融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合−   作:桐型枠

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40.漫画家と無礼

 

 

「顔がいい……!!」

「は?」

 

 安心させるために……というのと、万が一相手に触れて怪我などさせてしまってはいけないということで全身から放出する電気を止めた後、女性の発した第一声がそれだった。

 まさか僕の耳がおかしくなったのだろうかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。この人混乱で頭がどうかしてしまったのだろうか。

 

「ちょっとスケッチさせてくれませんかね!?」

「いや、そんな状況じゃないんで……」

 

 今まさに異形の生物に襲われかけたっていうのに、のんきな人だな……。

 いや、案外それを見に来たって線もありうるか? イーバのスケッチもしてたようだし、巻き込まれたんじゃなくて野次馬根性で見に来た人のうちの一人ってこともありうる。

 だとすると面倒臭いな……この手の人への対処法とか、僕知らないぞ。CEOや秘書さんに任せてしまいたいな……でも通信機器無いしな、とりあえずこの人回収して、車に戻らないと。

 ……今は本当、僕が基本的に表情変わらなくて良かった。相手にこちらの考えを知られることも無いし。

 

「怪我などはされていませんか?」

「怪我? いやー、ずっと隠れて見てただけなんでピンピンっす」

「安心しました」

 

 ……まあ、安心は、した。したけど何だか釈然としないくらいピンッピンしてるなこの人。

 あ、そうか。そもそも普通の人にとってイーバってどんな生物なのか分からないんだ。僕らはたまたまディセットやCEOが知識持ってたからその危険性を知れたけど、何も知らない人が見たら、今回の件は「よく分からないうちによく分からない人たちが謎の生物を撃滅した」という状況でしかない。危機感もクソも無いや。

 

「ところでこれ何かの撮影っすか?」

「現実です」

「ははは、バカ言っちゃいけないすよ、人間があんなことできるわけないじゃないっすか。怪物、は最近よく出ますけど」

「ふんっ」

「はは……は……」

「現実です」

 

 理解しようとしないならわからせるに限る。掌の中で雷の玉を弾けさせることで女性に現状をより克明に知らせることにした。

 トリックに見えるでしょう。これ現実なんですよ。タネも仕掛けもあるけど。

 現実逃避したいんだろうね。わかる。僕も正直何度も現実逃避したかった。

 ……そろそろ騒がしくなってきたな。光の塊が飛んでいくのが見えたんだから当然か。これも現実逃避したいけど、させてくれないんだよね。知ってる。

 

「ショックを受けているところ申し訳ありません。少し説明したいことがありますので、ご同行をお願いできますか? その後でしたらスケッチでも何でもして構いませんので」

「は、はぁ……」

 

 動揺しているところに畳み掛けると、女性は渋々ながら、まずはここから離れようという提案に従ってくれた。

 で。

 野次馬に出くわしたり、騒動を知ってやってきた警官に見つかったりしないよう注意しながら10分ほど。ようやく合流できた頃には、僕も含め皆精神的な疲労を隠しきれてなかった。

 

「見物人が多すぎる……!」

「みんな珍しいものが見たいって気持ちがあるんでしょうけどね~……」

「あ゜ッ顔面偏差値高ッ」

「…………」

 

 僕は別の理由で疲れていた。

 

「ナルミ君、そちらの磨けば光るかもしれなさそうなレディは?」

「竜族らしき人だったので同行をお願いしました。まずかったですか?」

「いいや、実によくやってくれた」

「グリムさん、知り合いだったりは?」

「せぬ。顔に見覚えが無い」

「分かりました。CEO、説明はお任せします」

「承ろう」

 

 僕らが乗り込んでドアが閉まると、ディセットの乗車を待たずに車は工場に向けて出発した。どうやらガルデニアに乗ったまま帰るらしい。立て続けに襲撃が起きるかもしれないのを警戒してるんだとか。

