人間を謳歌せよ   作:雲間

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二十一話

 

 ホリィの容体が悪化し、体力の限界が近づいているらしい。もって4、5日。ジョセフが日本へ電話をして確認をした悪いニュースに、全員が険しい表情になる中、一行は列車に乗ってエジプトの首都であるカイロに到着をした。

 そこからはひたすら虱潰しである。ジョセフが念写をしたDIOのいる館の写真を元に建物を探すが、この広大な土地の中から最大5日で見つけるのは至難の業だといえる。

 リヴィンが街中を飛び回って探しに行くと提案してきたが、騒ぎになって探すのが逆に面倒になるのも問題だと却下。地道に地元住民へ聞いたりしながら探すしかなく、今は色々な人が集まるであろう一軒の場末のバーへと足を運んだ。

 

 しかし、そこにもDIOからの刺客が紛れ込んでいたのである。

 

 DIOの館を知っている。

 

 そういう誘いでポルナレフを賭けに誘い、魂を奪い去った人物。「オシリス神」の暗示をもつスタンド使い、ダービー。賭けに敗北した人間の魂を奪ってコインにし、コレクションをする悪趣味な人間が立ちはだかった。

 その彼によってポルナレフの魂がコインに囚われ、引くに引けない状況になったのである。魂を抜かれて椅子にくったりと座っているポルナレフを助けるには、ダービーとの勝負に勝たなければならない。

 誰がどう出るか。緊張が走る中、余裕ある表情のダービーが口を開いて提案を持ちかけてきた。

 

「フフフ、リヴィンという名前でしたかな? 是非貴方と勝負をしたいと思いましたね。古代の人物がどう人間と違うのか、興味があるのですよ」

「ああ、もう私の正体を知っているのか。いいよ、やろう。ええっと、『魂を賭ける』よ?」

「グッド!」

 

 あっさり了承をして魂を賭けるとまで言ったリヴィンに、全員が驚愕の眼差しを向けた。椅子を引いて座ったリヴィンは分かっていないだろうが、とても賭け事に向いている性格ではない。慌ててジョセフが止めにかかる。

 

「軽率に賭けるんじゃあないッ! お前は賭け事に向いとらん、ここはわしがやる!」

「いや、私が先に対応して相手がどういう風に勝負をするのか、少しでも手の内を見た方がいいんじゃないかと思ってね。大丈夫、私が負けたとしても君達なら勝てるだろう?」

「その信頼は嬉しいけど、何があるか分からないから駄目だよ……」

 

 額に手をやりながら、花京院が首を左右に振る。リヴィンの自身についての扱いがあまりにも軽すぎて、これも分かってもらわねばならないと脳内で悩み事が増えてしまった。

 

「もう賭けた以上後戻りはできませんよ。……ではHigh and lowをやりましょうか。ルール、ご存知ですか?」

「ああ、やったことあるよ」

 

 トランプの山札からカードを2枚取り、1枚は表、1枚は裏で出す。表にしているカードより、裏のカードの数字が大きいか小さいかを当てる至ってシンプルなルールだ。

 

「念の為の確認ですが、Kが最上、Aが最低でそれ以外のルールはなし。同じ数字が出た場合は負けということにしましょう」

 

 ダービーはテーブル上にあったトランプ束をシャッフルし、山札を2分割して自身に1つ、片方をリヴィンへと置く。

 

「では、公平にコインで先攻後攻を決めましょうか」

「いや、君の好きな方でいいよ」

「なるほど? ではわたしは後攻で」

 

 先攻となったリヴィンは山札を捲り、裏面を出す。ダービーもまた山札から1枚表面にカードをめくって見えた数字はダイヤの4。リヴィンは確率でしか考えていないので答えは決まっていた。

 

「ハイだね」

 

 リヴィンがカードを捲るとハートの2が現れた。失敗の為、この2枚のカードは捨てとなる。脇へとカードを避けると、今度はリヴィンが表のカード──スペードの8を、ダービーが裏のカードを差し出す。

 

「ふむ、難しい数字ですねぇ。ならばわたしはローを選びましょうか」

 

 ペラリ、とめくる音と共に現れた数字はダイヤの7。ダービーはほんのり口角をあげ2枚のカードを自分の場へと持っていった。

 

「危ない危ない」

 

 そんな感じで、リヴィンは淡々と判明した数字を除外した確率に合わせた回答をし、ダービーはリヴィンを煽るような会話を挟んできたが、それにリヴィンが反応することなく淡々とゲームは進行されていった。

 承太郎がスタープラチナで観察をしていたが、特にあからさまなイカサマを感じることもなく、気味悪いほど普通にゲームは終了。5対7でリヴィンの負けが確定した。

 

「うん、負けだね。イカサマってしてたのかい?」

「ええ、実は最初からしていましたよ。これはわたしが先程まで触っていたカードです。わたしはどのカードが来るのか、全て分かっていましたので」

「これって普通の人間でもできるものなのかな」

「熟練度があれば。最もそう簡単にはいきませんけどね。……さあ! 貴様の魂をもらおうかッ!」

 

 ダービーの背後からスタンドが浮かび上がり、リヴィンから出てきた魂を奪い去る──はずだった。

 

「……なにしているんだ、あれは」

「さ、さあ……」

 

 オシリス神は両の手のひらでリヴィンの頭部を挟んでいる。挟んでいるだけで、ポルナレフの時のように出てきた魂を取ることをしていない。魂を引っ張り上げようと力を入れたのか、頭部の衣が歪んでいる。

 数秒、沈黙の天使が通って行った。

 

「……頭に謎の圧迫感があるだけなんだけれど? 魂、とらないのかい?」

「何故ッ! 何故負けたのに魂が出てこないッ!?」

「それは知らない……。ああ、できるまでゲームをやってみるかい? 次は私が勝つかもしれないな。そうしたらポルナレフの魂を返してもらおう」

 

