人間を謳歌せよ   作:雲間

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十六話

 

 生き残ったSPW財団員をアスワンの病院に連れて行くことが決まり、流石に7人(と1匹)も車に乗せることができないと、到着するまでの間リヴィンは首だけの状態でいることにした。替えの衣服はあるのだからさっさと再生しろと言われはしたが、狭すぎるし重量が増えて車が遅くなるだろうと拒否した結果、花京院が折れてくれて荷台で抱えてもらっている。

 残った体については日光で処分をし、着ていた黒衣をパイロットの遺体が損傷しないように巻いてから出発。後々、位置を教えて埋葬をしてもらう予定だ。

 リヴィンはガタガタ音を立てて揺れる車の中で花京院に抱えられながら、水を操っていた敵スタンド使い、ンドゥールの語っていたことを考えていた。ンドゥールを無事に意識不明にさせたはいいが、彼は起きた瞬間に自身のスタンドで頭を貫き自害。得られた情報は、ンドゥールが『エジプト9栄神』の『ゲプ神』の暗示を持つスタンドであることだけだった。

 

『この俺の価値をこの世で初めて認めてくれた……。この人に出会うのを、俺はずっと待っていたのだ』

 

 それでも事切れる前にンドゥールが語ったDIOへの想いは、リヴィンの心の中にある考えを提示させるものとなる。

 

『死ぬのは怖くない。しかし、あの人に見捨てられ殺されるのだけはいやだ。悪には悪の救世主が必要なんだよ』

 

 敵もまた、似たようなものを持っていたのだと。

 

「私とンドゥールは同じだったのかもしれない」

 

 ぽそり、と言葉にした独り言を花京院に拾われる。

 

「……どういう意味です?」

「『この人に出会うのを、ずっと待っていた』と言っていただろう。私にとっては『大切な人』がそうで、ンドゥールにとってはDIOだった」

 

 今までリヴィンにとって敵は敵だった。そこに何の背景があって、どういう理由でDIOの配下となったかなんて考えたこともなかったのだ。ただただあの憎たらしいDIOに組みした人間であり、自分達の障害である認識しかなかった。だが今回のンドゥールが告げた事実に、敵にも同じような出会いをし、その人の為に報いたいと動くことはあるのだと知ってしまった。

 だからといってリヴィンが敵に手加減をしようなどと思うことはない。自身の目的を叶える為に地上(ここ)にいる。ままならないことがあるのだと、理解をしたのだ。

 ふう、とため息をつくリヴィンを見た花京院は、丸まるように体制を変え、リヴィンにだけ聞こえるよう少し声を潜めながら呟いた。

 

「僕がずっと待っていたのは承太郎や、ジョースターさん達だ。……僕は承太郎に助けられて、今を生きてここにいる」

 

 今まで周りに自身のスタンドであるハイエロファントグリーンが見える人間がおらず、見えない人と分かり合うことはできないと考えていて孤独であったこと。エジプト旅行にてDIOと出会ってしまい、肉の芽を植え付けられて操られ、承太郎を襲い返り討ちにされたこと。肉の芽が埋まったままでは死ぬ運命だったのを、承太郎に助けられたこと。そして旅に同行して分かり合える仲間を持ち、もう独りじゃないと心の底から嬉しく思っていること。

 花京院はそう語ってから、リヴィンの頭を軽く撫でた。

 

「今はもう、スタンドが見えない人と分かりあうことはできないとは思っていない。そもそもリヴィンが見えていないからね」

「私と花京院は分かり合えている……のかい?」

「分かり合っている最中、が正しいかもしれない。僕もリヴィンも、互いのことを知っている最中ですから」

 

 ノホホッと奇妙な笑い方をしながら、話は戻りますけど、と花京院は言葉を続けていく。

 

「だから、そういう意味では僕もリヴィンも同じです」

「同じか……。同じは、嬉しいな」

「そう、僕と同じだ。だから不安に思うことはないんですよ、リヴィン」

 

 リヴィンは不安に思うの意味が分からずに、返答を口にすることができなかった。この旅に出てから分からないことだらけだ。それでも花京院は回答をもとめることなく、リヴィンを抱えたまま無言でいる。そうやっているだけなのに、花京院からそれでもいいと伝わってきている気がした。

