人間を謳歌せよ   作:雲間

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十話

 

 一行が宿から外に出て驚いたのは、目の前に広がる光景が霧のあふれた町ではなく、霧のない墓地であったことだ。

 

「スタンドの霧全体で墓場を街やホテルに仕立て上げ、墓下の死体どもを利用していたんだ。このバアさん、とんでもない執念のスタンドパワーの持ち主じゃ」

 

 その気絶させたエンヤ婆についてだが、この場に置いていかず次の街まで連れて行くこととなった。ジョセフのスタンドでDIOや敵スタンド使いの情報を取ることができれば、こちら側が断然有利に近づく。その案に誰も反対することはなく、早々に次の街へと向かおうとエンヤ婆を担ぎ込み車へ乗り込んでいった。リヴィンはついてきてはいるものの、どことなく茫然としたままな為に花京院が手を差し出す。

 

「リヴィン、行きましょう」

「……うん」

 

 ゆっくりとではあるが差し出された手をとり、一緒に乗り込んでいく。こんな感じでリヴィンはある程度反応は返すものの、以前ほど明瞭なものではない。これは長丁場になりそうだと皆が感じ取ると、折角打ち解けてきたのにな、とポルナレフがひっそりとボヤいた。

 

 カラチへと到着して早々、ケバブ売りを見かけたジョセフが降りて買いに行ってしまった。先にテレビを見つけに行った方がいいのではと思いつつも、皆小腹が空いていたので特に何も言わない。ちなみにリヴィンは俯いたままで反応というものは何もなかった。(本当はボラれているが)無事に買い終わったジョセフが車に戻って、全員にケバブを配ろうとした矢先のことだった。

 

「このエンヤがDIO様の秘密を喋るとでも思っていたのかッ! 何故きさまがこのわしを殺しにくるーーッ!!」

「DIO様は決して何者にも心を許していないということだ。口を封じさせて……いただきます。そしてそこの6人……お命頂戴いたします」

 

 ひっそりと起きていたエンヤ婆自身の『内側』から出てきてきた触手が身体中を、そして車を破壊し始めたのである。車内に残っていた面々が慌てて出ると、サングラスをかけたケバブ売りが、身に纏っていたトーブとサングラスを取り姿を露わにした。鋼入り(スティーリー)のダン。恋人(ラバーズ)の暗示を持つスタンド使いであった。

 

「なんてことを! このバアさんはてめーらの仲間だろうッ!」

 

 ポルナレフが叫んだ通り、仲間のはずであるエンヤ婆をダンは始末しようとしている。ポルナレフの言葉を聞いてもなお、ダンはエンヤ婆への攻撃を止めようとしなかった。彼ら敵スタンド使いは承太郎達とは違って、単なるDIOへの信奉者か利害関係の一致だけに過ぎない。だからこうしてDIOから授かった『肉の芽』を使い、エンヤ婆を殺せるのである。しかもエンヤ婆はダンから『DIOに心を許されてなどいない』と言われても、最後までDIOへの忠誠心を失わず死んでいった。

 例え敵対していたとしても、エンヤ婆のこのような死に方など誰も望んでいなかった。全員で椅子に座って紅茶を飲むダンを逃げられないように囲む。

 

「立ちな!」

 

 ドスの効いた承太郎からの声に一切動揺せず、落ち着き払った態度で飲んでいたカップを置く。淡々としているダンに承太郎が怒りのボルテージを上げていった。

 

「おいタコ! カッコつけて余裕こいたふりすんじゃねえ。てめーがかかってこなくてもやるぜ」

「どうぞ。だが君たちはこの「鋼入りのダン」に指一本さわることはできない」

 

 その台詞にカチンときたのか、承太郎がスタープラチナでダンを「おらあッ!」と殴りかかった。殴られたダンが血を吐きながら宙に飛ぶと『同時に』、ジョセフも殴られたかのように腹に攻撃を受けて口から血を吐き飛んだのだ。何が起こったのかを理解できていない皆をよそに、リヴィンはすぐさまジョセフの後ろへ回ってその体を受け止めた。

 

「ジョ、ジョセフ、ジョセフ!?」

「ぐええッ、一体なんだこれは!?」

「どっ……どうしたジョースターさん! こいつと同じように飛んだぞ!」

 

 リヴィンがジョセフの体を確かめるようにペタペタと触っていると、ダンが口の中に溜まった血をペッとしながら言葉を続けて行く。

 

