人間を謳歌せよ   作:雲間

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十四話

 

「この戦いであったことについては秘密にしねえか」

 

 皆の元へと戻る間際、ポルナレフはリヴィンへそう提案を持ちかけた。再現をされた者のことは、皆が知る由もなかったのは理解している。それでもその姿でありもしない行動をされたのは事実だ。だからこそ、何も言いたくないとポルナレフは思ったのである。正直ポルナレフはリヴィンの前に現れた男女について──特に男について聞きたいことがあったが、こう話を持ちかけた以上聞くのは無粋というものだろう。

 リヴィンも特に異論はないようで、素直な頷きが返ってきた。

 

「Merci beaucoup」

「いいんだよ。これで約束ってやつだね」

 

 ポルナレフが差し出した拳に、リヴィンも同じように拳を差し出して軽くぶつけ合う。そうして2人は元いた場所へと戻っていったのだった。

 

「遅いぞポルナレフ、リヴィン!」

「ごめんごめん、敵スタンド使いにあっちまってよォ〜。戦ってたら遅くなっちまった。けど、ちゃあんと倒してきたぜ!」

「なんだと、怪我はなかったのか?」

「大丈夫大丈夫! 俺もリヴィンも何もなかったって! な、リヴィン」

「うん。何もなくnerdboyを倒せたよ」

「……何かあったんじゃな。リヴィンがスラングを使うのは中々ないぞ」

 

 まあ深く聞きはせんが。そう言ったジョセフから、長引いていた打ち合わせの結果を聞く。ジョセフは財団と敵スタンド使いやDIOについて、ホリィの容体とジョセフ自身の仕事について話していたそうだ。確実にこちらはエジプトへ進んでいるものの、ホリィはますます体調が悪化しており、敵スタンド使いについても中々情報が掴めない。依然厳しい状態にそれぞれ顔を顰めながらも、今回ここへきた本来の目的を話し始めた。

 

「SPW財団にはとある買い物をしてもらっていたのだよ。これじゃァーっ!」

 

 ジョセフの合図と共に、海の方から大きな何かが波音を立てて少しづつ迫り上がってきた。月明かりで照らされて顕になったその姿は、まごうことなき潜水艦である。

 

「せ……潜水艦、ここまで買う?」

「選べる手段はとった方がいいんだよ、ポルナレフ」

「やりすぎな気がするぜ……」

 

 そうポルナレフは呟きつつ、皆に続いて上部にある入り口から潜水艦へ乗り込んで梯子を降りていく。中で操縦していたSPW財団員が入れ替わりで出ていったところで、ところで操縦は誰がするんだと承太郎が呟いた。

 

「リヴィンじゃよ。潜水艦の操作についても読ませておいたからな。あっ、でもわしもできるよ!」

「リヴィンなら安心だ、リヴィンならな」

「承太郎ぉ〜! これは潜水艦で飛行機じゃあないんじゃぞ!」

 

 ジョセフの嘆きに承太郎は無反応で中を進んで居住区や電池室への扉がある通路を抜け、操舵室へと入っていった。購入したのが金持ちの道楽用だったからであろう、計器ばかりが置いてある場所ではなく、広々とした空間となっている。海中を覗ける窓やコーヒーメーカーなどがあり、くつろげる空間となっていた。後に続いていた者達も思っている以上に豪華な仕様に感嘆の声を上げている。リヴィンはそそくさと操縦席へと行き、計器やレバーなどを確認し始めていた。

 

「いいねえこういうの、憧れってヤツだな! かわい子ちゃんと来たかったなぁ〜」

「ポルナレフ、我々は遊びに来た訳ではないぞ」

 

 窓から色とりどりの魚や珊瑚礁など美しい光景が広がるのを見ながら、ポルナレフがそう呟く。本当に観光としてはこの上ない場所ではあるのだが、この旅は命を賭けたものである。アヴドゥルが指摘をすると、ジョセフが笑いながらこう言った。

 

「四六時中緊張もしていられまい。それにここでは何もできんからな。こういう時こそ、楽しむくらいが良いんじゃよ」

「……確かにそうですね」

 

 ふう、とアヴドゥルがひとつため息をついて、かぶりを振った。確認を終えたらしいリヴィンが、後ろを振り返り声を上げる。

 

「出発するよ。問題なければ5時間12分程度で着くから、それまで休んでいてくれ」

 

 娯楽用なだけあってしっかりと休める場所が多い。時間まで居住区で仮眠することに決めた者や、海を眺めることにした者、潜水艦内を探索する者など多種多様に分かれた。リヴィンは当然ながら運転席でソナーを確認しつつ、問題なく進んでいるか見続けている。そんなリヴィンに1人だけ操舵室に残った者が声をかけた。

