人間を謳歌せよ   作:雲間

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二十二話

 

 かなり遅くまで聞き込みをしていたものの、一向にDIOの館が見つかる気配がない。焦る気持ちはあるが、DIOとの戦いが必ず発生すると分かっている以上、きちんと休む必要がある。そう人一倍焦っているであろうジョセフが言ったので、今晩はホテルで体を休めるしか選択肢がなかった。

 常に緊張と焦りがあったせいだろう。同室のジョセフは深い眠りについており、横になっているだけのリヴィンが忍足で抜け出すのは容易いことであった。

 

 外へ出たのはじっとしていられなかった、ただそれに尽きる。それに、夜ならば黒衣が目立たずに探索ができるだろうという算段もある。目の細胞を変化させて夜でも見やすい視界に切り替えると、ホテルから飛び立って行った。

 近場はきっと明日探索するであろうから、今いる場所から正反対の場所へと、大胆な足運びをしながらも人々に気付かれないよう街中をかけていく。大体反対側にたどり着いたところで、この辺りから探索を始めようと暗闇に包まれた街中を歩き出した。

 月からもたらされる光と、建物の窓から漏れる蛍光灯くらいしか光源はない。道ゆく人々も滅多におらず、静寂だけがただそこにあった。上を向いて、左右を見て。その作業を機械的にひたすら繰り返していく。そうしてより暗がりとなっている細道に入り込んでいくと、リヴィンは上へと向けていた顔を正面に戻してある一点を見つめ始めた。

 

「ンッン〜。気づくのが早い、流石だぜ」

「君はコンビを組んで来るって聞いたけれど、誰も近くにいないみたいだね」

「今はいねえなァ~。予言はもらったけどよぉ」

 

 常人ならばそこに人がいたとは思わない暗がりから、カウボーイハットを被った男が姿を現した。──ホル・ホースだ。

 

「……アンタ、俺のこと警戒をしなさすぎじゃあないか? 俺はお仲間を攻撃したし、アンタを挑発しまくった挙句、その体に何十発もの弾丸をぶち込んだんだぜ?」

「それが君の仕事だったんだろう。そして今、君は私のことを探ろうとも殺そうともしていないようだったから。敵にも事情があるというのを私は知ったんだ。だから、まず話は聞いてみようと思ってね」

 

 中々そういう機会はなかったが、一度リヴィンは何故DIOに従うのか聞いてみたかったのだ。ある敵は金の為、ンドゥールは自分の救世主となったDIOに報いる為。大半は前者が占めているようだったが、目の前の人物も同様とは限らない。リヴィンはパチンと両手を叩いて、ホル・ホースへ言葉を続けた。

 

「何故君はDIOに従うんだい? あれはゲロ以下の悪だよ」

「最初は雇われたんだよ。……だが今は、恐怖心で従っている。俺はDIOを殺そうとしたが、無駄に終わった。逆らっちゃいけねえと思い知らされたんだ」

 

 そう言いながらホル・ホースは右手をリヴィンに向かって構えた。リヴィンには何も見えないが、スタンドである銃が握り込まれている。

 

「だからアンタを殺しにきた。シンプルだろぉ?」

「うーん、その割にはやっぱり殺す気がなさすぎないかい? 君のスタンドでは私のことを殺せないだろう。しかし、DIOを殺そうとしたとは分かっているじゃないか!」

 

 ホル・ホースのスタンドは強力だが、撃たれても再生するリヴィンに対しては無力に等しい。その上、今は真夜中であり日の出を待つには時間がありすぎる。世の中には紫外線照射装置なんて恐ろしいものが開発されていたらしいが、そんなものが設置されている気配もない。

 小さく拍手をしながらDIOを殺そうとしたことを褒め称えてくるリヴィンに、ホル・ホースは長い息を吐いてから構えていた手を下げた。眉間の皺を深く寄せながら、苦い顔でホル・ホースは口を開く。

 

「俺はよォ、アンタが男性だと思って殺しにかかっていた。今でもそうであって欲しいと思うくらいにはな。でないと俺はポリシーを破っていたことになる」

「ポリシー?」

「俺は世界一女に優しい男だ。女は大切にしなきゃならねえ。それが俺のポリシーだ。それが俺だ」

 

 女性を大切にしなければならないというのがポリシーというのは、リヴィンには理解し難い話だった。女性だからといってホル・ホースが大事にしても、その女性がホル・ホースにとって優しいとは限らない。ポルナレフみたいなものだろうかと、勝手に納得をした。女性をナンパしないポルナレフは、ポルナレフではない。ならばホル・ホースも女性に優しくすることが、彼を彼たらしめているのだろう。

 

「なァ、教えてくれ。アンタの性別はどっちなんだ? 俺はアンタを殺しに行った時、失ったことを嘆き、復讐に燃える女の苦しみと恨みを感じたんだ。俺は敵であろうが関係なく女には優しくすると決めてる。……俺は、俺に課しているポリシーを破っちまったのか?」

 

 自身の胸をグッと掴み、命を削られたかのような表情でホル・ホースがリヴィンに訴えかけてくる。

 

「……君は、君自身の誇りの為に知りたいんだね」

 

 これがただの興味関心で聞いてきていたのであれば、リヴィンはいつものように不機嫌になって口を開かなかった。だが、ホル・ホースは自分が自分である為に聞いてきている。生きてきた中で、このように性別について問われたことなど一度もなかった。

