融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合− 作:桐型枠
「――ことの本質が理解できたとは到底言えぬが、大筋は分かった」
「よ……良かったです、ご理解いただけて……」
ぼんやりとした理解と憶測と推測をわずかに交え、少なくとも竜族が狙われていることや世界同士が融合したことを説明し始めておよそ30分。
本当に。
本っっっっ当に説明は面倒だったが、なんとか表層的な部分は陛下に理解してもらえた、はずだ。
王族相手に失礼をしちゃいけないと、なんとか取り繕うために貼り付けた微笑みの裏で背中にめっちゃ汗出てる。一応ヴァルトルーデが王族関係者なためか、緊張はせずに話せてるのが幸いか。
ただ、陛下は難しい顔をしたまま――ヴィンケル将軍のこちらに向く目も厳しい。
「私も漠然と理解はしたがね。そのことと貴様を信じるかは別の問題だ」
「ヴィンケル」
「だいたい何だその背中の輪っかはふざけているのか貴様」
「ヴィンケル。そこは関係ない」
「ええい、分かっている! だが貴様もだ、マンハイム。状況証拠から安易に信用するなど愚の骨頂ではないか。よもや服と一緒に判断力まで弾け飛んだのか?」
棘のある言い方だが、ヴィンケル将軍の言葉は決して無視してはいけないことだ。
客観的に見て、僕の説明は信用に足るものではないと言っているのだ。現状、僕とマンハイム将軍はある程度の説明で納得を得られはしたが、これはあくまで僕らだから通じることである。僕は結社と何度も戦った上に自分自身が融合体だからだし、マンハイム将軍はダークマター由来の能力を手にしてしまった人だから――当事者という立場があるからこそ、ということを忘れてはいけない。
同時に、「状況証拠だけで信用するな」と言っているのは、つまり少なくとも状況と僕の説明が合致しているということだ。王族一人と将軍二名が行方不明、一人が全裸。この異常事態、それこそ世界が融合するとか神が力を与えてる人間がいるとかいう妄言じみた話でもなければ説明がつかんのである。
「身一つで漂流することになった境遇は気の毒に思う。しかし余は言葉だけで動くわけにはいかぬのだ」
「はい」
「フン……信用を得たいのならば、貴様の言葉が真実であると客観的に判断できねばならん。マンハイムを
「承知しました」
「やけに物わかりがいいな貴様……本当にヴァルトルーデの記憶があるのか……?」
「やめぬかヴィンケル」
陛下の制止の言葉からは、しかし「気持ちは分かるが」というニュアンスがありありと感じ取れる。
これに関しては本当につい言ってしまったのだろう。ヴィンケル将軍はばつが悪そうな顔をして謝意を述べた。
「だが懸念ももっともである。そこに関して、何か証明はできぬか?」
「証明――」
できないわけではない。僕と父さんの親子関係が科学的に立証されたように、血液を調べればその辺りは確実に分かる。
ただこの場にそういう設備は無い。エーテルを雷に変換できる資質が、という話にしても同じことができる人は少なくないだろうから、これは証明にはならない。
髪や角――これもなんとでも言える。染色料くらいはこの国にもあるだろうし、そういう霊術だってありそうだ。
と、なると……。
「血筋の話をした方がよろしいでしょうか」
「いや、そちらはよい」
陛下が告げるのに合わせて、ヴィンケル将軍が耳を軽く叩く。誰が聞いているとも分からない場で語るな――と言っているのだろう。
監視や警護のために人はいるし、盗聴のための霊術が施されていないとも限らない。変な反政府組織とかに担ぎ出されたりする可能性があるから皆この辺は黙ってるんだ。僕もそれに倣おう。
「陛下、"皎月"を一度持たせてみるのはいかがでしょうか」
「アレか……」
あ、椿さんが言ってたやつ。
椿さんの"墜星"と同様の機構を持つ強力な……斧だかピザカッターだかみたいなやつ。つい先日、僕の記憶にも浮かんできた。
