融界ドラゴネット −あさおんからはじまる世界融合− 作:桐型枠
戦艦というものは多数の乗員を必要とするもので、かの戦艦大和などは3000人以上の乗員がいたらしい。
機械の世界、というか宇宙戦艦も同様の扱いになるものなのかは分からないけど、技術の進歩によっては機械制御で乗員数を減らすことはできるだろう。海上自衛隊の護衛艦が、たしか乗員数100人とか200人とかくらい……だっけ?
ブラギ社の戦艦が目測280mちょっと。
彼らを集めたのは比較的スペースのある格納庫。いずれも下手に抵抗すれば死ぬということは理解しているらしく、逃げる人たちを追いかける必要こそあったものの、とりあえずその辺のワイヤーや端材などを利用して拘束はできた。
で、問題はと言うと。
「乗員はこれだけですか?」
「ど、ドラゴンに語る口など無い……!」
「えー……」
まーるで会話が通じないでやんの。
とりあえず一番偉そうな人と話そうとしているんだけど、この暫定艦長さんはずっとこの調子で取り合おうとしていない。
本人の言うように、「ドラゴンに語る口など無い」のだろう。じゃあ別のちゃんとした立場のまじりっけなしの人間呼んできてもいいけど、全裸だぞ。
いいのか? 呼ぶぞ全裸を。
僕と比肩するレベルでバカみたいに強い全裸を。
「それって命を捨ててまで貫かないといけないことですか?」
「ひっ」
別に殺すつもりは無いけどさ。
脅しとしてはちょうどいいだろう。
一方的に大半の武装を破壊するほど追い詰められれば怖いだろうし今はこのイメージを利用させてもらおう。
「こ、これで全員だ!」
「ふーん」
艦長さんとは別のところから声が上がったが、まあ嘘だろう。
別に嘘でもいいけど。撃墜なんていつでもできるし。なんなら人数誤魔化して逃亡者を出してくれるくらいの方がこっちとしても都合はいい。
「アイツらに手を出すと大損害を被る」という報告でもしてくれればなおヨシだ。僕以外のドラゴンとの融合体や竜族に手を出す人も減るかもしれない。
「では全員この艦から出てください。こちらも手荒な真似はしたくないので」
「……承知した」
制圧の手段は十分手荒だけど、そこは先に手を出してきた方が悪いってことで。
いや、実際に先に手を出したのは僕か? じゃあ僕が悪いってことだな……。
悪者なら手荒なことしても仕方ないよね!
……そんなこんなで半ば引きずるような格好で全員を練兵場の方に連れていくと、カリンさんたちは案の定ドン引きしていた。
逃げ出したりできないよう電気の檻で囲んでいるのもポイントだろう。まあ普通に見たら引く。
なお、ボルツマン副官は埋めた人たちを掘り返す作業に移っていた。
「単独であの要塞みたいなやつを攻略してきちゃった……」
「捕虜が多すぎるのです。もうちょっと人数を絞れないのですか?」
「
言語が通じてないからまだいいけどさぁ。
というかこれだから、こっちの世界の人に任せきりにできなかったのだとも言える。
結構血の気が多いというか、日常的に巨獣との命のやり取りしてるせいで死生観が割と物騒っていうか……。
僕が単純に死人があんまり出てほしくないと思っているのも理由の一つにあるけど、人的被害が大きすぎると逆にブラギ社が退けなくなる可能性も高くなってしまうし。
「ところでキミ……」
「はーい」
少し視線を横にずらすと、さっき連れてきたパイロットの子がのんびりシチューを食べていた。
言葉も通じない敵地で何バチクソ馴染んでるんだこの子は。とんでもないマイペースだな。
「名前は?」
「トワ・ポートリエ」
「トワだね。まずお互いの常用語が分かるようにすり合わせをしたいんだけど、翻訳プログラムの調整ってできる?」
「あいさー」
霊術の世界の言語は、ひらがなとカタカナと漢字と和製英語の入り混じった複雑怪奇な日本語ほど難しくはない。10分ほどをかけて簡単にやり取りを続けていくと、次第にトワとカリンさんたちの会話も通じるようになっていった。
あとは全員にこの学習データを配布し、とりあえず全員とまともに会話が通じるようになってくる。
