリ20m以上……の……象? じゃなくて、マンモス?」

「見えるのか?」

「やっぱり先輩も目が良いんですね」

「『も』? ……なるほど」

 

 どうやらグリムさんも見えてるみたいだし、竜族は総じて視力が良いのだろう。暗闇の中でも見えるだけの受容体を持っているのかもしれない。

 薄暗くて分かりづらい部分こそあったが、巨獣に近付いてくるとその全容が嫌でも見えてくる。それは、白煙を全身から噴き出す……マンモスだった。

 植生から違うし巨大生物が跋扈してる世界だ。そういう可能性は大いにありえたけど、なるほど。古代生物かぁ……思い返すと、前に現れた巨鳥も始祖鳥っぽくはあった……のか? 今更考えてもしょうがないけど……。

 

「ディセット、地図出して」

「どうするんだ?」

「それを今から考える」

 

 モニタに地図が表示され、敵と自機の位置が光点で示される。見れば、周囲の町並みにはいくらか破壊の跡が見られた。

 神奈川まで出てきたとはいえ、海がそんなに近いわけじゃない。本当は海上で戦うのが一番安全なのだろうけど……ともかく、地上で安全な場所を探す必要がある。

 マンモスはその巨体のせいで脇道に逸れることができず、基本的にはメインストリートを北上し続けている。このまま行けば線路に行き当たり、場合によっては駅まで突撃するかもしれない。できればそれまでに別の場所に誘導してしまいたいけど……どこへ?

 農地は近くに無いし、横に逸れて運動場やゴルフ場などに入ろうとすると今度は市街地への被害がシャレにならない。そもそも人のいない場所、と想定してもまだ深夜にもなってない時間帯だ。どこに行っても人がいる可能性は低くない。

 僕らも民間人だし、コラテラルダメージだと思って見過ごす……わけには当然いかない。責任負えないんだから。父さんの言う通りだ。こういう時は公的組織に所属でもしてる方が責任の分散がちゃんとできる。

 既に出てしまった被害はともかく、ここから先はできるだけ被害を出さないようにする前提で動きたい。

 と、なると……。

 

「一番広く場所が使えそうなのは、海自の飛行場」

 

 直線距離としては数キロほど。しかし当然ながら、その間にある建造物などを無視するわけにはいかない。

 ……もし仮にこれを全部無視できるなら。

 

「無重力って、どのくらいの範囲まで拡大させられる?」

「は? ……さ、最大稼働で半径50mは……いやでも、そんなのバッテリーが一分も……あ!」

()()()()()()

 

 ワーカーの電力消費の比率として最も大きいのは、光学迷彩と無重力発生装置だという話をディセットが以前していた。それを解消するために僕がバッテリーに電力を供給する案を立て、実際にそれが成功したため今こうして自由に乗り回すことができている。

 ――ならば、戦闘中の給電だって別に不可能じゃないのでは?

 極論というかいっそ暴論に近いが、できるできないで言えば多分できる。やったことは無いが、現状を考慮するとやらない理由が無い。

 

「先輩への負担が著しいのでは……!?」

「それは今考慮している場合じゃない。あと、多分ワーカー一機のバッテリーなら何とでもなる」

 

 少なくとも機械の世界における「ドラゴン」とはそういう生物のはずだ。

 現代科学を遥かに凌駕した技術力を持った世界においてすら価値を認められ、狙われるだけのものがある。なら、いっそ「できて当然」くらい傲慢な考え方でいいはずだ。

 ディセットは一瞬だけ迷う様子を見せたものの、すぐに行動で僕の提案に応じた。空中に指を走らせると共にコックピットの側面パネルの一部が開き、太いコードが二本露出する。磁力で引き寄せてみると、その先端にはまるで取って付けたような金属製の取っ手が取り付けられていた。

 

「なんですかこの先輩が充電するためにあつらえたかのような装備!?」

「あつらえたんだよカナタさんが! こんなこともあろうかとって!」

 

 ……あの時か!

 先日の黒騎士と戦った後、姉さんがワーカーの配線をいじってたことがあった。僕は漠然と、「その辺のコードそのまま引き抜いて使うわけにもいかないからなぁ」とだけ考えていたが、外部からでもコックピットの中からでも充電できるよう根本的に配線の見直しをしていたらしい。

 

「10秒後に接触する! ナルミは給電を切らすな! グリムさんとアリサは衝撃に備えろ!」

「――霊術(こっち)は!?」

「自己判断に任せる!」

 

 カッコよくぶん投げやがったこのエースパイロット!