 

 ★

 

「花京院、承太郎! ここにいたんだね」

 

 アスワンに辿り着き、SPW財団員を病院へ入れてからジョセフは諸々の連絡を回しに行って、リヴィンはちゃんと体を再生させてイギーを抱えながらジョセフに同行。アヴドゥルとポルナレフで車のメンテナンス諸々、承太郎と花京院で必要品の買い物をしていた。花京院が購入したものをかかえながら、メモをチェックしながら粗方買えたかと2人で確認していたところ、ジョセフと一緒にいるはずのリヴィンが1人で寄ってきたのだ。

 

「……ジョースターさんとはぐれたんですか?」

「それにてめー、服が違えがどうしたんだ」

「分かるのかい? ちょっと服を汚しちゃってね。変えてこいってことで買って着替えたんだけど、それではぐれちゃったんだ」

 

 リヴィンの服は単純に黒い布だと一見して見えるが、実はポリエステル製──特にカーテンなどで使われている遮光性の高いものを選んでいる。しかし今は臨時だからなのか、どう見ても麻でできたものを着用していた。

 

「ああそうだ、今日の夕ご飯は何がいいですか?」

「夕ご飯? ……オレンジ。オレンジがいいかな。勿論他のも沢山あるといいけど」

 

 花京院はリヴィンの返答をもらってから承太郎に目配せをすると、軽く笑みを浮かべてから話を続けた。

 

「今回はすぐ移動することになるでしょうし、今のうちに買えるだけ買っておいた方がいい。行きましょう承太郎」

「ああ」

 

 花京院が先導して果物屋へと脚を進め、その後ろを承太郎、リヴィンという形でついていく。やたらとリヴィンが左右に首を振って周囲を確認しているので、鬱陶しくなった承太郎がツッコミをかけた。

 

「何が気になるってんだテメー」

「え? ああ、うん。ちょっとね」

「言い淀むなんて珍しいなあ。あっ、宿題できてますか?」

「宿題……ああ、宿題か、うん。できてるよ」

「本当かい? ブリッジ状態で走り回れるのが見れるなんて! 今ここでやってみてくれないか?」

「こ、ここではまずいと思う」

「そうかな、残念だな……。いつものリヴィンならできたと思うんだけど」

「流石に迷惑だよ!」

「ごめんごめん」

 

 カラカラと笑う花京院に、珍しくツッコミを入れるリヴィン。そんな花京院のお遊びに触発されたのか、今度は承太郎がこんなことを言い始めた。

 

「ならてめー、側方開脚屈身二回宙返り三分の四ひねりなら今できんだろ」

「で、できないよ! 今やったら迷惑にしかならないことばかり言わないで!」

「ほう? ならいつものアレならできるよな?」

「い、いつものアレ?」

「やだなぁ。よくやっているじゃないか、空中回転ジャンプ!」

 

 そんなことやっていただろうか。記憶を辿ってみても覚えがなさすぎて混乱しているリヴィンを、花京院はニコニコと、承太郎は意地悪そうな顔で見つめている。なんとか、なんとかしなければと滝汗をかくリヴィンの目に映ったのは、目的地である果物屋だった。

 

「あっ! 私の大好きな果物屋ッ!!」

 

 ようやくこの状況から逃れることができると、素早く走って向かっていく。果物の甘い匂いと、目的地に到着した達成感がリヴィンを迎えてくれた。

 ──これで『勝ち』だ。

 リヴィンの後ろ側から大きな爆発音が響き、煙臭さと焦げた匂いが辺りに蔓延している。『予言書にあった通り』、飲食店でのガス爆発が起こって承太郎と花京院はそれに巻き込まれて吹っ飛んだという事象が起こっているはずだ。

 勝ったッ! 第3部完!