言語があやふやなまま間違った情報を流されることもなくなったし、これで準備はいいかな。
「では改めて。何でこんなに大勢の捕虜を取ったのですか?」
「えっとですね……この人たちは多分、竜族のエーテル生成器官を狙ってさらいにきたんです」
「え? は?」
「だよね?」
「おかわりくれたら話すよ」
シチューをだばぁ。トワはにっこにこになった。
やたらご飯に釣られるのと笑顔の雰囲気、やっぱディセットと似てるよなぁ……やっぱり関係あるのかな。
「エーテルがD粒子って意味ならそれで間違ってないかなぁ……」
「軽っ」
「ちょ、ちょっと待ってナルミ、もしそうなら生かして帰す理由が無くない……!?」
カリンさんの剣の柄が音を立て、捕虜にしたクルーの人たちから小さな悲鳴が漏れる。
なまじ言葉が分かると恐怖はより大きくなるだろう。が、目的は怖がらせることではないので手でそれを制する。
「逆です。むしろ生かして帰すことで、対話や取引が成立する相手だということをわからせたいんですよ」
「警告も無視して都市に突入するような人たちと対話ができると思っているのですか?」
テレーゼさんの痛烈な皮肉に、トワは――全く動じていなかった。
何だこの子。よっぽどぼんやりしているか、さもなきゃ大物の風格を感じるぞ。
「対話のテーブルにはついてもらいます。単騎で全滅させてきたのもそのためです」
「この程度の戦力なら無傷で全滅させることができるし、全員生かしたまま捕らえることもできるというアピールですか」
「あっちがどういう認識かは知りませんけど、これで帝国に手を出すなら慎重にならざるを得ません。捕虜返還の交渉を挟めば、話の通じない相手だとは流石に思われないでしょう」
「本社に話が通じるかなぁ……」
「何でそっち側の
いや……まあ……ディセットから散々話聞かされたせいで話通じるか不安なのは分かるけどさ僕も……。
なんだか身に覚えがあるのか、見れば数名のクルーも頷いてトワに同意していた。
色々大丈夫かこの会社。
「しかし仮に今後交渉の場に立つとしても、まずは情報が欲しいところなのですが……」
「拷問はダメよ」
「拷問はダメですよ」
「流石に分かっているのですよ……何ですかあなたたち二人して」
いや、なんかこうさ……ノリの若干軽い人ではあるけど、同時に手段選ばなさそうな印象もあるから、テレーゼさん……。
カリンさんもこう言ってるし、必要さえあればやるんだろう。
どうしたものかと頭を捻っていると、横からトワがスプーンをスッとテレーゼさんに突きつけた。
「食器で人指すのはやめなさい」
「うい」
それはそれとして行儀が悪いのでたしなめておく。
「お姉ちゃんたち出してくれたら、教えてもいいよぉ~」
「お姉ちゃん?」
「あのコックピットブロックに閉じ込められてるパイロット……」
……あ、なんかそれっぽかったけど姉妹なんだこの子ら……。
別に全く外に出してやる気が無かったわけじゃなかったんだけど、それで情報流してくれるなら拒むこともないだろう。固定していた磁力を解除し、外に出られるようにしてやる。
少し経つと、二つのコックピットブロックが恐る恐るという様子で開いて、中からトワと瓜二つの少女が二人這い出てきた。
「ひぃ、ひぃ……ひどい目に遭いましたわ……!!」
「ようやく脱出できました……すみませんトワ、ありが――」
「やあ」
「「ぴええぇぇぇ……」」
そして二人揃って僕を見るなり抱き合って泣き出してしまった。
こちらの能力を思い知らせて恐怖を植え付けイニシアチブを取る、それによって二度と無駄に攻めてこないようにする……という意味ではこれ以上無いほど成功だが、それはそれとして普通に心は痛む。相手が年端もいかない子供と思うとなおさらだ。
いや、そんな年齢離れてないだろうけど。
「子供泣かしたのですこっわ」
「あくらつなドラゴン」
「本気出したらこんなもんじゃ済まないの思い知らせたりましょうか」
というか約一名馴染み過ぎなんだよ。キミさっきまで対立してたの覚えてる?
