融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合− 作:桐型枠
戦いの後、
椿さんはおっかない顔でブツブツと敵への呪詛を呟いていたし、ディセットは昨日よりも更に殺気立ってる。姉さんはもうそういうアレコレを超えて完全に号泣。子供みたいな泣きっぷりに皆の気勢が削がれ、だというのに霊術も交えた完璧な治療を施してのけて――なぜか今はベッドに(尻尾が邪魔なので文字通り)横になってる僕の背中にしがみついてる。
号泣しながら。
「うおおおお……ああえぇぁおおあう……」
「カナタさん……邪魔んなるからその辺でさ……」
「ミ゛――――!!」
セミかな?
ディセットが引き剥がそうとするのをどうやらエーテル強化でめっちゃ抵抗しているようだ。死ぬほど絡みついてくるんだけどこの姉。
姉としての威厳やら積み重ねたイメージが、セミもかくやという泣き声に合わせてガラガラ崩れてる。
「き……気持ちは分かりますけど……先輩も困ってます……し……?」
「イ゛ヤ――――ッ」
「すごい力だ……」
「姉さん……あの、トイレとか……」
「ごのまま゛……!」
「このまま!?」
僕を羞恥で殺す気かな?
「お姉ちゃんっていうかまるで妹っすねこれ」
「今までどこに眠ってたんだこの駄々っ子パワー……」
「文字通り眠らせておったのではないか? ナルミと同様、ある意味カナタも自分を殺して理想を演じておったのだとすると」
「似た者同士か」
……姉さんが演じてた、ねえ。
いや、そう考えて思い直すと、確かにそれらしい兆候はあった。……かもしれない。
当時は中学デビューか何かかと思って気にしてなかったし、僕自身も気にするほど心の余裕が無かったけど……それはそれとしてこれが素なのもちょっと困るよ僕。主に生活面で。
「まあ……昔もある意味駄々っ子ではあったね。僕も色々、無茶苦茶言われたし」
「ミ゜ッ」
「死んだ……」
「黒歴史を……思い出したようです……」
えーっ。
……い、いや、今は気にせずおこう。
捕まってたのを軽く振りほどいて離れ……られない。ガッッッツリ尻尾までホールドされてる……。
ともかく、とりあえずひと息つけたところで、ディセットは僕に向かって思いっきり頭を下げた。
「ど、どうしたの?」
「すまなかった。お前が一番辛い時なのに、傍にいなかったせいで敵を近付けて、命も危険に晒して……」
「あ、そのことか。うん。いいよ。許す。っていうか悪いのあの人たちだし、別に何かいけないとも思ってないけど」
気を使ってくれたことは分かるし、僕も一人になりたかった部分がある。そんな風に気持ちを伝えると、ディセットはしばらくの間目をぱちくりさせた。
ほどなくして驚きをあらわにすると、僕の肩を掴んで軽く揺さぶり始める。
「自分のせいにしてないなんていったい何があったんだ……!?」
驚きのレベルが低い……!!
「僕だって色々あったら考えくらい変わるよ」
「そっすよディセットくん。ちょっとしたアドバイスで見方を変えることだってありうるもんなんっすから」
「……あんたの差し金?」
「言い方酷くないっすか」
「そうだよ。別に悪いこと教わったわけでもないんだから……」
むしろ割と大事な考え方を教えてもらったと思う。
そればかりに傾倒してしまうのも良くないけれど、本当に悪いのが誰か、という本質から目をそらすのも良くない。
そういう点で、自分だけが悪いと思いすぎるなという指摘は僕にとって極めて深く刺さるものだった。まあ言い方はかなり俗っぽかったけど……その立役者は今はドヤドヤしてディセットを軽く煽っている。これさえ無ければ……。
「
「……ん?」
「名前……」
ルイ先生が更にドヤ顔を深めてる。
あんまりにも他人行儀すぎたからちょっと呼び方変えていいですかって申し出たの、ちょっと失敗だったかもしれない……。
「ずるい……」
あとなんか椿さんがジトっとした目でルイ先生見てる。
ずるいって何が……!?
