融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合−   作:桐型枠

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45.休養と責任

 

 

「僕と一緒に宇宙旅行しよ♡」

「隕石全滅させるまで家に帰れないパターンのやつ?」

「ふふふ」

 

 チッ、カンのいい奴め。

 

 とりあえず、一連の騒動は一旦終息した。時刻は既に深夜1時ごろ。既に事務所予定地に集合してる皆はそろそろ眠気も限界にキてるしグリムさんは肉体の幼さの影響でダウンした。

 市街地に現れたのは妄牛(もうぎゅう)と呼ばれる巨獣で、幻覚作用のある粉を撒き散らす害獣らしい。

 しかしそもそも気密性の高いワーカーに乗ってる以上ディセットたちに効果は無く、駆けつけるまでに自衛隊が広い場所に誘導していたので特に問題なく倒せたそうな。

 こっちもこっちで特に大事無く事態を治められたので、残る問題は宇宙に多数浮いていると思しき隕石だけだ。

 そんなわけで状況を説明してお誘いをしたのだがフられてしまったようだった。よよよ。

 

「まあ容認するとも思ってなかったけど」

「実質不眠不休で作業し続けるなんてやれてたまるかバカタレ」

「その通りだ。適切な仕事というものは適切な休養あってのもの。まあ私も昔は自分が働いたり人に働かせたりで各所から注意を受けたものだが」

「おい」

 

 大企業ってそういうことあるしなぁ……。

 もちろん是正すべきだとは思うけど、過渡期はどうしてもっていうか。父さんも忙しい時はいつ帰ってくるのか分からないという時期が何度もあった。

 僕らの今のこれもある意味で残業と言えるだろうか。コレに関しては本当にどうしようもない。言ってしまうと地球が滅ぶかどうかの瀬戸際なのだから……。

 

「せめてワーカーがあと何機かあるといいんですけどね~」

「突貫工事で組み上げたって気密性に難があるし、宇宙に向かわせるわけにはいかないぞ」

「撃墜した方もいつ解析が終わるのか、だしね」

 

 先日、撃墜したワーカーに対する調査が、自衛隊と米軍の合同で行われた。進展の有無についてのニュースはまだ流れていないが、そろそろ何かしらの動きはある……と思う。

 ただ、こうやって動いてもらってはいても、ワーカーの建造という段階にまで至るにはまだ長い時間がかかるだろう。いっそ身バレ覚悟で情報を流して開発を促す必要もあるかもしれない。

 

「つーか何でワーカー持ち込めてるのが俺だけなんだ?」

「案外デカすぎるドラゴンのオマケでこっち来ただけだったりしないっすか?」

「……あるかもな。連中雑だし」

「あれ、怒られない」

 

 あくまで主体はドラゴンで、ワーカーとそのパイロットはなんか近くにいたので「ついで」に巻き込まれてこっちに来た……酷い推測だが、ストロエフさんがディセットのことをイレギュラーと称していたことを考慮するにありえないことでもない。

 というか鬼鞍先生何怒られるの前提で喋ってるんですか。分かってるならもうちょっと言葉選んでください。

 

「だが、それでも俺だけってのは無いと思うんだよな……身を隠してたり、政府なんかが先に接触して情報統制敷いてるってパターンとか無いのか?」

「期待しすぎて……後で足元すくわれそう……」

「うぐ」

「いずれにせよ、今できること以上のことはできないということは念頭に置いておきたまえ」

 

 そのまんまなこと言ってるように聞こえるけど、実際のところ重要な話だ。できることとできないことをよく切り分けて考えて、自分だけではどうしようもないことは他の人に頼る。いくら力が強いからと言っても、力が強いだけでできることなんてたかが知れてる。

 正直なところ、大抵のことなら独力で解決できそうな現状、こうして再確認させてくれるのは大事だ。

 

「そもそも、君たちは無用に責任感や使命感が強すぎやしないかね?」

「力がある以上、責任も伴うと思いますが……」

「ディセット君はパイロットとしては極上でもただの人間だし、ナルミ君も、特別な力を望まないまま手にしてしまっただけだ。責任という点では、残念ながら私からは『ノー』と言わざるを得ないね。責任が伴うのは能力に対してではなく、立場と行動に対してだよ。一般人の子供が責任など口にすべきではない」

「ではCEOも立場をよくお考えになって遊びを謹んでいただけますね?」

「ヤブヘビだったか……」

 