 ホル・ホースが問いかけてきている『問題』は、一番リヴィンが開示したくない秘密だ。唯一知っていた2人はとうにこの世におらず、誰も知らない。そして、次に知ることになるのは仲間達だろうと思っていた。

 なのに今、何故だか分からないが、リヴィンは己がどうあるかを示してあげなければならないと感じていた。自分でも本当か分からないが、DIOを殺そうとしたよしみなのかもしれない。

 リヴィンは苦しくなってきた呼吸を整える為に手を胸に当て、引き攣る喉を力を込めて抑えながら、口を開いた。

 

「君が君である為に必要ならば、答えよう。……私は、君の懸念している女性でも、男性でもない。生まれた時から性別がはっきりとしていない。これが答えだよ」

 

 言ってしまった。ホル・ホースの反応を見るのが怖くて、リヴィンはしゃがみ込んで頭を抱え始める。

 

 闇の種族というものは、絶対数がそもそも少なかった。人間には途方もない年数で生きる上に、太陽に晒されなければ死なない。故に子を残して世代を重ねるのも大層遅く、必然的に数が少ないのだ。そう、そのせいもありリヴィンは『異端』になった。

 自然界において、生まれた時から大きく外れたモノを持っていると淘汰されやすい。それは生き物として種を残すという本能を、実行できない確率が高いからだ。闇の種族においても同じで、異質なリヴィンは本人の気質も相まって格好な『いじめ』の対象となった。男女どちらかの性別として必ず備わっている器官がないという症例は、闇の種族に存在していない。例え高い知能があったとしても、前例がなければ受け入れられ難いもの。元から角の大きさや単純な強さなどもあって、ヒエラルキーの最下層となったリヴィンは苦しみ心が壊れ、種族外へと出ることで解決を求めた。といっても種族とは離れた場所にある別の地下に引きこもっていただけだったが。

 結果、ジョナサンに外へと導かれ、人間にも同様の症例がいくつか報告されているのを、医者の娘として知っていたエリナに救われたのだ。自分だけではない、起こりうることなのだと初めて知った時に、ジョナサンとエリナはリヴィンにとっての永遠に『大切な人』となった。

 

 リヴィンがしゃがみ込んでから数十秒経った後、ホル・ホースは一度唾を飲み込んでから言葉を出した。

 

「……その、アンタみたいなヤツらは全員性別がないのか?」

「ああ、……そこからか。人間と同じで性別はあったよ。私だけがおかしかったんだ」

「なら、俺はポリシー違反していたのか? 違うのか?」

「……ん? 私に聞くのかい……?」

 

 流石のリヴィンも風向きが変わったなと気がつき顔を上げると、ホル・ホースは口をひん曲げて険しい表情をしていた。明らかに判断に困っている顔だ。その判断をこちらに委ねられても困ると、リヴィンは立ちながら自信なさげな声を出した。

 

「それは……分からない。君次第だと思うけれど」

「アンタとしてはどっちのつもりでいるんだ?」

「私は『私』だと思っているよ」

 

 自分がどちらの性別であるか。散々悩んだ問題であるが、開き直って自分は自分であるという結論に至っていた。性的嗜好で判断するという手もあったが、どちらに対しても何も思うことがなかったのだ。そういったことを考える余裕もなかったと言われればそうではあるが、ないものはないのだから致し方ない。

 リヴィンの宣言に、ホル・ホースは手のひらで帽子の位置を直しながら眉を上げながらニヤリと笑った。

 

「分かった、アンタが決めることがあったら教えてくれ。それまで保留だ。女性だって決めたら誠心誠意謝らせてくれ」

「はあ……」

 

 そもそもの話として性別を決めるかどうかは分からないが、それでホル・ホースがひとまずの納得をしたのなら良いかとリヴィンは思った。変に深掘りをしてもっと変な事態になるよりずっといい。

 

「それで、君はどうするんだい」

「アンタらとはもう戦うつもりはないから、このまま逃げさせてほしいねェ。だが、それじゃアンタは納得いかねえだろ? だからヒントだけやるってのはどうだい。それ以上は勘弁してほしいぜ、間違いなく俺が死ぬ」

 

 情報を漏らしすぎたら命が危ないが、ヒントくらいならば問題ないということらしい。リヴィンとしても勝手にホテルから出てきて探索をしているし、DIOに反抗した者が死ぬのは惜しいと、そのくらいで手を打つのが妥当かもしれないと頷いた。

 

「ありがとよ。……ヤツのいる場所はここから東の方だ。鳥に気をつけろ。それに、ヤツの体は完全に馴染みつつある。早めにな」

 

 居場所よりも、後半の言葉がリヴィンに殴られたかのような衝撃を与えた。

 固まるリヴィンをよそに、ホル・ホースは軽く手で挨拶してゆっくりと立ち去っていく。

 

 ──馴染みつつある。大切なジョナサンの体が、DIOのものになっていってしまっている。許せない、許さない。早く始末しなければ。ジョナサンの体はジョナサンのものだ、DIOなんかのものではない。絶対に殺す。絶対に殺す。絶対に殺す。絶対に殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。

 

 そうして、リヴィンは足早に東の方へと歩き始めた。

 

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