 実際妥当なところではあるだろう。前も滅茶苦茶嫌なタイミングで襲撃を受けたことだし、警戒はどれだけしてもし足りない。

 

「ううっ、朝起きて人体変異症にかかってると思ったら近所に変な怪物は流れつくし、やたら顔のいい人たちに連れ去られるしいったいなんなんっすか……」

「混乱しているところをすまないね。だが、これもキミの命を守るためだから大目に見てくれ」

「はあ……」

 

 この人、今朝急に融合現象に遭ったのか。だとすると、敵もこの人のことは捕捉できていないんだろう。

 偶然とはいえ、敵に殺されるよりも早く見つけられたのは幸運だった。戦えるタイプの人には見えないし。

 

 CEOはそのまま、工場に戻るまでの間に三つの世界が融合しつつあるらしいこととそれぞれの世界に存在するドラゴンの特異性、そのドラゴンを狙う謎の勢力がいることなどを説明しきった。

 僕らはだいたいの事情を既に知っているから、初めて会った時も情報のすり合わせをする程度で済んでいたけど、何も知らない人にイチから語るとこれくらいにはなるというところか。

 逆に、これでとりあえずは納得してくれたあたりにCEOのプレゼン能力の片鱗がうかがえる。

 

「はえ~……なんかすごいことになってるんっすねえ」

「あなた命狙われてる当事者ですよ」

「なにっ」

 

 あ、ダメだ。実感ゼロだこの人。

 いや、確かに一回敵と会って見てみないと実感も何も無いだろうけど!

 

「何でこんな場末の絵描きなんて狙うんっすか!?」

「粒子製造器官を破壊しようとしてるみたいだけど、詳しい理由はわかりませんね~」

「じゃあこんなのポイできないんすかポイ!」

「肺や心臓を容易に取り出せるのか貴公? それと同じことだぞ」

 

 一応、僕も一度CTやMRIを撮ったので知らないわけではないが、粒子製造器官というのは、「器官」という言葉が示す通り内臓の一部だ。核とも呼ぶべきものが心臓と癒着した状態で存在し、全身に巡っているリンパ管のような管を通じて外部にエーテルを放出し続けている。当然だが、取り出したら死ぬ。

 僕も何度こんなもの手放したいと思ったことか。もうここまで状況が進んだら流石にそういうわけにもいかないと諦めもついたけど。

 

「そもそも、あの場所は立入禁止区域になっていましたよね……秘書さん?」

「はい。そのように依頼を出しておりましたし、立入禁止になっていたことも確認しております」

「何でいたんですか~?」

「え、いや、あー……あはは……気付かなくって……?」

 

 気付かないわけないでしょうが。

 

「そんなわけで、殺される前に保護しなければならないわけだよ」

「到着です。皆様、お疲れ様でした」

 

 CEOのシメの言葉と同時に到着し、僕らはようやく再びひと息つくことができた。

 いやあ、開放感――などと思いながら軽く伸びをすると、妙に突き刺さるような視線を感じた。

 胸をガン見されていることに気付いたのは、竜族の女性が姉さんと椿さんに冷たい視線を浴びせられているのを目にしてからのことだった。

 

()()()かな~?」

「生まれも育ちも純粋に女性っす、はい……」

「魂におじさんを飼ってるタイプですか……」

 

 ……気にせんとこう、うん。

 なんだかんだ言いつつ椿さんとかもちょくちょく見てきてるし、ディセットなんかもう露骨に分かりやすい。10秒に1回くらいのペースでチラ見してくる。

 まあ、僕だって男のままだったら視線くらい向くだろうし気にしてないけど。

 

「ところでここはどこなんっすか? 工場?」

「おっと、申し遅れたね。ここはALV社日本工場予定地。そして私はこういう者だ」

「え、はあ……社長ぉゥ!?」

 