 渋い顔をしてみせるCEOだが、派手な噂に比して、隠し子がいるとか不倫をしたといったスキャンダルはほぼ無い。アフターケアを万全にしていたり、相手を選んでいたり、なんだかんだ言って本人からすると節度を持っているということだろうか。

 まあ、それでも秘書さんたちからするともうちょっと控えろということなのだろうけど。

 

「雑事はこちらにお任せください。戦闘に関しては門外漢で情けない限りですが、可能な限り対応致します」

「いえ、助かります。よろしくお願いします」

 

 僕らは全体的に直接戦闘力に偏った能力をしているが、情報収集能力や政治力というものは人並みかそれ以下だ。対してCEOたちは資金力に発言力、政治能力も飛び抜けて高い。懸念については一旦お任せしてしまった方がいいだろう。

 

 姉さんがあくびをこらえきれなくなったあたりで、この日のところはお開きとなった。椿さんと姉さんは学校があるので車で帰宅、僕たちは仮設住宅でお泊まりだ。

 深夜2時を回って少し。グリムさんと鬼鞍さんが爆睡して僕もそろそろ寝ようとしている頃、ふと、ディセットに全然寝ようとするような気配が無いことに気付く。

 仮設住宅はまだ仮も仮。せいぜい男女別室にするくらいの仕切りしかなく、それにしたって僕もグリムさんも元男なので3人でリビングに雑魚寝しているような状態だ。寝てないなら当然そのことは分かる。

 ソファに寝転ぶような体勢こそ取っているが、外を見つめているその顔からは小さくない憂いが見える。

 

「寝ないの?」

「……あ、悪い、起こしたか?」

「まだ寝てなかったよ」

 

 丸めた体を少し起こして下から問いかけると、やはり何か考え事をしているらしく少し間が空いた。

 

「……月明かりの下でカッコつけてるパターン?」

「ちがわい」

 

 違うのか。

 たそがれてるポーズがそれっぽかったんだけど。

 

「心配事があるなら聞くよ。聞くだけだけど」

「えぇ……? ……いや、そのくらいの方がいいが……あんまり気持ちの良い話じゃないぞ」

「いいよ。話せば楽になることもあるだろうし」

 

 今更お互い隠し事はナシにしたい、というのもある。

 まずディセットの性格上、悪巧みや人道に反するようなことを好むわけじゃないし、聞いても多分倫理的に悪いことではない。

 もし本当に悩んでいて何か憂慮してることがあるなら、先に共有しておいた方がいい。一番は友達として悩みくらいは聞きたい、という気持ちではあるけど。

 

「今日現れた巨獣は、人間だったかもしれない」

「――それは、また、どうして」

 

 突然の不意打ちに、頭がクラクラして胃がきゅっと痛みを訴える。

 ――巨獣が、人間?

 いや、冷静に考えるとそういうこともありうるかもしれない。僕たちが人間を軸にしているのとは逆に、存在の核がそちらに傾いていればあるいは……と。

 だとすると、今まで倒してきた巨獣もあるいは、と考えて気分が悪くなってきた。ほれ見ろと言わんばかりにディセットが眉をひそめる。

 

「巨獣の現れた場所に、そこまで移動してきた痕跡が無かったんだ。それに犠牲者数と行方不明者数の辻褄が合わない。俺は……ただ巻き込まれてそうなっただけの人を殺したのかもしれない」

 

 ディセットも感性こそ普通の人間だが、軍人として幾度となく戦闘の経験がある。その中で人を殺した経験が無いとは断じて言えない。

 それでも、人を殺す――それも戦うことを望まない一般人の成れの果てに手を下すというのは、相当堪えることのようだ。

 眠れなくもなるだろうし、今後を憂う気持ちも分かる。その懸念があってなお戦わなければならないということも。

 そうしなければ、もっと多くの罪も無い人が死ぬと分かっているからだ。

 

「…………」

 

 何を言っても嘘くさくなるような気がして、言葉を口にできなかった。

 僕はディセットほどの修羅場をくぐり抜けた経験は無い。母さんの件はともかく、自分の意思で人を殺そうとしたことも無い。実感の伴わないただの言葉に、どれほどの意味があるというのか。

 

「手、出して」

「手?」

「うん」

 

 ――だからせめて、少しだけその気持ちに寄り添うことができれば、と思った。

 力を込めない程度に、ただ差し出してきた手を握る。少しだけ、昔のことを思い出しながら。

 