「それなら存じ上げております」
「フン、知っていてもおかしくはないな。あの
「厄介?」
「ヴァルトルーデ以外に扱える者がいないのだ」
武器として欠陥品じゃんねそれ。
そんなんでも能力的には必要だったんだろうけど。
「手に持つだけなら誰にでもできるが、励起状態を安定させられる者が他にいない。こればかりは相性の問題だ」
「中身の問題とかでしょうか……?」
説明してくれるマンハイム将軍も難色を示しているあたり、彼ですら――それこそグリムさんのような人ですら御しきれなかったのだろうか。
こうなると、混ざりもののある僕もどうなることか……。
命じられて少しすると、衛兵(と表現すべきなのか分からないけど)の人が二人がかりで豪奢な作りの箱を持ってきた。そこに収められているのは長大な斧――"皎月"だ。
ヴィンケル将軍は至極丁寧にそれを取り出すと、僕に対しては打って変わってやや乱暴に――それでも陛下の手前、礼を失することなく――こちらに押し付けるように手渡してきた。
「制してみるがいい。できるものならな」
「承りました」
さて、"皎月"の外見は斧というよりバルディッシュに近い。先端が両刃なこともあって更に重量バランスが悪く、一見してアホほど取り回しが悪いのが察せられる。
両手でこれを保持、エーテルを通す……が、バランス悪すぎて刃の方の指にかかる重量すごいな。いやまあ僕はいいけど、他の人が扱えなかったのこの辺の理由もあるでしょ。
内心軽く酷評していると、不意に感覚的に「繋がった」のが分かった。椿さんの"墜星"と同じような状態だろう。
(あとはこれを励起状態に……えーっと……確かあっちは刀身が開いてたな……)
その状態に導いたのは、ヴァルトルーデの記憶だった。
外装が開いて内部機構が露出。二重になって常時半暴走状態の僕のエーテル生成器官と結びついた結果、それは
「!」
結びついているということは実質僕のエーテルということでもある。
自分の体の延長線上にあるもの、グリムさんから教わったその認識のもと、僕はこれを強引に抑え込んだ。
外へ流れていこうとする力を留め、向かう先を整えてやる。単に押さえつけるのではなく、イメージは循環――いつも背中の光輪でもって無意識にやってることと同じだ。
自然、その力の形を整えれば円刃――ピザカッターのような形状になるのも致し方ないことである。
「…………」
「…………ぬ、お……」
「あ」
見ると、二人の将軍は陛下を守るためにか瞬時に彼の前に陣取っており、僕の暴走を抑え込むために術式と謎の光を展開していた。
けど、まあ。
「できました」
「そ――そうか……」
マジでできるとは思ってなかったっぽいヴィンケル将軍の声音に、僕は思わず苦笑いした。
――僕も正直ちょっとヤバいかなとは思った。
生成器官三重はちょっと未知の領域だし。
「というわけで一時の身の保障と滞在許可だけはいただきました」
「いえー」
「いえー」
「ちょちょちょちょい待って説明して私に説明して」
僕≒ヴァルトルーデが証明され、"皎月"を拝領して少し。城内の広場でハイタッチする僕とテレーゼさんに、カリンさんが割って入ってきた。
「えー」
「えーじゃなくって! 結局あのその、ヴァルトルーデがあなたと混ざってること以外何も信用されてないのよね!?」
「ああ」
なるほど、カリンさんが気にしているのはその辺か。
確かに、結局のとこグリムさんを知ってるという件についても、結社のことについても、あと世界の融合についても一つとして信用されていないわけだ。確かに問題と言えば問題ではあるけど……。
「全部が全部信用されなくともいいということなのではないですか?」
「……どういうこと?」
「いいでしょう、説明して差し上げてくださいヴァル……ミさん」
「混ざってます」
グリムさんもやってたけど、こっちの世界の人一回名前混ぜないと気が済まないのか?
