融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合−   作:桐型枠

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72.ガトリング砲と極限の腕力

 

「巨獣……?」

「飛甲虫……ではないようですが」

 

 何やらエラいことになってきたな――と、背後のむさ苦しい男芋畑と上空の侵略者襲来の光景を見比べていると、カリンさんたちは訝しむように首を傾げた。

 彼女たちにとっては、見覚えも無ければ存在も知り得ない機械の世界の産物だ。この反応も当然と言えば当然だろう。

 宇宙から直接地球に降りてきたということは、つまり宇宙戦艦というやつなのは間違いない。ロボアニメで見るやつそのまんまなのが来て内心ちょっと興奮しているが、ぼんやり聞こえてきた音声を聞かなかったことにするわけにもいかない。

 

(人型ドラゴンの捕獲作戦、それにバロメッツ部隊――)

 

 後者に関しては……聞き覚えがある。ディセットが元いた部隊だ。

 つまりあれはブラギ社が送り込んできた部隊と考えるのが妥当だろう。

 前者は文字通りの意味だろう。竜族=ドラゴンと捉えて……捕獲してエーテル生成器官を剥ぎ取るつもりか。

 

「宇宙戦艦……」

「うちゅう? 戦艦? あんな鉄の塊が? 空に浮いてるの? 冗談はよしてよ。それとも他の世界にはああいうのがあるの?」

「ありますよ」

「嘘ぉ」

 

 技術がろくに発展してないせいで「宇宙」の概念を説明するのが難しいな。

 まあ、この辺の詳しいことは後でもいいか。今重要なのは彼らの立ち位置だ。

 

「単刀直入にうかがいますが、あれは敵なのですか?」

「今のところは」

「そうですか……」

 

 ただ、時と場合によってはどうなるか分からない。そういう裏の意図を読み取ってくれたらしいテレーゼさんは、心底面倒くさそうに目を伏せた。

 相手は巨獣ではなく、また国でもない営利団体だ。結社のように何が何でもドラゴンを殺すという理念のもとで動いているわけではない、はずだ。ディセットはブラギ社のこと語る時は死ぬほど嫌な顔してるけど、曲がりなりにも企業で営利団体ってことは、利害をしっかり示せば味方になってくれる……とまでは言わずとも不可侵条約くらいは結べるんじゃないだろうか。

 この辺の微妙な兼ね合いを考慮すると、「無闇に手を出そうと思わなくなるくらい痛手を与える」ことを前提にしつつ「後々のことも考慮して損害を与えすぎない」という調整が必要だ。

 

「手をお貸しした方がよいのでは?」

「そうしてくれると、本当はありがたいんですけど――」

 

 カタパルトから射出されてくる三機の白い影がある。あの形状は――ガルデニアだ!

 流石に無いとは思うけど、もし万が一ディセット(クラス)のパイロットが三人、とかだったりすると……うん、最大限警戒するに越したことはない。

 

「ワーカー……あの鋼の巨人のことは知ってます。万が一のことを考慮して、テレーゼさんたちは討ち漏らしの警戒と街の防衛を!」

「一人で行くなんて無茶よ! 私も……」

「ごめんなさい、それは分かってるんですけど……!」

 

 僕は埋まってる人たちを指差した。

 当然だけど、埋まったままなので彼らは今のところ戦闘能力はない、というか僕が戦闘力を奪ってしまったというか……。

 ともかくそういうわけで、カリンさんには護衛を頼みたいというか頼まないと死ぬっていうか。

 あともっと具体的な理由もあるんだけど、話してる暇が無い! あと数十秒もすれば街に入り込んじゃうし!

 磁力を使って浮遊する。ギョッとする皆を一旦置いて、磁力線を構築――。

 

「理由は後で話すから今はとにかく防衛お願いします!」

 

 言い切ったところで加速を開始――数秒を待たず、僕は三機への急接近を果たした。

 

『え』

 

 外部スピーカーから唖然としたような声が漏れる。僕はその隙を突くように、肩に「()」のマークが刻まれたもの――暫定的に二号機と呼ぶ――の頭部側面にしがみついた。

 相手パイロットは当然、メインカメラを通してこちらのことを視認しているだろう。今が警告のタイミングとしてちょうどいい。

 

「あなたたちは帝国の領空を侵犯しています。ただちに停止して引き返してください」

『"ユピテル"!? まさか、早すぎる!!』

『振り落としなさい! 攻撃ができませんわ!』

『いや、退こーよぉ……』

 

 警告を聞き入れることなく、速度が落ちる気配も無い。小さな音を立ててスラスターが火を吹き、その場でバレルロールをしようとしているのが分かる。

 別に手を放してその場で浮くような形で逃れてもいいのだけど……。

 

「警告はしましたよ」

 

