融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合− 作:桐型枠
特訓。
日本人的にはなんというか、ちょっぴり心をくすぐる響きなのだけど、いざやる立場となると「特」別な「訓」練というだけあってキツそうな印象が目立つ。
とはいえキツくないと負荷の面で意味がないのもわかるし、そうするだけの理由もある……のだが、いざ目の前にするとだいぶ心構えが要る、というのが正直なところ。
なんでもやってやると思いつつも、それはそれとしてキツくないといいなと感じてしまうのは人のサガというものだろうか。
「しかし、逆に威力を抑えるための特訓というのも、不思議な気持ちになるのう」
「強いほどいい、が……あちらでは主流ですからね……」
「早期討伐が結果的に最も被害が生じぬし、市街地戦になどなればその時点で負けのようなものだからな」
話聞くたびに思うけど、
「では、先輩は精密なコントロールは既に……どうしました、鬼鞍先生……?」
「いや、自分の場合コントロールの問題なんっすか? 出力では?」
「ルイ殿は全部だ」
「全部……全部!?」
「何もかも足りぬ」
それは……まあ……あんまり言いたくないけどそれはそうかも……。
エクルースさんにも遊ばれてただけって言ってたし、最低限殺されないためには……ねぇ。
普通にどっちも拙いからこそ、というのもあるだろうけど。
「水は実体と質量を持っておる故、一層慎重に扱わねばならぬ。今は水芸で済んでおるが、出力が高ければ洪水などの引き金にもなりかねん。同時・並行で鍛えてゆくぞ」
「うぇー」
いざって時の切り札として大規模に水を生み出すことができる、というのと「それしかできない」では雲泥の差だ。
……現に今の僕が半分くらいそれである。
よく学ぼう。
「で……だ。今回教えていくのは術式を介さぬ竜族の霊術だが、儂は教える時は必ず『自分の体の延長と思え』と言っておる」
「自由自在に操れるようになれとかじゃないんっすか?」
「それでは一歩足りぬ。反射的に、肉体と同じように扱えてようやく及第点だな」
「うへぇ……目標高くないっすか?」
「竜族として、エーテルを生み出し現象に変換できる体質という優位性を活かすにはここが前提だぞ」
「術式は……その、プログラムしたようにしか動きませんが、そちらは自由度が遥かに高いので、考え方としては……そうです」
「そうなん……ん?」
「?」
あらかじめプログラムしたようにしか動かない術式をリアルタイム修正して、あまつさえ新術式までその場で編み出す人が目の前にいるんだが?
本人はきょとんとしてるし……もしかして気にするようなことじゃないのか?
世の中にはリアルタイムでプログラムを修正してくような人もいるらしいし、多分そういう類例だろう……多分……。
「まあ、手足と同等レベルで動かせるなら、加減も配慮もしやすそうですね」
「うむ。雷より先に拳が出るようなことは避けられよう」
「蒸し返さないでください」
その件については大怪我したので大いに反省している。
素手じゃないといけないってわけじゃないんだし、ミキサーにかけられるより先に光輪でも作ってぶつけるべきだった。
「と……言っても、先輩は普段、あたしたちと訓練して……日常でも使うよう心がけてるので……第一段階はクリアしてます」
「あ、そうなんだ」
あのインベーダーゲームもどきも大いに意味があったというわけだ。
単純にエーテル操作、狙った場所への生成、発射、空間への固定……というのをゲーム感覚で一気に全部やってるわけなんだし、基本はこれでおおよそ理解できる。それもそうだと納得があった。
「では次は応用だな」
「えー。一人だけ一段とばしでズルいっすよナルミちゃん」
「お先でーす」
脇腹をつんつんやられ……今ルイ先生胸触った?
いや、別に僕は大して気にしないけ――まずい。"墜星"がもう椿さんの手に握られている。
なんか……僕が気にしない分姉さんや椿さんがこんな風に異様に気にしてくるんだよな……これどうしよう。
実にハラスメントに厳しい後輩である。
「刃物はダメっすよ……」
「これは説明のために呼び寄せただけなので気にしないでくださいね」
半分棒読みだし気になるし怖い。
「説明って?」
「先輩はこちらへ」
「え? うん……」
「危ないので」
「何が?」
困惑する中、"墜星"の外装が開く。空気が流れて励起状態になったのを感じ取れた。
「今、先輩は素手で戦ってますけど、あたしは武器を使うのもアリだと思うんです」
「普通の武器じゃ武器自体がもたないし、"墜星"みたいなのって逆に威力高まったりしない?」
「そうですね、確かに、あたしは威力を高める使い方です」
椿さんの場合、"墜星"はエーテル増幅器であると同時に、大抵のものならなんでも切り裂く剣として用いているが、その原理は言わば単分子カッターに近い。
空気中の見えない分子を集めて刃を作って切り込み、肉厚の本体で切り広げる。これでもかというほど殺意が高いが、逆説的にそうでもしないと倒せない巨獣がいるということでもある。恐ろしや。
「その分、破壊範囲は狭まります。今はこの刀身の分だけ……」
「なるほど、着目すべきなのはそっちだね」
威力の向上、ではなく効果範囲の制限。そう考えると武器の有無も大事かもしれない。
元から威力なんて高すぎるくらいなんだから、向上してもある意味誤差みたいなものだろう。そう思うと、巨虫の時の光輪を主に使っていくのが良さげだけど……。
「ヴァルトルーデは何か武器とか使ってたの?」
「はい。これみたいにエーテル生成器官が内蔵された帝国の――"
「……月なのに斧?
