融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合−   作:桐型枠

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34.商談とコンテナ

 

 

 そもそも何で僕らが東京で姉弟二人暮らしをしているかと言うと、父さんが単身赴任中だからだ。

 で、その父さんが単身赴任することになったのは、本社への栄転が決まったためである。

 その会社がゲームで有名な求点堂。もっとも、父さんは開発とはあんまり関わりが無いらしいけど。

 

 ともかくそんな百戦錬磨のサラリーマンは、電話一本ではるばる京都から横浜に呼びつけられてだいぶ困惑していた。

 

「どういうことだカナタ!? まるで意味がわからんぞ!?」

「わたしもそー思う」

「僕もそう思う」

 

 ワケわかんないだろうね。

 僕らも半分くらい分かってないよ。状況に流されっぱなしだからね。フハハ。

 ……さて、一方CEOの方はというと、ご満悦だ。にこやかに手を広げて父さんを歓迎していた。

 

「ミスター神足! お初にお目にかかる。ALV(アルフ)社CEOのフォーグラーだ。よろしく」

「お、おわ。こちらこそ初めまして、私、求点堂総務部権利担当の神足と申します、はい。お噂はかねがね……!」

「ナルミ、もしかしておじさん偉い人?」

「割と」

 

 だから僕らを養えているとも言う。本当に頭の上がらない話だ。

 ともかくそういうことなので、最も信頼できる相手であり、かつ諸問題を解決できそうな父さんを呼び出したのだけど……うーん、新鮮。

 相手の立場が圧倒的に上だからだろうか。それとも、元々テレビでF1観戦するのが趣味なだけあって、関連企業のCEOと会ってより緊張しているんだろうか。

 ……いや、まあ、単に混乱してるだけの可能性もあるけど。

 

「つーか大丈夫なのか? 俺の雑な思いつきで来てもらうって」

「そこは……大丈夫じゃない? 多分だけど」

 

 商談については僕らは関与できないので相変わらず隅で経過を見守るだけになっている。

 なお、エーテルの撃ち合いはとうとうインベーダーゲームみたくなった。

 

「ではコントローラーの権利については先に提示した形で」

「少々お待ちを。我が社では通常のコントローラーとは別に、より直感的な操作が可能なコントローラーがございまして、磁気やジャイロスコープを用いたものが……」

「ほう」

 

 ほれ見ろ、大人はこういう時抜け目ない。

 確かにディセットは思いつきで言ったんだろうけど、CEOも琴線に触れたのは事実なんだ。そこに更に専門知識を持ってる大人(父さん)が来たらそりゃあそのままいい感じにブラッシュアップしてくれらあ。

 本当はもっとちゃんと開発の人がいれば良かったんだろうけど、そこはしょうがない。

 逆に営業職でも開発でもないのに単独で調整してる父さんがちょっとおかしい。ちょくちょく確認は取ってるみたいだけど。

 

 そんなこんなでしばらく。インベーダーゲームごっこも飽きて「これ磁力で工事手伝えるんじゃね?」なんてことも考えるようになった頃。ようやく商談はまとまったようで、父さんはやりきった疲れ顔、CEOは満足そうな顔で席を立った。

 

「実に有意義な時間だったよミスター神足。次はより詳細に話を詰めよう」

「光栄です、フォーグラーCEO」

 

 がっしり握手を交わす二人の様子は対照的だが、くたびれた風に見える父さんの姿も僕には輝いて見えた。

 ああやって仕事をこなし、疲れやストレスを溜めているのだろう。それでお金を稼いで家族を守ってくれているわけだ。尊敬という言葉ではちょっぴり足りないかもしれない。

 

「カナタ、ナルミ、少しこっちに来なさい」

 

 まあ尊敬の有無と叱られるかどうかは無関係なんだが……。

 僕と姉さんはすごすごと少し離れた場所にいる父さんのもとに歩いていった。

 

「急な話だと焦っていたのは分かるが、人を電話一本で呼びつけるような真似はやめなさい」

「はーい……」

「ごめんなさい……」

 

