融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合−   作:桐型枠

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54.救助活動と大掃除

 

 

 今まで僕らは、巨獣を対処するにあたって基本的に「所属不明機ですよ」という態度を取って責任の所在を曖昧にしてきた。

 これは個人という体制ではできることが限られるし、後ろ盾も無かったせいというのが大きい。

 素性がバレた時も怖い。極論、ただ殲滅すればいいだけの結社よりも、騒ぎ立てて変な風評を流しかねないマスコミや世間の方がある意味で厄介で邪魔になりかねないからだ。

 

 これまで僕が同行してた時は、市街地に甚大な被害が出たというわけではないので、素人が下手に口を出したりせず本職に任せてたというのもあるが――ただ、毎回そういうわけにはいかないのも現実だ。

 

「まずいことになったな……」

「これは……ひどい」

 

 今回の巨獣は、陸地に対応したイカのような生物だった。全身を硬質な外殻で覆いながらも、軟体生物特有の動きを損なっていないという脅威の存在だ。だが殺した。

 あくまで物理攻撃が主体で見える範囲から攻撃してくるだけの相手でもある。仕留めきるのはディセットにとってはそう難しいことじゃなかったようだ。

 

 ――ただ、問題は出現場所である。

 仮称・金剛イカが現れたのは、前にディセットが倒して精神的にダメージ受けてた妄牛と同様、市街地のど真ん中だったのだ。

 抑えることは抑えたが、被害は大きい。倒すまでの時間は元より、駆けつけるためにもそれなりに時間がかかるせいだ。

 

「近くに降ろせる?」

「どうする気だ?」

「レスキューの手が追いついてないみたいだから、僕らも手伝いに行こうと思って」

「まだ助かる人も大勢いるだろうしね~」

 

 ちなみに姉さんは戦闘中に復帰した。

 これはこれで面倒な状況に違いないが、ずっとべったりされるのよりはいいだろう。

 ……いや、べったりはべったりだけど。

 

「分かった。俺も後でこいつで合流する。重機が要るだろうしな」

「そうだね」

「ナルミは怪我したばっかなんだから無茶すんなよ」

「分かってる」

 

 とはいえ事態が事態だ。瓦礫の山を撤去して、埋もれてる人を探すのに僕の能力は有用だ。使わざるを得ない。

 人気のない雑居ビルの屋上でコックピットを降り、姉さんを抱えて浮遊しながらビルを飛び降りる。

 で、このまま飛んでいくと身バレが怖いので、仮面(接着剤で応急修理)を着けてから行こう。

 

「人が多いところに行くべき? 少ない場所?」

「多ければそっちで通報が行って救助活動してるだろうから、少ない方がいいかもね~」

「了解」

 

 レーダー霊術を使いつつ、微細な生体電流の反応を辿って周囲を確認する。なるほど、確かに人が大勢いる場所は救急車などの音がしきりに聞こえてくるが、近隣の民家や小さなビルはまだ手つかずのようだ。

 姉さんを近くに降ろすと、悲痛そうに瓦礫を掘り起こそうとしている男性の近くに着地する。

 

「離れてください」

「な……何だアンタ!?」

 

 仮面姿なんて異様な見た目に驚く彼を尻目に、埋まっている人の居場所を特定した僕は大きな瓦礫を力任せに撤去した。

 男性と、瓦礫の隙間に入り込んでいたらしい女の子の目が点になる。ビックリしてるだろうが今は緊急時だ。説明する暇は無いし落ち着かせてる暇も無い。磁力で鉄筋ごとコンクリを浮かせてもう二人ほど埋まってる人を外に出す。

 これでこの場所は完了だ。姉さんに容態の確認を任せて、次の現場に文字通り飛んでいく。

 

(災害救助は72時間がタイムリミット、だっけ)

 

 単純に人間が飲まず食わずで生きていられる時間でもあるが、過去の災害からそういう統計が得られたという話でもある。

 が、それはそれとして救助活動なんてなんぼ早くてもいいですからね、とも言える。

 瓦礫などに強く圧迫されたまま2~3時間経過すると、筋細胞が壊死し始めて急激に死亡リスクが跳ね上がると姉さんから聞いた。

 クラッシュ症候群といい、壊死した筋細胞のせいで血液に毒素が溜まり、圧迫から開放されて滞っていた血流が元に戻るとその毒素が全身に回るせいでショック状態に陥るらしい。

 これに対処するには人工透析などの専門的な機器が必要になるので、やはりそうなるよりも先に助け出すのが一番だ。

 

