人間を謳歌せよ   作:雲間

24 / 49
誤字脱字修正報告本当にありがとうございます。ものすごく助かります…!


二十四話

 

「おかしいとは思わないかい、イギー」

 

 イギーをその腕に乗せながら、リヴィンが唸り声を上げた。今いるのはDIOの館内であるが、リヴィンはとてつもなく途方に暮れている。進んでも進んでも、『先があり続ける』のだ。

 

「人間の創作物では吸血鬼は地下にいて、棺桶に眠っているらしい。地下にいる、というのは認めたくはないが、根本的な祖ではある『闇の種族』の太陽で消滅するというものに則ってそうしているのかな。それとも単純に陽が登ると死ぬから? 棺桶は死者が蘇る前にいる場所として「最初の場所」であるから付随しているのだろうか。理解はできないが、かつてジョナサンが戦いを繰り広げた吸血鬼やディオはそういった作法? を大事にしていたみたいだから今回もそうなんだろうと私は踏んだんだよ。……だが、辿り着かせない為とはいえなんなんだいこの広さは。このままだとタハリール広場*1ほどの大きさになってしまうんじゃないだろうか。ああ、知っているかい、イギー。人間の社会というものには法律というルールがあってね。家を建てるには基準というものが存在するんだ。それぞれの家には水道と下水道というものを備え付けてあって、全てを地下で纏めて管理をしている。つまりだね、勝手に広げてはいけない地下を広げたりすると必ずどこかしらの住宅のモノにぶち当たるというわけだ。とはいってもここはDIOの館だろう? そんなの無視して増築してても不思議ではないんだけど、それにしてはあまりにも『広すぎる』んだよね。どう思う、イギー?」

 

 イギーとしてはペチャクチャつらつらとそんなこと聞かされても、知ったこっちゃない話である。長々意味不明なことを聞かされたのと、延々と続いている通路と部屋に飽き飽きしてあくびをかいた。つれないイギーに文句をいうでもなく、リヴィンは足早に歩きながらこんこんと考え続けた。

 

「何か法則性があるわけでもなさそうなのか不思議だ。何度も同じ場所はあったけれど、それも意図しての配置には思えない。いや、実は私が知らないだけで法則性が……、……やめよう。変に勘繰ろうとするとドツボにハマると言うんだろう? しかし、かつて住処としていた一族の場所はこれ以上に広かったから、そういうこともあるだろうって私は思っていたんだ。だが、まあ、何が言いたいかというと、これはスタンド攻撃というものなのかな……?」

 

 今更気がつくのかよ。

 

 アフッと呟かれたそんなイギーのツッコミは、悲しいことにリヴィンへは届かなかった。

 

 入り口こそ破壊して侵入したが、その後地下に降りてから続いた廊下や部屋には扉という扉はなく、地続きの箇所を通るだけだった。埒が明かない。腕を組み数秒迷ってから、リヴィンは動き出した。

 

「見知らぬご近所の住民よ、許してくれ! 恨むならばこのような場所に館を構えたDIOを恨んでくれ! 私は私が壊した地下水道を直すと誓おう!」

 

 堂々とした意味不明な宣言をしてから、リヴィンは足を勢いよく引き下げてから近くの壁を蹴り飛ばした──はずだった。

 想定通りならばどでかい穴が開くはずの壁は、なんの変哲もない壁として存在し続けている。蹴ったはずの足は、壁に引っかかっているだけだ。

 

「これは……スタンドにはスタンドでしか攻撃できないというやつかな。本体ならば攻撃が効くし、本体を探すしかないのか……」

 

 意気揚々としていた肩を落とし、しょげた雰囲気で再び歩き始める。スタンドがないせいでこうも長時間遠回りさせられているのだ。最初にあった怒りの勢いは、少々萎んでしまっている。

 

「スタンドが強力であればあるほど近くに本体はいるという法則があるのなら、そう遠くにはいないのかもしれない。一緒に探してくれないかい、イギー」

 

 リヴィン自身、人間より鼻はいい方であるが犬のように特化している訳ではない上に、スタンドを見ることができない。今、頼れるのはイギーだけだ。

 人間だったら盛大なため息をついたであろうイギーは、胡乱な目でリヴィンを見つめた後、リヴィンの腕を蹴って地面に降り立つと小さな手足を使って歩いていく。その後ろをしょげたリヴィンが追いかけていった。

