融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合−   作:桐型枠

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57.鉱毒と空中戦

 

 ルイ先生の尊厳を犠牲に生まれたのは、綺麗なエメラルドグリーンの水だった。

 色、というと漫画家にとってある意味ベストマッチなのだけど、だとしてもちょっと不思議だ。

 

「エーテルの変換資質というものは本人の気質や趣味嗜好は関係ないぞ」

「ですよね」

 

 グリムさんに聞いてみると、ある意味当然の答えが返ってきた。

 偶然にしては出来すぎだけど……いや、筋道が違うか。色を付ける能力なのではなく、何らかの要因で結果的に色がついた、と考えるのが妥当だ。

 調べなきゃ何が原因かもわからないけど。

 

「ルイ先生、これ維持したまま移動できますか?」

「この状態が平気に見えるんならやりますけどォォー!!」

「ご……ごめんなさい……」

 

 ルイ先生は地面に顔を向けて動かないまま器用に叫んでいる。思ったよりダメージが深い。これは無理そうだ。

 その辺にある金属バケツを引き寄せて、緑色の水をその中に入れる。成分の分析は専門家に任せるとしよう。

 

 

 

「ヒ素だねー」

「毒じゃん!?」

 

 そんなわけで医大生(せんもんか)にお任せしたところ、相当ヤバいものだということが判明した。

 ヒ素。言わずと知れた猛毒だ。もちろん単なる毒物ではなく、適切な量で調合すれば薬になったりするし、半導体の材料になったりもする。僕らが普段口にする食品にも微量ながら含まれていることがあり、単にひと口に「毒」と表現すると誤解を招きそうな代物でもある。

 

「つまりこの鮮やかな緑色は……」

「有名なヒ素グリーンと思ってくれたら問題ないですねぇ。これ、触っても危ないけど誰か触ったりしたー?」

「触っては……ないですけど……」

「地面に流れてるからね……ちょっと後でCEOに相談してくる」

「いやー若干申し訳ないっす」

 

 とりあえず別の能力に目覚めれば……と思ってまさかの毒属性ということを想定してなかった僕にも責任はあるので一緒に謝っておく。

 毒物なんて本来地面に直に流していいものじゃないしね……処理というか浄化の方法があればいいんだけど。

 

「それにしても毒なんて使いづらさマックスじゃないっすか。自分、別に毒のプロフェッショナルとかじゃないっすよ」

「というか、顔料として出力されてるのも不思議ですよね~」

「やれば別の色も出たりするんですか?」

「やってみましょっか」

 

 出ろ~出ろ~と念じて十数秒。また毒かもしれないのでガラス容器で出てきたものを受け止めると、その色は……白。

 

「鉛ですね~」

 

 分析にかけると、その中身は中毒を起こす鉛白。

 古来から顔料として用いられてきたが、やはり毒には違いない。

 続いて別の容器に水を出す。今度は……赤だ。

 

「水銀ですね~」

 

 辰砂。美しい赤色が特徴の鉱物だ。

 その主な構成要素は水銀。これももちろん中毒を引き起こす。秦の始皇帝の逸話が有名だろう。

 ……更にもう一度。今度は黄色だ。

 

「カドミウムですね~」

 

 カドミウムイエローという顔料があるが、これは市販されているものは別の化学物質に変化して無毒化しているため問題ないとされている。

 が、ルイ先生が出したのはそういう処理がされる前の毒性盛り盛りのやつである。古くから日本でも公害の原因として知られており、扱いには多大な注意を要する。

 ……戦々恐々としながらもう一回。今度は青だ。

 

「コバルトですね~」

 

 いわゆるコバルトブルーとして知られる色味だが、この原料のコバルトは吸入したり体内に取り入れると様々な健康被害が生じる。

 やはりこれも毒物である。

 