「このバカが……。まだ説明の途中だ。もう少しで貴様は自分の祖父を殺すところだった。いいか? このわたしがエンヤ婆を殺す為だけに君らの前に顔を出すと思うのか……」

「……承太郎が貴様を殴ったところと、ジョセフが攻撃を受けた場所がほぼ同じだ。自分の状態を同調かなにかさせるスタンドなのかい?」

 

 リヴィンがジョセフの体を触っていたのは、同じであるかを確かめる為だったらしい。立ちあがろうとするジョセフを補佐しながら、リヴィンがダンにそう尋ねた。

 

「お察しの通りだ! わたしのスタンドは体内に入り込むスタンド! さっきエンヤ婆が死ぬ瞬間、耳から脳の奥に潜り込んでいったわ!」

 

 こちら側が下手に手を出せなくなったのをよそに、高笑いをしながらダンが長々と自身のスタンドについて講釈垂れていく。スタンドを傷つければ本体にダメージがいくのは知っての通りだが、その逆も同じ。ダンが攻撃を受けたと同時にラバーズが脳内でその痛みや苦しみに反応をし、同じ箇所を数倍の痛みにするという。その上エンヤ婆にしたのと同じように、肉の芽を持って脳内に入り込んだとまで言ってのけたのだ。つまり、ダンに攻撃をするしないに関わらず、このままでは脳を食い破られてジョセフは死んでしまう。

 

「だが……そこのリヴィンだったか? 貴様がその黒衣を脱ぐと言うのなら、少しは肉の芽の成長を待ってやってもいい」

「リヴィン、言うことなど聞くんじゃない! 敵の思う壺だ!」

「貴様が『DIO様と同じ吸血鬼ではない』というのなら、それで証明ができるだろう?」

 

 リヴィンはジョセフを傷つけられた時点で大分頭にきていたが、アヴドゥルからの静止まではかろうじて耳に聞こえていた。だが続けられたダンの言葉で、もう誰にも止められない怒りの炎へ成長してしまう。ここまで的確にリヴィンの怒りのツボを押してくるということは、ホル・ホースから情報をもらっている可能性が高い。

 

「貴様ッ!」

「テメェ!」

「おっと、近づくなよ? 承太郎もだ。ソイツに吸血されたらたまったもんじゃないんでね」

 

 ダンに向かって行こうとするリヴィンと承太郎を、他3人がスタンドも駆使しながら力を尽くして止めていく。そんな様子を滑稽であると、くつくつとダンは嗤っていた。一方ジョセフは血を拭いながら、リヴィンと承太郎に落ちつくよう声をかける。

 

「やめるんじゃお前達! ここでエネルギーを使うんじゃない、特にリヴィン!」

 

 そんな言葉を聞いて、リヴィンは勢いよくジョセフを振り返って見る。少し見つめた後、前を向いて大きなため息をついた。

 

「……いいよ、脱ごう。私がそんなものではないことの証明は容易い」

「ダメだろおまえ! それじゃあ」

「黙っててくれないかいポルナレフ。花京院、離してくれ。私は大丈夫だよ」

 

 ハイエロファントによって拘束されたのが分かっていたのか、リヴィンは花京院に向かって言葉を投げる。花京院は普段から若干寄っている眉間の皺を更に深くさせて首を横に振ろうとしていたが、何故か素直にスタンドを引っ込め、ギョッとしたポルナレフが大きく喚く。

 

「おい花京院ッ!! おまえリヴィンが死んだっていいのかッ!」

「うるさいッ! 僕だって嫌だ! けど、ジョースターさんが……ッ」

「私の目標はジョセフがきっと叶えてくれるさ。だから、頼んだよ」

「……俺がコイツの最後を見守ってやる。だからてめーらはさっさと行け」

 

 ダンに殴りかかることをやめた承太郎が冷静な声色で行けと指示を出す。ジョセフと花京院がすぐさま走り出して行き、アヴドゥルが渋るポルナレフを無理やり連れて行った。

 

「美しい友情で時間稼ぎか? 遠くへ離れればスタンドの力は消えてしまうとの考えのことだろが……。だがな、物事というのは短所が長所になる。わたしのスタンド「ラバーズ」は力が弱い分、一度体内へ入ったらどのスタンドより遠隔まで操作可能なのだ。何百キロもな。リヴィン、貴様が脱いだ分延長してやっても無駄なのだ!」

