融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合−   作:桐型枠

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68.城郭都市と謁見

 

 

 デルピュネス帝国は帝国城を中心とし、巨大な外壁によって都市部の外周を囲まれた一種の城郭都市である。

 度々出没する巨獣に対抗する関係上その城壁は見上げるほどに高く、農地なども確保しないとならないため、一般的に知られるような城郭都市と比較しても、壁内のスペースはやや広い。

 しかしながら、人口は多くとも数万人程度しかいないのだという。これは純粋な人間とは異なる、いわゆる亜人種が主体となっているためで、他国はもう少し多いのだというのがマンハイム将軍の説明だった。

 

 そんな城下町を、特に何があったわけでもないのに隊列を組んで移動する僕らはだいぶ異様なことだろうと、好奇の視線を浴びながら僕は苦笑いした。

 人垣を組む、と言ってはみたが、流石にこう……本当にラグビーみたいにスクラムを組んでいくわけにはいかないので、もう少し状況と場に合ったやり方に変えることにした。軍人らしく、隊列を組んでマンハイム将軍を隠す手法だ。

 先頭に立っているのは見た目にも目立ちやすい僕とカリンさんだ。他人の視線を誘導するにはこのくらい分かりやすい目印があるといい。

 

「皆さんすっごい見てますねー」

「他人事みたいに言うなおバカ!」

 

 カリンさん顔真っ赤なせいで全身真っ赤だ。わはは。

 まあ彼女の言う通り、半分は間違いなく僕のせいではある。行方不明になっているはずの将軍と似ている人がいる――というのは、それだけでも注目に値するだろう。

 そもそも、ただでさえむくつけき男共が隊列を組んでいるのだから、ハタから見ても威圧感がすごい。当然注目もするだろう。

 

「くっ……あなたはこう……注目浴びて恥ずかしい気持ちとか無いの!?」

「え。別に……」

「無いの!?」

 

 散々注目浴びてきたから……この見た目になってから……。

 今回に関しては注目を浴びるに足る理由もあるし、もう慣れの方が大きくなってきてる。

 極論、羞恥心というものは思い込みによるものだ。恥ずかしいと思うから恥ずかしくなるわけで――実際マンハイム将軍は恥ずかしいと思ってないから、まるで動じてない。

 それを見習うというわけではないけど、僕も慣れと自己暗示で恥ずかしさを軽減してる。むしろ堂々としてる方が気にする人も減るというものだ。

 

「恥も気の持ちようだ。精進せよ」

「閣下はもっと恥を感じてください……!」

 

 一方の将軍(ぜんら)は堂々としすぎていた。

 行き着くところまで行ったらこの人くらい堂々とできるのかもしれないが、流石にそこまで開き直れるとは思えない。というか開き直れたらそれはある意味社会的に死んでる。

 一応、腰を屈めてくれているから、見られ方を気にしてくれてはいるのだと思う。

 

「少し我慢してください。僕らが異様に見えれば見えるほど、街の人は将軍のことを気にしなくなりますから」

「そ、そうなの?」

「はい、皆で頑張りましょう」

「じゃあしょうがないよね、ええ、しょうがない……!」

「あんた隊長の扱い上手いな……」

 

 変な話だけど、門番さんに言われた通り、今の僕はなんとなくカリンさんの扱い方というか性格がぼんやり読めている。

 これも恐らくヴァルトルーデの記憶によるものだろう。だろうけど、同時に以前はもっとおちょくっていたっぽいこともなんとなく浮かんでくるのがちょっと嫌だ。自分のやったことじゃないのに確かに自分がやったことという自覚もある。

 そうしてしばらく、僕らは好奇の目に晒され続けることにはなったが、なんとか将軍の異常事態を察知されることは……ほとんど無かった。一応。

 人の視界を制限するって結構難しいから……騒がれそうになった瞬間に小さな電気をチカッと光らせて目眩ましするとかの小細工は弄したけども。

 

「な……なんとか着いた……!」

「ここが……」

 

 というわけで、到着した帝国城。そこは一見古ぼけた洋風の城という外観だった。

 外壁は一部倒壊しており、獣の文字通り爪痕のようなものが残されている部分も見える。ここまで攻め込まれたことがあるという証明だ。

 それにしても……。

 

(城……っていうか、城塞……?)

