融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合−   作:桐型枠

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63.代理将軍と門衛

 

 

 帝国市街地までの道は、当然だけどハチャメチャに危険だった。

 うようよ出てくる巨獣、巨獣基準なせいでやたらスケールのでかい自然環境。ここは人間が生きていける場所なのか? と思わず訝しんでしまうほどにここは過酷だ。

 が、過酷なことを前提に人間の生存圏を維持しているのがこちらの人類である。

 マンハイム将軍が巨獣を()()()()()時は流石に目を疑ったが、結局のところ皆この過酷さに対応しているからこそ生きているわけである。

 

 ――なので、郷に入っては郷に従えの考え方のもと、僕も一発ドカンとやったら隣で見ていた将軍に二度見された。

 

「……ここまでやれるとは正直思っていなかった」

「あなたも大概ですからね?」

 

 殴る蹴るだけで地形変える人初めて見たよ。オーラみたいなの出てたから、実際には身体能力だけってわけじゃないんだろうけど。

 まあ僕も僕で巻き込むものが無いからって遠慮なくやったらホイと巨獣を黒焦げにしてしまって先の発言に繋がるわけだが。

 

「ヴァルトルーデはここまで強くはなかったはずなのだ」

「それを仰るならマンハイム将軍もでしょう。『記憶』が確かなら、あなたは霊術と武器でもっと堅実に詰めていくタイプのはずです」

「この力を得て以来霊術が使えなくなっている」

「あー……」

 

 これまで見て、感じてきた性質から察するに、この世界の「神」を由来とするエーテルと異界の神を由来とするダークマターは極めて相性が悪い。併用はできないということだろう。

 戦法そのものを変えて対応しているのは流石だが、結果がこの脳筋肉弾戦仕様というのもなんとも言い難い。

 

「ダークマターに適応した結果エーテルとの相性が悪くなったんでしょうね……戦いにくくなったりしてませんか?」

「問題はない。慣れた」

「早」

 

 数ヶ月も経ってるわけじゃないのに適応具合が半端じゃない。恐ろしい人だ。

 一応今は味方とはいえ軽い畏怖を覚える。

 

 ……まあ、ともかくそんな調子なので、道中は巨獣の方が可哀想になるほど順調だった。

 将軍の足も速いし僕は飛べるしで、通常なら数日をかけて踏破するような道のりも半日足らずで済んでしまった。もう帝国市街を囲む巨大な壁も目前だ。

 

「では行くぞ」

「ちょいちょいちょい」

「何だ?」

「行くってその格好でですか?」

「そうだが」

 

 強き魂とかそんなレベルじゃないぞメンタルどうなってんだこの人。

 もしかして恥って感情に欠けてるのか――って思ったけど主君に不敬を働いたことを理解できるだけの精神はあるんだし、これもしかして裸であることは恥じることではないって考え……?

 

「ダメでしょ普通に。股間隠してたら大丈夫ってもんじゃないんですよ」

「しかし私の状態では他にやりようが無い」

「えー……じゃあ……えーっと……」

 

 周囲を見渡す。霊術の世界に特有の巨木が林立しており、身を隠すにはもってこいの環境だ。

 適当な枝を一本ボキッと行ってプラズマ切断。焼けてるとはいえ板切れができたので、それを使ってマンハイム将軍を囲ってみた。

 弾け飛んで消滅した。

 

「くそァ!」

「小屋のような空間であれば消えぬことを考慮するに、『身に着ける』ものを排除するようだな」

「なんなんだよもう……わけわかんないよこの能力……」

 

 これならまだ結社の他の連中の使ってた闇の方が分かりやすかった……!!

 この能力の本質が読めない以前に表層も読めん! 何だこれ!!

