融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合− 作:桐型枠
「何やってんの……?」
月も高く登った夜9時過ぎ、緊急事態だという話を聞いてファミレスに駆けつけると、店員さんに謝り倒している
「前に山で襲撃してきたワーカーのパイロットが俺に接触してきて……情報は引き出せたけど、食い逃げされて俺の方は金が足りなくなって……」
「みみっちいことするなあの人ら」
こっちの世界のお金無かったのかな……ありえそうだな。ディセットも元はそうだったし。
機械の世界は電子決済が発達してて、物理的な貨幣を持つ必要がないらしいというのも一因だろう。
支払いを済ませて店を出る。恐縮した様子のディセットに更に続けて文句を言うのも心苦しいが、ここはひとつ聞いておかないと。
「あのさ。何で嘘ついてまで出てきたの?」
「怒ってるか?」
「ちょっと」
嘘も方便とは言う。しかし、これに関しては嘘をつく理由があまり見えないのが問題だ。
「後で言うつもりだったんだよ。ただ、今日は戦いになる可能性も低いし、何より市街地のど真ん中だ。『ちょっと気になるから見に行ってくる』で、前みたいに暴走でもされたら何が起きるかと……」
「それもそっか」
「……俺、時々お前の物わかりが良すぎて不安になるんだが」
「そう?」
姉さんの言うことなら即全面的に受け入れられるけど、そうじゃなければ納得できること以外そんな物わかり良くならないよ。
暴走するかも、という懸念については全面的に賛成だ。そうなる理由も分からない以上、下手に接触すれば被害が無駄に広がりかねない。暴走してた時の記憶もバリバリ残ってるから、想像はしやすい。
「収穫はあった?」
「まあまあ、ってところだろうな。ただ、俺だけじゃ判断が難しいから皆にも共有はしときたい」
「そうだね」
「で、仮面の話はどうなった?」
「方向性が決まったらバッチリ。筆の速さと絵の巧さだけは本物だったよ」
これに関しては本当に驚かされた。あれだけ盗作だのトレスだのという騒ぎがあったにも関わらず、素の画力は本当に高いのだから。
しっかり監修を行い、方向性を示し、適切に管理さえすればちゃんとしたものを出してくれるというのは、プロとしての意地や矜持というものだろうか。
……いや、やっぱ徹底的に管理されないといけない時点でちょっとダメじゃない?
「それじゃ、コンビニ行こうか」
「え。何でまた?」
「鬼鞍先生がアイス買いに行くって言ったの真に受けて待機してるし」
「あの人はよぉ」
悪い人じゃ……いや、剽窃してるんだから悪い人か?
悪気は無いけど……うーん……やっぱりダメな人という表現が一番適切か……。
鬼鞍さん用のアイスだけ100円のにしてやろうか。
「なんか自分のアイスだけ安いやつじゃないっすか?」
「気のせいですよ~」
そもそも、嫌がらせみたいでなんか違うなと思ってバラエティパックを買ったので安そうなのは全員同じである。マジでただの気のせいだ。
ともかく先ほどの話について詳しく聞いてみる。と、出るわ出るわ、新情報の山だった。
神だの世界の枠組みだの、ドラゴンを殺すことで願いが叶うだの、それからなんかパフェ食べた話だの……いやこれはどうでもいいな。いやよくないな。何パフェ食べた後またアイス食べとんねん。
ともかく彼らがドラゴンを殺そうとする理由はこれで概ね把握できた。彼らにとっての「殺す」が粒子製造器官を破壊することとイコールであるようだということもだ。それなら確かに、執着するのもわからないではない。ただ……。
「アホくさ」
「無理難題だねぇ」
「アタマ沸いてるのあの人たち?」
「クッソ辛辣だな皆……」
戦闘モードになってまで椿さんがバチクソ批難している。あんな絵空事でご両親殺されてるんだから当たり前ではある。
僕としても命を狙われている立場なのでどうしても言葉は辛辣にならざるを得ない。
「ドラゴンがどれだけいるかって話だし、それ全部殺す……って……ねぇ?」
「取り戻したいの何のって言ってたってことは、あの人たちも生き返らせたい人がいるんでしょうけど……世界を思い通りに作り変えるとして、新しい法則のもと作り変えられた人を同一人物と呼べるの? ただでさえ主観的な情報しか無いのに?」
「あの狙撃で死ななかった僕どうやったら死ぬの?」
「オチをつけるでない」
でもそういうことなんですよ。
ちょっとやそっとじゃ死なない惑星級ドラゴンの融合体を殺す術を、あの人たちは持っているの?