 瓦礫の山の間を飛び回り、磁力を駆使して撤去したり、腕力で掘り起こしたり……重機が必要な現場にはディセットが駆けつけて作業したりと、救助活動にはそれほど長い時間は要さなかった。

 流石に巨獣が暴れた跡だ。死者はどうしても出るが、とりあえずは最低限に抑えられた……だろうか。

 ……一番の収穫は、力も破壊ばかりに使うものじゃないと実感できたこと、重機(ワーカー)の本分を果たした姿を見られたことだろうか。

 

 ともあれ、さあそろそろ帰ろう、と瓦礫の山を降りた時だった。

 

「すみません……ちょっとご同行をお願いできますか?」

「えっ」

 

 ――夕焼けの差す街の中。僕は警察に任意同行を求められた。

 

 自分で言うのもなんだが、僕超頑張ったんだけど。そう言おうとして気付く。今の僕鉄仮面着けて超音速で飛び回る不審者じゃん。

 しかし、片手でバンバン瓦礫運んでわけのわからない能力を使ってるのを見てるだろうに、この人も大概度胸あるな。

 

「あー……」

 

 警察とマスコミの関係は思いの外、密だ。事件の容疑者が逮捕されればすぐに情報が流れるし、逆に報道に規制を敷くこともある。

 僕の素性がバレたとして、必ずしもそういった情報が流れるとは限らないが、できれば避けたいのは事実だ。僕はいいけど、連鎖的に姉さんのことまで何か言われるのは腹に据えかねるし……。

 とはいえ警察として声をかけておきたい気持ちは分かる。一分の隙も無く不審者だもの今の僕。市民の立場からしても、どれだけ今の作業の役に立ったとしても一回声はかけておいてくれと思うだろう。

 当事者じゃなければ、むしろこの事態を引き起こしてマッチポンプ狙ったと疑ってもおかしくない。

 …………。

 

「申し訳ないのですが、それに応じることはできません」

「できませんか……」

「私はこの事態を引き起こした者を追っています。*1訳あって顔をお見せすることはできませんが*2、少なくとも誰かを傷つけることは望みません*3

 

 具体的なこと何も言わない訳知りの謎人物ムーブしとこ。

 大丈夫、演じることには慣れてる。ハナっから全部信じてくれるとは思ってないが、ちょっと疑いを持ってくれればそれでいい。ここでこう、一瞬視線を外したところで無音でスッと飛び上がって、あたかも消え去ったように見せかけよう。

 

「えっ!?」

 

 背中に光輪と光翼を展開、一気にこの辺の人達の視界から逃れて誰もいなさそうな方へ飛んでいく。

 後で皆から雑だって怒られそうだけど、咄嗟のアドリブで対応するのって難しくない?

 それでもギリギリ前の巨獣、というか巨虫から飛行機守った時のネットニュース思い出して、関連付けさせてより謎を深められるように立ち回れ……た、と思うし……僕にしてはよくできた方じゃない? ダメ?

 

 なお、結論から言うと結局帰ってから皆には雑だと怒られた。

 じゃあ効果的な対処法教えてほしいと言ったら目を逸らされた。

 

 


 

 

「ナルミ君が雑な隠蔽工作ができる程度に回復したのは実に喜ばしいのだが――」

「CEO、せっかくちょっと立ち直った精神にボディブローを入れてくるのやめてください」

 

 極めて異例の速さで救助活動を終えて、翌日。僕はまずCEOに煽られることになった。

 何が悪いかって僕が雑な隠蔽したことより、そうせざるを得ない原因の結社だと思うんです。

 ともあれ翌日の仮設会議室は、昨日、一昨日よりもいくらか和やかだった。が、いつまでもその調子でいるわけにもいかない。

 

「カナタ君やナルミ君のためにも、ミスター神足や先の件で犠牲になった人々を弔いたいが、今は時間が足りない」

「そうですね~……」

「連中、葬式中狙って攻撃してきそうだしな……」

 

 そうでなくとも、遺体が残っていない。今後まともに葬儀を行うにしても、少なからず制限が生じることになるだろう。

 そして何より、今下手に気を緩めると最悪地球が滅ぶ。

 

 ――ごめんなさい、父さん。

 

 ちゃんとしたお葬式が上げられないことに内心で謝罪する。せめて、これは結社を滅ぼすことで供養にさせてもらおう。

 

「慰霊碑の建立を手配しています。今はこれでどうか」

「ありがとうございます」

 

