人間を謳歌せよ   作:雲間

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二十三話

 

 リヴィンの意気込みに反して、DIOのいる屋敷を夜明けまでに見つけることはできなかった。本当はそのまま探索したい気持ちを抑え、皆が起きる前に寝床に忍び込み、何事もなかったかのように振る舞う。そうして迎えた朝、昨日と同じように全員で街へと聞き込みに回っていく。さりげなくホル・ホースから示された方角に行くように、リヴィンは先に歩くようにした。実際そうではあるのだが、リヴィンの殺意溢れる気迫が気を焦らせていると思われているようだ。

 

 ★

 

 しかしイギーは退屈していた。別に着いていく義理もなく、リヴィンが怖いのと一定のコーヒーガム供給が約束されているから仕方なくいるだけで、何もDIOと戦おうなんて思ってもいない。特にポルナレフを揶揄ってやるのは面白いとは思っているが、それで戦うのに付き合ってやろうとまではいかないのだ。熱心に聞き込みをしている一行を置いて、イギーは気ままな散歩に出かけた。

 

 ──その判断は、間違いだったのかもしれない。

 

「やぁイギー。どこへ行くんだい? 探したよ。ついでに私に付き合ってくれると嬉しいよ」

 

 アイツらから随分離れたと思ったはずなのに、いつのまにか後ろには高次元の存在が佇んでいた。しかも、やけに弾んだ声でイギーに声をかけてきている。

 最悪だ、この世で一番の災厄だ。

 「クゥン」と自分でも情けないと思う声を出して、すごすごと大人しくリヴィンの側に寄っていく。別に逆らったからといってリヴィンがおしおきなどをしないのは、何日も過ごして理解はしている。だからといって、本能が逆らうことを許してくれない。

 

「ありがとうイギー。私はとても嬉しいよ。ふふっ」

 

 いつもよりどうした事か滅茶苦茶テンションの高いリヴィンに体が震え上がっていく。コイツやばい。分かっているのに逃げられない。畜生と思いながらも、リヴィンに歩調を合わせて歩き始める。ちらりとリヴィンを見ると、本人が気づいているか分からないが、片足には花京院のハイエロファントの触脚が巻きついていた。必ずリヴィンは誰かしらといるのが絶対だったのに、誰もいなかったのはリヴィンが勝手に1人で集団から離れたとみえる。後々回収しにくるだろうが、なんでコイツを放し飼いにしやがったと、イギーは内心ボロクソに文句を言いまくった。

 リヴィンに連れられて行く先は、目的地こそないものの歩く方向だけは決めているらしい。あちらこちらに首を向けながら建物を探して足を進めるリヴィンは、とてつもなく楽しげな雰囲気で恐ろしすぎた。

 はやく俺を解放してくれ。切実にそう思っていたイギーに訪れた一筋の音があった。

 

「キョォォーーン!」

 

 鳥の警戒する鳴き声が耳に届く。瞬時にリヴィンの足が止まり、イギーもそれに倣う形で体を止める。リヴィンの顔は少し先にある大きな鉄製の門がある屋敷へと向いていて、先程の愉快でたまらないオーラは微塵もなくなり、そこに存在しているのは圧倒的な殺意だけとなっていた。本能も理性も危険を伝えてくるが、どうにもしようがない。

 

「ふふふっ」

 

 その微笑みは、ニューヨークの底冷えする冬にいるかと思うほどの寒さだった。そこしか道がないと言わんばかりに、リヴィンは最短距離を堂々と真っ直ぐ歩む。門の前に辿り着くと、一度足を踏み締めてから飛び上がって乗り越えてしまった。

 ついていかなくてもいいんじゃあないか。そんな言葉が浮かんできたが、実行に移せるほど強く意思を保てなかった。本能がついていけと命令してきている。門の下に隙間が存在していたので、イギーはそこから小さな体を捻り込ませて中へと侵入して行く。

 

 入り込んだ先にあったのは、頭に兜を被りスカーフを首に身につけたハヤブサが車止めのピラーのようなものに脚を置き、その先にある屋敷へ首を向けているリヴィンの姿だ。若干怖気付いているものの、ここを通らせるものかとハヤブサが警告の鳴き声をあげているが、リヴィンはそこらの鳥が鳴いている扱いでハヤブサを全く意識せずに玄関へと脚を進めて行く。

 

「……キョォォーーン!」

 

 止まらないリヴィンに痺れを切らしたハヤブサは、高く飛び上がって大きな氷の塊を生成し、リヴィンに向かって発射してきたのである。──イギーと同じ、動物のスタンド使いだ。

 リヴィンは向かってきた氷の岩を、腰から気合いの入った拳で殴りかかっていく。渾身の力の入った拳が氷に当たった瞬間、氷はバキンと大きな音をたてて粉砕され、ガラガラ崩れ落ちていった。 

 

「貴様はDIOの為に意地でも通さない『覚悟』があるのか?」

 

 ようやくハヤブサへと首を向けたリヴィンだったが、一切合切の容赦というものを捨てている。これがいつも通りのリヴィンなら、まだ対応はゆるやかなものだっただろう。

 棘しかないリヴィンの言葉を理解しているか分からないが、恐怖をその瞳に映しながらもハヤブサはキョアキョア鳴き叫び、鋭い切先をもつ氷柱を並び立ててリヴィンに抗い始めた。

 

「ならば証明してみせろ。私と貴様の『覚悟』、どちらが上かということを!」

「グガガガッ!」

 

