後はサウジアラビアから紅海を渡れば、DIOの潜んでいるエジプトに辿り着くことができる。船を購入してそのまま紅海を横断するかと思いきや、何故かとある島へと寄り道をすることとなった。
「ジジイ、ここには何があるんだ」
「このまま船で進むと襲われる可能性が高いと思ってもあるんじゃが、とあるものを財団に頼んでおる」
「とあるものってなんだよ、ジョースターさん」
「まあそれはついてからのお楽しみじゃ」
ニッシッシといたずら顔で笑うジョセフに若干戸惑いつつも、上陸できそうな浜辺に船をつけて全員降りていく。夕日に照らされた浜辺は人の手が入っていないからか、とても綺麗で静謐だ。整備されていない道なき道を進んで島中へと少し歩くと、小さな小屋が存在しておりそこにはSPW財団の者が待機をしていた。ジョセフが軽く手を挙げて挨拶をすると、話し合いを始めている。多少時間がかかるとのことで、それぞれ時間を潰していて欲しいと告げられる。とはいえ暇を潰せるものがこんな小さな島にあるわけもない。タバコを吸い始めたり本を読み始めたりする中、ポルナレフはリヴィンに歩み寄っていく。
「リヴィン、ちょっといいか?」
「なんだい?」
ここじゃあちょっと、と言うポルナレフの後をついていき、皆から少し離れた場所の砂浜へと辿り着くと、ポルナレフは立ち止まってニカッと笑いながらリヴィンに向き合った。
「中々言える機会がなかったからよ〜。改めてになるんだが、ありがとな。J・ガイルん時に鏡を集めまくったって聞いたぜ」
「……あれは失敗だった。仇を討ちたいというポルナレフの力になれていなかった」
腕を組みつつ、苦虫を噛んだような声色でリヴィンがそう呟く。実際ポルナレフと花京院がJ・ガイルと戦っていた時に鏡が回収されていたから勝てた、ということは一切ない。否定をするリヴィンに、ポルナレフが違う違うと言いながらリヴィンの肩を両手でガシッと掴んだ。
「俺が感謝してんのはよ、お前が俺の力になりてェって動いてくれたコト!」
「私は……ただ同じように仇を討ちたいと思っている同士として動きたかっただけなんだ」
「仇ってDIOか? って、今はそれじゃねえ。そう思ったのは俺に共感してくれたってことだろ?」
「共感……うん、そうなるかな」
「俺はそれがうれしーの!」
言っている意味が分からないのか、リヴィンは無言になってしまった。ポルナレフは首の後ろをかいてから、どう説明しようか迷いつつ言葉を紡ぎ出す。
「あー、小難しいことは言えないけどよォ、人にもよるが同じってのは嬉しいモンなんだよ。今回は仇っつーアレなやつだけどな」
「アレ……?」
「そこはいい、そこはいい。とにかくだ。同じ気持ちを持って、俺に共感して動いてくれたってのが嬉しかったワケ! 結果とかそーゆーのは関係なくな!」
ポルナレフはそう言って、笑顔で力強くリヴィンの肩を叩いた。リヴィンは触れられた肩を見た後、ポルナレフへ視線を戻した。言われた言葉の意味をゆっくりと飲み込んだのか、少ししてから返事が返ってくる。
「……分かった。ポルナレフの感謝を受け取るよ」
「ウィ! それでいい!」
今度は乱雑にリヴィンの頭を撫でると、リヴィンから手による軽い抵抗が返ってくる。あまり頭は触られたくないみたいだが、花京院のような冷たい抵抗でなかったので、気にせず満足するまで撫でてやったのだった。
「じゃ、そろそろ戻るか〜」
「うん」
撫でまくったせいで位置がズレたのか、歩きながらリヴィンはしきりに頭の布をいじっている。文句は言ってこないが、流石に撫ですぎたかとポルナレフは少しだけ反省をした。
「お前が小さかった頃の妹……シェリーに思えてよ、ごめんな」
「私は今の人類の平均において、そこまで低い身長ではないはずだよ」
「外見の話じゃなくてなあ……」
ポルナレフはひとつため息をつく。だが、こうなるもの嫌いではないとも感じている。
歩きながらなんとなしに視線を落としていると、フジツボがこびりついたオイルランプが砂の間から煌めきを発していた。気になって拾い上げながら、言葉を続ける。
「ま、シェリーがいたらお前の世話を焼いてただろうな〜」
『Hail 2U(君に幸あれ)!』
突然ランプの先から声が聞こえたかと思うと、砂の爆発が起こりポルナレフは思わずランプを手放した。一方一緒に歩いていたリヴィンは怪訝な雰囲気でポルナレフを見つめている。
「何したんだいポルナレフ」
「何って……俺にも分からねー」
お手上げ状態のポルナレフをよそに、リヴィンがランプを拾い上げて指先で軽く叩き確認をしているが、何もなかったようだ。不思議な出来事に2人して顔を合わせて首を傾げていると、急にリヴィンが陸地の方へと振り返った。
