融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合−   作:桐型枠

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38.隕石と暗黒物質

 

 

「全く何ともこれっぽっちもわからないなワハハ」

「ワハハじゃねーんだわ」

 

 翌日、持ち帰った岩塊に大量の計器を繋いだCEOは、もうまったくもってお手上げという風に僕らに笑いかけた。

 笑いかけたっていうかもう笑うしかねーやという感情なのだろう。あれだけ色々繋いでガルデニアまで持ち出してインプラントの機能まで総動員しての結果が「何もわからんことが分かった」である。軽い徒労だ。

 未だ僕の頭の中にはイヤ~な感覚が渦巻いているし……これいつまで置いとくの?

 

「計器という計器に反応しねえ、D粒子のように目視もできねえ……どうすんだこれ」

「ふむ、まあ逆に考えたまえよ」

「逆?」

「一切の計器に反応しないということは、突然全ての計器類が反応を示さなくなった場所にこの物質があるということです」

「……言われてみれば」

 

 秘書さんの言葉に頷く。そもそもこの世に全くの無なんてものは存在しない。

 例えば放射線量を示すガイガーカウンターなんかでも、「検出下限未満」を示すことはあっても全くのゼロを示すことはまず無い。自然界にも普通に放射線は発せられているからだ。

 しかし、この謎物質があると何も検出されなくなる。もっと言うと、反応を示せなくなる、だろうか。姉さんがいればもっと詳しい説明をしてくれるかもしれないが、残念ながら今は椿さんと一緒に父さんの見送りに行ってる。

 

「ここまで異質だと逆に機械的に検出するのは容易いかと。すぐに手配します」

「光学的に目に映るものではあったのが幸いだったね」

「すっごい勢いで懸念が解決してく」

「これが大人の力ってやつか……」

「金の力だと思う」

 

 今までの僕らだとそもそも計器類を手に入れるってことすらできなかったわけだし。

 まあ広義で言えばこれも大人の力か。マンパワーにせよマネーパワーにせよ、適切にそれを運用できる能力を培っている人は強い。

 一方、そんな「大人」の一人でもあるグリムさんは、僕と同様に嫌そうな顔をしながら岩を見てふと疑問を口にした。

 

「しかし、なぜ宇宙にこのようなものがあったのだ? この……物質は」

「未知の物質ということで仮に暗黒物質やダークマターとでも名付けるべきかね」

「安直な……」

「デブリなんだからそりゃあるだろ……って話じゃないよな?」

「うむ。この物質を儂らが感知したのは敵が現れた時くらいだった。これまでこの世界で普通に暮らしていて、同様の物質の存在を感じ取ったことは他に一度たりとも無い」

「レアメタル鉱床みたいに、特定の場所にしか無いってことは無いでしょうか?」

「可能性はある。だが、それならもっと『そういうものがある』と誰かが気付いていなければおかしいのではないか?」

 

 それは確かに。秘書さんが言っていたように、あまりに異質すぎるものは、逆にその存在が際立って浮かんでくる。これまでこの世界に存在していた物質であれば、誰かがこれに気付いていなければおかしい。

 そして新元素が見つかれば、そういう情報が世に出ないなどということはまずありえない。宇宙空間だってそれは例外じゃない。むしろ宇宙で新物質が見つかったなんてことになったら大ニュースになってることだろう。一般人の手の届かない場所で研究される可能性は高いとはいえ、あれだけあちこち飛び回ってて一度も感知できないなんてことはまず無い。

 まあ敵が置いておいたか、何らかの理由で放置せざるを得なくなったか……というのが真相だろう。

 

「……まあ、十中八九奴らが設置したか、なんか作って放りだしたかなんでしょうけど、だとしてそれはなぜ?」

「俺もう面倒くさすぎて考えたくねえ。目の前に出てきたのサクッとやってしまいてえ」

「思考を投げ出すでないわ」

「ハハハ。これは思考を捨てたら死ぬパターンだろうな」

「死」

「ナルミ君の攻撃で壊せなかったのだろう? つまり大気圏で燃え尽きない隕石が我々の真上にあるということだ」

 

 今回はたまたま10メートルほどの岩塊――僕が攻撃する前はその倍ほど――だったが、必ずしもそんな小さめのものを選ぶとは限らない。確実に僕らを殺そうとしてくるなら、もっと大きなものを選んでより被害を大きくしてくるだろう。

 以前の戦いでもスナイパーライフルの弾丸の威力を強化していたため、同じように何らかの方法で威力を上げる手段があると考えることもできる。通常時の倍のスピードを出せると仮定すると……。

 