 と、頭の中で批難している間にもワーカーは止まらない。ディセットの宣言どおりキッカリ10秒で周囲に展開していた自衛隊の部隊を飛び越え、巨象に肉薄していた。

 自然と両手に力がこもるが、破損のおそれがあるので力を入れすぎてはいけない。そして、電気を出すのも同じく。強すぎてもいけないが、弱すぎてもいけない。更に、掌以外の場所から電気が漏れてしまうのも避けなければいけない。今の大雑把なエーテル操作技術でできる最大限の精密さで僕はワーカーに電気を供給し続ける必要がある。

 椿さんとグリムさんは、衝撃に備えている様子は無い。ここからどうするか、その道筋がある程度見えているようだ。決然とした眼光を携えエーテルを励起させていた。

 

接敵(エンゲージ)!」

 

 明確に迫った脅威に巨象の噴き出す白煙の量が増え、その長大な鼻が振り上げられんとする。

 しかし、その動きは巨体故にやや鈍い。ディセットなら最小限の動きで回避するだろう、と思ったその時。

 

「大きく避けて!」

「!」

 

 椿さんの声に反応してスラスターがふかされ、コックピットが揺れる。なぜ急にそんな指示を出したのか、それが判明したのは横目でアスファルトに刻まれた跡を目にした時だった。

 

(見えてた軌道と違う……!?)

 

 こいつもあの怪鳥と同じ、特別な能力を持った生物か。

 見たところ、幻影……いや、そんな複雑なものじゃない。むしろもっとシンプルな……。

 

「光の屈折……」

「そういうやつか!」

 

 呟きに反応を返しながらも、ならば接触すれば関係ないとばかりに懐に潜り込んだ。ワーカーの腕が体毛の中に埋もれてしまうが、知らぬとばかりに背面ブースターが最大限に稼働する。

 ここでディセットの手が再び宙に伸び――そこで、モニタが白く曇る。先程から噴き出している白煙が原因……ではない。これは……。

 

「凍ってる……!?」

「まさかこやつ、極地にのみ生息しておる幻象(げんぞう)か!?」

「幻像?」

「幻を作り出す象!」

「ダジャレみてぇな名前しやがって……!」

 

 ……グリムさんの語る名前について今は置いておこう。だが、これで光を屈折させた原理と、先程からこいつが吐き出している白煙の正体が分かった。いずれも、大気中に拡散したごく微小な氷の粒だ。

 毛と毛の間から極低温を発生させているのだろうか。となると、幻は意図して作り出しているのではなく、あくまで副次的な作用だろう。

 この巨象の能力の本領は、幻によって接近を許さない点と――接近されたとしても冷気によって迎撃できるという点にある。

 

「宇宙空間でも大丈夫なんでしょコレ!?」

「宇宙に水分は無いんだよ!」

 

 流石に、宇宙空間での活動を前提にしているだけあってワーカー本体の耐冷性能は高い。中にいる僕らまで冷気は届いてこないようだ。

 しかし、冷気はどうにかなっても凍りついた水分を今すぐどうにかするのは難しい。……いっそ、電気をワーカーの全身に流すことで電熱を発生させるか……?

 そう思ったところで「どれ」とグリムさんが手を軽く挙げた。

 

「早速儂の出番のようだ」

 

 ――直後、ワーカーに張り付いていた氷の粒が、瞬く間に溶けて消えた。

 

「……!?」

「霊術?」

 

 開けた視界の中で薄桃色の光が瞬いている。恐らくは、術式を介さない竜族特有の霊術によってグリムさんが作り出したのだろう。おかげで難を逃れたのだが……。

 

「ぼんやりしとる場合ではないぞ。ディセット、すぐに動かぬか。アリサ殿は冷気を遮断!」

「お、おう!」

「ああ、もう、了解……!」

 

 理屈について問うより先に状況が動き始めた。再度ディセットの指が宙を滑り、モニタの一部に無重力発生装置(ゼロドライブ)のパラメータを映し出す。

 椿さんは指示に応じて空中に術式を刻む。極めて難解な紋様を描いているのは、それだけ複雑な霊術を発動するためだろう。単に冷気を遮断すると言っても、やり方は数多くあるしその方法によっては自分たちの首を締めかねない。

 光によって氷の粒が溶け、大気が遮断されることで冷気の拡散を防ぐ。これで問題なく、巨象――幻象も空中へ押し出せる!

