融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合−   作:桐型枠

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21.ビームと滑腔砲

 

 

「ともかく、早く決着つけたいんなら打てる手は何でも打った方がいいよ」

「ナルミは大丈夫なのか?」

「余裕」

「余裕!?」

「貴公それはちょっと儂も想定外だぞ貴公」

 

 え、普通そんなに長持ちしないってパターン?

 もしかして竜族よりドラゴンの方がエーテル生成能力高い? ……そりゃ体積が違うからそうなるか。

 

「だから僕のことは気にしないでいい」

「……分かった」

「ディセットは戦闘に集中。椿さんとグリムさんはできることを教えてほしい。できることが何か無いか考えてみる」

 

 ……と。言ってはみたものの、できることを探るのは難しい。

 ディセットの言う前提条件からすると、「中に他の人間がいると知られない」こと、「ワーカーが直接やったと思わせる」ことを目標に据えるとして……最適な方法というのはいまいち思い浮かばない。

 例えば鉄などを生成してもらって撃ち出す……と考えても、口径も分からないし、火薬もないため撃ち出せない。そこは僕が磁力を用いてレールガン……コイルガン? としてやればいけるかもしれないけど、ピンポイントでライフルの中に銃弾を作り出したりすることは困難だろう。

 だからと言ってよくやっているように自然現象を操るやり方は、明らかに技術体系が異なる。同じD粒子(エーテル)を用いているとはいえ、精緻な技術の結晶とも言えるロボットが突然自然現象を操り始めたらそれはそれで意味が分からなくて混乱するだろう。……そういうタイプのロボットももちろんいるけど、少なくともワーカーはそういうタイプには見えない。

 

「着陸する!」

 

 ディセットの宣言と共に地表が近付く。

 これだけの巨体だ。接地と共に大きな衝撃が発生するものと思っていたが、何をどう調整したのか、重心を転がして背中から着地させたにも関わらず、衝撃は最小限のもので済んでいた。

 代わりに、威嚇の声が発せられビリビリと空気が揺れる。ディセットはそれに何ら反応を見せることもなく、ブレードを抜いた小さな金属音と急加速のみを返答とした。

 

「その巨体じゃ起き上がるのも苦労すんだろ……!」

 

 体が浮くかと思うほどの一瞬のGと共にブレードが閃いた。

 巨象の首から胴にかけて一直線に傷が入る。体毛が切り落とされ、血液が噴き出――さ、ない。

 

「浅い!?」

「違う。傷口が凍ってんのよアレ……!」

 

 椿さんの言葉につられて見てみれば、確かに今ディセットが切りつけたはずの傷を白いものが覆っていた。

 今そういう風に処置したのか、それとも最初からそういう生態だったのかは分からないけど、ふざけた生物だなこいつ……。

 

「折れるか、下手すると……」

 

 熱衝撃(ヒートショック)。熱いものを急激に冷やすと壊れやすくなるアレだ。

 以前、ディセットはガルデニアのブレードが「振動と熱で溶断・切削する」ものだと語っていた。起動と同時に振動、それによって発生する熱量を用いる――という理屈らしいが、それほどの熱量を備えたブレードをあんな氷そのものみたいな体に差し入れたりしたら、刀身はいつまで無事でいられるだろうか。

 

「椿さん、あのブレードに外気の影響を受けないようにできる?」

「やれます。空気でカバーを作るようにすれば、切れ味も……!」

「ディセット、ブレードだけで勝てる?」

「勝てないことはない!」

 

 つまり、時間はかかると。

 しかし時間をかければそれだけ事態は悪化する。さっき見せた氷の弾丸なども周囲にばら撒かれれば戦闘機だってただじゃ済まないだろうし、仮にこの氷塊が上空に打ち上げられれば雹がどうとかいうレベルじゃなく冗談抜きに建造物が破損するし人が死ぬ。単純な質量に落下速度をかけ合わせるだけで簡易的な投石機(こうじょうへいき)の完成だ。

 そんなことをするわけにはいかないからこそ、薬莢がばら撒かれてしまいかねない街中での銃撃を控えていたというのに、敵がそれをやってくるんじゃたまらない。

 速攻で片付けるためにも、やはり火器は欲しい。

 

 ――そこでふと、先程の光景が頭をよぎる。グリムさんが発動した霊術、瞬時に溶かされた氷。

 少なくとも、熱を操っているだろうことは疑いようもない。

 

「グリムさんの霊術ってどういうもの?」

「簡単に言えば『光』と『熱』だ!」

「なら――」

 

 大丈夫か?