 

 ──スタンド。幾分か不便はあったが、そこまで必要と感じていなかった。無論あった方がいいのはそうなのだが、本体さえ攻撃してしまえば大抵なんとかできる。それに、欲しいと思って手に入るモノでない。

 

 意味のないことを考えてしまったな、と思いながらひたすらついていると、イギーは一階への階段を登っていく。上にいくのか? とリヴィンは首を傾げていたが、上がってすぐにその理由がリヴィンにも分かったのだ。

 イギーが砂を巻き起こし、『とある場所』へと鋭くした砂の塊を切りつけていく。そこは妙な気配と匂いがしていた場所で、地下では分からないのも道理であった。そうして切り刻まれた場所から男と血と叫び声が同時に現れたのである。目に映っていた景色も消えて違うものになったのだから、この男がスタンド使いと見て問題なさそうだった。周りを観察してみるに、今まで見せられていたのが幻覚で、今見えているのが本物なのだろう。

 

「こうなるとスタンドなしは中々に不便だね」

 

 どう思う、イギー。続けようとした言葉は発せられることなく、くぐもった声になった。

 

「ぐっ……、……随分なご挨拶だね?」

 

 リヴィンは空気が動いた気配を感じて咄嗟に前へと転がったものの、後ろから背骨まで削られ、血も肉も露わになっていた。少し驚いたがリヴィンは瞬く間もなく肉体を回復させ、布が破けただけの状態に戻していく。叫ぶイギーをもっと奥へと追いやりながら振り返ると、そこにあったのは。

 

「生首が浮いてる!? ……ああ、スタンドか」

 

 おめーの方がよっぽど生首だったぜ!? というイギーの言葉はリヴィンに伝わるはずもなく。イギーには見えているが、隆々とした悪魔の如きスタンドの口から、ハートのヘッドリングをした長髪の男が顔を出しているのだ。

 男はその瞳を焔が揺らめくように赫々とさせながら、リヴィンを睨み殺そうとしている。

 

「貴様か。DIO様を差し置き存在している、闇の種族などというふざけた者は。このヴァニラ・アイスが貴様の全てを暗黒空間に呑み込んで始末してやる」

「……様? 私からしたら貴様らが巫山戯ている存在なのだがな。『餌でしかない下位存在のくせに』」

 

 リヴィンが激烈に煽りまくっている。後半が棒読みに聞こえるのは煽り文句を今考えてみて口に出しただけなのか、用意をしていたのか。リヴィンは追い討ちをかけるように、嘲笑う口調で声を続けていく。

 

「『血を吸う能だけの餌が勝てる訳なかろう』」

「貴様ァッ!! DIO様を貶すかッ!!」

「それは認めているってことかい? ふふふ、なんともまあ脆弱な生き物だなあ」

 

 本心から言っている言葉の方がよっぽど煽っているように思える。煽り散らかすリヴィンの意図が全く読めず、イギーは体をぶるりと震わせた。

 

「DIOの信奉者なのに、まだ吸血鬼にもゾンビにもなってないのか。信頼、されてないんだね」

「DIO様の考えがあってのことだッ!!! 貴様にどうこう言われる筋合いはないいいッ!!」

 

 血管が見えていたらブチブチ切れていく様が分かっただろう。それくらいヴァニラ・アイスは激怒し、思考を怒りに染め上げさせていった。

 リヴィンはヴァニラ・アイスが冷静になって動き出す前に、煽りながらイギーへ寄っており、少ししゃがんでイギーに口を寄せてこう呟いた。

 

「イギー。凶悪な攻撃をするこいつが今まで我々を襲うでなくDIOの側にいたということは、一番信頼されていたからだろう。つまり、こいつを始末してしまえばDIOの腹心はいないに近いはずだ。だから君はジョセフ達のところへ行ってこの館を案内してやってくれ。……私は、みんなに被害が及ぶ前にこいつを  から合流する」

 

 最後の言葉はしっかりとした発音でないせいで、なんと言っているか分からなかった。

 