「地球に落ちた隕石で、サイズと速度のデータってある?」

「え? あー……出た。ツングースカ大爆発で推定60メートルくらいだってよ。速度は分からん。普通の隕石基準なら秒速12kmくらいらしいが」

「じゃ、ざっくり速度倍で考えたら威力はTNT爆薬20メガトン相当?」

「キミ今どうやってそれを導き出した?」

「ざっくり計算なので細かいことはお気になさらず」

「……23区くらいの範囲なら確実に滅ぶな」

 

 敵がこれをどのくらい作れるかは分からないけど……いや何個だろうとロクでもないことになる予感しかしないな。隕石なんて一つでも落ちたらその時点で大惨事確定だ。

 

「……作戦会議!」

「うっす」

 

 とりあえず、一人で考えたところで結論なんて出ようが無いので集合知に頼ることにする。

 多少のことなら自力でどうにかしたいという変なプライドはあるが、人命がかかってる状況だしそんなものポイだポイ。

 五人で集まってガーデンテーブルを挟んで顔を突き合わせる。状況が状況のためか否応なく皆表情は真剣だ。

 

「しかしどうすんだ。ワーカーでも隕石はキツいぞ」

「壊せないわけじゃないんだね」

「ああ。ただ、逆にバラバラになって被害が広がる可能性が高い。連中が用意してるものの大きさや数にもよるが、巨獣みたく単騎で対処すんのは無理だ」

 

 そもそも、その巨獣だって本当の意味で単騎で対処しきれてるわけでもない。全部に対処できているわけでもないし、僕らの近くに現れたもの以外は手の出しようがないからだ。

 

「せめて各国の軍と連携ができるなら違うのだろうがのう」

「色んなハードルが高いですねそれは……」

「まず俺らの話信じるのかよそれ」

 

 世界融合事件には真犯人がいて、そいつらがドラゴンを殺そうとしてるんです。

 ドラゴンっていうのはこれこれこういう生物でこの世界には存在しない謎粒子を発生させるんです。

 ……って説明してどれだけの人が信じるんだか。オマケに隕石で地球攻撃を目論んでる(推定)なんて何の映画か漫画だと一蹴される可能性が高い。

 

「では逆に考えよう。相手が信ずるに足る情報だけを流すのだよ」

「騙して釣ろうって?」

「いや、違う。我々のように異世界の知識や記憶を得た人間はそう少なくない。一般人のみならず、私のような社会的立場のある人間もそうだ」

 

 今さりげに自慢したな。

 

「つまり、そういう人たちの興味を引く情報を流して、自分の方から宇宙に目を向けてもらうということですか?」

「一種の賭けだがね」

 

 実際、他人から言われて何とも知れないものを漠然と探すよりは、自発的に、目的意識を持って自分の目で異常を確認してもらう方がいいだろう。しっかりと危機感を持ってくれればそれだけ真剣にコトに臨んでくれるはずだ。

 実感の伴わない、他人から言われてなんとなく持たされた程度の危機感では、人はなかなか動かない。

 

「儂らの世界の者なら『宇宙に適応した巨獣が現れたかもしれない』とでも言えばよかろう」

「俺たちの世界なら『イーバが来たかも』で行けるか」

「そんなところだろうね」

「ではバックストーリーはこちらででっちあげます」

「俺ん時みたいな怪文書送られても困るから頼むよ秘書さん」

「お任せください」

 

 CEOはうんともすんとも言わず、曖昧な笑みだけを浮かべていた。

 怪文書扱いは割と堪えたらしい。

 

「……ともあれ対策を練っても未然に全て防止できるとは限らない。落ちた場合のことも考えなければならないだろう」

「特殊合金が作れるようになるんですよね? シェルターとかを作ったりはできませんか?」

「早期に技術が確立するかの勝負だ。まあ、うちの技術者は皆優秀だからね、期待して待っていてくれ」

「期待はする、が……やっぱなるべく落ちてくるのを食い止めた方がいいんだろうな」

「しかしどうする? 隕石の撃墜など現実的ではないぞ」

 

 さっきのディセットの話からすると、隕石の速度はだいたい秒速12km。時速になおすとおよそ43200km/h、約マッハ36だ。近寄っても人の目で認識できる速度ではないし、空気抵抗によって不規則に減速もする。撃ち落としたいならこの速度に正確にアジャストしないといけない。できるならまさに神業だ。

 地球脱出速度を出せるんだから、僕はギリギリ相対速度を合わせていけるか? 

 

「多少なら僕がやれると思います」

「多少やれるだけで値千金なのだがね!?」

「儂はあまり役に立ちそうにないな」

「つったって一人じゃカバーできる範囲は限られるぞ」

 

 そこなんだよね、問題は。

 たとえ隕石のひとつやふたつくらいは破壊できるとしても、移動能力には限界がある。同時に複数箇所に落とされたりしたら対応は難しい。

 ただ……うーん……ただ、これ、どうなんだろう? 本当にやる気なのか?