 

「おいリヴィン」

「なんだい承太郎」

「今のおめーなら話せんじゃねえのか、この旅についてくる理由ってやつを」

 

 リヴィンが一番だったものを取り返したいと言っていたのは、花京院から聞いて知っている。そして、本当にDIOを憎み殺したいと思っていることもこの旅の中で十分伝わってきた。信じているからこそ、この子供のような人物の心を見てみたいと思ったのだ。

 

「……今、全て話すのは、苦しくて無理なんだ。でも、目的なら話すことはできる」

 

 リヴィンは少し悩んだ後、話を始める。承太郎も全てが今回で聞けるとは思っていなかったので、話せることがあるだけで僥倖だと思っていた。

 

「私の目的は、DIOに奪われた骨を取り戻すことなんだ」

「骨?」

 

 唐突な目的に、承太郎は表情を険しくさせた。DIOと鉢合わせて、自身の骨が奪われたということだろうか。それにしては触れるだけで消化できるのに、何故その時に倒さなかったのかという話になる。承太郎の声色から不完全な答えだったのを自覚したのか、慌ててリヴィンが追加の答えを出した。

 

「ああ、私のではないよ。そもそもの話として、私はDIOと会ったことがない」

 

 会ったことがないというのに、あそこまで憎悪ができるのか。それを言ってしまえば承太郎も同じではあるが、母親の命というかけがえのないモノがかかっている。つまるところ、そういうことであると承太郎は理解した。

 

「大切な人、ってヤツの骨か」

「……うん。……ああ、これ以上は駄目だ承太郎。怒り狂いそうだ。まともに話せそうにない」

「わりとお前怒ってばっかじゃねえか。大して変わんねえ」

「私はこんな頻繁に怒ったことはなかったんだよ承太郎……」

 

 勿論だが、普段からリヴィンが怒りっぱなしな人物だとは思っていない。顔が見えていたら、眉尻が下がり切った表情がありそうな声だ。情けない声に承太郎はクッと笑いを漏らしたのだった。

 

 ★

 

 おおよそ30分後には到着するとのことで、全員が操舵室へと集合をしていた。海底トンネルを抜けて内陸200メートルのところにある出口が上陸地点となる。それが、DIOの潜む国であるエジプトへの第一歩だ。誰もが緊張する中で花京院が、眠気覚ましにとコーヒーメーカーを使って全員分のコーヒーを淹れてから、先にリヴィンへと差し出した。

 

「リヴィン、どうぞ」

「ううん? あ、いや、違う。もらう。貰いますありがとう」

 

 操縦席から動かないリヴィンにもコーヒーが差し出され、リヴィンは少し戸惑ったのちすぐに受け取る姿勢をとった。

 リヴィンにとって飲み物はエネルギーになりえない。闇の種族であると知られる前は適度に飲んでいたのだが、逆に知られてからは果物以外は摂取しても意味が無いし効率が悪いと拒否するようになってしまったのだ。外で買い食いをしていた時にジョセフがそれを知って『約束』はどうしたと詰め寄ったのだが、「必要のないものをとらないのは普通だ」なんて抜かしてすり抜けようとしたのである。

 しかし花京院がそんなリヴィンを逃さなかった。「リヴィンの為に買って来ました。飲みませんか?」と。当然リヴィンは戸惑い拒否しようとした。けれども花京院からの「そうですか……」という悲しみの表情に耐えられなくなり、似たような手で飲み物を受け取るようになった経緯がある。

 幾重にも重なる布をかき分けながら飲み物を慎重に飲むリヴィンは、いつ見ても若干シュールだった。そんなリヴィンを尻目に花京院は他全員が座るテーブルへコーヒーを置く。すぐにジョセフがコップを手に取ったが、承太郎は眉間の皺を深めて花京院に目線をやる。

 

「おい……花京院。何故カップを6つ出す? こっちは5人分だぞ」

「おかしいな、うっかりしていたよ。5コのつもりだったが……」

 

 花京院が1つを戻そうとしていたら、ジョセフが手に取っていたコップが突如として両手と顔を持った小さな怪物へと変形をし、そのままジョセフへと襲いかかったのだ。突然の出来事に対応できなかったジョセフは、その怪物によって義手を引きちぎられてしまった。

 

「何ィ!?」

「ジョセフ!!」

 

 怪物は奪い取った義手の指先を弾丸のように操りジョセフへと撃ち出そうとしたが、文字通り飛んできたリヴィンによって庇われ阻止をされ、指先は宙を舞って壁にぶつかり落ちる。──敵スタンドによる攻撃だ。