 

「だったら小屋作って運ぶか……いや、着用してると判断されたら同じこと……いっそ目にも止まらない速さで動けば……?」

「正面から堂々と行けばいい」

「だからそれができっ……あ、そういう」

「門衛に話を通せばよい。私はここで身を隠す」

 

 考えてみれば正々堂々っていうのも普通に良策ですよねそりゃ。

 やましい部分は……いや全裸はやましい部分だらけだな。

 治安を乱そうという考えでもな……全裸が突如街に現れたら乱れるか。犯罪……は、猥褻物陳列罪があるが、ともかく意図的にやってるわけでもないし。

 いずれにせよ、まともに話を通して状況を分かってくれればいいわけだ。

 ……急いで話を通してくるか……。

 

 指を立てて軽く距離を確認。まあ数百メートルも無いか。眼の前にいきなり現れたりしたら不自然極まりないし、ちょっと手前で一旦止まって、姿を見せてから近付くとしよう。

 いつも通りにエーテルでラインを引き、飛ぶ……と面倒なことになりそうなので、低空を滑るように向かう。

 

「止まれぇぇぇぇぃ!!」

「えっ」

 

 ――と。そこで待ったがかかった。

 血相を変えてやってきたのは、完全武装の門衛――門番さんたちだ。巨獣でもやってきたのかってくらいの勢いでこっちに来ると、彼らは遠巻きに僕を包囲した。

 

「えっえっ」

「貴様は既に包囲されている! 所属と姓名を名乗られたし!!」

「えっえっえっ」

「エーテルを大量放出しながら異様な風体で高速移動する不審者め……」

 

 それ体質です。

 

「他国の内偵か!?」

 

 あえて言えば半分くらいこの国の将軍です。

 

「我ら門衛隊から逃れられると思うな!」

 

 上ががら空きです。

 

 というか……エーテル噴き出してるのって、やっぱり異様なのか。まあこれは仕方ない。ドラゴンの二乗で常時暴走状態というグリムさんの見立てだし。

 異様な風体ってことはこの服装か。姉さんの見立てをよくも貶したな――って冗談は置いておいて。

 そもそも椿さんがファンタジー風狩りゲー世界なんて言ってたくらいだから、霊術の世界での衣服はポリエステル製じゃないだろう。化学繊維を見たのも初めてのはずだ。異様な風体だと思うのも無理はない。

 ヴァルトルーデの顔を知らないのは……元の肉体からいくらか成長してるらしいから分からないのもあるだろうし、末端の人だと上の役職の人間のこと分からないってことあるだろうしなぁ……。

 

 それはそれとして空飛ぶの想定してないのは普通に怠慢だと思います。

 椿さん並の実力者か僕と同列の特異な能力でも持ってない限りは難しいけど、逆に言えばそのレベルの人材ならある程度自由自在な飛行は可能だし。

 ……いや、これ案外分かってて、とりあえず姿を見せて足止めする感じ? 結構な速度で接近したはずなのに、僕が近くに降りるのに合わせて集合するくらいだから、それだけの練度はあるはずだ。

 巨獣相手にしてもある程度の犠牲を覚悟の上で誘導すると聞くし、この世界の門番ってもしかして半ば決死隊に近い存在? 怖……。

 

「いや……戦いに来たわけではなくてですね……あと姓名……所属……えーっと……」

 

 今の所属(ALV社)なんて伝えたところで分かるわけないし、本名だって同じことだ。両手を上げて反抗の意思がないことを示すが、さてどうなるか。

 じゃあマンハイム将軍の名前を出して……ダメだな。こっちはこっちで面倒なことになりそうだ。ヴァルトルーデの名前を出して、共通点を見つけてもらえればあるいはというところか……?

 

「ヴァルトルーデ将軍と関係がある者でして……」

「――気にかかる話ではあるが! 判断が難しいのでもう少し待て!」

「レーヴェンタール代理呼んでこい、すぐにだ!」

「人相書き回せ!」

 

 後ろでざわついてるの全部聞こえてるんですよ、耳が良すぎて。ごめんなさいね。

 というか今度は代理……マンハイム将軍とか僕とかグリムさんとかの代理ってことなのだろうか。人相書きを回すよう頼んだのなら、多分関連性については察してるはずだ。

 このまましばらく待ってたらちゃんと対話の格好になるのかな。考えが甘すぎるかな……。

 と考えて両手を挙げたまま数分後。

 

「ヴァルトルーデがいるというのは事実か!?」

「はっ! はっ!?」

 

 伝言ゲームで報告がネジ曲がって結果的に事実に行き着いとる。

 門から出てきたのは、赤い髪の女性だった。見た目的には姉さんと同じくらい……姉さんもだいぶ童顔だから、20行くかどうかってところだろうか?