「どうした」
「音が……、それに土の臭いが濃くなった」
「土ィ?」
ますますよく分からないリヴィンの発言にポルナレフは首を更に横に下げる。しかもリヴィンはみんなのいる方向に戻るでなく、草花の生い茂る島内へと歩いていってしまう。夕日が落ちて夜になりはじめている。あまり奥へと行くのはまずい。
「オイオイオイどこ行くんだ!」
「音がしたから確かめてくる。ポルナレフは先に戻っていていいよ」
「あのなぁ、おまえ1人で行かせられねーっつうの。今は俺がお前の保護者な!」
「保護者というのは未成年者に対する監督としているにんげ」
「あー、分かった分かった」
余計なことを言うんじゃなかったとポルナレフが内心思っていると、好き放題に生えている草の隙間から人影のようなものが見えた。それは素早く移動をし、どんどん浜辺から遠ざかっていく。
「あれか?」
「多分」
草をかき分けて追いかけてみると、何故か食いちぎられたような小鳥の死体が転がっている。ここは人影が通っていった場所でもあった。リヴィンは恐れも何もなく死骸を手に取り断面を観察し始めた。
「こんな食いちぎられ方は普通の動物が食べたものではないね。動物が食べたにしては歯形とか血の散り方、その他複合的な要因が『普通』を否定している」
「なんか難しいこと言ってるが、つまり……スタンドか?」
「その可能性が高いんじゃないかな」
元から警戒自体はしていたが、スタンドが関わってくるかもしれないと思うと尚更ポルナレフの気が引き締まった。今スタンドに対抗できるのは己しかいない。動いていた人影が止まったものあり慎重に進み始める2人に、とある人の声が耳に入ってくる。
「しくしく、しくしくしく……」
「泣いている声?」
「……この声は、」
ポルナレフにはこの声の主に心当たりがあった。……いや、心当たりなどという生ぬるいものではない。ずっとポルナレフの中心にあった声だった。
「シェリー?」
声のする方へと足を動かしていくと、月光に照らされて見えた人物は、服を着用していない濡羽色の美しい髪の毛を流した少女──シェリーだった。
ありえない。ありえないと分かっていても、ポルナレフはシェリーが本当にここにいるのだと信じたかった。だからリヴィンの戸惑った声が聞こえても、シェリーの元へと草をかき分けて進んでいく。
「ポルナレフ……?」
「お兄ちゃん……あたしよ、お兄ちゃん」
「シェリー!」
間違いない、シェリーだ。シェリーはここにいる。妹がここにいるのだと勢いよく駆け寄ろうとしたポルナレフの肩をリヴィンが掴み、行かせまいと引き止めた。
「ポルナレフ、違うよ。それは土でできた人形(ひとがた)だ。ポルナレフの妹じゃない。きっとス」
「違う! シェリーだ!」
「そうよお兄ちゃん。そんな人のことを信じないで。あたしを信じて」
原理だとかそんなものはどうだっていい。ただ妹が動いて生きている事実だけがポルナレフには重要だった。死んだはずの愛しい妹。それが今そこにいる。
せった気持ちと共に足を一歩進めようとしても、掴んでいるリヴィンの力が強すぎて前へ行くことができない。いくら止めても止まらないポルナレフに痺れを切らしたのか、逆にリヴィンがシェリーへ向かって腕を構えて殴ろうとしているのが分かった。肝の冷えたポルナレフが今度はリヴィンを止める形になる。
「やめろリヴィンッ!」
「でもこれは土で」
「お前にとっては土かもしれねえ! けどよ、俺にとっては妹なんだ……!!」
「そうよ、あたしは本物よ。だから早くお兄ちゃん、そんな怖い人は放っておいてこっちに来て」
ポルナレフの懇願と壊さなくてはいけないという気持ちで板挟みになったリヴィンは、ポルナレフを掴み返しながらわたわたとした様子で言い募る。
「そ、それでもポルナレフ、ダメだ。せめて行かないでくれないかい。みんなのところに戻ろう」
「いいから行かせろッ! テメェに人の心がねえから、亡くした人がいねえから俺の気持ちが分からねえんだ!」
リヴィンから息を飲んだ音が聞こえる。言い過ぎてしまったと少し心が痛んだが、リヴィンは気持ちが分からないからそんなことを言えるのだと思ったのは本心だ。でなければ簡単に壊そうという選択肢など出るはずもない。
リヴィンはポルナレフを放そうとはしなかったが、掴んでいる腕から震えが伝わってきた。そして、気持ちを押し殺したような声色で言い切る。
「……いるさ、私にだっている。いるんだ! だが蘇ることはないんだ!」
『Hail 2U(君に幸あれ)!』
