人間を謳歌せよ   作:雲間

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十七話

 

「リヴィン、僕たちは君に1つ謝らなくちゃいけないことがある」

 

 今晩泊まる宿での部屋分けが決まって早々花京院に呼び止められ、花京院と承太郎が泊まる部屋に入ってから言われた言葉がこれだった。リヴィンが迷惑をかけることは多々あっても、逆はそうそうない。それも花京院と承太郎である。謝られることなど全く身に覚えがなく、ただただリヴィンは困惑をしていた。

 

「僕達が倒した敵が、変身をするスタンドだったというのは分かっているよね」

「うん。私に化けてたんだよね。黒い布を被るだけだから簡単……なんだろう?」

「いや、アイツは完璧におめーになってたぜ。身長に声、それに容姿もな」

 

 容姿、と言われてリヴィンの雰囲気が固いものへと変わった。それを予測していた2人は、強固なものになる前に畳み掛けるよう話を続けていく。

 

「上からちょいと見ただけだ。顔は見てねえ」

「すぐに敵本来の姿へ戻っていたから、よく見れた訳じゃない。でも見たことには変わりないし、リヴィンが見てもいいと許可していないのに、見てしまってすまない」

 

 リヴィンは太陽の届かない室内であろうと、夜であろうと自身を覆い隠す布を外すことは決してなかった。用心のためと言われてしまえばそれまでではあるが、それ以外に理由があるのだろうと踏んでいる。当人がひたすらに明言を避ける性別についてがおそらく鍵なのであろう。だからこそ、謝らなくてはならないと思ったのだ。

 

「……いや、2人が悪くないのは分かるよ。不可抗力ってやつだろう? だから謝らないでほしい。見たことを言ってくれたことの方が、私は嬉しい……と、思う」

 

 頭をペタペタと触りつつ、ゆっくりと言葉を探しながら発言したリヴィンは明らかに戸惑っている状態だった。どうしたものかと、2人が目配せした後に花京院が口を開く。

 

「ありがとう、リヴィン。無論、僕達は他のみんなに見たことは言わない。約束するよ」

 

 リヴィンは頭に手を乗せたまま、緩やかに頷いた。これで用事は終わりだから戻っても大丈夫だよ、と花京院が促すが、リヴィンは戻ろうとせずに突っ立ったままで動こうとしない。なんだろうと静かに見守っていると、リヴィンがギュッと自分を守るように腕組みをしながら恐る恐る声を上げた。

 

「……そう約束してくれた2人になら、ちゃんと見せてもいい。ジョセフは私の姿を知ってはいるけど、何かあった時に知っていた方がいい、かも、しれない……」

 

 この言葉を言うだけでも相当の勇気を振り絞ったのか、若干声が掠れて最後の方は消え入るような音量になっていた。これはリヴィンなりの覚悟だ。本人にとって一世一代に近い発言だったはずである。受け取らないわけにはいかないと、花京院が頷いた。

 

「うん、万が一を考えて見せてもらえると助かるよ」

「……わかっ、た」

 

 シュルリと音を立てて、頭部を覆っている黒衣がリヴィンの腕におさまっていく。用心の為にと巻き付けられている白い布が外されると、リヴィン本来の頭部が露わになっていった。

 変身した敵を見た時と同じように、髪の毛は頭部に沿って襟首までの長さがあり、おくれ毛だけが胸部まで長く伸びている。色は瑠璃紺色から薄藍になるようグラデーションがかったものになっていた。額からは小さな白い角が生えていて、ほんのり目尻が下がった目は茜色をしていて恐々と2人を見つめている。成人期と言っていた割に顔立ちは幼く中性的で、性別がどちらかと言われたら幼さによる補正で女性と答えるだろう。

 それが、リヴィンにとって容姿を明かすのを嫌がった原因かもしれない。結局本当のところの性別は判別できないが、承太郎はそこに触れることなく気になったことを尋ねた。

 

「……角があるんだな」

「えっ、あ、ああ。今は私しかいないから意味はあまりないけれど、大きさや本数で種族の中での強さが決まってるんだ。そこから種族内での地位が決まったりもする。見ての通り、私は小さいからそこまでの力はない」