 

「距離、方角よし……通信繋ぐ!」

 

 僕らは慌てて口をつぐんだ。一番被害の出にくいだろう自衛隊の飛行場に運ぼうという流れにこそなったが、当然あちらに許可など取っていない。通達もしていないし、無断であちらに運び込んでしまっては、逆に対応ができなくなるだろう。通信は必須だ。

 その際に僕らの騒々しい声が紛れ込むのは良くない。謎のロボットから助力の申し出があった、というだけの話じゃ済まずに変な話に飛びかねない。下手したら女子供が三人も乗っているということで誘拐の疑いをかけられるかもしれない。

 

「こちらMW(マルチワーカー)、ガルデニア。至急応答求む」

 

 ……このワーカーってそんな名前だったんだ、とか今更ながらに思っていると、数秒ほどの間をおいて通信が返ってくる。

 

『こちら厚木基地。マルチワーカーとは人型ロボットの呼称か』

「その認識で問題ない」

『所属と姓名送れ』

「それはできない」

『!?』

 

 所属も名前もこの世界に存在しないからね……うん……情報を与えたら逆に混乱する要素にしかならないんだよ、PMCとか火星とか……。

 

「だが、市街地での戦闘を看過もできない。今から120秒後に巨大生物を基地飛行場空き地部分に押し込む」

『何をっ――』

「以上、通信終わり」

 

 答えも聞かず、ディセットは通信を切った。

 答えを聞く必要も無いからだろうけど思い切りの良いやつだ。僕らみたいな一般市民だと、自衛隊ってだけで萎縮してまず何か応答してしまいそうだし。

 ……さて、問題はどちらかと言うとコックピットの中の方か。

 

「ひゃくにじゅうびょぉぉぉぉ?」

「やべ……」

「こっちの霊術がどんだけもつか分かってんの!? できるだろうけど相当無茶させられるんだけど!」

「で、でも自衛隊も部隊を展開する時間が要るだろ……」

 

 椿さん、文句バリバリの半ギレである。

 120秒、つまり2分ぽっちで帰還することができるかは疑問だが、まだ基地に残っている戦闘機やヘリは出せるだろうし、既に出ていったものも帰ってくることはできるかもしれない。よその基地から増援が来る可能性もある。補給が受けられない現在、基本的にブレード一本で戦うことになっているらしいディセットにとって火砲による援護は喉から手が出るほど欲しいことだろう。

 僕はまだ全然余裕がある――が、制御には手こずってる――けど、心情的には椿さん寄り。先に維持できる時間は確認しておくべきだった。

 "墜星"の内部機構もあるし、生きるエーテル生成炉と言える竜族がこの場に二人もいる。本人も言う通り「できる」んだろうけど、相応にキツい思いをすることになるはずだ。

 というかこの男(ディセット)別にサポートなくてもこのマンモス倒すくらい楽勝だろう。何でこいつ振り払おうとして視覚外から来た鼻の攻撃普通にいなしてんの? 空中で凝結させた氷の塊を撃ち出すなんて新技出してきてるのに見ずに掴んで表皮にお返しとかおかしくない?

 あ、いや、「視」えてはいるのか。機体各部のカメラはあるからそっちからの映像で――全面モニタの視界を確保するために相当な数が配置されてるのに映像全部処理できてるの? 前に下手すると脳がアレするって言ってなかった? え、キモ……。

 

「ともかく。飛行場に着いたらそのまま戦うんでしょ? 僕らはどうしたらいい?」

 

 ディセットの情報処理能力がすごいと言うよりキモい。という内心をおくびにも出さず、というか状況的に出せず、まずこの二分間でできる情報のすり合わせをすることにした。

 たった今それをしてなかったばっかりに怒られたやつ(ディセット)は一も二もなく頷きを返してきた。

 

「方針として、ガルデニアは所属不明謎のロボットという扱いのままで行く。皆はよっぽどのことが起きない限り外には出ないでくれ」

「儂らとて多少の支援はできる。何ぞやることは無いか?」

「み、民間人を戦いに巻き込みたくない……」

「とっくに渦中でしょうが!」

「儂も軍人だぞ」

 

 困ったようにこっち見んな。前見ろ前。そこ言い出すと僕だって現状ワーカーのサブジェネレーター扱い真っ只中ぞ。

 ディセットの発言は平時なら尊重されるべきものだが、ことここに至っては空虚極まりなかった。

 そもそも全員何かしらの理由で戦闘には関わっているんだ。グリムさんと僕の中の僕(ヴァルトルーデ)は将軍ってことで軍人だし椿さんはこの手の巨大生物を相手取る開拓者とやらの筆頭。

 

「だいいち、こっちの世界に所属組織も後ろ盾も無いディセットも現状一般人だろ」

「ぐあ」

「先輩そういうこと言うキャラでしたっけ!?」

二重人格になっ(キャラ変し)てる椿さんに言われたくなかった」

 

 僕にも自覚は無いながら、一定程度に人格に影響はあるのだろう。多分。

 そういうことにしておこう。

 

 

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