「……毒属性っていうか、鉱毒属性?」

「なるほど、共通点は鉱物か。となるとある意味で姫様のものと似ておるな……」

「やりようによっては、水銀攻撃とかできるんですかね~?」

「突き詰めればできるかもしれんがな……相当長く修練が要るぞ」

 

 今顔料として出てるところから水銀だけ抽出して、それを操ることができるかって話だしね……ルイ先生の能力の主体はあくまで水や毒なんだし、多分方向性が違う。

 じゃあどういう方向性かって言われると困るけど……水に色つけてるんだからそれを活かす方向だろうか。せっかく漫画家なんだし……って、安直だけど。

 

「え、じゃあ自分どうすればいいんっすか?」

「敵を公害病にしてじわじわ追い詰めるとかですかねぇ?」

「陰湿すぎるんっすけど!?」

「戦いなんて陰湿なものですよ先生」

「あっちょっとシャレにならなさそうなんでその話はナシっす」

「はい」

 

 戦闘行為というものは、いかに相手の嫌なことをするか、にかかっている。

 つまり父さんがいる時を狙われたのは、結社が「僕が嫌がることをする」ためだ。戦いなんてものは陰湿さの煮凝りと言っていいしそうじゃなきゃ父さんは死んでない。正々堂々、誠実さなんて言葉とは無縁だ。

 ……と、言葉にするときっと引かれるので言われた通りやめておく。

 

「鬼鞍先生は……戦うタイプの人ではないので……時間稼ぎを考えてくれれば、あたしたちが向かいますから……」

「それはそれで年下を殺し合いの場に送り込むので複雑なんっすけど……」

「無駄死にされるよりマシです」

 

 椿さん、ここでピシャッと言い切ってみせるのなかなかすごいな……。

 ……正直なこと言うと僕もちょっと思ってるけど、死んでほしくはないし。

 

「だが、儂は貴公にもしっかり若者を前に出してはいかんと考えられる感性があって嬉しいぞ」

「そりゃ自分はダメな子だしゲスの自覚もあるけど、そこまで派手に人間性捨てられてないっすよ……」

 

 が、それはそれとして生存能力を鍛えないといけないことには変わりないのである。

 そしてグリムさんがルイ先生を少し見直したということは、期待のランクが一つ上がったということでもある。

 おじいちゃんブートキャンプの開幕だ。

 

 

 さて、そんなこんなでルイ先生が悲鳴を上げるハメになった一方で、僕らは次の特訓に移ることになった。

 空中戦についての講座ということで、正確にはこれを受けるの僕一人なんだけど、椿さんが乗っかってきた形だ。

 で、肝心の講師は――。

 

「俺だ」

「何でアンタなの」

 

 ディセットである。

 

「何でもなにも俺以上に空中戦に長けてる人間がいねーからだよ」

「あたしだって空中戦くらいできるし」

「10年以上のキャリア積んでから言え」

「んんんんん!!」

「大人げない張り合いやめなよ……」

 

 そりゃ僕らは大人じゃないけども。

 そもそもディセットは生まれてこの方地獄みたいな生活をずっと送ってきたおかげで、17歳にして歴戦の戦士だ。キャリア、軍歴って意味で言えばグリムさんに次いで二番手である。さっきの特訓に付き合ってなかったのも説明の方法を考えるためという側面が大きい。

 

「そもそもお前らの世界じゃ対人はご法度だろ。んな余裕も無いだろうし」

「ナメないで。強盗くらい出るし鎮圧したこともある」

「正規軍人相手でもなけりゃ空中戦でもないだろバカタレ」

「ぐぎぎぎ」

 

 椿さんの対抗心強すぎん?