 頭からは角が生えており、エーテルも放出していることから竜族であることが察せられる。シワを寄せた眉間よりも下がり気味の目元を気にして幾度も吊り上げるような素振りを見せてるあたり、ストレスで眉間にシワを寄せてるんじゃなくてどうにかして怖い顔を作ろうとしているようだ。

 彼女は数メートルほど離れた場所からこちらに向かって剣を突きつけると、若干無理した感のある低く強めの声音でこちらに語りかけてきた。

 

「ヴァルトルーデ・ネルリンガー! 今更のこのこ国に戻ってきて何の用だ!」

「隊……代理! 関係者と言っているだけで本人とは言ってません!」

「え? 嘘……あ、スケールが全身がうわでっか」

 

 僕のこと見る人見る人全員それ言うよね毎回さぁ!!

 

「し、失礼した。私はカリン・レーヴェンタール。あなたはヴァルトルーデの姉君か母君か?」

「いえ、どっちでもないです。というかそっちは本題じゃなくって」

「た、確かにこんなにまともなことをヴァルトルーデが言うわけが無い……私の扱いもぞんざいじゃないし。本題じゃないとは?」

 

 ある意味本人なんだけど、姉でも母でもないので話すのにあたって無駄な情報は一旦シャットアウト。まず将軍のことを伝えないと。

 

「マンハイム将軍という方をご存知でしょうか?」

「将軍だと!? 何があった!?」

「僕が外で遭難したところを助けていただいて、こちらに連れてきていただいたんですが……」

「連れてきて? では肝心の将軍はどこに?」

「えーっと……本人がその……皆さんの前に出られない状態で……」

 

 カリンさんはすっかり剣を降ろしており、周囲の隊員の人たちも問題ないと判断したのか、遠巻きに様子をうかがいながら少し空気が緩んでいた。

 が、この言い方だとどうも将軍の危機を示すような表現にもなってしまってる。再度、少しだけ空気が張り詰めてきた。

 ……言い方まずったな。いや、でも、「今将軍全裸なんです」なんて言うのもそれはそれで僕の頭が疑われるからな……。

 

「まさか、何か怪我でもされている……?」

「いや、怪我は無いですしピンピンしてるんですけど……あー……と……どなたか、男性にあちらに行ってきていただけると、だいたい分かるので……はい」

「えぇ……?」

「では自分たちが」

 

 そう言って手を挙げた人たちに頼むと、少ししてマンハイム将軍のいる方から結構なバカ笑いがこっちに聞こえてきた。

 あー……まあ、そうか……僕は初対面の知らん人が全裸だったから恐怖が勝ったけど、この人たちからすると職場の上司が急に全裸から戻れなくなったような状態なワケか。

 僕に当てはめて考えると、フォーグラーCEOが急にまっぱだカーニバルするわけか。ディセットと僕あたりは大ウケしてそう。それは心理的距離が近いからこそだけど。

 

「隊長! 隊長ぉぉー!」

「何事か! というか隊長じゃなくて今は代理でしょ!」

 

 カリン代理。素が漏れてます。

 

「失礼しました! しかし確認は取れました。マンハイム将軍ご健在です!」

「本当に!? 良かっ――あ」

「……あ、どうぞこちらはお気になさらず」

「こほん! ……これで陛下に良い報告ができる。急ぎ軍内に周知を!」

「はっ……しかしいくつか問題が」

「問題?」

「は。マンハイム将軍、お召し物が無く――有り体に申し上げて現在、全裸です」

「は???」

 

 周知じゃなくて羞恥ですよこれじゃワハハ。

 カリン代理の顔が髪と同じくらい真っ赤になってく様が見える。耐性無いタイプかこの人。

 

「なんで!?」

「せめて鎧を着ていただければと思いお渡ししたのですが、鎧も木っ端微塵に……」

「なんでぇぇぇー!!?」

 