「柄は長かったですけど、そういうのじゃなかったような……」
バトルアックスってやつ? と思っていると、名前を聞いたせいか記憶が刺激されてふと、頭の中に浮かぶものがあった。
宝剣とされる"墜星"よりも、実用性を重視したらしき無骨な柄。先端には、柄の長さに比してやや小さく感じられるものの分厚い両刃が装着されている。
しかし、なぜ「月」なのか。その疑問に応じるように、頭の中で斧がその刃の周囲に光輪を――僕の背中に浮いてるのと似たようなもの――が発生する。確かに、これなら月や太陽と言われても納得はできるが……。
「……ピザカッター?」
「はい?」
長い柄があって、先端に円形の刃。
なるほど、月を振り回すようにも見えるが、現代人から見たそれは紛うことなきピザカッターである。
あるいはバズソー、丸鋸と言ってもいいが、武器と扱っていいものなのかどうか……。
威圧感と破壊力は凄まじいだろう。要は超高密度のプラズマを直に叩きつけるわけだから。触れれば死である。
もちろんピザカッターの用途で使ってはいけない。炭を通り越して消滅する。いや、案外切るだけはできるかもしれないけど……皿や机ごと切れるだろうな。
「記憶が湧いてきただけだから気にしないで」
「そうですか……?」
ただ、イメージと方針だけはなんとなく固まった。
この場に無いものを考慮してもしょうがないので、使い捨てでも見立てでもアリと言えばアリだ。鉄パイプ持って先端からプラズマ放出してビームソード(偽)にしてもいい。
要はそれが咄嗟にできるかどうかって話でもあるんだけど……。
「じゃあ、ともかく……先輩は、巨獣との戦闘の時とか、考えられる余裕さえあれば割と柔軟なアイデアは出しています。なら今必要なのは即応力なわけです。あたしと模擬戦してそのあたりを鍛えましょう」
「も、模擬戦って、下手に体ぶつけでもしたらそれだけで死んじゃうんじゃ」
「大丈夫です。一口に模擬戦と言ってもやり方は色々ありますので」
椿さんは"墜星"を一旦置いて無手で剣の構えを取る。
一瞬、イメトレなのかと思ったけどどうやらそうではない。術式を組む時のように放出されたエーテルが、式を描くのではなくそのまま剣のような形状を取った。
「エーテルは現象に変換しなければ基本的に無害ですので、こうやって訓練することがあるんです」
「なるほど」
同じ要領でやってみよう。エーテルをその場に留めるような形で……形状は……やっぱり光輪、チャクラムっぽい方向で。
これをいい感じに回転させ……回転……。
「先輩……ものすごい威圧感になってるんですけど……」
「僕も今気付いた……」
……僕の場合、体内で莫大な量のエーテルを生成できる。そのため、回転する刃という形状にすると淡い光を垂れ流しにするチェーンソーみたいな状態になってしまうし、逆光で僕の顔影になってるし、とんでもない威圧感になってしまうのだった。
これはこれで敵に対しては使いようもあるだろうけど、模擬戦やろうって話じゃあな……。
とはいえ、エーテルが大量に漏れているということは、これも全部雷に変換できるということでもある。と――極端じゃあるけど、使い方の発想としてはこんな感じだろうか?