 声を合図に複数の氷柱がリヴィンを突き刺そうと空気を切り裂いて飛んでくる。足止めのためだろう、イギーが今まで感じていた寒さではない本物の冷気が地面を伝って、リヴィンの足元を凍らせていき、ついでに結ばれていたハイエロファントの触脚が切れていた。常人ならばそれで足止めできていたが、ここにいるのはリヴィンだ。氷を塵扱いし、いとも簡単に抜け出して氷柱をぶん殴り粉々にした。

 

「グギッ!」

 

 コイツを相手にしても意味がないと悟ったのか、ハヤブサは近くにいたイギーへ目を移し、再び生成した氷柱を発射してくるではないか。思わぬ飛び火に急いでスタンドで砂を操ろうにも間に合わない。ダメージを食らうのは確定だと、蹲って耐えようとした。

 

「貴様の相手は私だろう」

 

 勢いよく氷柱を蹴り飛ばして破壊したリヴィンが、イギーを抱え込んでハヤブサと対峙をする。よくよく見てみると足元にも氷が伸びており、それでイギーを拘束する気が満々だったのが分かった。ハヤブサはリヴィンがどうやっても届かない上空へと高く飛び上がり、先程よりもとてつもなく大きな氷を生成し始める。

 

「ああ、付き合わせてしまってすまないイギー。君は逃げていい。ここで全てが終わるんだ。私は、目的を果たせる。君は付き合う義理もなくなる」

 

 足元にも纏わりついている氷を振り払い、目の前の氷を見つめ、イギーをひと撫でしてからリヴィンはそう言い捨てる。そして「いくよ」と言ってからイギーを門外へと投げ込んだではないか。

 一声あったとはいえ、突然の放り投げに驚愕したイギーは、わたわたと足を動かしながらもなんとか地面へ着地をする。鳥が追ってこない限り、これでイギーは自由になれたと言ってもいいだろう。

 

 言われた通り、ここでコイツを放って逃げてもいい。ご丁寧に許可が出たんだからさっさと行っちまおう。

 

 そう思っているのに、屋敷から離れる方向に足が動かない。

 本能でも理性でもなく、心が、拒否をしている。

 

 腹が立っているのだ。勝手に付き合わされて、危機に晒されて、挙げ句の果てには巻き込んだ末に守られて。リヴィンはリヴィンで身勝手に色々行動し、今もメンバーから許可も取らずにイギーに逃げてもいいとか言っている。我儘にも程がある。

 

 なら、こっちだって自分勝手に動いてもいいはずだ。

 

 スタンドを発動させ、イギーはあることをしようと動き出した。

 

 一方塀の中では、氷山かと思うほどの大きさをした氷がリヴィンへ落ちていく。さっきと同じようにパンチで破壊するには少々骨が折れるであろう物量だ。壊す間に攻撃されたら対応し切れないのが目に見えている。リヴィンはそれでも真正面から打ち砕く気らしい。

 

「貴様の『覚悟』を折ってやる」

「グガガガガガガッ!」

 

 リヴィンの重い拳を何度も受けて氷にヒビが入っていき、割れていく重低音が辺りに響き渡る。その間にハヤブサは氷柱を作り出し、後ろからリヴィンを串刺しにしてやろうとした。

 

「違うよ、こっちだよ」

 

 その声にハヤブサが振り返ると、何故か黒衣を靡かせたリヴィンが近くにいて拳を振り上げているではないか。慌てて氷柱をそちらへと差し向けて貫かせるが、その体はサラサラと崩れ落ちて行く。──砂だ。

 

「アギッ!!」

 

 砂でカモフラージュをしながら移動をしていたイギーは、できるだけ高い建物に登っていき、そこからリヴィンの偽物を作り出してハヤブサへと奇襲を仕掛けたのだ。

 そうして、気を取られたのがハヤブサの命取りとなる。リヴィンは砕ききった氷の塊を掴み、ハヤブサ目掛けて正確に投げぶち当てた。思わぬ衝撃とダメージにハヤブサは垂直落下し、地面に体と血をぶちまけていく。僅かながらに息はあるのか、時折ピクピクと体を震わせていた。ここで「ホルス」の暗示を持つ「ペット・ショップ」は、もう再起は不可能となったのだった。

 地に堕ちたハヤブサを見つめながら、リヴィンがハヤブサへと一歩一歩近づいて行く。同様にイギーも建物から降りていってリヴィンの側へと向かっていった。

 

「……イギー。これは私と君が仲良くなれたってことでいいのかい?」

 

 首を傾げながらイギーを見やるリヴィンに、イギーはソッポを向いた。

 別に仲良くしようだなんて思っていないし、1人で突っ走って行くのがムカついただけだ。

 だが不思議と、もう本能でリヴィンのことを恐れることはなくなっていた。

 リヴィンは肩を軽く上下させた後、屋敷の扉へと歩いて行く。その横でイギーはふんぞり返りながら歩いていった。

 

「……一緒にくるのかい? これ以上は危険だよ」

「アギーッ!!」

 

 うるせえこの野郎。おまえを1人にするほうがよっぽど危険だぜ。

 

 リヴィンの布に覆われている足へ噛み付くと、そのリヴィンは頭をわしゃわしゃとしてから息をついた。

 

「君がここにくることになったのはDIOのせいでもあるし……そういうことかい?」

 

 合っちゃいるけどちげえぞこのバカ。

 

 吠えても吠えてもイギーの真意は伝わらないが、勝手に納得をしたリヴィンはイギーを退けることなく、館の扉を開ける動作すらせず拳で破壊。バラバラになった扉を乗り越えて、中へと進んでいくのであった。

 

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