 

 その見た目は、僕らのよく知る観光用の城とも異なり、使い古されてボロボロな部分が目立つ。

 これは単純に今現在も使われている最中だから……というのもあるんだろうけど、それ以上に補修の目処が立たないんだろうと思う。霊術を使えば資材くらいはいくらでも手に入るだろうけど、城に使うよりは外壁に使っていそうだ。権力を顕示するための城というよりは、印象的には前線拠点や政庁という趣が近い。とにかく全体的にごっつい。緊急時には避難所にでもなっていそうだとも思う。

 

 見れば、正門前には一人の少女がいた。長く尖った獣耳を生やした……狐の獣人だろうか? 鎧を着用しているカリンさんたちとは違い、軍服のような仕立ての服を着用していた。

 身長はそれほど高くないようだ。どうも雰囲気から目元から眠たげではあるのだが、僕の方に視線を向けると驚きで目が開いたようだった。

 

「うわぁ。本当にヴァルトルーデですねこれは」

 

 駆け寄ってきてこちらの全身をぺたぺた触り倒して一言。分からないではないが、もう少し遠慮をしてはいかがだろうかと再び苦笑い。

 においまで嗅いできてるのは無意識のものだろうか。すぐにカリンさんが引き剥がしに来たが、放っておいたら服まで脱がされてたかもしれない。

 

「えっと……お初にお目にかかります……」

「わぁ丁寧な物腰。気持ち悪。誰ですかこれは」

「失礼なこと言わないのテレーゼ!」

「カリンさんも似たようなことおっしゃってましたよね?」

「あ、あれは……そうだけど……ごめん」

 

 随分と……その……もう一人の僕(ヴァルトルーデ)はヤンチャしてたみたいだな……。

 グリムさんからも色々言われてはいたけど、こうして現地に来ると更に実感がある。

 そもそも将軍なのにカリンさんやテレーゼさん? からも呼び捨てにされているようだ。それを許しているというのは、妙にアットホームな風土的なものか本人がそれを許していたのか……。

 

「テレーゼ・リュール、グリム将軍の代理です。先触れから人相書きは回ってきましたが、ここまでそっくりとは思いませんでした」

「神足……あ、命名規則違うか。とりあえずナルミと呼んでください」

「はいよろしくです」

 

 漢字圏じゃないし、とりあえず個人を特定できるように名前だけにしとこう。

 流石にヴァルトルーデの名前をそのまま借りるわけにもいかないし、記憶を持ってるだけで中身がほぼ別ってことが分かればそれでいい。

 握手を交わした後、城まで来ればもう大丈夫ということで、カリンさんたちは門衛隊の皆さんを数人残して持ち場に帰した。そうなれば、当然マンハイム将軍の姿も白日のもとに晒されることになるのだが――。

 

「うわ閣下本当に全裸じゃないですか。ふわはは」

「うむ」

 

 僕らと比べてその反応は薄かった。

 ……いや、まあ、過剰反応っちゃ過剰反応ではあるんだよねカリンさん。軍って大概男所帯だろうに。真っ裸(マッパ)の変態と出くわす可能性は低いけれど。

 

「軍部一同お帰りをお待ちしておりました。それで、お召し物は?」

「着られぬ体質になった」

「体質」

「困ったことに事実なの……」

 

 テレーゼさんの眠そうな目の奥に確かな困惑がうかがえる。彼女はそっと霊術を発動し、マンハイム将軍の股間の前に光る球を創り出した。

 ……消えない。どうやら「着るもの」と認識されないため、これでなんとか隠せるようだ。

 アレも弾け飛ぶんじゃないかと若干期待してた自分がいることは否定できない。

 

「陛下の御前に出て大丈夫ですか?」

「問題があると思ったから出奔していたのだ」

「問題がモロ出しですからね」

「だが、そうも言っていられない状況だとナルミから聞いてな。恥を晒しているのは百も承知で戻ってきたのだ」

「恥が丸見えですけど」

「逐一茶々を入れないでそこの二人!」

 

 帝国の恥部と言われても仕方のない状況ですよ。

 文字通り恥部丸出しだから。

 

「それではヴィンケル将軍もお待ちですので、謁見に参りましょう」

「スルーしないでよテレーゼぇ!?」

「いつもこんな感じなんですか?」

「いつもこうだ」

 

 随分愉快な国家上層部だなこの人たち。

 いいのかこの緩さで。運営なんとかなってるのか。

 

 そして入り込んだ城内もまた、外観から想像できるのと概ね変わらない、とにかくあくまで戦闘のための城や要塞の内部と言った内装だった。

 磁力が多少反応するので壁面は鉄板で固められているようだし、まるで飾り気が無い。これはこれでどうなのよと思わないでもないけど、こっちの世界じゃこれが普通、というかこうするしか無いんだろうか。