 いくら姉さんがカレンダー通りに休みだとは言っても、父さんはそうだとは限らない。すぐに話がしたいというCEOの言葉に乗っかった形ではあるものの、あまり行儀の良いやり方ではなかったのは確かだ。

 

「父さんは二人のためにはいつでも駆けつけるけど、それに慣れてしまうと他人にも父さんと同じものを求めてしまうよ。他の人に対してはよく気をつけなさい。いいね?」

「お父さん相手じゃないとこんな無茶言わないよ~」

「右に同じく」

 

 今回は姉さんがぽんと呼んでしまったが、僕だとそもそもちょっとでも迷惑がかかると思ったらその場で躊躇って、「時間ができたら」とか「無理はしなくていいから」みたいなこと言って、思い切り前置きしながら予防線を張ってしまうだろう。

 とはいえそれ以外の人……例えばディセットに無茶振りすることは十分に考えられるし、実際やっちゃってるんだよね……ちょっとワーカー出してよって……。

 以前のことを思い返しながら頭を掻いていると、父さんもそれで反省したと解釈してくれたのか、険しくなっていた表情を緩めてくれた。

 

「まあ、お説教はこのくらいにしよう。それよりナルミ、また怪我をしたようだけど、大丈夫だったのか?」

「うん、平気。僕頑丈だし、姉さんたちにも診てもらったから」

 

 先日の一件、流石に父さんにも連絡は行っているようだ。内容自体はややマイルドに脚色しているようだけど……巨大ロボに狙撃されて意識不明だなんて本当のこと伝えても困惑するか卒倒するかだろうし。伝えようにもね……。

 

「あまり危ないことに近寄っちゃいけない……と言っても、難しいんだろうなぁ」

「あっちから来るからね~」

「僕らもすっごく勘弁してほしい」

 

 怪我は避けたい。とは言っても、逃げるだけというわけにはいかないし、抵抗しなきゃ殺されてしまう。

 世界中でドラゴンの特徴を持った人たちが狙われ殺されているという話は伏せきれることでもないし、先に伝えておくことにするけど、やっぱり父さんは心配そうだった。

 何やかや撃退はできているし、ディセットや椿さんのような頼もしい仲間もいる。だから、返り討ちにすること自体はそこまで難しいことではない。

 ただ、怪我をしないでいるというのは、これは無理だ。相手は何が何でもという勢いで僕のことを殺そうとしてくるし、つい先日は何口径あるとも知れない巨砲で撃たれてもなお健在なことを示している。次はもっと確実に殺そうとしに来ることだろう。どんな手が来るかまでは知れないけど……。

 心苦しいけど、こればかりは僕個人ではどうしようもない。捕まえてしまうにしても……殺してしまうにしても、相手のアクション待ちしかできそうにない。

 なので結局、「頑張る」という曖昧な返答以外にできることは無いのだった。

 

「ところで、父さんはしばらくこっちにいるの?」

「本社で一度すり合わせをしないといけないから難しいなぁ。今晩は泊まるだろうけど……ナルミの方は大丈夫なのかい? 特にお金とか」

「雇ってくれるって言うから、お給料くらいは出してくれると思うけど」

 

 そんなケチケチした人じゃないし、仕事をこなせば報酬は出してくれるだろう。

 仕事内容については……どうなるとも分からないけど。

 

「雇う? カナタもか?」

「んーん、わたしは医者になるから雇われはしないよ~」

 

 この辺あっさり承諾した椿さんたちとは違い、姉さんはこれを固辞した。

 元から医者になるにあたって強い使命感を持っていて、かつ僕らと違って既に三年間大学で学んだ経験を棒に振るわけにもいかないからだろう。

 どう転んだとしても、最低でも医師免許は欲しい、らしい。

 

「ナルミはどんな仕事を?」

「僕? ……あれ、そういえば何するんだろ」

 

 要は大量のエーテルが欲しいという話だけで、具体的に何をするかまではよく知らないな。

 まさか変な装置に繋いで強制的にオラッ、D粒子出せ! みたいなことには流石にしないだろう。

 かと言って容器にエーテル詰めたら報酬を、なんて安直なことには……流石にならないと思うけど……。

 

「まずはあのコンテナ一杯にD粒子を満たしてくれたら報酬を支払おう」

 

 ……父さんたちを連れて聞いてみると、事前に安直すぎて無いだろうと思っていたことが正解だった。

 超えてきてくれよ! 想像をさぁ!!