「とにかくやってみましょう。どこからでもどうぞ」
「はい」
どうぞ、と言われた瞬間に僕は椿さんの周囲から一斉にエーテルの棘を伸ばした。
特に動かしたりしてないのにそのまま光輪を注視していたせいか、全方位から襲いかかるそれへの反応が遅れてそれらは全弾椿さんへ直撃した。
「えっ」
「趣旨違った?」
「そういうわけじゃ……ないんですけど……」
別に今回の特訓は武器を扱えるようになることが主題じゃない。あまりに広すぎる効果範囲を制限すること、それと能力の応用に関する発想力を鍛えることだ。
だから趣旨としてはこういうやり方でも問題ないと思ったんだけど……。
「先輩……怒ってたら思考力鈍って弱体化する系ですか?」
「かもしれない……」
「落ち着いてる時は色々できるじゃないですか……」
怒りの覚醒では勝てないみたいなこと言ってた漫画やアニメがあった気がする。冷静さを欠いたらその分判断力も鈍ってしまうから……とか。
奇しくも先日の僕はそれを体現していたようだ。自分のことながら情けない……。
ともかくそんな調子で改めて使い方を学びつつ数十分。そろそろ頃合いなので一旦休憩にしようという頃のことだった。
「必殺技が欲しいんっすけど」
「必殺」
「技」
また胡乱なことを言い出したぞこの人という目で椿さんがルイ先生を見ている。
グリムさんはもう慣れたという感情と呆れが同時に出ている様子だが、特に否定的な感情があるわけではないようだ。
「グリムさんは別に否定しないんですね」
「いざという時に頼りにできるものがあると無いでは違うからのう。儂とて頼みとする技の一つや二つある」
なるほど。危機に陥った時に頼りにできるものがあるか無いかという話か。確かにそれは分からないではないが……。
「水って大量に出すだけで必殺じゃないですか?」
「いや、そういうのじゃなくてこう……もっと分かりやすくて派手めなのっていうかぁ……」
「先輩、この人俗物です」
「知ってる」
でもモチベーションに関わるのもわからないではない。とはいえ、僕は基本的に必殺技だとかそういうものについては懐疑的だ。
ディセットの戦いに何度か付き合って、大技だとか大規模攻撃だとかを使ったのを見たことはほとんど無い。ブレードとライフルを駆使して堅実に追い詰めて相手を討伐している。言わば基本技の集合体で対処しているわけだ。それで十分で、同時に理想形に近い。
小細工も時に必要だろうけど、僕の場合もそれと同様だと思う。基礎スペックをとにかく押し付けていけばいい。
「ナルミちゃんやおじいちゃんの傾向から見ても、自分ももう一個くらい水以外の何か使えそうな気がするんっすよ!」
「それはそうでしょうけど、付け焼き刃じゃ無意味ですよ」
「ひぃん冷たい」
それにしても最近ルイ先生よく僕の後ろに隠れるな……。
「ナルミちゃんは分かってくれるっすよね?」
「まあ……人によっては必要かも、とは……」
「ほらー!」
「先輩、甘やかさないでください」
気持ちは分かるんだ。気持ちは。
僕だって必殺技という語感には感じるものがある。
「ナルミちゃんはどういうシチュエーションで使えるようになったんっすか?」
「僕ですか? 結社の黒騎士がいきなり現れて、応戦した時に……」
「ピンチの時っすね。ってことは自分ももしかしたらそうかもしれないってことでしょ?」
「……鬼鞍先生。それなら前の戦闘の時になってないと」
「それはそうっすけどぉ」
チラッとこっち見てる。
……わかりやすく甘えてきてるぞこのアラサー。一回り近く歳違うのに。
しかしピンチか……ピンチを今ここで演出するってどうするんだろう。
「一回擬似的にでも追い詰めるとかできないっすかね?」
「儂は追い詰めると言われても加減はできんタチだぞ」
「あたしがしましょうか」
「いやアリサちゃんは怖いんでいいっす……」
「は?」
それが怖いと言われているのではなかろうか。
元々大人しい子なんだけど……何だろう。霊術の世界のガラの悪さが加わって若干不良気味になってる気がする。
僕に対しては滅多にそういう面を見せてくれないが……うーん……心を開いてもらってないのかな……。
「というわけでナルミちゃん、ちょっと追い詰めてみてください!」
「えー……怒ったりしないでくださいよ」
「それはもちろん」
「学生時代アニメキャラの口調とか真似て周りから引かれたりしてそう」
ルイ先生はその場に膝をついて崩れ落ちた。
椿さんも片膝をついた。
「慰めてもらって否定するために人前でわざと落ち込んで見せてそう」
「どっ……はっ……おごっ……のああああああああああ!!」
「なんか異様に苦しみ始めました!?」
「待っ……待って先輩!!」
「あ、はい」
「――そういう追い詰め方は求めてないっす! オアアア!!」
あ、はい。
……いや、ちょっと待った。ぶるんぶるん体を振ってる間に無意識で水が出てるが、なんか微妙に色づいてる。
綺麗な緑色のようだ。本人は気付いていないようだけど、もしかしてこの「色」がルイ先生の第二の能力なのだろうか……?
「ルイ先生、何か出ましたよ」
「ちょっと今黒歴史が脳で暴れてるんで後にしてもらっていいっすか!!?」
「あ、はい……ごめんなさい……」
お……追い詰めてみろって言ったから、ほんの出来心だったんです……。