「昔、母さんの件で塞ぎ込んでた頃、よく父さんがこうしてくれたんだ」

「おじさんが?」

「気持ちを整理するのに一人でいる時間も大事だけど、誰かが一緒にいるって感じられると、少しだけ気持ちが和らぐ……らしいよ」

「…………そうかもな」

 

 お互い、続けて言葉にすることは何も無かった。

 ただ、そうする必要があると思ったから、寝付くまでずっと手を握っていた。

 

 ――初めて人にこうしてもらったな、という呟きは、聞かなかったことにしておいた。

 

 


 

 

 翌日は朝から薄曇りの天気だった。

 微妙に雨の気配を漂わせているのを感じられるのは、雷を司るドラゴンの特性ゆえのものだろうか。

 

「貴公ら、共同生活を送る身の上であまり人前でああいうことはその……」

「違ぇよ!」

「勘違いです……」

 

 そして僕らは別の意味で心の中が曇天だった。

 居間で三人で雑魚寝状態ということはつまり、僕らは手を握ったまま眠っている姿をグリムさんに真っ先に発見されることになるわけである。

 そして当然のように変な誤解を受けた。

 

「うおおおおお……もっと早く起きてればぁぁぁ……!!」

「何興奮してんですか先生」

 

 一方、もう一人の共同生活を送る鬼鞍さんは何やら変な方向にスイッチが入っていた。

 多分スケッチしたかったってことなんだと思う。何を目的にしたものか分からないけど。

 この人珍妙な自尊心とディセットに言わせてみればカスと呼ぶべき性根を抱えているのにも関わらず、オタ根性もしっかり持ってるから思考が予測しにくいんだよ……。

 

「描けば多分バズるのに!」

「個人を特定されるもんSNSに上げんなカス漫画家!」

「またカスっつったっすか!?」

「そもそも顔隠すために仮面を作るって話してるのに……」

 

 そんなだからSNS中毒とかSNS芸人が本職で漫画家を軽視してるとか言われてるんじゃないでしょうか、鬼鞍先生。

 

「話は変わるんですけど、グリムさん。巨獣についての話って、もうディセットからは?」

「聞いておる。しかし、断言ができぬ以上無闇に広めるのも良くはないし、何より既存の理から外れた現象ではどうしようもない。我らは死人が増えぬよう立ち回るのみだ」

 

 流石に年の功というやつだろうか、グリムさんはもう割り切っているようだ。

 いや、ディセットも割り切りはしてるんだけど、割り切りの度合いが違うというか……割り切りできずにほっといたら人類滅びるしな、あっちの世界。

 

「元に戻せるのならばそれが一番良いのだろうがな、今の技術でそれはできん。できるようになるまでの間、ずっと放置しておくわけにも……仮に保護するとして、全ての巨獣を保護して暴れさせないようにするようなこともできん。ならばいっそ……と、貴公に言っても詮無いことだがな」

「……まあ、考えておかないといけないことではありますし」

「いや、それを考えさせてしまうような事態にさせないのが本来の儂らの仕事であるゆえな。こういうことを、一般人に向けて割り切れと言うべきでないのだ」

 

 モラル高いな……いやこういう表現が正しいのかは分からないけど……なんか……モラル低めの漫画家の人が間近にいると余計に……。

 ともかく、そういう気遣いをしてくれる分には本当にありがたい。別に僕個人も戦いたいわけではないし……ただ、他人を矢面に立たせ続けるのも心苦しいんだよな。椿さんも別に堪えないわけじゃないだろうし。

 ……習うか、メンタルケア。

 

「望んだ現象を起こせる竜族だのドラゴンだのと言っても所詮は神ならぬ身よな。歯がゆいところだが……」

「神……か」

 

 あの人たちの口ぶりだとこの世界にも神はいて、よその世界にも神がいるという話だけど、どういう存在で、どういう立ち位置にあるのだろう。

 そして何らかの願いを叶えたいようだけど……どんな願いを叶えたいのだろう?

 真実の一端が明らかにはなったけれど、僕にはまだ何も分かっていない。

 

「そういやナルミ、今日どうするんだ?」

「車の話進めるのに父さんが来るからそれに混ざる?」

「目標が視界に入ったら土下座! 目標が視界に入ったら土下座!!」

「ルイ殿……考えるべきことが違うのではないか……?」

 

 ところで鬼鞍さんはメチャクチャな勢いで土下座の練習をしていた。

 僕地面と平行に移動しながら土下座する人類初めて見た。

 

 

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