人間を謳歌せよ   作:雲間

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十九話

 

「だから俺やジジイが怪我した時にやたらキレてやがったのか」

 

 激しく落ち込んでいたのも、ジョナサンの子孫である承太郎を己の手で傷つけたから。

 長々とリヴィンが語った後、初めての発言が煙草をふかしている承太郎からのものだった。そのリヴィンは、ここまで話をしたのは生きてきた中で初めてだと一息ついている。そんなリヴィンへポルナレフが頭をかきながら問いかけをした。

 

「まーおまえがDIOに殺意マシマシなのはよーく分かったぜ。んでだ、『問題』ってなんだ?」

「……、……そこについては、まだ言えない」

「あー分かった分かった、この旅の中でとは言わねえ。けど、いつかぜってー話せよ?」

 

 ビシッと指を差され、リヴィンは小さく頷いた。前に承太郎と花京院に姿を晒してから少しだけ気が楽になっている。それもあり、彼らも受け入れてくれるかもしれないと考えが変化していた。大丈夫だろうと不思議と思えている。他のメンバーを含めて話すことができる日は、きっと近い。

 

「よく頑張って話してくれた。ありがとう、リヴィン」

「いいや、もっと早く話すべきだった。話すのは大変だったけれど、話すことでよかったことがあったんだから」

 

 アヴドゥルに頭を撫でられながらリヴィンはそう告げる。

 DIOへの怒りで話せなかったのは本当だが、話すと思い出がじわじわと消えていってしまうような気がして、話す勇気を持てていなかった。けれどジョセフにお膳立てされてようやく話すことができ、思い出は消えることなく、寧ろ自分の想いを再確認することができたのだ。

 

 必ずDIOを殺す。そして、ジョナサンをエリナの元へ返す。これだけは必ずやり遂げる。

 

 改めて決意を固めていたリヴィンに、花京院が眉間に皺を深く寄せながら声をかけた。

 

「リヴィン、盾になるというのはやめてくれないか」

「どうしてだい? 頭以外ならいくらでも再生できる。人間はすぐに治癒できないし、君達が怪我をするより効率的にいい」

 

 そのリヴィンの返答に、花京院は海より深いため息をついた。うーんと額に手を当てて数秒迷った後、理解していないリヴィンを見つめる。

 

「リヴィンは、承太郎やジョースターさんが傷付いたら思うことは何ですか?」

「傷つけられてはいけない。私が守らなきゃいけないのに傷つけた。それは、君達が傷付いた場合にも思っていることだ」

「うん、僕達も同じようにリヴィンが傷付いて欲しくないと思っているんだ。……分かるかな?」

「分かる……けれど、それとこれとは前提が違うと思うんだ」

「おまえよォ、こういうのは理屈じゃねーんだ。心! 心が傷つくの!」

 

 うだうだと話を続けようとするリヴィンをポルナレフがぶった斬った。

 

「それに俺もおまえの腕を斬っちまったけどよ、ほんっとうにやりたくなかったんだからな!? 最終的にそれしかなかったってだけで……。そもそも首だけだった時のお前はグロすぎ。自分の手を踏んづけて処分してた時もヤバすぎたんだぜ? そーゆーのも見たくねえって気持ち理解しろッ!」

「う、うん……? わ、分かった」

 

 ポルナレフの怒涛の勢いもあったが、その通りであると全員が深々と頷くので、完全に押されたリヴィンは困惑しながらも了承するしかできなかった。リヴィンの感性的にグロテスクと思う事柄はないのだが、一般的には避けたい事象であることは理解していた為、これ以上反論する気はなくなったようだ。

 ジョセフは一段落ついたのを見て、リヴィンの真正面に移動をするとその手を取り、煌めく翠の瞳でリヴィンを見つめながら話をし始めた。

 

「リヴィン。この旅に合流すると決まった時、わしと『約束』をやってみようと決めたじゃろ。そのお陰で旅を通じて、わしと初めて会った時よりもお前はずっと人間らしくなっているぞ。そこは、お前を見てきたわしが保証する」