 本当に何でなんでしょうね……。

 闇じゃないなら、その対極の聖なるものとか? 存在しない概念だし、この世界のものを「穢れ」として纏わせることを許さない……とか。

 でも、だとするとあの超絶パワーアップが道理に合わないんだよな。あと……そっちの神の影響下にある人たち全員が全裸で戦うとか考えるだけで色々嫌だ。

 乾いた笑いが出ていると、向こうから全裸が堂々と歩いてやってきた。

 

「壮健だったか、レーヴェンタール」

「ひやあああああああああああああああああ!!?」

「誰か前隠してあげてくださーい!」

 

 急いでやってきた門番の人たちが、兜やら胴鎧やらを脱いでマンハイム将軍のアレを隠してどうにかこうにか。

 とりあえずの体裁が整ったところで、門から少し離れた壁沿いで目立たないよう集合した。

 

「長く留守にしてすまなかった。帝国や陛下はお変わりないか」

「は、はあ……それより閣下、その姿はなぜ……」

「私にもわからん」

「なんで……」

「何でなんでしょうね……」

 

 まあわけのわからん能力のことは一旦置いといて。

 

「ともかく先の私の出奔の件、そして今出戻った件について話がある。陛下にも説明と釈明をせねばならん。取り次ぎを頼みたい」

「は、それは如何様にでも」

「隊長は将軍代理を拝命して以来ずっと慣れん真似をして負担がかかっておりますからなあ()っ!」

「余計なこと言わない!」

 

 部下が冗談言って上司が折檻で済ますとかアットホームな軍部ですね……。

 というかアットホームにならざるを得ないのか。人間の数がかなり限られてるっていうし。国っていうか……規模的には日本で言うところの市くらいのもんだろうか?

 人口爆発するような余地も無いし、これでも栄えてる方なんだろうな……。

 

「それで閣下、そちらの方は結局何者なのです? この話に加えてよい方ですか?」

「ヴァルトルーデだ」

「は?????」

「人格とかは別人ですけど概ねそうです」

「なんでぇぇぇー!!!?? どういうことなんですか閣下!?」

「私にも分からん」

「閣下ぁぁー!!?」

「えっと……すみません、僕の方からこの状況も含め軽く説明させてもらいますので……」

 

 というわけで、カリン代理も含めて、先程マンハイム将軍にしたのと同じようにざっくりここまでの経緯を明かした。

 途中からもう完全に理解を放棄して瞳の中に宇宙が映ってたが、まあとりあえず僕≒ヴァルトルーデという点については概ね分かってもらえただろう。

 異世界という概念自体も無いだろうしね……こればっかりはもうしょうがない。

 

「――学のない私には分かりかねますけれど、幸い我が国には智者が複数おりますので!」

(投げたな)

「投げるか」

「投げます! ええ、もちろん! 閣下のことも含めてなんにもわかりません私! 誰か噛み砕いて教えて!」

「僕らも全部分かってるわけじゃないですから、ざっくり程度の理解で十分ですよ隊長さん」

「あとヴァルトルーデがこんな丁寧な物腰になってるのが気持ち悪い!」

「ひどない?」

 

 いや、まあ……例えるならアレか。椿さんが突如ディセットにデレ始めるみたいな?

 ……確かに気持ち悪いな……あとなんか微妙に、こう……なんか……うーん。

 なんか、それはちょっと嫌だ。

 とはいえ例えてみると分かる。でも今の僕はこういう人格なので慣れてもらうしかない。

 

「……ともかくこういう話は上に、特にヴィンケル将軍やテレーゼに投げるのが上策です。陛下への謁見にあたって二人も招集してきます」

「頼む」

「ただ……その……」

「うむ」

「閣下を城まで移動させるのは……どのように……?」

「…………」

「…………」

 

 どうしよっか、これ。

 布に包んでも板で囲んでもダメ、とくれば……うーん……。

 

「人垣作りましょっか」

「えっ」

 

 ――スクラム組んで行くか。

 門衛隊総動員すればマンハイム将軍一人くらい隠して行けるじゃろ。たぶん。

 

 

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