「リヴィンは十分強いよ」

「人間基準で考えるとそうなんだろうけれど、まあ、弱い方だったんだ」

 

 リヴィンは困ったような笑いを浮かべているのに、ホッとした雰囲気を醸し出している。やはり性別については触れないのが正解だったのだと2人は悟り、今後も触れることはしないと心の中で決意をした。確かに気にならないと言ったら嘘になるが、そんなことよりも大事なものがある。リヴィンはリヴィンであり、性別がどちらであろうと関係ない。承太郎が乱暴にリヴィンの頭を撫でると、リヴィンはその茜色した瞳から一筋の涙を流しつつ笑みを浮かべたのであった。

 

 ★

 

 目的地へ向かう為、ナイル川を進む商人の船に相乗りをさせてもらっている関係で、コム・オンボに一度立ち寄ることとなる。みんなで行動していたはずなのに、いつのまにかポルナレフが1人はぐれており探す羽目になった。リヴィンからのお願いという名のイギーにとっては脅しにより、イギーの鼻で発見をすることができたのだが、どうにもスタンド使いに襲われていたらしい。刀を使った「アヌビス神」を司るスタンド使いで、物体を透過して物を切ったりすることができたらしく、ポルナレフの服は切られていないのに切り傷が胸についている。とはいえ撃退完了はしており、ポルナレフはそのスタンド使いが使用していた刀を拾って警察にでも届けることにした。

 船の汽笛が鳴り、乗っていた船の出発が近いと急いで港へ戻っていく。無事に船へと乗った後、何故か鞘から抜けなくなった刀を不思議そうにポルナレフが見ていると、リヴィンが近寄ってきて同じように眺め始めた。

 

「どうしたリヴィン」

「その刀、刀……うん」

「オイオイオイオイ、本当にどうしたんだ?」

 

 もそもそと刀と呟くだけで、特にこれといった事を言わないリヴィンにうろんげな目を向ける。だがリヴィン本人もよく分かっていないようで、両手をくるくる回す意味不明な行為をし始めた。やがて言語化を諦めたのか、「なんでもない」とかぶりを振って荷物整理をしている花京院の元へと行ってしまう。なんだったのかと疑問に思いながらも、そういうところあるからなあとポルナレフは気にしないことにした。

 

 再び船にゆられエドフに辿り着いた一行は、ほんの数分でポルナレフが襲われたことを踏まえ、必ず2人以上での行動をとることに決めた。そして警察に刀を届けると言うポルナレフに、承太郎とリヴィンがついていく形となる。

 

「警察に行くのではなかったのかい?」

「いーじゃねえか! 行く道中だしよ〜」

 

 警察署へ行く途中に床屋を見つけたポルナレフが、いい加減身だしなみを整えたいと入りたがったのだ。今日ここに泊まる以上急ぐことはないんだしと押し切られ、ポルナレフの散髪が終わるまで承太郎とリヴィンは店内の窓際にあるソファで待つこととなる。

 

「リヴィン、こいつをよろしく!」

 

 席へ向かうポルナレフから預けられたのは、先ほどの刀だった。承太郎が軽くため息をつきながらソファにどっしりと座り、その隣にリヴィンは腰を下ろして手に持った刀を観察する。

 初めて見た時から妙に気になっていたのだ。引き寄せられるような、訴えかけてくるような、不思議な感覚。けれどもあまり触りたくもない気もして、手遊びをするしかなかった。

 今も似たような気持ちになっており、正直この刀を持て余している。なんとなく隣に座っている承太郎を見るが、舟を漕いで浅い眠りにつきはじめていた。……どうしよう。そんな思いがリヴィンの中で回遊魚のごとく回っていく。鞘におさまったこの刀を抜いて、刀身を確認したい気持ちが高まって止まらない。こういった感じになるのは初めてで、落ち着かず嫌になってきている。