 ……多分、大丈夫だろう。

 確信は無いが、少なくともワーカーがこの世界の技術レベルで作れないものだという事実があればいけるはずだ。

 

「ディセット、ライフル用意して」

「撃つか?」

()()だけ10秒後に。グリムさん、ライフルの射線に沿うように超高熱の光を照射できますか?」

「む、分かった」

 

 承諾しながらも、グリムさんの声には「なぜこんな迂遠な真似を?」という疑問がありありと浮かんでいる。

 目まぐるしく景色が移り変わる。巨象を中心に、円を描くような軌道で幾度もブレードを叩きつける最中、キッカリ10秒でガルデニアがライフルを構え、グリムさんの霊術が起動する。

 ――その瞬間に、椿さんとディセットは僕の思惑を理解した。

 

「「ビームライフル!?」」

 

 人型ロボットの手持ち火器が光線を吐き出すという構図は、まさしくこの世界における「ロボット」の定型(テンプレート)の一つだ。

 グリムさんは何が何やらという雰囲気だが、問題無い。この光線もワーカーの武器の一つだと誤認させることに意味がある。

 いわゆるビーム兵器というのは、昔からSFで取り沙汰されてきた題材だ。だから、この世界の人間には「ロボットとはビームを撃つものだ」という大きな先入観がある。

 ガルデニアが実弾兵器しか搭載されていないらしいというのは、僕らしか知らない事実だ。先入観で「あのロボットはビームを撃てる」と誤認してもらえれば、パイロット以外の人間がいると知られず、霊術による支援ができ、銃火器に近い火力の攻撃が行える――と、現状の課題の多くが解決できる。

 ……っていうかこれ粒子線(ビーム)じゃなくて光線(レーザー)だろ。

 

「ブオオオオオオオオオ……!!」

 

 実際、この熱線は巨象に大きな手傷を負わせたようだ。先程までの沈黙が嘘のように大きな悲鳴を上げた巨象に、ディセットは更に流れるようにブレードの一撃を加えた。

 この調子で行けばそう遠くないうちに倒せる、と思ったところで僕の感覚はまた別の()()()の存在を捉えた。

 

「グリムさん、ライフルを構えたら今と同じ要領で撃ってくれ! 俺は――」

「ディセット、少し退()いて!」

「!」

 

 退き際、更に袈裟懸けに一閃。こいつ一瞬でも隙見つけたらマジで無限に差し込むな、なんて思いながら、巨象に突き刺さる弾丸の雨を目視した。

 帰還してきた戦闘機の援護射撃だ。ようやくと言うべきか、思ったより早かったと言うべきか。いずれにせよありがたい。

 視線を向けると、戦闘機のコックピットから外国人――在日米軍と思しき人がこちらに二本の指を立てて挨拶しているのが見えた。

 

「引いた意味あったか!?」

「射線塞いじゃってるんだよ! 近い場所で立ち回りすぎ!」

「な、なるほど」

 

 地上の目標を相手にするとはいえ、国内でミサイルをいきなり使うというわけにもいかないだろう。だから今使ったのは恐らく機銃。

 機関砲の特長は、戦闘機の激しい機動戦の中でも問題なく発射できる安定性と連射速度だが、集弾性が良いとは限らない。

 何より、戦闘機はヘリコプターなどの航空機と違ってその場に滞空し続けるということができない。常に射撃する側が動き続ける以上、銃弾を撃ち込む場所も変わり続ける。

 多分、ディセットはワーカー同士の連携と同じ感覚だったのだろう。神経接続技術のおかげでどんな機種でも一定以上に精密な狙撃ができるというのもあるかもしれない。いずれにせよ、これも「先入観」だ。早いうちに適応してくれることを祈ろう。

 

「ぬ……ディセット、やつが起き上がるぞ!」

「見れば分かる!」

 

 射線を開けるために引いたことで、攻撃が緩んだ影響だろう。巨象は身を(よじ)って今にも体勢を戻そうとしていた。

 だが、ディセットに大きな焦りは見られない。声音と裏腹にあくまで冷静に状況を俯瞰しているようだ。

 

「オオオオオオオ……!」

 