 形が残るものを建ててくれるだけ上出来だ。僕らにとっても、どこに参りに行くべきか悩むところなので非常に助かる。

 それにしても秘書さん何でも手配してくれるな。

 ……が、本題はそこじゃないので、軽く頭を下げて続きを促す。

 

「ともかくだ。今我々に必要なことは、ドラゴン――ナルミ君やミス鬼鞍のような人間の命を守ること。そして」

「一人残らず……結社のメンバーを殺す……!」

「殺意が強すぎるぞアリサ筆頭」

「もう少し掘り下げた言い方をすると、『結社の計画を阻止する』だな。皆殺しも手段の一つだ」

 

 結局のところ、彼らの活動さえ止められればいいのだから、殺すかどうか自体は話の本質じゃない。

 殺さないと止まらないからそうするしかないだろうけど。

 

「でもあちらさん、こっちから攻撃できないところにいるっすよね?」

「逆に、あっちも出てこないとこっちに攻撃はできませんからね~。色々面倒です」

「探知、追跡、それからワープ。最低限これだけできないとどうにもならなさそうだね」

 

 ……だからこそ、結社の人たちは大きな顔ができてるんだろうな。

 既存の技術では対応不可能。逃げ足も抜群で、追跡もされない。更に転移まで可能ときた。あまりにも彼らにとって有利過ぎる。

 全世界を相手に喧嘩を売れると確信を持っていても、何もおかしくないだろう。

 

「だが、手をこまねいているわけにもいかない。我々もできることから手を付けていこう」

「具体的には?」

「宇宙の大掃除だ」

 

 ……なんか大変そうな流れになってきた気がするぞ?

 

 そう考えた数十分後、久々にパイロットスーツに身を包んだディセットと一緒に、僕はガルデニアに搭乗することになっていた。

 機体の周りにはいくつか鉄柱が突き立っており、なんというか微妙に威圧的な印象を受ける。

 

『作戦を説明しよう。キミたちにはこれから宇宙――軌道上へ向かってもらう』 

 

 モニタにCEOの顔が映し出され、今回の作戦……というか、目標? の概要を語り始めた。

 なんとなくディセットとやったゲームのブリーフィング思い出すな……とは思うけど、ブリーフィングってだいたいこんなもんなんだろうか。

 

『例の隕石を見つけたのがだいたいそのくらいの高度だから、きっと他にもあるだろう。その「爆弾」を見つけ出して処理することが、今回の目的だ』

「見つけ出すったって宇宙がどんだけ広いか、分かってないアンタじゃねーだろ?」

『その通り。だから逆に考えたまえ』

「あん?」

『膨大な量のスペースデブリにまぎれて隕石が探せないなら――まとめて全部さらえばその中にあるだろう?』

「僕のこと雑って叱った人の提案でいいんですかこれが!?」

『適材適所というやつだよ』

 

 くっそ、ただでさえ宇宙空間で死ぬほど広いから、多少雑にやらなきゃいけないのはよく理解できる……。

 ……あ、そういえば。

 

「あの、CEO。スペースデブリって各国が軌道や現在地を監視してるんじゃないですっけ? 勝手にどうこうしていいものなんです?」

『今そのようなことを言っている暇は無かろう』

『それも想定内だよ。既に関係各所に確認は取っている』

 

 グリムさんまでツッコミに入ってきてモニタに表示されてきた。

 子供の考えるようなことはとっくに想定済みってことか。

 実際のところ、この作戦を実行するなら僕らしかできる人間いないだろうから、本当に適材適所ってことなんだろうけれど……。

 

「仕方ねえ、行くか」

「あいよー」

 

 周囲の鉄柱に磁力を通し、ガルデニアが掴んだのを確認すると無重力発生装置と併用して一気に空中に飛び出す。

 パイロットスーツのおかげで前より耐圧能力増してるとはいえ、それでも急加速すればそれだけ強烈なGが襲ってくるのである程度注意しながらになる。

 

「多分世界一贅沢なゴミ掃除だなこりゃ」

「『竜狩り』と最新鋭機に加えて、『惑星級』に融合した帝国の将軍、オマケに皇帝の血筋ね……」

 

 見方を変えると、そのくらい宇宙に無数にある中から特定の隕石を探すのが難しいし、スペースデブリ問題そのものも深刻ってことでもある。

 機械の世界だと宇宙開発も盛んだし、多少解決に向かってはいそうだけど、残念ながらここはそういうのは特に無い。

 ……力に対する責任だと思って前向きにやるか。ゴミ(デブリ)掃除。

 

 

*1
結社を追っているのは事実。

*2
実際理由はある。

*3
100%本心。

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