 一度だけ、少しだけなら。柄と鞘をそれぞれの手に持ってみると刀身と鞘の擦れる音がする。そして銀に輝くその身をわずかに見てみようと、鞘をずらした。

 

 リヴィンは刀を持ったままふらりと立ち上がり、店外へ出ていこうとする。眠りにつきそうだった承太郎は、リヴィンが立ち上がったのに気がついて眠気が素早く引いていった。

 

「おいリヴィン、どこにいくんだ」

 

 1人で勝手にどこかへ行くのはやばいランキング1位のリヴィンを放っておく訳にはいかない。声をかけたのにも関わらず外へ出ていくのを追いかけると、リヴィンは店を出て道のど真ん中に立ち止まっていた。その右手に持っていた刀はいつのまにか鞘から抜けていて抜き身になっている。

 

「何してやがる」

 

 2度目の声掛けには、刀を持っている手をガタガタと揺らすだけでそれ以外の反応がない。いよいよ様子のおかしいリヴィンへ、承太郎が肩を揺すってやろうと手を伸ばすより前に、ギラついた切先が目の前に迫っていた。

 

「テメッ……!」

 

 瞬時に後ろへ頭を逸らしてから距離をとるが、リヴィンは刀を突き出したまま静止している。それは段々とブレ始め、再び小刻みに揺れ始めた。

 

「何があった!」

「じょ、たろ」

 

 その声遣いは内に暴れる何かを必死で抑えているようなものだった。次第に獣のように唸りをあげ、刀を握る右腕は激しく左右に動いていく。

 

「に、にげ、……て」

 

 一閃。

 軽やかに放たれた斬撃は、承太郎の顔へ一筋の傷を負わせてしまい、たらりと血が流れていった。

 

「あ、ああ、……私は、わた、」

 

 自分でやったことなのに、リヴィンは酷く動揺をし5、6歩後ずさっていく。右腕だけがまるで別個体のように鋒を承太郎から離さない。

 

 ──おまえは誰よりも強い。最強になれる。大切なものなど壊してしまえ。そうすればおまえは孤高になれる。誰にも負けはしない。

 

 刀から響いてくる声がリヴィンの脳内をぐちゃぐちゃにしてくる。そんなことは望んでいないのに、承太郎を傷つけてしまったショックが築いていた壁を脆弱なものにし、押し負け始めていた。

 それでも刀からの支配に反抗して唸るリヴィンに、慌てて外に出てきたポルナレフが大声で叫んだ。

 

「おい、どうしたってんだリヴィンッ!」

「う、うう……あ、『ポルナレフか、おまえの攻撃パターンはもう覚えた。もう絶対に負けることはない。何故ならおれがこいつの身体能力でお前らを殺してやるからだッ!』」

 

 今度はポルナレフへと刀をむけて叫ぶリヴィンは、とてもリヴィンとは言えない口調だ。その上言われた内容で、ポルナレフはすぐに何故こうなっているかを理解することとなる。

 

「てめー、刀の方がスタンドだったのか!?」

「『そうだ、アヌビス神のこの俺がお前らを片付けてやる!』……やめろっ!」

 

 そう言う割に右手以外が中々動かないのは、リヴィン本人が反抗を続けているからだろう。

 ──大切を傷つけさせない傷つけたくない傷がついてほしくない傷ついてほしくない。

 その一心だけでアヌビス神からの支配に負けまいと心を保っていた。

 

「に、にげ、『黙ってろ! もうおまえは傷つけたんだ!』……ううう!」

 

 やってしまった事実を突かれ防御が緩み、体の支配権がアヌビス神優勢となり2人へと襲いかかっていく。リヴィンが刀を振りかぶるやいなや、2人はいた場所からすぐさま退避をすると、元の場所には激しい音と共に地面に深く一文字に刻まれた跡が存在していた。リヴィンが振りかぶっただけで真空波が発生し、地面に溝を作ったのだ。

 

「やべえぞ承太郎、リヴィンが完全に支配されちまったらひとたまりもねえ!」

「……やれやれだぜ」

 