リヴィンの言葉が終わると同時に、ランプを拾った時の声が場に響く。その言葉を発端としてなのか、シェリーのいる方向とは違う場所から、連れそう2人が草をかき分けて来るのが音と共に分かった。
「リヴィン」
「あ……」
ポルナレフが見たのは、寄り添う二人の男女だった。黒髪に深い海を思わせる青の眼の男性は、しっかりと仕立て上げられた貴族然とした服装を身につけている。気品に溢れている上に、体格が素晴らしく良く誰かを想起させた。対して女性は美しいブロンドの髪を靡かせ、落ち着いたドレスを着用している。静かな湖を瞳に映しながらも、どこか芯のある女性に見えた。どちらも優しげで包容力がある、そんな風に感じる。
「どうしたの、リヴィン。こっちへいらっしゃい」
「あああ、」
女性が手招きをする。ポルナレフを掴んでいた手がするりと解け、リヴィンは後ずさっていく。そのリヴィンを見てなのか、男性がその逞しい手を差し伸べた。
「リヴィン、僕達と行こう。そうすればずっと一緒だよ」
「違う、違う! 喋るなっ」
「どうしてそっちを見ているの、お兄ちゃん」
頭に両手を置いて錯乱をするリヴィンにいっていたポルナレフの意識を戻そうと、シェリーが話しかけて来る。
「リヴィン、おいで」
「こっちだよ、リヴィン」
「やめろ! 僕の思い出を汚すなッ!!」
「お兄ちゃん、あたしを見て。こっちに来て」
──シェリーはこんな子だっただろうか。明らかに混乱している人を無視して、自分を主張するような子だっただろうか。
そんな思いがポルナレフに飛来する。優しい子だった。喧嘩をすることもあったけれど相手を思いやることができ、友達に何かがあったら自分のことのように怒った勇敢で可愛い妹。その妹が知らない人物とはいえ、リヴィンを放っておくとは思えなかった。
もう一度シェリーを見る。暗がりでわかりにくい部分はあるが、確かにシェリーだった。
「お兄ちゃん」
そうして冷静になった頭が、シェリーではないと現実を教えてくる。ここにいるシェリーはシェリーではない。──偽物だ。
「シルバーチャリオッツ!!」
スタンドを出現させ、その銀の切先の力によってシェリーの亡霊を切り裂き浄化する。例えシェリーの姿をした『何か』であろうと、ボロボロと崩れて落ちていったのを見ると、シェリー自身を傷つけているようで心が締め付けられるような感覚がした。だが、シェリーの姿で彼女自身がしないことをされるよりずっといい。それはきっと、リヴィンの目の前に出てきた人物についても同じはずだ。ポルナレフはシルバーチャリオッツをその2人に向けて刃を振り翳し、人の形を土へと戻してやった。同じくして肩で大きく息をしていたリヴィンが、膝を折って地面へと座り込んだ。
「……リヴィン、すまねえ。お前にだって色々あるのに、俺はお前の心を無視しちまったひでえヤツだ」
「いい、いいんだポルナレフ。ポルナレフの気持ちが分からなかった私も悪いんだ。だからこれで、おあいこというものだ。……壊してくれて、ありがとう」
酷く引き攣った声でそう語るリヴィンは、厚着をしているのにとても寒そうに見えた。ポルナレフはその小さな背中を摩り、軽く叩いてから辺りを見回す。悪夢を見せた犯人を探し出して袋叩きにしてやらないと気が済まない。シルバーチャリオッツがくるりとレイピアを構え直し、探すのに邪魔になっている植物を一瞬にして切り裂いていく。敵が潜んでいれば逃げる姿が分かるはずだ。だが前へ進んで刈り取っても刈り取っても敵スタンド使いらしき者は見当たらない。遠距離型だったのかもしれないと思っていると、落ち着いたらしいリヴィンが立ち上がり声を上げた。
「ポルナレフ」
振り返るとリヴィンが無言で人差し指を指している。示された方向へ目を向けると、地面から伸びる一本の竹が存在していた。何これというポルナレフからの視線を受けて、リヴィンはその竹に近寄っていき力強く腕を土の中へと突っ込んだ。そうしてリヴィンに掴まれて出てきたのは、口に竹を咥え水中ゴーグルをした怯えまくっている男性だった。
「そーゆーこと?」
「そういうことがどういうことか分からないけど、多分そういうことだよ」
リヴィンはどうなるか知ったこっちゃないと言わんばかりの乱暴さで、男をポルナレフの前へとぶん投げた。始末はお任せするという意図を汲み、シルバーチャリオッツを構えさせる。
「我が名はジャン=ピエール・ポルナレフ。我々の大事な人達への愛を冒涜したこと、死をもって償わせてやるッ!」
最後の抵抗か、相手もスタンドを出して抵抗をしてきたものの、冷静にブチ切れているポルナレフの敵ではない。あっという間に三枚おろしにされ、人間本体はレイピアの鋭い切先によって蜂の巣にされたのだった。
※人物の色については基本アニメ基準にしています