 煽るディセットも悪いと思うけど、なんかもう……この二人かなり相性悪いな……。

 何が原因で張り合ってるのかもイマイチ分からないし、かと言って別に理解しあえないわけでもなければ連携ができないわけでもなく……地味に面倒臭いなこの二人も……。

 

「ともかく、教えるのはどっちかってーと空中戦のやり方ってよりも『どう空中戦に持ち込むか』の考え方だな。俺とお前じゃ空中で戦うのも勝手が違いすぎるし」

 

 だろうね。

 戦術の組み立てと武器の弾数、それからエネルギー等々。常に色んなことを気にかけてないといけないディセットと違って、こっちはほぼ無補給で常時全力が出せる。空中での挙動だって、無重力発生装置に頼ってるのと比較すると、磁力によるものだと同じ「浮遊」でもだいぶ違う。

 一口にこうだと定めてしまうと、それこそ先入観で墓穴を掘りかねないだろう。

 

「って言っても強引に敵を浮かすのは難しい。格ゲーじゃないんだ。無理矢理浮かしたところで相手も受け身は取るし、抵抗もする」

「あんた格ゲーしてるの?」

「ボロッカスに負けてるがな」

 

 じーっと小さな恨みを込めてこちらに視線が注がれる。

 あの頃は……そう、僕も身体能力の強化され具合がイマイチ分からなかったときだ。極超音速の動きでも見切れる動体視力に気付かず、なんか調子いいなとだけ思いながらディセットをボコボコに負かしたのだった。

 なのでディセットも格闘ゲームについては知っているし、空中コンボの概念についても身をもって理解している。

 

「話を戻そう。地上で攻撃して空中にカチ上げるってのは非現実的だ。相手も人間である以上、防御もするし避けもする。そのまま地上で釘付けにされるのがオチだろうな」

「……確かに、防御もすっごく硬かった」

 

 技術のせいか単純に出力のせいかという差異はあるけど、これを貫くのはそれなりに骨が折れる。で、まごまごしてたらそのまま地上戦に持ち込まれて……か。

 我ながら想像しやすいのが嫌だ。

 

「対抗策はどうすれば?」

「正面から付き合うな。まずナルミから上に出て制空権を取れ」

「えっ、僕から……? あっ」

 

 そうだ、僕らが結社を倒したいのはその通りだけど、そもそも元を辿れば結社が僕ら(ドラゴン)を殺したいってところから始まってるんだ。

 僕が少し上空に逃れたとしても、彼らとしては追撃以外の選択肢が無い。僕自身をエサにすれば、結社は必ずそれを追ってくる。

 

「相手が飛べなかったら?」

「そん時はカモだ。上から一方的に削れ」

「えぐ」

「殺し合いにエグいもクソも無いっての。戦いの本質はいかに一方的に敵をぶちのめすかだ。作戦だとか戦術だとか言っても究極的に行き着くとこはそこだと思え」

 

 い、一方的にかぁ……なんだかちょっと抵抗感があるけど、言ってることそのものは納得できる。当然、その方が自分にも周囲にも被害が出にくいし。

 容赦がないっていうのも、見方によってはそれこそ早期決着を狙ったものと考えられる。うん……頑張ろう。

 

「まず引いて相手を誘い込むことを覚えるんだ。お前の場合概ねそれだけでなんとかなる」

「雑くない?」

「マジでどうとでもなるんだよ能力的に!」

 

 そっかぁ……いや、もういちいち追及はしないけどさ。そこまで断言できるほどなのに、結局取り逃がしたのがやっぱ割とショックだな僕は……。

 ただ、今思えば確かにそうしておけばという面が大いにあって……よし考えるのヤメ! この反省を後に活かしていこう!!

 

 


 

 

 ともあれ、そういった感じで結社の襲撃に待ち構えながら、みっちりと特訓を積み続けて一週間。

 そろそろ雷の応用法咄嗟にできるようになり、ルイ先生も逃走全振りとはいえそこそこ霊術が扱えるようにはなった。

 ガルデニアの破損した装甲を修理するための試作装甲板などもそれなりに形になり、見た目だけは整ったその日のこと。

 

「宇宙で、多数の隕石に動きがあった」

 

 CEOからもたらされたその情報を機に、僕たちは慌ただしく動き始めることになった。

 

 

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