 女性は名刺を見て目を白黒させた。

 流石に驚くわな。CEOの件は僕らも色々驚かされたしわかる。なんかアグレッシブに動きすぎだし、今日も。

 そんな風にあわあわしているところに、更に畳み掛けるようにして光学迷彩を解除したガルデニアが姿を現す。これだけでも目が見開かれたのに、降りてきたディセットを見るともう我慢できないというように口が開く。

 

「ギャーッ! 殺し屋みたいなデカブツ!!」

「何だこのド失礼な女!?」

 

 う……うん……派手に傷跡つけてるし、言われても若干しょうがない部分はある……んだけど……それはそれとして真正面から言うのは流石に失礼だ。

 

「す、すみません。でもカタギじゃないっすよね?」

「無礼で怒らせた相手に無礼を重ねるのやめましょう?」

「まあカタギかって言われるとそうじゃねえけど」

 

 ディセットに関して、まっとうな生業をしているかと言われると確かにそこは否定し辛い。軍人……と言うのもなんか違うし、企業人でもあるまいし。

 今は一応はALV社所属ということにできるかもしれないが、現状はどちらかと言うと専属の雇われ傭兵と言った方がいくらか近い。

 

「何で俺初対面の人にこんな暴言吐かれなきゃなんねえの? ていうかあんた誰だよ」

「あ、申し遅れました。自分、漫画家の鬼鞍ルイっていいます」

「おに……」

「くら……?」

 

 鬼鞍ルイ……? で、漫画家……?

 

「うわっ、ナルミがすげえ珍しい表情してる」

「せ……先輩がこんな露骨に嫌そうな顔してるの初めて見た……」

「どうしたナルミもカナタも!? 何か心当たりがあるのか!?」

 

 僕は姉さんと顔を見合わせた。姉さんの記憶に無いってことはまずありえないから、これで心当たりがあるようなら確実にあの人だ。

 で、実際頷いて返してきたので確証が持てた。あー……うん、知ってる。

 

「父さんが『うちの会社のキャラクターを勝手に使う漫画家がいて困ってる』って何度も言ってたけど、この人か……」

「い、いったい何の話だか……そもそもどこの会社っすかね……」

「求点堂です」

 

 鬼鞍さんはその場で飛び上がって瞬時に土下座した。

 

「な……なんと淀みの無い堂に入った動作……」

「何度もってどういう権利意識してんだあんた」

「訴訟はどうかご勘弁いただけないっすか……!!」

「やらかしてることをまず否定できません?」

「先に謝罪からしろよ」

 

 目を逸らされた。この人の著作権意識本当にどうなってるんだ。

 というか僕らに土下座しても意味無いですからね。困ってるのは僕らじゃなくて父さんだから。

 

「それ以外にも色々と騒ぎを起こすことが多くて、ついた異名が炎上の鬼……まさか女性とは思わなかったけどね~」

「炎上って何したんだこの人」

「トレス騒ぎと盗作疑惑、あとSNS中毒のせいで原稿落としの常習犯」

「モラルってもんがねえのか?」

「で、ですが……ダイナミックな作画と美麗な絵は評価されてます……よ?」

 

 何気に詳しいけど、椿さんは読者だったりするのだろうか。

 しかし逆に言うとそこ一点特化で作劇能力にも難があるため、度々原作をつけるかイラストレーターをやれと言われている。どっちもやってないみたいだけど。

 ……待った。そういえばさっき、鬼鞍さん確か立入禁止区域に入ったって話の時に露骨に笑って誤魔化してなかった? もしかしてそこら辺でも、恐らくネタ探しのためだろうけど……ちょっとモラルぶっちぎってる?

 CEOに続いてまた問題のある人が来たな……いや、CEOは接してみたら軽いだけで割とまともな人だったし、もしかすると実は色々と事情が絡んでいたり単に浅慮だったりするだけでまともな人だったりするかもしれない。だったらいいな……だったらいいんだけどなぁ……。

 

「……ん? じゃあそのジャージは」

「え、いや……今でも着られるから着てるだけっすね……」

 

 相当ダメな人かもしれない――。

 

 

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