ディセットは「竜狩り」と言われているだけあって惑星級ドラゴンを撃破した実績があるが、その時は当然、粒子製造器官を破壊するには至っていないはずだ。経済的価値も想像できないほどに高いだろうし、もしそうなっているなら大企業のトップエース扱いもされていないだろう。逆に厄介者扱いされてしまうはずだ。
それに関しても、本人曰く戦友が全滅するほどの被害を受けているのが前提である。少数精鋭らしい彼らはそれをどうこうできるほどの戦闘力や頭数を揃えられているのだろうか? それがまず大前提だ。
「だからこそ、ディセくんをスカウトしたかったんだろうねぇ」
「確かに……こやつがあの力を得たなら、万夫不当と言ってよかろう」
うーん……確かに怖い。普段の操縦技術に加えて更にあの「闇」を扱えるようになったら、それこそ単騎ででも惑星級を討伐できる可能性があるかもしれない。僕も一回腕削られたことあるし。
でもなぁ、どうだろう。一対一の想定として、まずワーカーを使うことになるんだよね。人間大の標的を捉えるのは難しいし、前も穿道虫の群れと戦うときちょっと苦慮していた。僕の場合はあれより更に機動力が高いし、電撃も肉弾戦も下手をすると一発でワーカーを破壊しかねないほどの威力がある。
「仮にそうだとしても俺がナルミに勝てるビジョンが微塵も見えねえ」
「だよね~」
姉さんに続くように、鬼鞍さんを除いて皆が頷いた。
なんだか皆が僕に恐ろしい共通認識を持っている。
「まあ受けもしない話はどうでもいいんだ」
「そうだね。どっちかって言うと僕が気になるのは、神様だとか世界だとかの話なんだけど」
「神サマとか信じる方なのか?」
「や、全然。いてもいなくてもどうでもいいっていうか……生きていくにあたって意識することも無ければ恩恵を受けたことも無いし」
「いたとして、別に人間を贔屓する理由もありませんからね。他の動物だって植物だって被造物として条件は同じですし」
「なっちゃんたちはドライだね~……」
別に僕らが特別ドライってほどでもなく、大概の日本人はこんな程度のもんだと思う。
というかこんなこと言ってる姉さんが一番神という存在を信じてないタイプである。どんな人にも怪我や病気や事故が襲いかかるんだから「公平」だよね~とはその姉さんの弁。めちゃくちゃ含みがある。
「いたらロマンがあると思うっすけど……てか実際いるってことなんすよね?」
「敵の言うこと鵜呑みにするアホがいるかよ」
「アホって言ったっす!?」
「しかし、辻褄が合うからと言ってそれだけを念頭に置くのではいずれ足元を掬われる可能性もあろう、貴公。阿呆と言うのは流石に辛辣すぎるが、もう少し考えは巡らせよ」
「あ、はい……うう、このロリおじいちゃんに言われると頭上がらない感覚が……」
それは僕も時々思います。
というか実際そういう役職なのだから頭上がらない雰囲気になるのもごく自然というか……何なら治安維持職? というか軍人なわけだから後ろめたいことのある鬼鞍さんは苦手意識抱えててしょうがないんじゃなかろうか?
