融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合−   作:桐型枠

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35.すき焼きとトカゲ

 

 さて、エーテルはコンテナに詰め込んだが、結局のところこれを観測して加工する技術が無ければ宝の持ち腐れである。

 機械の世界も、最初の一歩は粒子技術を用いていない観測手段でD粒子の存在を確認していたため、こちらの世界の技術でも頑張ればなんとかなるとはCEOの弁だ。ただ、まず肝心の機器を取り寄せるのに時間がかかるため、この日は解散。続きは翌日以降というはこびになった。

 というわけで、(税金などの心配事はあるけど)懐も温まり、時間もできた。父さんもこちらに来ているのでちょうどいいということで、僕らは皆して横浜のすき焼き屋にやってきていた。

 

「昼もいいもん食ったけど、何で夜まで急に?」

「昔から初任給入ったら――いやこれ初任給って言っていいのかわかんないけど、父さんと姉さんになにかごちそうしたいと思ってたから」

 

 ちょっと……どころじゃなく趣は変わってしまったが、それはそれ、これはこれ。

 ずっと養ってくれててありがとうという感謝の気持ちを表すのに別にいつでも遅いということも早いということも無いはずだ。お金の出どころや仕事内容は……まあちょっと横に置いといて……。

 

「そのような場に儂らがおってもよいのか?」

「気にしないでください、お金も結構貰っちゃってますし、お世話になってるのは変わらないですし――」

「うむ、なら遠慮なく。店主、日本酒を頼むよ!」

「何ナチュラルに混ざってんだよCEO(アンタ)ら」

 

 ちなみにこの場にいるのはいつもの五人に加えて父さんと、なぜかやってきたCEOと秘書さんである。

 何で来たのかと言われてもなんか来たとしか言いようがない。この人たち思ったよりフリーダムだな……。

 

「本社の方はよろしいのですか?」

「渡航制限が出ているから帰れないんだ。しばらくはこちらに滞在することになるだろうね」

「どうか我々のことはお気になさらず。支払いはこちらで」

 

 気にするわ。

 

「ご飯の量はいかがなさいますか?」

「普通が4、小盛りが1、大盛りが2で」

 

 ……まあ、協力相手ってことで受け流しとこう。変な人だけど、悪い人じゃないようだし。

 

 さて、ともかく牛すき焼だ。

 本当はウナギも候補だったんだけど、僕らは昼がお寿司だったので、昼も夜も魚というのは抵抗があったためお肉ということになった。

 老舗だけあって味も確かなもので、椿さんなんかは遠慮しながら大盛りごはんをあと3杯おかわりしていたくらいだ。

 単に脂の乗った霜降りというだけではない、確かな肉の味わいを感じ取れる柔らかいお肉は絶品で、コースで頼んでいたおかげで炭火焼きなども提供された。

 そんなこんなで、CEOが椿さんの積み上げたお茶碗の数に絶句し、デザートが配膳されようとする頃のことだ。

 

「そういやこれで秘密基地が作れるんじゃないか?」

 

 ふと思い出したようなディセットの言葉に、僕らも小さく声が出た。

 そういえば、うん。あったねそんな話。

 でも確かにスポンサーもついたし、大金もないではないんだよね……。

 

「おや、ディセット君もやんちゃなことを考えるね?」

「お父さん、ここで言う秘密基地っていうのは、ロボットを隠せるくらいのもので~……」

「あ、あー……」

 

 ここで言う秘密基地って、小学生くらいの子供が作るやつとワケが違うんだよね。

 もっとアニメとかに出てくるスーパーロボット作った博士がいる研究所みたいなのを思い浮かべた方が近い。

 

「あの工場では不満かね?」

「工場そのものに不満は無い。機能の問題だ」

「ふむ?」

「俺たちが欲しいのはあくまで敵からの襲撃を前提にした前線基地だ。被害が出るから市街地からは遠い方がいい」

 

 椿さんやグリムさんはともかく、僕のエーテルコントロールはかなり大雑把で下手すると辺りに被害を広げかねないし、ディセットはパイロットだからワーカーに乗らないと本領を発揮できず、小回りがきかない。

