融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合− 作:桐型枠
スペースデブリを除去する手段というのは、割とアナログな手法が多い。
ロボットアームで直に回収することもあれば、磁力を利用したり――小さな欠片まで含めると億を遥かに超えるというそれらを回収するのは極めて骨が折れる作業だが、今後の宇宙開発時代には必要なことでもある。事業化されているとも聞くが、そのために必要な技術力はどんなものなのか……専門家ではない僕には想像することしかできなさそうだ。
人類が軌道リングに居を移した機械の世界では、宇宙でのワーカー同士の戦闘がしょっちゅう起きていることもあってこちらよりもデブリ問題が深刻で、これを専門に取り扱う業者も多いらしい。
「業者が泣いて羨ましがる作業効率だなこりゃ」
「いえーい」
で、僕らのやってることはごく単純。磁力に反応するデブリや隕石をひたすら引き寄せて、磁力に反応しないものを巻き込んで一塊にしながら直進するだけだ。
時折見つかる「爆弾」――結社がダークマターを仕込んでいるらしい隕石は、跡形もないくらいに雷で消滅させる。
そんなことをしばらく続けているので、もうガルデニアは周りに浮かんでる岩やデブリにほぼ隠れるような状態になってしまっていた。外からは滅茶苦茶な大きさの岩がすごい速度で移動してるように見えるだろう。
人工衛星を引き寄せかけたのは秘密だ。
「このまま全部かっさらって行きたいけど、流石に無理だよね。ノルマどのくらいに設定する?」
「二、三時間ってとこか?」
『あまり長時間はキミたちの負担が大きい。適度なところで引き上げなさい』
「了解」
人工衛星と同じくらいの速度で飛べば、だいたい地球二周分くらい……いや、ダメか。相対速度によってはいつまでもデブリに追いつけずに漫然と地球の周りをぐるぐる回るだけになってしまう。
掃除ということを意識しつつ、堅実にやってくことが求められそうだ。
「うーん……」
「何唸ってんの?」
山のように集まってくる岩塊を見ながら、ディセットが首を傾げている。感心……ではないだろう。多分。
「二つほど言いたいことがあるが、一つは地上に戻ってからにする」
「もう一つは?」
「これどう処理すんだ?」
そう言って示すのは、続々と積み上がり続ける岩と金属とデブリの山である。
…………。
どうしようかこれ?
「結構な資源の塊ですよねCEO。これどうするんです?」
『私もどうにか秘密裏に地球に運び込めないかなぁと思っているがね!』
「思ってることは思ってるんだな」
『だがその質量がいきなり地球に降りるとなると、隕石と勘違いする者も大勢現れるだろう。各国機関も騒ぐだろうし、流石に看過できない。この量……こんな量!』
滅茶苦茶惜しんどる。
「俺も惜しい」
「えーっ」
「文字通り資源の山だぜこれ。一塊だけでワーカー何機分作れるんだよ……」
言ってる間にもどんどん積み上がっていくけど、それはまあ……確かに。精錬や加工の手間はかかるだろうけど、中にはレアメタルなんかもあるだろうし、地球上の鉱物資源も無限じゃない。
ただ、この塊の中には各国が打ち上げたスペースシャトルの燃料タンクなどの残骸も含まれている。
CEOがあちこち駆け回って上の方にも掛け合ったと言っている以上、スペースデブリの国ごとの管理権限とかについての問題は今のところ考えなくていいとは思うけど……。
「かと言ってどっかに適当に置いとくってわけにはいかないよ。下手にこの質量の塊を結社に見つけられて爆弾にされても困るし……」
「持って帰るわけにいかないが……どうすっかな、もったいねー……」
「月にでも置いて帰る?」
「地球から38万キロあるんだぞ。急いでも丸一日かかるだろ……」
『何もキミたち自身が行くことはないだろう。射出したまえ』
「あ、そうすればいいんですね」
「いや月面都市に迷惑――こっちの世界にねえや」
あるんだ。月面都市。
火星といい月面といいなんともアクロバティックなところに都市を築くものである。
「月や火星に都市作れるくらいテラフォーミング技術発展してるなら地球環境再生すればいいのに」
「それ順序が逆でだな。元々あっちに都市を作ってたところで、地球環境が荒廃したから出ていったんだよ」
それはそれで露骨に陰謀の匂いがしてきて嫌だ……。
多分これ、星外で主権握りたくて地球での戦争煽った人とかいるよね? 結果的に軌道リングに移住した人たちが実権握ってるみたいだけど、企業や政府の共倒れ狙った人とかいるよね?