 謁見の間まではそう長く歩くことは無かった。こちらの内装はそれなりに整っているが……まあ、隣国というものもあるみたいだし、対外的にある程度は整える必要があるのだろう。

 それに、今日僕らがこちらにやってきたのも突然のことだ。その必要さえあればもっと飾り付けくらいはして内装も整えるだろう。

 

「オスカー・マンハイム、罷り越しました」

「…………」

 

 将軍に合わせて姿勢を正す。今まで一度もそんなことをしたことが無いにもかかわらず、体は勝手に臣下の礼を取っていた。

 周囲に気付かれぬよう、軽く視線を回す。と、上座の方に一人、エルフの男性がいた。目の下に深いクマを作った、鋭利な印象の壮年だ。

 見た目だけは老境に差し掛かっていると言ってもいい。見た目だけなのか、あるいは実際にそれだけ歳を重ねているのか……僕らの方に向けられた厳しい視線のせいで、それを推測する時間は無かった。

 

「うむ――(おもて)を上げよ」

 

 その言葉を耳にして、ようやく顔を上げる。そこで、僕らを見下ろす位置で立っているその方と目が合った。

 こちらも壮年、竜族の男性だ。白髪なのか銀の髪なのかはやや曖昧なところだが、見た目の年齢から察するに恐らく後者。力強く伸びる角は黒い。

 ヴァルトルーデの記憶とはまた別に、その外見にはどことなく見覚えがある――具体的に言うと、自分自身の姿に。

 王統、という言葉の裏付けと言えるだろうか。あちらも同じように血縁の色を感じているようで、わずかに驚いたように眉がピクリと動いた。

 ――そして直後、視線が横に動いて完全に動揺した。

 

 エルフの男性が厳しい目を向け、陛下が驚くのも当然だ。だって将軍全裸だもの。

 

「――なぜ全裸なのだ?」

「それを説明させて頂く前に、先日の不敬を謝罪いたします、陛下。しかし見ての通り、私は依然として不敬を働いております――この罰は如何様にでも」

「よい。まずは理由を述べよ」

「はっ。衣服が着用できぬ体質に変じております故」

「なぜ?」

 

 なぜなんでしょうね。

 テレーゼさんが持ってきた簡単な衣服を将軍が着用すると、当然のように弾け飛んで消滅した。

 偉い人が揃って白目剥いてるの初めて見たよ僕。

 

「ま……マンハイム……貴様一体これは……何がどうなって……」

「分からぬ。故に、誰かを傷つけるようなことが無いよう、身を隠す他なかったのだ。すまぬヴィンケル。手間をかけている」

「まったくだ!!」

 

 手間とかいうレベルじゃないんだよね真面目に。

 将軍三人が突然消えたことによって発生する事務処理の内容とか、想像したくもないレベルで煩雑だろうし……ヴィンケル、ということはあのエルフの人が、最後の将軍だろう。死ぬほど面倒だっただろうな……事務処理やら何やら……。

 まあその辺僕が何か言っていいことじゃないんだけどね! ヴァルトルーデ的な意味で!

 

「して、そちらの少女は?」

「発言をお許しいただけますか、陛下」

「許そう」

「はい。私は………………」

「どうした?」

 

 ……なんて説明すればいいんだコレ!?

 縁あってヴァルトルーデを知る者、と言っても間違いじゃないけど控えめに言ってクッソ怪しい自己紹介だし、かと言って本名を出しても何が何やら。海岸に打ち上げられたところを救われたんですよ、と言ってもじゃあ何で海岸に打ち上げられてたのかって話になるし……説明に必要な前提があまりにも多すぎて、自己紹介をしたくてもまずその前提に至らない。

 

「自己紹介をするのに必要な説明をさせていただいてもよろしいでしょうか、陛下」

「………………」

「貴殿は何を言っているのだ?」

 

 ああ、もう見るからに陛下もヴィンケル将軍も怪訝に思ってる……。

 実際僕も何言ってんだ僕って思ってるよ……何だよ自己紹介に必要な説明って。でもここ疎かにすると結社の危険性とかヴァルトルーデと僕の関係性とか何も分からないから困るんだよ!

 唸れ融合して(まだら)になってる僕の脳細胞! いい具合にこう……説明を適度に端折りながら必要事項だけ確実に伝達できる文章をひねり出してくれ!

 

 ――なお、結論から言うとこの後、自己紹介に行き着くまでに30分ほどを要した。

 

 

 

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