 頑張れば被害を広げずに戦えるのかもしれないし、そうなるように工夫もしているが、相手の方は多分周辺被害なんて気にしてない。市街地で周囲に気を遣いながら、よりは最初からそのための戦いの場を用意しておく方がいくらか気が楽だろう。

 そもそも「戦う」ということ自体激烈なストレスだけど……。

 

「工場に俺のワーカー置いといてもいいけど、それだとあんたの会社と俺との繋がりが疑われるだろ?」

「CEO自身や社員の方が狙われる可能性もあると思います。優先度は低いでしょうけど……」

「実に厄介な敵だな」

「世界を渡るような能力も持っておるからのう」

 

 あの人たちの能力の源はエーテルではない、もっと別の……理外の何かだ。

 このため、機械の世界にあるような粒子探知用のレーダーなどは意味をなさず、主に僕の感覚によって出現を感知することになっている。

 せめて何か、最低でも近くに敵が現れたことが他の人にも分かるような機械だったり設備だったりがあると便利なんだけど……。

 

「サンプルデータが無い以上はそれを探知することもできない。今後の課題だろうね」

「ダメか~」

 

 僕の感覚に由来するものは科学的な何かとは思い辛いし、ちゃんとした理論に基づいた警報機のようなものがあれば対応はできるだろうか。

 それこそ今鳴ってるスマホのアラートみたく……。

 

「うん?」

「警報?」

 

 というか……防災エリアメール?

 にわかに店内がざわつき、僕らのいる個室にまで声が聞こえ始める。

 なんだかこう……すこぶるヤな予感がしてきたぞう。

 

「ディセット」

「もう呼んでる」

「流石」

 

 とりあえずはこれでよし。

 というわけで、覚悟を決めて姉さんのスマホを覗き込むと、やはりそこには「巨大生物接近警報」との記述があった。

 東京湾海中で突如観測された巨獣は上陸を目指し、横浜港付近に向かって進行しているようだ。付近って言ってもじゃあどこ目指してるかって部分は全然わからない。せめてそこが判明すれば対策の立てようもあると思うけど……進路予測までは無理か。どこもかしこも避難区域指定されてる。

 僕とディセットが立ち上がるのに合わせ、椿さんやグリムさんも追従する形で立ち上がる。

 

「ちょっと行ってくる。おじさんたちは避難しててくれ」

「行くのかい? ……ナルミたちも?」

「ん。多分今は僕らが行かないと止められないし……それに僕がいないとディセットが全力出せないって」

「誤解を招くようなこと言うな!」

「バッテリーの問題でね」

 

 僕は並大抵のことでは死ななさそうだけど、それを差し引いてもガルデニアのコックピットは今の世界で一番安全な場所じゃないかって思う。今まで一度でも攻撃当たったの見たこと無いし。

 そこにバッテリーを気にせずに済むように僕が同行すればより盤石になる。多分……まあ、大丈夫だろう。

 

「アリサとグリムさんはこっちで避難を手伝ってくれ。出現したのが海から来るヤツだけとは限らない」

「心得た」

「先輩のことまた怪我させたら今度は叩くから」

「そうなったら俺が先に死ぬわ!」

「地獄から引きずり出してでも叩くから」

 

 同じコックピットに乗る以上は……まあねえ。

 物騒なこと言う割に殴るでも斬るでもなく「叩く」なのが椿さんの普段の穏やかさを思い起こさせる。

 性格が切り替わるようになってるだけで、やっぱり根っこの部分ではあまり変わらないのだろう。

 

「ディセット君も、怪我をしないように気をつけるんだよ」

「え……あ、はい! もちろん!」

 

 一歩踏み出す直前、父さんからかけられた言葉にディセットは一瞬フリーズした。

 かっ飛んできたガルデニアに乗り込んで、さっきのはどういうことなのか聞くと、照れたような自嘲するような声で返される。

 