ヤだよ~……気分がもんにょりするよ~……。
「まあ、ともかく今なら月に投げてしまっていいと思うぞ」
「はいよー」
モニタに表示されているのが地球と月の軌道の相関関係だろう。じゃあこの感じなら行けるか。
盛り下がった気分をそのまま転化するように、今集まってる分のデブリを電磁加速して飛ばす。
と――ディセットはヘルメットの奥ですごい表情して冷や汗を流しながらこっちを振り向いた。
「今やれとは言ってないんだが。お前月の軌道予測とかしたか!?」
「え、うん」
「うん? 『うん』!?」
「否定するより肯定した方が驚くとかある?」
まるで僕が普段考えなしに撃ってるみたいじゃん。
「空気抵抗が無い状態でしょ。で、無重力とは言うけど地球の重力の影響は受けるし月の重力もあって……で、ざっと計算したんだけど。軌道と速度って確認できる?」
「そりゃ軌道計算くらい……うーわマジでちゃんと月に直撃するコースに入ってる」
「迷惑かかるし、そうじゃなきゃやんないよ僕も」
「迷惑かかるし、か……」
小さな溜め息をついて、ディセットは何やら納得した様子だ。
まさか僕は何かやらかしたのだろうか。ちょっとだけ悶々とした感情を抱えながらも、僕はこの後も継続して作業を続けていった。
――この日、月に新たにいくつかのクレーターが刻まれた。
地球や今後やってくるかもしれない月面都市とやらに影響は……無いといいなぁ。
……緊急時だし許してほしい。
「なっちゃんは相当頭おかしいよ~」
「もうちょっと言い方無い?」
地上に戻って早々に、僕は姉さんとディセットの話の中で流れるように罵倒を受けるハメになった。
いや、まあ……多分ニュアンスが違うというか、本当に罵倒しようって意図ではない、と思いたいのだけど。それはそれとしてもうちょっと言い方無い? とも思う。
発端は、ディセットの「ワーカーのCPUが計算するより早く弾道計算するあいつおかしくね?」という言葉だったので概ねディセットが悪いということにしよう。
「まあ……おかしいよな……普通の人間、あんな計算いきなりできねーし」
「いや、姉さんはできるでしょ、多分」
「それは公式を覚えてるからゆっくりやればできるだけで、なっちゃんみたいにノータイムで答えは出せないよ~……」
いや……そんなバカな。
だって姉さんは姉さんで姉さんが姉さんのうごごごご。
「計算ならたいてい何でも途中式ナシでダイレクトに答えが頭に浮かんでくる異能なんだよねぇ、なっちゃん」
「いかん、ナルミが泡を吹き始めたぞ」
「どうして……」
だって姉さんは天才で……僕の上位互換で……何でもスマートにこなしてて……経験したことなら何でも身につけてて、だから僕が不出来な方と呼ばれているはずで……。
僕にできることの大半は姉さんにもできるはず……で……。
「もしかしたらナルミにとってカナタさんに自分が劣ってるってことがある種のアイデンティティだったのか?」
「弱者でいたいとかそういう話っすか?」
「いや、環境的なものだ。話に聞く限り、ナルミはずっとカナタと比較されていた故、歪んだ形の自己形成がという……」
「死にたい……」
「またカナタさんが鬱モード入ってる!」
「ええい面倒な二人だのう!」
そんなこんなで姉弟二人でバグり散らかして数分。
「つまり、天才だ何だと言われてるけど、わたしは
「方向性が違うだけでどっちもどっちっすよ」
「どっちが上って話でもなけりゃ互換性もゼロじゃねーかお前ら」
い……今までの人生で培われてきた常識というか土台がガラガラ崩れてく……。
僕にとって姉さんが上っていうのはずっと当たり前のことで、それを前提に生きてきた。けど、よりによって姉さんまでディセットたちの言葉にうんうんとすごい勢いで頷いている。
今まで言ってなかっただけで、ずっと内心そんなこと考えてたの……? マジで……?