 低い唸り声、緊張に強張った四肢、地面に降りる霜。あからさまとも思える予備動作を目にして、選ばれた行為はやはり、攻撃だった。構えたライフルから吐き出される熱線が巨象の脚を焼き焦がす。

 ――直後、熱せられた大気が一気に塗り替えられた。

 大気中の水分が音を立てて凝結し、吹き抜ける氷の粒が一気に気温を下げていく。下手に地表近くに留まっていればそのまま凍りついていた、かもしれない。

 

「こいつ……手強いな」

 

 ……留まっていれば、だが。

 脅威を感じている風だが、即座に上空に逃れてスラスターの排熱を利用して無傷で済ませている男の台詞である。

 一般市民の視点から見ると、巨大生物が暴れまわっているという危機的状況なのにさ、なんかこう……危機感足りなくて雰囲気が軽いんだよ、このコックピットの中……。

 一方的な戦況過ぎてこれ動物愛護の何かに抵触しない? なんて無駄なことを考える余裕すらある。

 

「先輩、大丈夫ですか? これ、後で変な団体に苦情入れられたりしません?」

「『謎の人型ロボット』の連絡先を知ってる人がいるならね。仮に苦情来たとしても無視でいいよそんなの」

「放置しておけば街の被害が拡大する一方であろう。苦情を入れられるほど悠長な考えをしていられる者がおるのか?」

「「います」」

 

 実被害が出ている以上そこまで過激にならない――といいなあ――と思うけど、傷つけずにどこかに逃がせなかったのかとか絶対に言われる。ワーカーの出どころや武装も併せて死ぬほど面倒くさい政治絡みの話にも発展するだろう。

 そんなことするのはごく一部の人くらいだろうけど、ごく一部の人は確実にやるので、正体を隠していない限りこの問題から逃れることはできない。僕らは正体を隠しているのでこの手の問題にはノータッチだ。僕らは政治家じゃないんだ。多分変な問い合わせがアホほど増えそうな自衛隊とお役所の皆さんに対しては正直ごめんなさい。

 

「ヤツが復帰してくるぞ!」

 

 ディセットの声に応じて視線を上げると、地響きを立てて巨象がその身を起こす。

 絶え間なく浴びせられている機銃は――恐らく効果自体はあるのだと思う。しかし、巨象の毛皮は分厚い上にエーテルで硬質化しており、オマケに冷気の放出によってできた微小な氷の粒が銃弾にぶつかり威力を削いでいる。決定打にするにはやや心許ないか。

 一方、火力不足は僕らも同じだ。グリムさんも無限に熱線を撃てるわけじゃない。ブレードも一定程度に補強されたし、何ならもう一本予備もあるようだが、それだけでは……。

 

「弾薬の消費については一旦無視して、速攻で決着をつけるべきかもしれない」

「そうしたいのはやまやまだけど、大型グレネードとかミサイルなんて地上じゃ使えねえって!」

 

 配慮の行き届いた奴め!

 

「――いや、待て。大口径の滑腔砲がある。対ドラゴン用で、過剰火力だが」

 

 射角やタイミングを調整すればいけるか? と言いつつも、既にガルデニアは動いていた。

 円を描くような軌道で空中を滑るように移動し、撃ち出される氷の弾丸をブレードで溶解・迎撃。ライフルを一度収納し、逆側のウエポンラックから円柱状のそれとほぼ同じくらいの長さの大砲を取り出す。

 ……確かに、これは言うほどはある。同時に、こんなものを撃った場合の二次被害もすぐに想像できる。

 もしこの砲撃を外したり、当たったとしても貫通してしまったら、弾丸はそのまま遠くまで飛んでいく。10m以上はあろうかという砲身に見合うだけの大きさの、巨大な弾丸がだ。建造物は一発で壊れるだろうし、人間に当たったらミンチじゃ済まない。

 となると、消去法で地面。しかし、地下も配管があったり、自衛隊の飛行場となればもっと他に――。

 

「砲弾の種類は?」

「タングステン合金が弾体のAPDS弾」

「磁力は――」

「効かない」

「だよね」

 

 具体的にどういう弾丸かは知らないけど、タングステンは非磁性体。こちらの世界に来る前のことを考えると合金の中に磁性体を使ってはいないだろう。当然といえば当然だけど、磁力に対策(メタ)振ってるから、僕が軌道を曲げるようなことは難しい。

 更に、耐熱性も通常の金属とは比較にもならないほど高いため、グリムさんが溶解させるようなことも……。

 

(溶解――)

 

 いや。超音速で発射された弾丸を直に溶かすことは困難だろうけど、溶かす対象が銃弾じゃなければ……?