 一度警告は投げたし、人間と肉弾戦をするわけでもないんだ。殺す心配は無い。

 ただ、ちょっぴり――怖い目には遭ってもらう。

 回転しようとしているのと逆向きに力を思いっきりかけ、ガルデニアの頭部を()()()()

 

『なっ!?』

 

 当然、カメラの映像は一時的に途切れる。サブカメラによってそれも補われるのは目に見えているが、一瞬でも視界を奪うことができれば十分だ。

 そのまま力任せに頭部を投げつければ、一号機と三号機は一瞬そちらに目を奪われる。その刹那に、最接近した胸部装甲を引っ剥がした。

 

『まずいっ! 退っ――』

「――外部はコーティングできるみたいだけど、内部はどうかな」

 

 過剰な磁力によってパーツや配線がちぎれ飛び、内側から弾けて砕け散る。

 

 ユピテル――つまり木星の惑星級ドラゴンだが、この名前で僕のことを呼んで「早すぎる」とまで言っているということは、最低限僕がいることを想定しているはずだ。コーティングは入念にしてきていると思う。

 ただ、ディセットに話を聞いた時から思ってたんだ。対電磁コーティングって便利だとは思うけど、それは衝撃や切断には強いのか、と。

 塗装膜(コーティング)である以上、固める必要はあるし少なからず強度は増すだろう。で、それは対ドラゴンの肉弾戦に耐えうるものだろうか?

 

『ドゥー!』

「まず一機」

 

 結果がこれだ。物理的に表面装甲を剥ぎ取り、コーティングの意味を無くしてしまえば内部まで磁力も電力も浸透しうる。

 脱出装置が作動したらしく、コックピットブロックの一部が吹き飛んでいく。とはいえ逃がす理由も無いので、磁力で捕まえて出入り口を塞ぎながら軟着陸させた。

 

『くっ……トワ、距離を保ちながら攻撃を! 懐に潜り込まれたら対処法がありませんわ!』

『しょ~がないなぁ……』

「ん」

 

 残る二機は一気に僕から距離を取った。攻撃が当たらないわ味方に攻撃が当たりかねないわで、接近されたら危険だということは察しているのだろう。

 データの共有くらいはするのだろうし、こちらもあまり能力は見せたくないのだけど……市街地を背にしている以上あまり時間もかけていられない。退こうとする一号機に向かって急加速する。

 

『――――ッ!』

『撃つよ~』

 

 しかし、予測していたとばかりにガルデニア一号機はブレードを抜き放った。更に背後から三号機が巨大なガトリングガンを取り出し照準を合わせてくる。

 磁力に反応は無い。タングステンのような非磁性体の弾丸なのだろう。一号機が釘付けにして三号機が仕留める……まともな相手に対してなら素晴らしい連携なのだと思う。

 ただ――それは相手が普通のワーカーなどであれば、の話ではある。

 

「起動」

 

 僕もまた、「武器」を取り出し応戦する。"皎月"の高速回転するプラズマの刃と、高熱と振動を発するガルデニアのブレードが交錯し――。

 

『ほぁ!?』

 

 一刀のもと、ブレードは半ばから両断された。

 "皎月"の刃は、言ってしまえば雷を固めたようなものだ。温度にして約三万度。霊術によって生じている都合の良い雷のため周囲に大きな影響こそ及ぼさないが、ワーカーの装甲に使われているような合金を溶断するには十分だ。

 更に、空転を始める砲塔に差し込んで割り込ませる形で、二号機の分解したパーツを磁力でガトリングの隙間に差し込みその動きを阻害した。

 

『ぬ~』

 

 ガトリング砲というものは回転が重要だ。砲塔を「回す」ことで発射や排莢を連続して行えるようにする。その構造上、回転を止められてしまうと発射そのものができなくなってしまう。攻撃を止める手段として一考の余地があるはずだ。

 ――と、前にゲームしてる時にディセットが言ってた。その時はどうやって妨害すんの、できるわけないじゃん、と懐疑的だったんだけど……実際やってみると案外できるもんなんだね。

 疑ってて若干申し訳ない。*1

 しかし、そこで三号機はガトリングに固執することなくその場で放棄し、空いた腕で新たにウエポンラックから小型のマシンガンを取り出した。

 

『そこっ』

『やられっぱなしでは!』

 

 三号機の対応力が傑出しているようだが、一号機のパイロットもさるものだ。もうブレードは使えないと見るや、即座に僕から距離を取りながら放棄し、こちらもショットガンらしき重厚な銃を取り出し照準を合わせてきた。

 

『お兄様に「武器に固執しすぎるな」とレクチャーを受けた甲斐がありましたわ!』

『でも「”ユピテル”にだけは手を出すな」とも言われたじゃんさぁー……』

『お黙りなさって!!』

 