 実は一階に行った時点でジョセフ達の臭いがあったのだ。リヴィンについていたハイエロファントの触脚が切れたことで、何かがあったと追ってきたのだろう。とはいえイギーがどうこうできる隙も何もなく、ここまできてしまった。だから、ジョセフ達へ行くことはできる。謎にリヴィンが挑発しまくったおかげでイギーには見向きもしていない。リヴィンはスタンドも見えていないし、本当は好き勝手暴れてやりたいところだが、それをさせない『何か』がこの2人の間にはあった。

 

 死ぬんじゃねーぞ。

 

 一つ吠えてから、イギーは身を翻して臭いのする方向へと走っていった。

 

 ★

 

 

 イギーが立ち去る一歩と同時に2人は動き出す。

 

 ガオン!

 

 リヴィンは黒衣だけをぐるりと前後ろを逆にして陽の光を遮るようにし、その身を翻して空気が動いている箇所からおおよそ次に来るであろう位置を予測してヴァニラ・アイスの攻撃を躱していく。それでも避け切れず、肘先やら腿を一度失ったりしている。今はまだ布を回すだけでなんとかなっているが、これ以上布を失うことは避けたい。

 「暗黒空間」と言っていた。ヴァニラ・アイスが連続して移動した先をその暗黒空間に飲み込み、そこにあるもの全て──それこそ空気さえも消滅させているのだろう。だから空気の流れがおかしくなっている。そして、ヴァニラ・アイスは暗黒空間の中で『外側』を見ることができない。一度フェイントをかけて移動したところ、顔を覗かせてリヴィンを確認した。そこがチャンスだ。

 

「ふふ、何故だろうね。認めたくないけれど、貴様と私は同じだって思ったんだ」

「何が同じだというのだ、貴様はDIO様のことを何も分かっていないッ! DIO様こそ支配者なのだ!!」

「……貴様とてジョナサンのことを何も知らないだろう、アイツがどれだけのモノを奪ったのか知らないだろう! あの人がどれだけの光だったか知らないくせに!!」

 

 悪には悪の救世主が必要だった。かつて言われた言葉はリヴィンの頭から離れることなく存在している。

 確かにそうだった。リヴィンはあの時ジョナサンに、エリナに救われなければ一生を土の中で過ごしていた。DIOに救われた側も、DIOに救われなければ一生を燻らせて光のないまま終わっていたのかもしれない。

 これはただの意地のぶつかり合いだ。DIOを崇める狂信者と、ジョナサンとエリナを崇める狂信者の戦いで、どちらかに正義などありはしない。

どちらの正義が勝つかは、どちらかが死ぬまで続く。

 

 ガオン! ガオン!

 

 ヴァニラ・アイスはリヴィンを壁へと追い立てるが、当人はいとも簡単に壁を破壊して逃げ場を作っていた。

 リヴィンは建物の外に出るが、あくまで塀の中からは出ないよう立ち回ろうとしていた。幻惑のせいで迷っていたこともあり、日が傾いて夜に近くなってしまっている。そうなるとDIOが何処かへいく可能性があり、下手にこの館から出ない方がいい。そう思っているのだが、そんなリヴィンの思惑を通すほど敵は甘くなかった。

 中の方へと戻ろうとするリヴィンの足を塞ぐように、ズガガガガガッと大きく円を描くようにヴァニラ・アイスが小刻みに空間を削り取って迫ってくる。リヴィンは奥歯を噛み締めながら塀を飛び越え、少しでも他に被害が及ばぬようにと隣の建築物の屋根上へと行って逃げていく。

 とはいえ、イギーにジョセフ達を案内するように言ったのだ。そのあたりをカバーしてくれると信じて、そのまま離されるのに乗ってやることにした。

 

「まだ私を捉えられないのか、随分と弱い部下でDIOのたかが知れるな」

「いい加減にしろ貴様ァあああああああ!!」

 

 血管がもう一本ほど切れたのか、ヴァニラ・アイスの速度が上がった。少しやりすぎたかと思わなくもなかったが、リヴィンから逸れるよりもずっと良い。ヴァニラ・アイスからの攻撃を少し腰を捻ることで紙一重の回避をする。そのままの勢いで回転していき、次の建物へ飛び移っていった。道中のベランダにあった、飾りらしき白と灰の斑ら模様した布と紐を拝借して頭に巻き付ける。建物が削れるのも布を拝借するのも緊急事態なので許して欲しいと思いながら、盛大な蹴り跡を建物につけて退避をしていく。

 

 死の追いかけっこの距離が伸びれば伸びるほど、空はオレンジから紫じみた色へと変化をしていった。自分の時間でもあるが、DIOが自由に動き回れる時間でもある。中々タイミングが掴めずにひたすら避けていたが、そろそろ決めなければならない。チャンスは一瞬。これがダメだったら次の手を考えるか、自分が消滅していることだろう。

 

 ガオン!