「それでも、私はジョセフの為にやるさ。君、『ちゃあんと』私を見ておいてくれ」

 

 リヴィンが己の黒い衣服を強く掴み、大きく広げて投げた。当然ながらリヴィンを見ていたダンの視界は黒い布ばかりになり、リヴィン本体の姿は消えてしまう。そうして黒衣が落ち切った場所には、何もなかった。

 ダンは、吸血鬼が太陽の光を浴びて死んでいく様を見たことがない。DIOの館にはいるが、わざわざ太陽に当たりにいく吸血鬼などいなかった。だから、これでリヴィンが死んだのだと『思ってしまった』のだ。その思い込みがダンに隙を生ませた。

 トン、とダンの後ろで音が鳴った。振り返るより前に首に何かが触った感触がする。

 

 そこからのダンの記憶は、地面を見つめるだけのものになった。

 

 ★

 

 スタンドとは、精神エネルギーから生まれているものだ。本人の強い意志があって動かすことができる。そうでない場合は本人の意思は関係ない自動操縦型ということになるだろう。とどのつまり、通常のスタンドならば本人が操ろうとする意志、エネルギーがなければスタンドは動かなくなるし、場合によっては顕現させることもできなくなる。

 

 それを踏まえ、リヴィンは『直接ふれるだけ』で、ダンからそのエネルギーを奪い去ったのだ。

 

 元来、闇の種族は『生きとし生けるもの』から触れるだけで少しづつエネルギーを分けてもらっていた。人間から取った場合に当てはめると、少し疲れる程度と言えばいいだろうか。つまり、エネルギーを取ったものを滅するほどのことをしていなかったのだ。滅ぼしてしまうとエネルギーをもらえなくなるのだから。他の種族を尊重して生きる。それが闇の種族の方針であり、だからこそカーズによる石仮面で滅するほどにエネルギーを必要とするのを反対したのだろう。

 そんなことを、真っ白な頭巾と衣服だけになったリヴィンが承太郎に説明をしていた。

 

「ジジイと花京院が策もなしにやる訳ねえと思ってたが……。ジジイはエネルギーだけが取れると知っていて、花京院は着込んでるのを知ってたからってことか。しかし命の為だろうが、てめーどんだけ着込んでんだ。暑くねーのか」

「知らないのかい承太郎。黒は太陽からの光を吸収すると言われているんだ。反対に白は光を反射していて」

「そういう話じゃねえ」

 

 謎雑学が始まりそうなのをぶった斬る。リヴィンにエネルギーを吸い取られて気力という気力を失い、ただ地面に転がっているだけとなったダンを強めに足蹴りした。

 

「で、コイツは今スタンドも使えてねえ無気力状態ってやつか」

「スタンドは存在はしているかもしれない。でも動けていないと思うよ。スタンド使いに……そもそも人間に一回も試したことがないから、どうなっているか分からないけど」

「博打じゃねえか。嫌いじゃあねえぜ」

「ジョセフが指示したからしたけれど、約束もあるから使いたくない手だったんだよ。けれど、ジョセフを失うより断然いい」

 

 リヴィンは本心から救えて良かった言っているようだが、一方で『約束』を破ってしまったことに相当のダメージを受けたようだった。声色が精神的にまいったものになっている。肩を下げながら脱いだ黒衣をのろのろ拾いに行っていた。

 

「てめーがした約束ってのは、人から奪わねえってやつか」

「ジョセフから聞いたのかい? そうだよ。いや、私は元からするつもりはないんだが……」

「聞いちゃいねえが、そうだろ。そんでもって、約束をしたヤツは今のてめーを見ても怒らねえな」

「……どうして、そう思うんだい」

 

 リヴィンは再度黒衣を身につけている手を止め、真っ直ぐに承太郎へ質問した。承太郎がリヴィンへ人差し指を向け、こう告げる。

 

「ジョセフ・ジョースターの孫である俺が許すからだ」

「あ……。え、あーっと、それは繋がらなくないかい?」

「さあな」

 

 珍しい混乱の仕方をしているリヴィンをよそに、指差していた手を帽子の鍔へと持って行き、軽く被り直す。そしてダンの首根っこだけ掴んでおき、ジョセフの脳内にある肉の芽とスタンドを処理しに行った仲間達を待つのであった。

 

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