「雑談はそこまでにせよ。先の襲撃で分かった情報を共有するぞ」
話が変な方向に飛びそうになる前に、グリムさんが軽く手を叩いて皆の視線を集める。
なんとなく助かった気がする。なぜかは分からないが。
「まず敵集団は『結社』を自称しておることが判明した。それから構成員の名前だ。エストラダに、シグネ・エクルース。この名前に心当たりのある者はおるか?」
「はい」
「何かあるか?」
「シグネ・エクルースって言ったら前言ってた、火星の無法都市……エリダニアのギャング、それも頭目だ」
「ディセットが知ってるってことは、有名なパイロットとかなの?」
「パイロット『も』やってるな。頭目のくせに色んな戦場に首突っ込んでくるヤバい女ってことで有名だ」
ヤバさの理由がよく分かった。表情とか感情とか色だとか色々口にしてたけど……要はそれだけ多くの人の絶望や死に顔を見たがってるわけだ。
「そんなのと戦ってよく無事……無事? だったな」
「
「なんて?」
「相手をいたぶって楽しむ性癖の人なんだよ。おかげで戦闘開始して即死って事態にはならなかったけど」
「星系で指名手配されるレベルの凶悪ギャングの行動理念が性癖……」
ディセットは頭を抱えた。
パイロットでもあったって言うんなら、もしかすると最後に出そうとしていた何かもワーカーだったりするのかもしれない。
まさかディセットと同レベルの相手とも思いづらいけど、警戒は必要だろう。
「それから、黒騎士」
「奴が来たんですか?」
ゾッとするほどの殺気が椿さんから発せられる。
仇が来たとなればこうなるのも仕方ない、が、これに関しては僕の方が疑問を投げることにした。
「別人じゃないかな。あの時の奴にしては……ちょっと技が巧みすぎる」
「最初に出てきた者は知らぬが、儂も同意見だ。結局……ううむ」
「また仕留め損なったのかグリムさん」
「う……うむ……」
これで都合三度目ともなれば気落ちもする。外見も相まって半分ほどにまでなってるんじゃないかと思うくらい小さく縮こまってしまった。
もしや儂弱いのでは……という呟きが聞こえるが、多分逆だ。今回だって、結果死ななかったから逃げられたとはいえ心臓撃ち抜いたし、普通にやったら倒せてると思うんだ。戦う側からすれば無尽蔵にどこからでも即死級レーザー撃ってくるような人相手にしたくはないだろう。生存第一で逃げの一手を打つのも分かる。
「……エクルースさんもそうだったけど、あの人たちは『死なない』能力があるみたいだから仕方ないよ」
「は? 死なない?」
「あ、確かに。体半分吹き飛ばしたのに復元してたっすね」
「今までの奴らはやってこなかったよな?」
「やらなかったのかできなかったのかは分からぬが……奴らと戦うなら、今後は想定に入れておくべきであろうな」
「全員……塵も残さず消滅させないと……でしょうか……」
「僕と戦ってた時は頑なに頭は守ってたから、頭を潰せば殺せるかもしれない」
「……俺ナルミからこんな物騒な言葉聞きたくなかった」
苦々しげなディセットの呟きに、他の皆も同意を示した。
僕だってこんなこと考えるの嫌だよ。人を殺すって考えるだけで冷や汗が流れるし、手が震える。暴力なんて手段に手を染めないほうがいいに決まってる。
「メシのこと考えて、家電のことに変なこだわり見せて、ちょっとだけバカやって、そういうことだけ考えててほしかった」
「……多分、遅かれ早かれだよ。こんな
ドラゴンという時点で結社とやらのターゲットになることは逃れられなかったし、そうでなくともいつか自分の身近な人が巻き込まれてた。その結果命を落とすことになるのは父さんじゃなく姉さんだったかもしれない。
全世界と敵対し、巻き込んで混乱を引き起こす彼らとは、平和を求める過程で必ず敵対する。それを早く終わらせるには、苦しむ人を一人でも減らすには――多分、この力が必要だ。
「だったら、せめて早くそんな生活に戻れるように頑張るよ。苦しむ人の数も、時間も、少ない方がいいから」
ディセットは、あまり隠し事ができる方ではない。
その悲痛そうな表情が告げている。戦闘の早期終結はともかく、「元の日常に戻る」なんて、きっと夢のまた夢なんだと。
単に生活様式が変わるという程度の話ではない。世界が平和になったら、強すぎる力を持つ
個人の意思で容易に社会機能を麻痺させ、都市や国の一つ二つ滅ぼしうるなんて、普通の人には恐怖の対象でしかない。
……今考えたってしょうがないし、皆が言葉にしないなら僕もあえて言葉にはしないけれど。
「……溜め込むなよ。嫌なこと、不安なこと、苦しいこと、一人で抱え込むな。俺たちにも言え」
「分かってるよ。頼りにしてる」
「いや分かってない」
「ゑ?」
「お前がもうちょっと素直にもの言えたら
「い……いや……それは……そうだけど、改善してくから……」
「先輩は……それを演じることができますよね……!?」
できるかできないかで言えばできるけども!