 

「なんか……こう……入れるにしても特殊な密閉処理を施した最新式の容器みたいなのじゃないんですか……」

「現状できる範囲で良いものを用意しているよ。宇宙空間に行っても空気が漏れない程度の密閉処置は施しているくらいにはね」

「へー」

「そいっ」

「しかし粒子技術が発展していない今、すぐに用意できるものはこれが限度だ」

「粒子技術の発展にはD粒子が必要だけど、保存のために粒子技術があった方が良くて、って堂々巡りですね~」

「終わりましたよ」

「そのためにまず一歩を踏み出すんだよ。宇宙開発技術は専門外だが、少なくとも一定以上の効果が見込めることは機械の世界で――何だって?」

 

 ドラゴンの扱う霊術は基本的にエーテルを直に変換して現象を引き起こすものだ。エーテルだけ放出したいなら、この変換のプロセスを省けばいい。

 さっきエーテル飛ばしてインベーダーゲームごっこしてたのを、そのまま雑にして出力を上げただけみたいな状態とも言えるだろうか。

 で、通常攻撃で半径数キロが焼き尽くされるくらいの雷撃が出せるってことは、エーテルの生成量もそれだけ膨大なわけで……。

 

「好きな額を書きたまえ」

「ちょいちょいちょいちょい」

 

 CEOは暴走して無地の小切手をこちらに手渡してきた。

 ちょっと待ってほしい。いやマジで。あなた何考えてんですか。父さんも卒倒しそうになってるし。

 

「相場! 相場のお値段でいいですから!」

「日本円換算で1000万!」

「いっせんまん!?!?!?」

 

 この……こんな……ほんの5秒で1000万……!?

 金銭感覚が狂いそうだ。非現実的な金額のせいで頭がクラクラする。

 

「妥当なところだろうな」

「ウソでしょ……」

 

 流石にこの高値はどうか、とディセットに意見を求めたところ、むしろ肯定の言葉が返ってきた。

 

「D粒子はドラゴンが生成するものだから、自然に見つかる量はそれほど多くないんだ」

「小型のドラゴンを討伐して粒子製造器官を摘出することもあるがね、これでは需要に対して供給があまりにも足りない。そこで惑星級と呼ばれるドラゴンの()()()()を狙う」

「惑星?」

「惑星の公転軌道に微妙に重なる航路で常に飛び続けてるドラゴンだから惑星級。一番大きいけど、惑星と同じくらいデカいわけじゃない。ナルミの中にいるのもそいつな」

 

 なるほど、まあ、そりゃそうか。

 数十メートルや100メートル超えだって大概なのに、惑星と同サイズになんてなったら、便利粒子があるとは言っても自重で潰れそうだ。

 ともかく、これでだいたい話の輪郭くらいはつかめてきた。

 

「つまり、ドラゴンのテリトリーに入っていかないとまとまった量のD粒子は手に入らない?」

「うん。見つかったらまず死ぬってくらいの危険作業だから、そんだけ値も張るっつーこと」

「オマケにドラゴンは粒子を現象に転換するだろう? おかげで回収できる量も微々たるものでね」

 

 だからこんなに食いつきがいいのか……。

 変な比喩だけど、今の僕って無限に採掘できるレアメタル鉱山みたいなもの?

 これ多分供給が安定してきたら報酬もそれに応じて下がってくるよね。元手はそもそもゼロだし。本当に手に職をつけるのを目標にするなら、もっと別の方向性でちゃんとした仕事ができるようになるのが一番か……。

 

 ……二人して小躍りしてるCEOとディセットには水を差さないようにしとこう。

 

 

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