 動揺したからなのか、ダービーはスタンドを消してリヴィンを指差し叫んでいる。本当に次勝負をしたら魂をとられるかもしれないというのに、リヴィンは非常に呑気な返事を返していた。

 花京院は顎を指先で弄りながら、何故魂を奪われなかったのか独自の考察を皆に述べ始める。

 

「これはあくまで僕の考察になるんですが……。敗北したと思った時に少しでも感じた絶望や屈辱が魂を無防備にして、ダービーのスタンドに魂を奪う隙を与えているんじゃないかと思うんです。リヴィンはそもそも勝ち負けに対して感情を抱いていないから、魂を奪われなかったのでは」

 

 実際仲間内で何回かトランプで勝負をしたことがあるのだが、基本的にリヴィンは勝っても負けても、事実だけを受け止めているような節があった。勝ち負けを『チーム分けでAとBのうちAチームに振り分けられた』くらいにしか思っておらず、要は『ゲームでの勝負』というものを楽しんでいないのだ。他にも音楽を聴くという行為にしても、何か音が鳴っているという認識でしかない。色々学んできてはいるが、まだその辺りの情緒というものが育ちきっていないように感じている。

 花京院は言葉にはしなかったが、死ぬのは怖いという割に、リヴィン当人の自分の命に対する扱いの軽さもそれに加わっているような気もしていた。

 

「これでは勝負にならんッ! 貴様が負けたことに変わりない、他の者でやってもらおうか!!」

「そうらしい、すまない」

 

 リヴィンは肩をすくませてガタガタ椅子を引いて席を立つと、皆のいる後ろへと戻っていく。ゴーイングマイウェイすぎるリヴィンに唖然とした雰囲気になっていたが、ジョセフが咳払いをしてから席についたことで、場の空気が本来あるべきシリアスなものに戻っていった。

 

「おっほん! ではバービー君、わしと勝負してもらおうか」

「ダービーです、お間違い無く」

 

 ジョセフが勝負をするにあって持ってきたのは酒がいっぱいに入ったコップだ。そこにコインを入れ、酒が溢れ出た方が負けというゲーム。

 ジョセフは相手にイカサマされないようにと引き続き承太郎に監視を頼み、一方の自分はイカサマしつつダービーの名前を度々間違え、おちょくりまくった。

 だがその上をいくのがダービーという歴戦のギャンブラーだ。本来ならばもう入らないはずのコインを見事入れて見せる荒技を実行した。もうコインが入ることはないと確信していたジョセフは、凄まじい動揺をみせる。自分の番となり、激しい発汗と呼吸をしながら、ガタガタ指を震わせコインを入れなければとコインを手に取った──そんな時だ。

 急にリヴィンが口元を晒すように布を捲り上げ、普段聴いている声ではない声で喋り出した。

 

「『ジョセフ、しっかりなさい』」

 

 凛とした、厳しさの中に気品を感じる大人の女性の声だ。あまりにも突然女性の声が聞こえたものだから、全員の目線がリヴィンに集中するが、声をかけられた本人は全身を震わせ本気でビビっていた。

 

「リサッ……! い、いやリヴィン! なんということをするんじゃ!」

「ふふ、冷静になれただろう?」

「確かにそうじゃが……ふぃー、肝が冷えたわ」

「『そんな腑抜けているようだったら、地獄昇柱(ヘルクライム・ピラー)をもう一度登ってもらおうかしら』。……なんてね」

「やめんかッ!」

 

 ゾゾーッとしながら体を両腕で抱きしめるジョセフに、珍しくリヴィンが口元に手を当てて上品にくすくすと笑っている。声もそうだが、立ち姿までもを模倣しているようだ。かつての敵、サンタナが骨を動かして武器にしたように、リヴィンもまた体のパーツを物理的に動かして声を真似したのだろう。

 

「……リサリサひいおばあちゃんの真似か?」

「ああ、承太郎は会ったことがあるんだね。そうだよ」

「一回だけな」

 

 そんな会話をよそに、ジョセフは先程とは違う意味でかいた汗を拭い、今一度コップへ向き合う。

 

 そう、できないことなどない。あの登るのは不可能に近かった柱も、最終的には友の力を借りたとはいえ登ってみせたのだ。

 

 今一度深呼吸をした後、コインの端を持ってコップの水面に少しずつ近づけ僅かに浸らせる。そしてダービーに見えないコインの裏面で指先からひっそりとハーミットパープルが伸び、コインが中に入っていくと同時に『コイン分の酒を吸い取った』。植物型のスタンドなのだ、水分を吸うのも何もおかしなことはない。

 落ちて行ったコインは、水底に溜まったコインとぶつかって「カラン」と小さな音を立てる。ジョセフは意地の悪い笑顔をみせて、愕然としているダービーに番を返してやったのだった。

 

「さあ、ブービー君。おまえの番じゃ」

 

 ★

 

 結局、DIOの館の位置も、DIOのスタンド能力も分からなかった。ダービーが情報を吐く前にプレッシャーで『おかしく』なってしまったのである。それほどまでにダービーは、DIOのことを恐怖していた証拠でもあった。

 コインコレクションになっていた人々も、ポルナレフの魂も全て解放され、あるべき場所へと戻っていったのであった。

 




(余談)承太郎が勝負していた場合、花京院は自分から魂ベッドを申し出て、リヴィンとアヴドゥルもそれに乗りますが、ダービーは魂取れるか分からないからとリヴィンのは拒否します。実際は承太郎に魂委託(?)をしているので取れるのですが、魂取れなかったのがあまりにも想定外すぎて信用できないという。
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