 承太郎は鍔をグッと掴み帽子を深く被ると、スタンドを出現させて構えをとる。同様にチャリオッツを出したポルナレフは、先手をとってやろうと素早く動き出した。

 

「シルバーチャリオッツ!」

 

 銀の騎士はリヴィンから刀を叩き落としてやろうと、一度左側へ攻撃するフェイントをかけてから瞬時に右側へとターゲットを移し攻撃をしかける。対してリヴィンはほんの少し体をずらしただけで攻撃を避け、レイピアを切り落とさんと刃を振り翳す。文字通り人間技ではない速さで行われたその行為に、ポルナレフが反応できないところを、スタープラチナがリヴィンの右手を殴ることで軌道を変えさせる。ギリギリで切り落とされずに済んだが、渾身の力で殴っても相当な力で握りしめているのか刀を落とさせるまではいかなかった。

 リヴィンは一度しゃがみ、下から斜めに斬り上げをスタープラチナ目掛けてしようとする。だがすかさずチャリオッツが刀身を弾き飛ばそうと気迫に満ちた一撃を放ち、リヴィンがそれをいなそうとして軌道のズレた瞬間を狙い、スタープラチナが右腕に2度目の打撃を与えようとした。

 

「『おまえの攻撃パターンは憶えた』」

 

 ポルナレフの一撃をあしらったかと思うと、リヴィンの前腕がありえない方向に曲がり、本来ならば対応できない拳に向かって白刃が向けられ刃が突き刺さる。

 

「ぐっ……!」

 

 承太郎の拳に痛みが走り、咄嗟に引いたもののざっくりといったようでかなりの量の血が噴き出し始める。ボトボトと地面へ垂れていく血の音が鳴り、ポルナレフに追撃しようとしていたリヴィンの体が一時停止を押したかのような止まり方をした。

 

「……私が、承太郎を、この手で、大切を、傷つけ続けるなら、私は、死ぬ、死んでいいッ!!」

 

 承太郎を更に傷つけた衝撃で体の支配権を取り戻したリヴィンは、刀を持っていない左手を力尽くで己の頭部へ持っていき、布を掴み取って乱雑に投げ捨ていく。

 まだ陽は照っている。最後の砦である白頭巾をとってしまったらリヴィンは跡形もなく消え去ってしまう。

 

「んなことするんじゃあねえ!!」

 

 あれだけ脱ぐのを嫌っているくせに、どうしてこういう時だけ思い切りがいいのか。

 承太郎のスタープラチナがリヴィンの左腕を掴み動かさせないようにすると、渋い顔をしたポルナレフがチャリオッツを構えさせながら叫んだ。

 

「リヴィン、右手を止めるのに集中しろっ! んでもって……許せッ!」

 

 ポルナレフの声に反応したリヴィンが、膝を軽く折り曲げ右腕が動かないように集中しだすと、ひとりでに動いていた右腕が震えるだけになる。その僅かの間で、チャリオッツが刀を握る手首を線を描くことで斬り落とした。カランと音をたてて刀が落ち、斬られた断面から血がこぼれ落ちて、リヴィンの荒々しい呼吸音が場に響いていく。

 

「……許さない、許さない、ふざけるな、この、……このッ!」

 

 リヴィンは刀と自身の手を足で強烈に踏みつけて破壊をしようとしているが、スタンドである刀に攻撃は通らず、自身の手をぐちゃぐちゃにして太陽で消滅させることしかできていなかった。

 

「リヴィン、落ち着きやがれ」

「死者の国へと還れ!!」

 

 承太郎が声掛けをしても耳に届いていないのか、リヴィンは怒りに満ちた声でがなると、刀を壮絶な勢いで蹴り付ける。刀はクルクルと放物線を描きながら飛んでいき、水飛沫をあげてナイル川の底へと沈んでいってしまった。

 

「やべーぞ、警察がこっちにきてる。さっさといくぞお前ら!」

 

 このやりとりが通報されていたのか、遠くから警察が駆け寄ってきているのを発見したポルナレフが2人に働きかけ、まだ荒ぶっているリヴィンを宥めながら急いでこの場を立ち去るのだった。

 

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