 

「スタンドだッ! いつの間にか艦の中にスタンドがいるぞ!!」

「今はどこに!?」

 

 キョロキョロと首を振り回すリヴィンには、コップも義手も捨てた敵スタンドを見ることができなくなっている。今まで戦ってきたスタンドはその身に纏うモノか、物との一体型ばかりだった為に困惑が強いようだ。その姿を捉えている承太郎は敵スタンドを攻撃してぶち飛ばしてやったのだが、敵スタンドは飛ばされた先の計器に貼りついたかと思うとその姿を消していってしまう。

 

「き……消えたッ!」

「いやちがう!」

「この計器のひとつに化けたのだッ! このコーヒーカップに化けたのと同じように!」

 

 アヴドゥルが叫んだ通り、スタンドは計器のひとつとなって判別がつかない。その正体を聞いたことがあるらしいアヴドゥルは、敵がミドラーという名の「女皇帝(ハイプリエステス)」のカードを司るスタンド使いであり、金属や鉱物にプラスチックまでなんでも化けることができると言った。そして、見分ける方法は攻撃してくる以外何もなし。その言葉を受けて沈黙をしていると、義手を失い少しバランスが狂ったジョセフが、リヴィンの手を借りて立ち上がると両腕を広げて己が力を呼び起こす。

 

「こういう時こそわしの出番じゃよ! ハーミットパープル!」

 

 ジョセフから伸びていく紫の蔦が、室内を走り巡っていく。数秒後、ジョセフの「ここじゃあッ!」という声と共に、承太郎のスタープラチナによるパンチが示されたコーヒーメーカーへぶち当たっていく。

 

『ムッギィーッ!』

「状況が全然わからない……。私は操縦に戻るよ」

 

 ハイプリエステスが殴られて姿を露わにする傍ら、スタンドが見えずに行動しようのないリヴィンが運転席へと戻っていく。行動としては正しいが、スタンド使いからは一見マイペースにしか見えない行動だった。

 

「……どうして」

 

 後ろで戦いが繰り広げられている中、岩にぶつかりそうになっている進路をレバーを一気に左へ動かすことで回避した。しかも何故か浮上システムが正しく動作しておらず、酸素もどんどん減ってきている。ハイプリエステスに壊されたのだと気がついたと同時に、計器や壊れたパイプから水が溢れ出て室内に充満していく。

 

「浮上システムも酸素も駄目になってる! 海底にぶつかるよ、衝撃に備えて!」

「そんなの今言われてもよ、ウワッ!!」

 

 予告通り潜水艦の腹が海底にぶつかり大きな音を立て、艦内が激しくシェイクされる。その衝撃で浸水は更に酷くなっていった。もうハイプリエステスを閉じ込めるしか手がないと判断をしたらしく、全員部屋から出ていき艦を捨ててスキューバ・ダイビングでの上陸をすることとなった。

 ジョセフが室内に水を入れながらスキューバダイビングについての心得を説いている中、リヴィンはせっせとジョセフに装備一式を装着させていく。テキパキとやった為、他より早く終わって、まだ装着し終えていないポルナレフの補助に入った。

 

「おめーは装着しねえのかよ」

「私はそもそも必要ないよ。服が濡れるという点は困るけどね」

 

 そもそも潜水服でいた時に酸素ボンベすらなかったのだ、いらないというのも嘘ではないと分かる。

 

「我々はスタンドで会話をすれば大丈夫ですが……、リヴィンはハンドシグナルで対応するしかないですね」

「まあリヴィンならなんとかなるじゃろ」

「ハンドシグナルなら俺もひとつ知ってるやつがあるよ〜」

 

 ポルナレフは両手を合わせて音を鳴らし、ピースを作った後に親指と人差し指で丸を作った。そして平行にした手で、額の上にひさしになるよう当てる。その動作に理解を示した花京院が「パンツーまるみえ」と呟くと、ポルナレフが「YEAAH」と叫んで花京院と手遊びを始め出した。

 

「お前たち、リヴィンの教育に悪いぞ」

「あっ、そうですねすみません……」

 

 アヴドゥルからの声にスパッとやめた花京院だったが、ポルナレフは逆に抗議をし始める。

 

「純真無垢に育てたって意味ねーって。コイツもそういうの覚えたりするべきだぜ〜?」

「私はもう成年期で育ちきっているんだけど……」

 