「ジョセフ……」

 

 握られた手を握り返し、リヴィンもまたジョセフを見つめ返す。まっすぐ見たジョセフの顔から、ジョナサンの面影が重なって見えてリヴィンは少し俯いた。

 

「本当に……どうしてそんなに似ているんだろうね、君は」

「おじいちゃんにかの? それはわしも知らんな〜」

 

 普通に遺伝だろ、という承太郎のツッコミは2人には届かなかった。

 

 ★

 

 ルクソールに到着し、ジョセフとアヴドゥルとリヴィン、他3人の部屋割りで一夜を明かした朝。

 アヴドゥルが身支度を済ませ、他面子と話して朝食に行くのを決めていたのに対し、ジョセフはアヴドゥルが呼びに来るまで眠りについていた。しかも寝ている間に北枕になっている。

 リヴィンはそもそも眠るという行為が必要ないのだが、人間として夜は「ベッドで横になるだけ」を行っていた。今はキャスター付きの椅子に座り、何故かジョセフに近寄っては遠ざかるを繰り返しながら起きるのを見守っていた。

 

「こらこらリヴィン、椅子で遊ぶんじゃあない。……ジョースターさん、起きてください。ポルナレフのやつが早く朝メシを食いに行こうと騒いでいます」

「椅子で遊んでいないよ? ジョセフの趣味に付き合っているだけだよ」

 

 リヴィンの言っている意味が相変わらず理解できずに腕を組むと、リヴィンは椅子に座ったまま足をとてとて動かしてジョセフから遠ざかり脚を上げた。すると椅子はひとりでに動いでジョセフの方へと寄っていってしまうではないか。このホテルはそんな傾いていたのだろうかと思ったが、続いたリヴィンの言葉にギョッとすることになる。

 

「昨日から思ってはいたんだけど、ジョセフはいつから磁石になることが趣味になったんだい?」

「……ん!? なんじゃあそれは、そんなもん趣味にしとらんッ!」

「違うのか……」

 

 だって背中にキャップとかつけたままにしてるし……。リヴィンはそうブツクサ言いながら、ジョセフにくっついている物を取っていく。そんなリヴィンにアヴドゥルが大きく首を左右に振りながら声を上げた。

 

「リヴィン、そういう不可思議なことはまずみんなに相談してみるんだ」

「いや……、本当に私は磁石でくっつく分類のものを体に集め、飾り立てる趣味を確立したのかと思っていたんだ。ジョセフが特に何も言わなかったし……」

「ジョースターさん……! どうしてそうなっているのを相談してくれないんですか!」

「えっ、これわしが悪い流れなの?」

 

 頭をポリポリかきながら呑気に言うジョセフに、アヴドゥルが若干呆れながら言葉を続けた。

 

「どう考えてもスタンド攻撃ですよ! 何かあったのでは?」

「そういえば……岩に何故かコンセントボックスがあってな、つい触ってしまった覚えが」

「それじゃあないですかッ!」

 

 片手を頭にやりながら唸るアヴドゥルの背中を、椅子から立ったリヴィンがぎこちなくトントンし始める。優しさを表現したリヴィンにアヴドゥルは顔を綻ばせ、リヴィンの頭を柔らかく撫でた。

 

「ともかくですね、そのスタンド使いを探しましょう。力が働いているということは、我々の近くで潜んでいるはずです」

「敵の位置が分かればいいんじゃが、ハーミットパープルで念写しようにも、テレビはまずいしのう……。何かいいものでもあればええんじゃが」

「紙の上に血を垂らしてみれば大まかなマップで位置は観れるんじゃないかい?」

「却下だリヴィン」

 

 そそくさと備え付けのメモ用紙を取り出し、自分の血を垂らそうとし始めたリヴィンをアヴドゥルは咎めた。

 