 リヴィンに変身をしていた「クヌム神」を司るスタンド使いのオインゴは、弟であるボインゴが持つ「トト神」を司るスタンドの予言を元に勝利を掴み取ったのだ。拳を握りガッツポーズをしてから、後ろを振り返った。

 爆破による影響で先程まで整然としていた街並みはパニックに陥っている。ガス爆発の起きた飲食店は真っ黒焦げになっており、2軒両隣まで被害が及んでいた。道路には吹っ飛んだ跡が残っており、室内外にあったであろうものが黒く染まって飛び散っている。ここまでの威力があればあの2人もただではすんでいない。死ぬほど暑くて仕方がない黒い布を脱いでから変身を解く。正直、普通の人間にはない角が生えて邪魔で仕方がなかった。あとは追い討ちをかけるだけだと、おそらく家具の一部だったであろう長い金属棒を手にとって探し始める。

 

「オイ、何探してんだ?」

「あの2人だよ! メッタンメッタンのギッタンギッタンに……」

 

 今、話しかけてきたのは誰だ? 心臓に冷水をかけられた感覚がオインゴを襲った。滑りの悪くなった機械のように、声がした斜め上へと首を動かす。そこには、予言の通り吹っ飛んだはずの2人が怪我もなく建物の屋根上にいる姿だった。

 

「で、誰をメッタンメッタンのギッタンギッタンにしてやるってんだ?」

「ひっ、ひいいいいッ!」

「ああ、逃げないでください。もっとも、逃げられませんけどね」

 

 いつのまにかハイエロファントの触脚がオインゴの脚に絡みついている。足を動かそうとしてもキツく縛られていて逃げられない。終わりだ。

 

「化けるのならポルナレフにでもしておけばよかったものを。全然リヴィンじゃあない」

「それに勝手にアイツの姿晒しやがって。覚悟はできてんだろうなァ!?」

 

 屋根から飛び降りた承太郎は、怒りで背後から浮かび上がらせた闘神の拳を無慈悲に幾度も振り下ろしていく。そうしてオインゴは再起不能へと陥ったのであった。

 花京院が制服についた汚れを荷物を持っていない方の手で軽くはたきながら、承太郎と同じように屋根から降りていく。『登った時と違い』、ハイエロファントは使用しなかった。ボロボロになったオインゴには目もくれず、承太郎にさっさと行きましょうと声をかける。

 

「俺はオレンジ4つ、葡萄4房、スイカ2つ、マンゴー3つに賭けるぜ」

「僕はオレンジ5つ、スイカ2つ、イチゴ3パック、ザクロ3つに賭けるよ」

 

 ニッと花京院が笑い、果物屋で購入できるものを購入していく。スイカ2つに加えて諸々を持っていくのは物量的に大変だったが、2人ともスタンドでこっそり補助をして楽をした。

 集合場所にしていた駐車場にたどり着くと、承太郎と花京院以外は全員揃っている。ちゃんとリヴィンの黒衣は、ポリエステル製の黒衣から変わっていない。

 

「ちと遅かったようじゃがどうした?」

「のしてやったが、リヴィンに化けやがったスタンド使いがいてな」

「合言葉をするまでもなく、リヴィンじゃないと分かるくらいのモノだったよ。というわけでリヴィン。今日の夕ご飯は何がいいですか?」

「マンゴー3つ、リンゴ7個、オレンジ6つ、パパイヤ1つ、パイナップル3つ。……今確認する必要あるのかい?」

「様式美ってやつだぜ」

 

 リヴィン1人だけになった時、合流時の確認として合言葉を決めており、今回の合言葉は前回リヴィンが食べた果物。バレバレなモノマネだったとはいえ、合言葉がバレているのか確認で問いかけてみたところ、そこは知らなかったらしい。言葉の通り本日のものだと思ってオインゴは回答をした。ちなみに承太郎と花京院がしていた賭けは「リヴィンが今日食べる果物は何か」である。食べなかった分はみんなで分けたり、間食用となっていた。

 

「そんなに私は化けやすい対象なのかい?」

「黒い布被ってりゃいいだけだからな〜。そらターゲットにするだろ」

「正直、一番化けるのが厳しいと私は思うのだがな……」

 

 アヴドゥルが苦笑いしながらリヴィンの頭を撫でる。ポルナレフとは違う意見に、リヴィンは撫でられながら首を傾げたのだった。

 

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