 困惑しているリヴィンへは特に何も説明されないまま室内は水で満ち、ジョセフが海への扉を開いて潜水艦から出て行こうと皆に目配せをする。全員が問題ないとハンドシグナルを送る中、1人だけOKのハンドシグナルを出していない。その当事者であるポルナレフは、両手をもがき空気を吐き出しているではないか。ハイプリエステスがレギュレーターに化けていたのだ。そのまま口からポルナレフの中に入り込んでいくが、ジョセフと花京院の活躍によって無事に吐き出させることに成功した。

 なおここまでリヴィンはスタンドでの会話も聞こえていないので、突如ポルナレフが苦しみだし、嗚咽するような顔になったくらいしか分かっていない。スタンドのせいだとは察してはいたが、ハイプリエステスが水中銃に変化したところで、ようやく姿を捉えることとなる。

 

 ここでようやくの出番であると捉えたリヴィンは、ハイプリエステスが突き刺そうとしてくるのを逆手にとって、壁を蹴って自ら突き刺さりにいった。丁度右胸あたりにきたハイプリエステスを掴み取り、へし折ってやろうとしたのだが、変化を解除されてしまい何処にいったのか検討がつかなくなる。結局当初の予定通り、ハイプリエステスを艦内に閉じ込めることにし、全員海中へと出ていってその扉を閉めたのだった。

 

 地図がなくても何処へ向かえばいいのか分かるリヴィンを先頭にし、ポルナレフは承太郎の予備のレギュレーターを使って全員進んでいく。しばし移動する時間だけが続いたが、リヴィンが動きを止めたことによって停滞となった。どうしたんだと聞こうにも、スタンドのないリヴィンには聞こえない。そのリヴィンは腕でバッテン印を作った後、両手をみんなに向かって広げてピタッと止めた。

 

『バツがどういう意味でか分からんが……、とにかく待てってことか』

『アイツが追ってくるかもしれないのにィ!?』

 

 リヴィンが自身を指差した後、進もうとした先へ指を動かす。今度は全員の方へ1と0を指で作ってから、同じように進む先へと指を示した。

 

『10……10秒後に来いなのか、10分後に来いなのか』

『10秒ではないだろう。しかし10分も待っていられない。1分にしたらどうだろうか』

 

 そんな会話が繰り広げられているとは露知らず、通じたのだと思ったリヴィンは水中を蹴って先へと進んでいってしまう。

 

『……行ってしまいましたね。どうしましょうか、念の為にハイエロファントの触脚をつけておきましたが』

『1分じゃ。1分経ったら行こう』

 

 リヴィンは脚を大きく蹴り、腕も忙しなく動かして前へ前へと素早く移動する。やがて『人面のような岩』までたどり着くと、首を傾げてから近寄った。ここが入口であるはずなのに、妙に小さい。ここまで小さいと地図に載るほどのものではないはずだ。ジョセフであったならば「ノックしてもしもお〜〜し」と言いながらその岩を叩いていただろうが、リヴィンは拳で軽くトントンするに留めた。結果、偽物の岩ではないことが分かってリヴィンの頭の中に「もしかしてこれもスタンドか何かなのでは」という考えが過ぎる。

 ならばやることは一つ。破壊だ。実際に物があるならばいくらでも破壊できる。動くのにちょっと邪魔な黒衣は脱ぎ捨てて白い服だけにし、今まであまり何もできなかった鬱憤を晴らすかのように、リヴィンは大きく振りかぶった。

 

 

「……リヴィンさぁ、やりすぎじゃねーの?」

「やりすぎとは?」

 

 道がなければ作ればいいを地でやったリヴィンは、目の前の岩を破壊しようとした。ただハイプリエステスはリヴィンが「やる」人物だと知っていたらしく、スタンドを解いて逃げたのだ。結果岩は残ったままであったが、破壊は成功。通りやすいように施工をした後、勢いよく地上へと上がっていき、ハイプリエステスの本体──ミドラーを見つけてしまった。そこからはミドラーの悪夢の始まりだ。若干ミドラーに対して怒りを持っていたリヴィンは、いくら体を鉱物が貫こうがぶっ刺さろうが無視をして彼女をボコボコに仕上げた。そうとは知らず1分後に来た一行は、後ろからハイプリエステスが来るかもしれないと陸に上がるまで警戒をしていたのが、その警戒は取り越し苦労になったのである。倒れていた女性がハイプリエステスのスタンド使いだと判断したポルナレフが、その顔面を見て言った言葉が先ほどのものであった。

 

「死ぬほどボコられてる……。おまえ女性だろうが容赦しねえんだな!? 夢に出てきそうだぜ……」

「ジョセフを攻撃したのが悪いんだよ」

 

 仲間に回収されていた海中に漂わせていた黒衣を破けない力で絞りながら、当然であるという口調でそう告げる。えげつねー、というポルナレフの言葉は、空へと消えていった。

 

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