そりゃ僕としか直接戦ってはないけどさ。
「で、トワ、これで情報を話してくれると考えていい?」
「
「トワ!?」
「い、いったい何を考えてるんですか!?」
「えー。だってそうでもしないと出してくれなかっただろうし……」
そうだよね? とばかりに目配せをされる。
戦力差を見て、話が通じるなら取り入った方がいいという考え方だろうか。ついでに流す情報も絞っている。
要領がいいのは悪いことじゃないけど、人によってはなかなか反感買うやり方だぞ。
「キミたちを外に出す代わりに、ブラギ社のことを話してもらう取引をしたんだよ」
「ヘタをしたら一生あの鉄の箱の中だったのです。うひひ」
「ひいっ」
またテレーゼさんはこうやって無闇に驚かす……。
イイ感じのリアクション返してくれるからついやっちゃうのはわからんでもないけど。
「で、では、トワが語るととりとめのない話になってしまいかねませんので、私から」
「キミは?」
「ドゥーです」
「
「いえ、ドゥーです。数字の2、のドゥー。こちらはアン」
じゃあトワは
……えー。いや、マジか……。
「ディセットの時も思ったけど、キミらの上司どんな名付けしてるんだよ。しかも女の子に……」
「え? ……兄さんをご存知なんですか!?」
「ご存知だよそりゃあ。友達だし。キミたちブラギ社の人たちだよね? ていうか兄さん?」
トワがちょっと驚いたように目を丸くしつつも何やら納得したように手を打ち、ドゥーがポカンと口を開く。そしてもうひとり、アンは――激発してこちらに詰め寄ってきた。
「あ、あ、あ、あなたが! お兄様をたぶらかした女狐ですか!?」
「ドラゴンです」
「狐はむしろ私なのです」
「そういうことを言っているんじゃありませんのよこのめ、め――メスドラゴン!」
「該当者割と多いわよ」
えーっ。
なんかめっちゃいわれのない敵愾心燃やされてる。
たぶらかしたって何!? だいぶ誤解と語弊があると思うんだけど!?
「
「違います! 変な誤解があります! キミも言葉は選んで!」
「その無駄に豊満な体でろーらくしたのですわぁーっっ!!」
「してないよ!!」
してないよな!?
くっそぉ、本人がいないから真相の語りようがない!
チラチラ見られてるのは知ってるけど、まさかそんな不純な動機なわけが……わけが……。
いやあいつはちょっとえっちなソシャゲに釣られたりこっそりエロ動画見てたり、ゲームやってても3Dモデルの角度調節してパンツ見えないか試すのに心血注ぐ不純な奴ではあるな……。
ただ、それはそれとしてそれだけを基準に敵味方を定めるほど頭茹だってはいないのは間違いない。
「直接聞けばいいじゃーん」
「それですわ。……通信拒否されてますわ!」
「位置を特定されて追撃されたくないでしょうから、そうなるでしょうね」
この子らディセットといったい何してたの?
追撃ってどういう……戦闘してたわけ?