というか訳知り顔してるんだから自分で説明してくださいよテレーゼさん。
「そもそも僕は全部信用してもらおうと思ってないですし、信用されるとも思ってないです」
「え!? ……え? じゃあ何しに行ったの?」
「マンハイム将軍の現役復帰と、僕がここで活動する許可を貰うことを」
可能なら身分も保障してほしいし後ろ盾もお願いしたい――というのもついでに叶った。結果は上々だろう。
ぶっちゃけた話、情報なんて僕の現状を説明するための前提でしかない。今信じてくれないならくれないで別に問題は無いのだ。
だってどうせその内信じざるを得ない状況になるだろうし。
「そ、それにしたってヴィンケル閣下も少しは信じてくださってもいいのに」
「むしろ最大限尊重してもらえましたよ?」
「あなたの話聞く限り邪険にされてるようにしか聞こえないんだけど!?」
「ああ、なるほど。ヴァ……ナルミの発言を信用するための道筋は示していただけているのですね」
「え?」
「ですね。『証明してみせろ』ってことは、『証明さえすれば話を信用する』ってことの裏返しですから」
こちらの言うことは、立場上信用できないしするわけにはいかない。
しかし状況には合致しているし、頭に留め置いてはおく。それが証明さえされれば、信じてやっても構わない――つまり、ヴィンケル将軍や陛下はそう言っているわけだ。
「何より言葉だけで信じる方がむしろ心配なのです」
「……えっ!?」
「カリンさんが信じたのが心配とは言ってないと思いますよ」
「事実上そういうニュアンスでしょ!? 私だけじゃなくて、あなたの話信じた将軍もいるのに……!」
「それぞれに持ってる情報と前提が違うので、信じる人がダメで信じない人が普通ってワケじゃないです……」
あくまでこれは「何の情報も無い状態で」かつ「言葉以外に証明の手段がない」という状況で、その上相手は一国のトップだから信じる方が心配だと言ったわけだ。
元々異世界の神を由来とする能力を持つマンハイム将軍はその限りではないし、そのマンハイム将軍を信じているらしいカリンさんがダメだとは思わない。
一番上に立つ人間が口だけで扇動されちゃいけないのは分かりきった話だろう。
「まあそんなわけで、信用してもらうためにここで働かせてもらうことになったという流れです」
「へぇ…………あ? ん? ……『ここ』ってつまり帝国軍?」
「です」
「……ヴァルトルーデの後釜で?」
「多分、そういう流れになるかと」
「わあ。上官じゃないですか。大抜擢ですねこれは」
「ひェ」
うわカリンさんめっちゃ顔青ざめてる。ウケる。
あー……でもヴァルトルーデの後釜ということは、つまりマンハイム将軍たちと同格。四人の将軍に並ぶということだ。直属の上司でこそないが、こうやってのんきにタメ口で話せる相手じゃあなくなってしまうのか……。
オマケに過去の傍若無人だったらしいヴァルトルーデのことを知っているので、更に恐怖上乗せでドン。そりゃ血の気も引く。
「いきなり見も知らない相手にそんな地位を与えるつもりは無いみたいですし、一つ仕事をしてからとも伺ってますから大丈夫ですよ……」
「仕事? ……ああ……確かにあの件は適任でしょうね」
「ご存知なんですか?」
「目下、帝国軍内で憂慮すべきことがあるのですよ。ヴァルトルーデがいなくなったことで統制が取れなくなった部隊がありますので」
頼まれた仕事というのは、要するに彼らを元鞘に戻してほしいということだった。
何せ全員が
「多分その件ですね。『ケヴィン・ボルツマン副官率いる部隊を制圧し指揮下に置け』――と言われてます」
「あー……あの人……」
「あの方なのですね……」
「え、何か問題でも?」
「あの人ヴァルトルーデがいなくなって以降、軍籍は置いてるけど酒浸りで仕事してないの」
「ヴァルトルーデの力に魅せられて軍に入ったような方です。元々盗賊をやっていたならず者の頭目。重々注意するのですよ」
……色々言いたいことあるけどさ。
何でそんなヤバい人を副官として置いてたの? 人材不足なの?
深刻な人材不足だったわこの国。