「おじさん……ナルミたち二人だけで会話させるんじゃ絶対ダメだ……自分たちの問題何も解決できねえ……」
「せ……先輩たちの……先入観が酷すぎる……」
先入観……僕の心に先入観……。
いや、当たり前ではあるのだけど、人から指摘されると本当に「あ、ヤバい」という実感が湧いてきて困る。
今すぐ謝り倒したいところだけど、それをすると話が進まないので必死で耐える。姉さんも苦虫を噛み潰したような顔をして耐えていた。
「で、この話はあくまで前置きな」
「これで前置き……!?」
「わたしたち何言われちゃうんだろーね……」
「変に構えないでくれよ言いにくくなるだろ!」
でもディセットがこういうこと言う時って割とクリティカルな内容が多いし……改まって言われると僕もちょっと心の準備が欲しい。
「前の戦闘でエクルースを取り逃がした件だ」
「うー……それは……ごめん」
「いや、責めるつもりは無いんだ。ただ、ずっと不思議っつーか……俺、ナルミが霊術使うところずっと間近で見てるからさ」
「というと?」
「ワーカーを大気圏外まで飛ばしたり、数キロ先まで雷飛ばしたり……今日もデブリを月までぶっ飛ばしてたんだよ」
「先輩……聞けば聞くほど、すごい出力です……よね……?」
「そこだ」
「?」
……少なからず、顔が俯く。
確かに僕はあの時の戦い、結局それができる力があるのに倒せなかった、ということでもあるからだ。
「そんな大出力を出せて、身体能力もトップクラス……いや、俺が知る限り生物としては最強と言ってもいい。ヨーイドンで戦えば間違いなく無敵だ。なのに何で取り逃がしたのか? って話だ」
「先輩が手加減してたとでも……!?」
「言ってねえよお前マジでナルミのことになると見境ねーな……」
「じゃあ何よ」
「今回の件で確信した。ナルミは今のままじゃ、少なくとも地上じゃ全力を出せねえ」
「ぜ、全力のつもりではあったけど……」
「それなら戦場になった一帯は確実に消滅してるぞ」
そう言われてみれば、そうかもしれない。雷を使ったのは相手の頭上に落とす数度と、道に沿うような形でまっすぐ発生させたものだけ。あとは基本的に徒手空拳だ。
「闇」を突破するために物理的な干渉力が必要だったのもあるし、とにかく衝動のまま動いてたのもある。殴れば倒せるんだから、殴ればいいと思ってがむしゃらに突撃したのも否めない。
「こいつ普段めっちゃ気を使ってるんだよ。他人のためになるならいくらでも行動できるくらい。被災現場や、宇宙でのデブリ掃除じゃ遠慮なく磁力使ってたろ?」
「そうなんっすか?」
「ああ。でも……いや、『だから』か? 人の迷惑になるなって思ったら滅茶苦茶ブレーキかける。最初にこの世界に巨獣が出た時も、とにかく周りの迷惑にならないよう気を使ってたくらいだからな。そんな奴が、市街地戦で全力なんて出せると思うか?」
「えと……変な話、僕ってキレてるのに本能的に周りの被害気にしてたの……?」
「っていうのもあるだろうし――戦い方があんま上手くないってのもあるとも、正直、思う」
ディセットと比べたらそりゃ僕の戦闘技術なんてミジンコみたいなもんだよ。
……って話とも違うんだろうな。相対論よりも絶対論。ケンカすら避けてた僕は戦闘技術なんて大層なものは持ってない。
「……く、空中戦に持ち込めば……被害を気にせずに済んだ部分はあるかも、です、はい」
「あー……なるほど」
発想の面でも、どうも僕は他の皆より数段劣るらしい。
「なるほど、なるほど。これはちと教示する必要があるか」
「お手柔らかにお願いします……」
「大変そうっすねー」
「いやアンタもやるんだぞ」
「えっ」
……うん、しょうがないね。こればっかりはね。
ルイ先生もターゲットの内の一人。先の件で自衛するには能力不足だって分かっただろうし、死にたくないならちょっときつい特訓でもやらないといけないだろう。
これはもちろん僕も同じことだ。次は絶対に逃さない――と誓うだけではいけない。戦うなら、それなりの準備をしないと。