 誰だか知らないが、どうもこのパイロットたちの教官は結構な手練れのようだ。パイロットなんてディセットくらいしか知らないから単純比較はできないが、思った以上に立て直しが素早い。

 だが、警告されたにもかかわらず僕を狙って来たあたり経験豊富ってわけでもない。今すぐ倒してしまうべきだろう。

 幸い、弾幕の嵐はそれほど強力無比なものというわけでもなく、人間大の相手に当てるにはどうやったって少なくない制約が生じる。同士討ちを防ぐために、同時に双方向に交錯させるようなことができないのだ。

 あとはこの視力を駆使し、銃口から射角を即時計算。弾丸と弾丸の間をすり抜けて躱し、一号機に肉薄する。

 

『っ!!』

 

 咄嗟の判断だったのだろう。殴りつけるようにこちらに向かってショットガンが振り抜かれる。

 直後、()()()()ように尾を振り抜いて銃身を粉砕した。小さな悲鳴が聞こえてくるのを構わず、機体表面に接触。”皎月”は――使わない。コーティングは万能ではないだろうけど、だからと言って出力を上げすぎるのは僕自身の肉体を崩壊に導きかねないからだ。

 もちろん、あれは過剰に、かつ長時間力を使いすぎたせいだという前提はある。ただ――あの時の感覚は依然として体にしがみついて離れてくれない。小さくない抵抗感があった。

 

「ていっ」

『ひょあああああ!?』

 

 なので思いっきり装甲板を引っ剥がす。この方が圧倒的に確実で早い。

 やはり腕力……腕力はまどろっこしいことを全て解決する。

 磁力ではなく今度は電気を用いて内部配線を全てショートさせ、焼き切って破壊する。こちらも脱出装置が作動したが、やはり地上に軟着陸させるために磁力で別の場所に運び出した。

 

「二機目」

 

 あと一機。逃がす理由もないので、ここで確実に撃退しておきたいのだけど――という思いはある一方、そういえばと思い直すことが一つあった。

 ワーカーや巨大ロボットは今のところ、資源や人材の問題もあって霊術の世界に存在しない概念だ。ここで鹵獲できれば異世界の存在証明にもなるんじゃないだろうか。

 破壊することなく、撃墜だけはする……相当難しい話だし、降参して投降してくれるのが一番早いのだけど。

 

「降参する気ありません?」

『そうしたいのはやまやまなんだけどね~』

 

 マシンガンの銃撃に晒されながらも一応聞いてはみたが、相手も相手で体裁というものはあるか。

 戦った上で力不足で負ける、ならともかく最初から降参するのでは受ける印象も違うだろう。実際こっちも殺す気は無いけど……人員を帰す気も無いんだよね。

 動きながら発せられるマシンガンの弾を時に躱し、切り払い、殴り飛ばしながら三号機に接近する。地味に立ち位置を調整されて徐々に市街地方面に誘導されているのが分かるが、追いつけない速度ではない。数秒の弾丸のやり取りを経てガルデニアへの接触を果たした僕は、胸部ハッチに手をかけ力任せにそれを引きちぎって見せた。

 

「うーわ……来ちゃった……」

「どうも。降参する気は?」

「ここまで来られたら流石に降参降参~」

 

 パイロットはどうやら、僕よりも更に年下……中学生になるかどうかという程度の年齢の少女のようだった。不活性状態の”皎月”を突きつけると、彼女は軽い雰囲気のまま両手を挙げて降参をアピールする。

 どことなく、雰囲気がディセットに似ている気もするけれどこれはクローン兵士だからということだろうか。ともあれ、降伏に応じてくれるのならこっちとしても文句はない。カリンさんたちがいる方に向かってガルデニアを地上に着陸させ、接続を切った少女をコックピットから引きずり出す。

 これで、第一陣は全滅――と。

 

「戻りました!」

「えっ。あ、うん。えっ?」

 

 ()()()を引き連れてカリンさんたちのもとに戻ると、彼女たちは見慣れぬものを前にしてか困惑しきりだった。

 万が一にも勝手にガルデニアを動かしに戻らないよう、少女の身柄を強引にカリンさんへ押し付けて再度浮遊。撃墜したのはあくまで最初に出てきた三機だけであって、まだ肝心の大気圏突入能力を備えた戦艦が残っている。これも逃さず対処しないと。

 

「まだ仕上げが残ってますので、もう一回行ってきます!」

「あっはい」

 

 依然困惑したままのテレーゼさんに後のことを頼み、電磁加速。戦艦に向かって飛び出す。

 心配こそされなかったが、唖然とした二人に加えてどこか衝撃的なものを見たという顔をしていたボルツマン副官の顔が、やけに印象的だった。

 

 

*1
普通はできない。







ディセット「(お前らじゃ100%勝てないから)手を出すな」
妹1「(倒してほしくないから)手を出すべきではないのですね」

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