 

「あぐッ!!」

 

 左脚が持っていかれた。体は重心を保てず左側へと傾いていき、2階から地面へと落ちていってしまう。残りの手足を駆使して、まだある太陽の光とヴァニラ・アイスから逃れようと、角にあった住居の影に隠れて少しだけヴァニラ・アイスを撒く。そして欠けた部分を再生させてから頭に巻いた布を掴み、覚悟を決めた。

 

 準備をしてから再びリヴィンは走り出す。体の回転を多用しながら建物へ登っていき、見通しのいい高い屋上へと向かっていく。

 

 ガオン! ガオン!

 

 ヴァニラ・アイスが向かってくるのを感じる。今度こそ確実に仕留めようと、リヴィンに狙いを確実に定めている。

 ──もうこれ以上行き場がない、もうダメだ。

 そうヴァニラ・アイスには見えていたのではないだろうか。先を失って左右に体を震わせるリヴィンの、新しく布を被せたその頭と上半身をヴァニラ・アイスのスタンドが「ガオン!」と貫いていった。

 

 リヴィンの下半身がぐしゃり、と倒れる。それはピクリとも動くことはない。

 ヴァニラ・アイスはスタンドから身を乗り出し、物言わぬ死体となったリヴィンを見ながら、せせら笑った。

 

「DIO様、このヴァニラ・アイスめが始末してやりました! 貴方様の勝ちにございます!」

「負けだよ」

 

 ベキ、ぐしゃり。

 

 ヴァニラ・アイスの顔が手のひらで掴まれ、骨を折られて歪んでいく。指の隙間から僅かに見える光景は、リヴィンがこちらを捉えている事実だった。

 スタンドで呑み込んでやろうにも、動かす為の精神エネルギーが使おうとするそばから抜けていく。──吸い取られているのだ。

 

「な、……何故、き、貴様は、」

「都合よく引っかかってくれてありがとう。……君のことは『糧』にさせてもらうよ」

 

 だから、さようなら。

 

 リヴィンの指先がヴァニラ・アイスの顔へ融合するように埋め込まれていく。手はゆっくりとめり込んでいき、手首まで埋まると、そこからヴァニラ・アイスの『全て』が吸い取られていった。

 

「……はぁ」

 

 1人分のエネルギーを吸い取って回復をしたリヴィンは、消滅させられた『下半身』を再生させていく。

 一度潜んだ時に、『布の上下を入れ替えて』動くようにしたのだ。リヴィンにとって逆立ち状態で動くのは容易い。途中でかっぱらった布も、頭部はここであるという印象付の為。闇の種族や吸血鬼のことを知っているならば、太陽の光か頭部が弱点であることを分かっているはずだ。故にあえて狙わせて、リヴィンが死んだと思わせた。

 

 もう陽が落ちているのと、隠す布が無さすぎるので頭の布を完全に取っ払って、ある程度服として体をなすように残った布を体へ巻きつけてから、きちんと立ち上がる。角は見えているが小さいし、これぐらいならばそうそう気が付かれず騒ぎにならないはずだ。姿を見られたくないのは山々だが、今優先すべきはそこではない。

 ふとリヴィンは、ヴァニラ・アイスに触れていた手のひらを眺めた。

 

「気分が悪い」

 

 リヴィンが人の命を奪ったのは、初めてだった。

 

*1
※エジプトの広場。すごく大雑把にいうと、東京ドームより少しだけ小さいくらい。一応1988年に東京ドーム建築になるので存在しているが、リヴィンはよくある東京ドームの例えを知りません。




※この話のヴァニラ・アイスは首チョンパ前の為、人間のままです。
※犬に伝言はできません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。