 確かに彼らはドラゴンを殺すために構わずその周囲の人間をも殺すような人たちだ。でも、これは規模の桁が違う。いや、とっくに世界全体を巻き込んで被害を出しているのだからという考え方もあるが……。

 

「……CEO、機械の世界について少し質問いいですか?」

「何だね?」

 

 何でそこで俺に聞かないんだと自分を指差しアピールするディセットは一旦無視する。

 

「あちらの食料の話です。少し話は聞いてますけど、なにも全部が全部合成食品みたいなものじゃないですよね? どういったものが、どこで作られてるんですか?」

「その話は今必要かね?」

「場合によっては」

「ふむ……そうだな。例えば軌道リングに食料供給専門の区画が設けられていたり、簡易的なスペースコロニーや火星居留地で食料生産が行われている。基本は水耕栽培。タンパク質は培養食料で賄うことが多い」

「俺食ったこと無い……」

「キミはそうだろうねぇ」

 

 ……つまるところ、ディセットが美味しいもの食べたこと無いっていうのは、世界全体の問題じゃなくって個人の問題ってわけか。

 多分、その方が管理が楽だからってブロック状の合成食料ばかり与えられてきた、みたいなパターンだろう。不憫な。

 

「宇宙だけで食料自給は可能なんですね?」

「だいたいは……なるほど、ナルミ君の言いたいことはそういうことか」

「どういうことだ?」

「敵も一応は人間だろう。栄養補給は必ず必要だ。隕石を落とすにしても、やりすぎれば自分の首を絞める結果になりかねない……が」

「宇宙空間で補給できるんならその心配も要らねー……クソ、じゃあ全力でやってくるか……」

 

 地球全土に影響を及ぼすほどに攻撃を行えば、それだけ食糧供給が滞る。だから、その辺の心配があれば相手も攻撃をためらうかもしれないと思ったんだけど、アテにはできなさそうだ。

 栄養でふと思ったけど、何で僕はこんな狂った質量を凝縮した肉体してるのに普通の食事でこれ維持できてるんだろう。謎だ。

 ……まあ、今重要じゃないし、そこは置いとこう。そもそも、大元のドラゴンだって宇宙空間で何食べて体を維持してるんだって話だし。

 わけのわからない生態を考慮すると文字通り霞を食べて生きてるなんてこともありうる。あとは電気とか。考えるだけ無駄だ。

 

「すみませんCEO、昨日のマスドライバーもどきの要領でレールガン撃つつもりなので弾が欲しいんですけど」

「ほう」

「弾丸にするために世界各地にスクラップ置いとくのと、いざその時になって世界中の鉄材引っこ抜いて回るのとどっちがいいですか?」

「つまり事前に妙なことをしていると追求を受けるのを躱すことと、事後に隠蔽をして回るのと、どちらが面倒かというお話ですね」

「嫌な二択を提示してくれる……」

 

 世界中を超音速で飛び回りつつ落ちてくる隕石にできる限り対処していくとなると、実体の無い電撃だけでは少々難しい。やっぱり質量は正義だよ質量。

 あと磁力誘導だから必中させられるという利点もある。

 

「大丈夫かよオッサン。粒子技術で稼ぐ以上に出ていかないか、金」

「それは無い。それに、地球が滅びては金を稼ぐも何も無いのだよ」

「それなら安心したんだが、安心ついでにあいつ用の通信機とか開発できねえ? 普通の電子機器だと壊れるし」

「二人して無茶振りをするものだなぁ!」

 

 サーセン。

 二人してへへへぇと軽く頭を下げた。

 

「無茶振りついでにあと俺のワーカー用の弾丸とかも……」

「製造させるからその話は後にしてくれないか!」

「急に厚かましくなったのう貴公」

 

 とはいえある程度厚かましくしていかないといけないのも確かだ。だって弾丸足りないからってことでこれまでずっとまともにライフルとか使えなかったんだし。

 元々、CEOに協力する決め手の一つでもある。ワーカーの補給という取引ありきなのだから、釘を差すことも必要だ。

 

 ともあれ今は何もできないしある程度想定をしつつ臨機応変に、ということで話も落ち着いてきた。そんな折に秘書さんのスマホに着信が入る。怪訝な顔で通話に応じたが、予定外の何かが起きたということだろう。流石に今すぐ隕石が落ちてきたとかは無いと思いたいが……。

 

「皆様、少しお話が」

「どうしたんですか?」

 

 さっきの今で急に何か状況が変わるということも無いだろうけど、もしかして粒子技術の件で何か進展があったのだろうか。

 

「巨獣案件かと思われます。江の島付近にて謎の巨大生物が打ち上げられているのが発見されたとのこと。なんでも透明な……チューブ状の生物? 植物……? だとかで……」

 

 

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