 ……ダメで元々。もし失敗しても物的被害だけだ。やる価値はある。

 

「グリムさん、これ溶かせますか!?」

 

 懐から取り出して見せたのは、先日購入した鉄製品――釘の束だ。

 刃物ではないとはいえ立派に凶器になりうる鋭利な工具だ。椿さんはギョッとし、グリムさんはやや困惑気味に頷いて返した。

 

「しかし、なぜ?」

「磁力が通る素材で弾丸をコーティングします。少しでも鉄片が残れば軌道を変えられるはず。ディセット、一瞬でいいからハッチ開けて」

「お前そんなのやったこともないのにだいぶ無茶言ってないか!?」

「無茶は承知の上だしそもそもこんな大砲撃つ機会普段無いだろ!」

 

 一度試せるならそれが一番良かったんだろうけど、まずこの滑腔砲やグレネードの存在を知らなかったし、下手に撃てば必ず被害が出る以上どこかで試すなんてことも論外だ。だからこの一回を試金石にするしかない。

 宙に浮かした釘の束が、グリムさんの作り出す高熱で一気に赤熱しその形を崩す。この状態でも磁気操作で動かすことはできる――か。

 

「大丈夫! どうせ今なら失敗してもものが壊れるだけで済むんだから! ディセットの腕次第で」

「そういうのプレッシャーかかるからやめろ!」

 

 言いながらこっちに向かってきてる氷弾全部叩き落としてるじゃん。これがプレッシャーかかってる人間の動きかよ。

 軽く引いていると、滑腔砲の砲身の先を映したモニタに赤い線が表示される。

 

「射線を表示した。ハッチは!?」

「開けて!」

 

 ほんの一瞬、わずか十数センチ程度。だが直径10センチにも満たない溶けた鉄の塊を外に放り出すには十分だ。

 ここで撃つ、とばかりにガルデニアが一瞬ピタリと動きを止めたのに併せて、モニタに表示された射線に割り込ませるようにして鉄の塊を()()

 

「撃つぞ!」

 

 寸分狂わず、弾丸はその中心を撃ち抜いた。

 

 ――タイミングを見誤ってはいけない。

 

 超高速で撃ち出される弾はコンマ一秒にも満たないほどの間に巨象を撃ち抜き、貫通するだろう。

 磁力で軌道を変えるのが早ければ弾の無駄。遅ければそのまま地面に着弾する。狙わないといけないのは、ちょうどその中間。直撃の瞬間だ。

 音は頼りにならない。視覚情報を頼りにしすぎるのも危険だ。どれだけ動体視力が向上していたとしても、目算ではどうしたって小さくない誤差が生じる。五感()()――電磁波や磁気をも感知するドラゴンのそれを含めた全ての感覚を総動員し、着弾を「感じ取る」。

 

(――今)

 

 刹那の間に、磁力で弾丸を引く。巨象の体内で急停止した弾丸が、衝突によって衝撃波を生じさせながらその体内を思い切り破壊したのが分かった。

 わずかな静寂の後、巨象の体が崩れ落ちる。周囲への被害は、どうやらほとんど存在しない。

 周囲から小さく息が漏れる。そのことを戦闘終了の合図として、再びガルデニアは光学迷彩で姿を消した。

 

「……なんとかなった、か……」

「なったけどさ……」

 

 息をつくディセットだが、ふと脳裏に色んな懸念が浮かぶ。

 戦闘直後で一番考え事をしたくないような場面だ。今すぐ言葉にしてしまうと皆の精神状態が不安になるし……。

 ……あと、眼の前で生物の命が失われていくの見ると、僕自身も精神的にちょっときつい。

 

「……?」

「どうした?」

「いや。気のせいかもしれないけど……注意しながら移動して」

 

 と。

 戦闘行為を間近にして気分がおかしくなっているせいだろうか。不意に、先日の黒騎士と相対した時と同じ嫌な感覚が一瞬だけよぎった。

 ……よもや、またあの連中が現れたのだろうか。それとも、もっと別な原因か?

 いずれにしても今は警戒を切らさないに越したことは無い。

 

 ……やっぱり、夕方に出歩くのは良くないかもしれない。

 

 

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