「もうちょっと詳しく話を聞かなきゃいけなくなったんだけど」
「奇遇ですね……その言葉そっくりそのまま返して差し上げますわ……!」
ドゥーが説明するはずだったのに、結局半ギレのアンがどんどん前に出てくるのを他の二人がなだめつつ、それから少しの間情報のすり合わせを行うことになった。
テレーゼさんやカリンさんは置いてけぼりになってしまっているけど、そもそも機械の世界への知識が多少なりともあるのは僕しかいないので今は仕方ない。後で噛み砕いて説明するために話をよく聞いておかないと。
その一方で、これは「擦り合わせ」だという認識も持たなければならない。こちらのことも明かして初めて情報のやり取りになるわけだ。
こちらの素性とディセットとの関係を、これまで何をしていたかを説明。対して、あちらからは今回の作戦目的やブラギ社のスタンスなどを語ってもらった――のだが。
「
「はい。少なくとも軌道リングでは」
なんか僕たち人権無くなってた。
いや、現在の地球の国家、国際社会全体がそうだというわけじゃないんだけど、少なくとも軌道リング――つまり、機械の世界の価値観のもと成り立っている企業などにとって、僕らは「人間」ではなく「資源」であるらしい。元々、ドラゴンが――というか粒子製造器官が――企業間のやり取りを円滑にするため「資源」と定められたことが原因であるという。ブラギ社はこれを悪用する形でデルピュネス帝国への襲撃を敢行している。
これには流石に、特に竜族であるカリンさんが難色を示していた。僕もそうだが、どうしたって他人事ではいられないわけだしね。
「……つまり陛下も人権が無いのですか?」
「え、それは……確かによそから見るとまずいかもしれないけど、うちの国はうちの国で独立を保っているんだから、他国には関係ないんじゃ?」
「いえ、人権の無い『資源』が国家元首であることから、国際社会において……少なくともブラギ社のような超企業にとって、帝国が国家とみなされなくなる可能性があります。本来であれば、国を保護するはずの条約や国際法が機能せず、帝国を守ってくれなくなってしまう。最悪、『国』ではなく『テロ組織』のレッテルを貼って、法的に追い詰めてくることだってあり得るんです」
「いや、流石にそんな……」
「あり得ます」
「あり得るの!?」
「やりますわ」
「やるねぇ」
当の本人たちが所属企業をまるで信用していない!!
これはディセットも大概そうだったけど、色んな経験をして懐疑的になったとかそういうわけじゃなく普通にそういう認識はあるのかよ。初耳だよ。
「でもこのくらいは普通のことですわ」
「その時点で罪に問われないなら何でもするのが軌道リングの企業だもんねー……」
「そんなのに所属しててキミら辛くないの……?」
「問題はあると思いますし人使いも荒いですが、他に行き場もありませんもの」
「逆に聞きたいんだけど、よそでどう生きるの?」
「……なるほど」
他の道はあるかもしれない。しかしそれを選ぶための手段を知らない。
結構深刻な問題だ。ディセットも外の世界を知ってはいたけど、本当の意味で企業から逃れられたのは、世界を隔ててようやくだ。
普通の生き方も知らないし、普通に生きる手段も知らない。経験したことも無い。ある意味、これは企業による洗脳だ。
基本的にブラギ社はクローンのことを人間扱いしていないようだし、ディセットの例を見ても改めて外の世界を見て、知り、「普通」というものを経験することでしか解消する術は無いだろう。
「――だったらその『生き方』ァ、実践してみっか。あ?」
「はぇ?」
「ひっ!」
「ボルツマン!?」
――そこへ、割り込むような形でボルツマン副官が後ろから語りかけた。
ずっとシャベルを振るいつつ霊術で地面を掘り起こしていたようなので、既に汗だくだ。息も荒くて、傍目には変質者かヤバい反社会勢力の誘いにも見える。
突然現れた
「あなた……まさか良くない仕事でも斡旋する気じゃないでしょうね」
「してたまるかァ! よりにもよって前のボスと同じくらいのガキだぞ!? テメー俺を何だと思ってンだ!?」
「元反社会勢力」
「反論できねェ」
してくださいよ反論を。不安になるから。
「で、何なのですかあなた唐突に」
「マトモな生き方を知らねェ、他の道を知らねェからその道を選ぶしか無いっつーのは俺も心当たりがある。だが、逆に言や『知る』ことさえできりゃあいくらでも人はやり直せる。俺らみたいにな。つゥわけで――」
「わけで?」
「
「え?」
「へ?」
「は?」
――なんか、妙な熱意と勢いに押されるような形で、そういうことになった。