「大人にちゃんと心配してもらったの、初めてかもしれない」

「……そう」

 

 気にはなる……けど、聞いていいことなのかな、これ……。

 

「ナルミ」

「ん?」

「聞きたいことは分かる。それに、俺も一方的にお前の事情だけ聞いてフェアじゃないと思ってる。対等な……友達としても」

「でも、今はそんな暇は無い、でしょ?」

「ああ。だから戻ったら話す。今は巨獣を倒すことだけに集中しよう」

 

 ただの口約束だとは分かるんだけど、それでも心が少し軽くなるのを感じた。

 我ながら、友達に自分のこと打ち明けてもらえるってだけでゲンキンなことだ。

 

 さて、ともかくまずは巨獣だ。

 姿までは見えないが、粒子と熱源の反応はずっとコックピットのレーダーに強調表示されている。

 ……めっちゃ強調されてる。

 

「なんか赤くない?」

「ホントだこりゃ赤い」

 

 …………。

 熱源デカくね?

 というか広くない? 粒子反応を見る限りその中心にいるらしいことは分かるけど、それにしたってこれは……。

 

「もうちょっと急げる?」

「ああ。なんか嫌な予感がしてきた」

 

 急速に湧き出た焦燥感に駆られて、その場所にたどり着いた僕らが目にしたのは、巨獣の巨体によって波打ち異様に泡立つ海面だった。

 

「海が……沸騰してる……?」

「……マジかよ」

 

 僕が自前の視力でそれを確認するのに少し遅れ、暗視モードに合わせたらしいディセットが驚きの声を上げる。

 大概異様な巨獣を目にしてきた僕らだけど、今回現れたそいつはまた一際異質だ。

 全身を覆う黒い鱗。トカゲのように這うような四足歩行ながら頭部はわずかに海上に露出しており、海中ではその脈動に合わせるようにして鈍く赤い光がぼんやりと浮かんでいる。

 ドラゴン……では、恐らく、ない。エーテルを生成している様子が無いからだ。となると、恐竜……いや、骨格を見るにトカゲ?

 

「あんなの街に近づけられるか! 押し返すぞ!」

「グリムさんたちに映像送って! 何か致命的なミスが起きてもまずい!」

「ああ!」

 

 急加速のGがシートを揺らす。

 まずは敵を下から押し上げるために着水すると、万全の気密性を誇るにもかかわらずなんとなく温度が上がっていくような感覚があった。熱水が装甲を温めているのだろう。

 

「う……お……!?」

 

 両腕で頭と首を押したその時、コックピットにアラートが鳴り響く。

 理由は、巨獣の表面温度だ。軽く200度以上……油の沸点に近い温度だ。海水が沸騰しているのはこのせいか。

 ワーカーなら溶けたり燃えたりということは無いだろうけど、これは……ちょっと別の意味でまずい。

 

「このままじゃコックピットが蒸し風呂だ。長期戦は避けて――」

『ディセット、少し待て!!』

「え?」

 

 グリムさん?

 

『まだ倒してはおらぬな!?』

「あ、ああ。けど早急にやっちまわないと!」

『巨獣の名が分かった! カマドオオトカゲだ!』

「竈なんてかわいい熱量じゃねえだろ!?」

 

 ダジャレ命名シリーズがまた更新されてしまった……。

 この熱量を思うとディセットの言うことももっともだが、霊術の世界だとそもそも機械技術なんかも無いし、結果周りを熱するという特徴でもって「竈」なんだろう。

 

『結論から話す! そやつを殺すと周囲一帯を巻き添えに大爆発を起こす!』

「「は?」」

『海上では更に爆発の威力が高まる! ええと、アリサ筆頭曰く……水蒸気爆発! だそうだ』

反応炉蜥蜴(リアクターリザード)とかにでも改名した方がよろしいのでなくて?」

「クソトカゲがぁぁーっ!!」

 

 控えめに言って最悪の状況だ。

 しかし単純な戦闘能力だけではどうにもこうにもならないパターン多いな毎度毎度!

 

 

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