「じゃが発想は良いな。アヴドゥル、頼む」

「ええ、もちろんです」

「ではリヴィン、わしの指示通りにやってくれんか」

「ああ、分かった」

 

 リヴィンに部屋から磁力でくっつくもの全般を部屋の外へ出すように言っている間、アヴドゥルは必要なモノをとりに部屋を出る。まず先に、外で待機をしている3人と1匹の元へと足を運んでいった。

 

「ちょっといいか」

「どうかされましたか?」

「ああ、ジョースターさんがなかなか起きなくてね。ちょっと全員で起こさないか?」

「なんでまたそんなことすんだ? リヴィンが一発入れるだけで飛び起きるだろー?」

「……ジジイは寝汚ねえんだポルナレフ。それにリヴィンがやったら死ぬだろ。いいから全員で行くぜ」

 

 承太郎による強めのハタキがポルナレフの背中に入り、「いってえー!」という悲鳴が響く。ざまあみろと言わんばかりのイギーの鼻息が聞こえる中、全員ゾロゾロとホテル内へと戻っていった。アヴドゥルは途中1人で食堂へ向かい、「あるモノ」を断ってから失敬し部屋へと戻っていく。

 

「スタンド攻撃に遭ってたんなら素直に言ってくれりゃあいいじゃねえか!」

「外だと誰が聞いているか分からないだろう。バレない為にああいう言い方をしていたんだ、分からないのかポルナレフ」

「にゃにおう!」

 

 しょうもないポルナレフと花京院のじゃれ合いが始まりそうなのを手で制し、テーブルの上へ紙を4枚ほど並べてから、持ってきたものを紙の上へと乗せた。

 

「茶色の粉……きび砂糖ですか、これ」

「簡単に手に入る、色がついてる粉状のモノとしてはコレが良くてな。では承太郎とポルナレフ、イギーは外で他にスタンド使いが来るかどうかを見張っておいてくれ。私とリヴィンは万が一に備える。後はジョースターさんと花京院の仕事だ」

 

 部屋から出ていくのを見届けると、ジョセフが紙上にある砂糖に向かってハーミットパープルを使い、敵スタンド使いがいるであろう位置を示したマップを生成する。それを元に花京院がハイエロファントで捕まえにいくという算段だ。

 

「ハーミットパープル! ……ここじゃあ!」

 

 砂糖の一粒一粒が細かく振動してこの町のマップを形取っていくと、敵を示すバッテンマークが宿泊しているホテル付近に潜んでいると知らせてきた。

 

「なるほど、その辺りですか。いけ、ハイエロファントグリーン!」

 

 翠に煌めく幾多の触脚が部屋を出ていき、マップを元にして一直線に伸びていく。誰がスタンド使いなのかまでは分かっていなかったが、スタンドはスタンド使いにしか見えないのを利用した。追いかけるように見せかけて、行ってほしいところに追い込んでいったのだ。ハイエロファントの触脚を張り巡らせた「法王の結界」を仕掛けている場所に敵をぶち込み、触脚に触れた反応で飛び出したエメラルドスプラッシュの雨で『処理』をしたのだった。

 

「……これでどうでしょうか」

「リヴィン、キャップはあるか? ジョースターさんにくっつくか試してみてくれ」

「分かった」

 

 実は最初に取った時からずっと持っていたらしいキャップをジョセフに近づけていく。特にひっつくような感覚もなく、ジョセフにくっつけてから手を離しても貼り付かずに、キャップはカランと音をたてて落ちていった。

 

「ちゃんと気絶したみたいだね」

「すまんのう花京院」

「いえ、お役に立てたのなら嬉しいです」

「では私は終わったことを下に連絡してきますよ」

 

 部屋に残った3人は部屋の外に出した物の片付けに入り、アヴドゥルは再度外へと出て見張り組へと終わったと声をかけに行ったのだが。

 

「……ポルナレフはどうした?」

「あ? ……チッ、いつの間に消えやがった」

 

 ポルナレフが見張っていた位置におらず、何処かへ行ってしまっていたのである。

 

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