確かについ最近人の根の性質自体はなかなか変わらないもんだと実感もしたけれども!
そこまで疑いの目で見られるとこっちも困……そうだ!
「そういえばグリムさん、あの黒騎士の人、ヴァルトルーデさんを指して『王統』って言ってましたけど!」
「話の逸らし方が露骨だぞお前」
「桃っすか? 可愛い異名っすね」
それは黄桃です。
「奴め、そのようなことまで知っておったか……」
「王の血統……という意味の言葉ですけども……」
「お姫さんを差し置いてか?」
僕らの知る王統、つまりデルピュネス帝国の皇帝に連なる血筋は、グリムさんが捜しているお姫様のはずだ。
ヴァルトルーデも親戚だということなら矛盾は無いけど……。
「アリサ筆頭は……そうか、教わる前に出奔したのだな貴公は」
「出奔ってお前何してんだよ」
「…………」
今度は打って変わって椿さんが思いっきり目を逸らしている。あっちの世界のアリサさんは、思ったより込み入った出自なのだろうか。
宝剣とか持ってるし、名家の子女だけど開拓者になるために家を出たとか十分ありうる範疇かな……。
「口外はせぬよう頼むぞ」
「きな臭い話か?」
「下手をすると国が二つに割れる類の」
「俺聞きたくねえんだけど」
それって一般的に国家機密というやつなのでは?
「と言っても一定の立場におればだいたい知っておる話だが……ヴァルトルーデは帝国の建国者の血を引いておってな」
「ガチの王族じゃないっすか!?」
「お姫さんは影武者ってやつか?」
「いや、そうではない。建国者は森を拓き巨獣を狩って国の礎を築いたが、その本質は戦士であった。自分では数万人規模の集団を『統治』はできぬと悟り、自ら玉座を退き親類に譲った。姫様はその後継者の血筋にあたる」
「せ……正統後継者の血筋が二つ……」
面倒くっっっっっさ。
しかも融合した以上半分は自分のことだから他人事にもできない。血の半分は確かにヴァルトルーデのものなのだから、そっちの血縁関係も証明されてしまう。
椿さんもひと目見て断定するくらい、外見的特徴はそちらに寄ってるんだ。あちらの世界の関係者と話すことがあるなら、気をつけてないといけない。
「何でわざわざ王様降りたんっすかね、優秀な家臣がいるならそっちに政治は丸投げでもいいんじゃないっすか?」
「ただでさえ巨獣という脅威も溢れておるのに、内に向けてそんな隙なぞ晒すわけにいかぬだろう。我が国は……と言うよりあちらの世界は力を尊ぶが、国を運営する力とは即ち知力であり政治力よ」
力によって将軍の中で最年少であるヴァルトルーデが台頭しているという話を聞いたから、何だそのヤバい国とばかり思ってたけど、もしかすると帝国あっちの世界でも相当まともかもしれない……。
というか力を尊ぶって、脳筋的な意味合いじゃないのね。そりゃそうか。じゃないと霊術だって発達してない。
「そしてその後、建国の王は外敵を相手に生涯戦い抜いた。が……それ故影響力が大きいのでな。軍閥が強くなりすぎるのも問題だし、下手をすれば反対勢力の旗頭として祭り上げられかねん」
「だから、できるだけ口外はしないように……ってことなんですね」
「うむ」
怖。関わらんとこ。
ってわけにもいかないだろうけど、できるだけ無関係装って近づかないようにしておこう。軍だ何だって一般人が手を出せる範囲を遥かに超えてるよ。
と、小さく溜め息をついた折、遠方から駆けてくる音があった。ほどなく、部屋の扉を開いて現れるのは、ポーカーフェイスながら憔悴した様子の秘書さんだ。
「――お疲れのところ恐れ入ります。巨獣です」
「またか」
「サクッと片付けて戻るぞ。ナルミは――」
「行くよ。その方が早く終わるなら」
互いに視線を交わすと、差し出された手を取ってガルデニアに搭乗するべく駆け出していく。
巨獣も、結社も、それが戦いや脅威なら、早く終わらせるに限る。巻き込まれる人は、一人でも増やしたくない。
――姉さんが尻尾にしがみついてるのを思い出したのは、コックピットに到着してからのことだった。