「あいつらの言い分を考慮するに、世界にはそれぞれ大きな枠組みがあって、それぞれに異なる摂理を司る神がいる。これをすげ替えることで世界を作り変えることができる」
「推測になるけど、その神様は直にこっちの世界に干渉はできないんじゃないかな。今まで襲ってきた人たちは皆三つの世界の関係者だし」
「ダークマターがその玄関口ってところかなぁ」
「侵略しようとする世界の住人を尖兵と仕立て上げるわけなのだな」
「いやらしい……」
ドラゴンと神に密接な関係があるというなら、ダークマターに過剰反応して暴走してしまうのもむべなるかな。
しかしこの話が事実とするなら彼らを倒すことは根本的な解決にならない。そして他の世界に干渉する手段が無い以上解決の手段も無い。あくまで対症療法だ。
仮定が全部事実だとするなら、実質的に手詰まりだ。
「これ手詰まりなんじゃないっすか……?」
「手詰まりか? 全員始末すれば終いだろ」
「極論すぎて怖いんっすけど!?」
だけど真理でもある。敵が全員いなくなれば、全部解決だ。
ただ、敵の数が今もなおよく分からない。他の人間ではなくあの時の……重傷を負っただろうワーカーパイロットがディセットのスカウトにやって来たということは、人材はそう豊富ではないはずだ。それに、もしちゃんと人数が揃えられるなら、もっと数で押してこないと道理が合わない。
「今までの戦闘から考慮するに敵は数名から十数名程度の少数精鋭、だと思う」
「妥当なところであろうな。動員できる戦力が少ないということでなければ、儂らに対して消極的に立ち回る理由が無い」
「これを全滅、か、そもそも組織として成り立たない程度に再起不能にできれば、僕らの勝ち」
「逆にドラゴンを全滅させられるとこっちの負――どうやったら全滅するんだ?」
それを理解するにはまずドラゴンの総数から把握する必要があるわけだけど、宇宙空間にいるドラゴンまでどうやっ――。
「そのための計画なのかな」
「ん? あ~……わざわざ一つの世界に集めるみたいなこと言ってたってことは、そういうことかもねぇ。宇宙にいたディセくんも地球に来て、一緒に木星ドラゴンもなっちゃんと融合してるわけだし、多分他のドラゴンも……」
「ドラゴンが人間なり他の生物なりに融合するような形で、全部地球に集まることになるのか」
「で……そこを、隕石で……という……」
「隕石や無酸素状態程度で僕死ぬの?」
「話を混ぜっ返すなって」
「それでも数を把握する役には立つかもしれぬし、ナルミ以外の多くの竜族が死ぬようならこれも手としては有用なのであろう。その後、願いを叶えて地球を元に戻す」
「あ、そうだ。そこも俺引っかかってんだよ。神なんて上位者が素直に願いなんて叶えるもんか? って」
「疑い出すとキリなくないっすか……?」
「そこなんですけどね、鬼鞍先生」
「?」
「何で僕ら一般人が疑う程度のものを、あの人たちは疑いもしてないんですか?」
姉さんとディセットが断言した以上、敵のパイロット……ストロエフさんだっけ。あの人が企業に所属している、ないしは所属していた人なのは確定的だ。その点でディセットと条件はほぼ同等。
それ以外にも霊術の世界からは亡国の騎士が所属している。ならばこちらはグリムさんとほぼ同等の条件。知識レベルで開きがあるわけではないのだから疑いを持つには十分のはずだ。
「考えられるパターンは……真実である。嘘だとしてそれを信じるほど判断能力を失っている。発言を考慮するに、大事なものを失ってるらしいので恐らくこの可能性が一番高いです。あとは、判断力を
「
「はえー……なるほど……」
「まあ結局叩き潰すんだから背景なんぞどうでもいいが……」
「意外ともの考えてるんだと感心した直後に蛮族にならないでくださいっす」
そもそもディセットは戦闘で解決できることなら短慮になりやすいだけで、地頭は良い方だ。ろくに教育なんて受けられないほど環境も劣悪だっただろうにそれでもこれだけ考えられるわけだし、一般生活にもすぐに順応できてる。多分、昔お世話になった戦友さんたちのおかげなのだろう。
さて、ともかく今のところ色々と推測は挙げているが、当たっているかどうかは未知数だ。一つでも当たっていればむしろ御の字、阻止できることが何か一つでもあれば……と言ったところだろう。
所詮は推論だ。話し合いだけで何か状況が動くわけでもない。対策を組み立てることそれ自体は必要だけれども。
行動してみなければ何も始まらないね、というところに話が行き着くまでそう長くはかからなかった。
――そんなタイミングのことだった。
「……!!」
「ぐ……!?」
「っ!?」
突如、痛烈なまでに嫌な感覚が走る。眼の前がチカチカして一瞬、体の自由がきかなくなりそうになった。
この感覚は、ダークマターを眼の前にした時と同じ……そう気付いたところで姉さんがこちらに駆け寄り、ディセットが自身の首筋に手を当て誰か――恐らくフォーグラーCEO――と通信を始めた。
「なっちゃん、何かあったの?」
「今、敵が来たような感覚が……」
「敵ですか!?」
「……敵かどうかは分からないが、ダークマター案件ではあるみたいだ」
「何かあったの?」
ディセットは顔をひそめている。また何か厄介事らしい。
ダークマター案件ではあり、かつこの状況で何か……あー……。
「例の隕石が内側から弾けて、前に黒騎士と戦った時見たような黒いドームが工場予定地に形成されてるらしい。すぐに確認しに行くぞ」
あの回収した隕石か……。
ただでさえ状況は混迷を極めてるのに、これ以上事件起こさないでほしいよ本当……。