人間を謳歌せよ   作:雲間

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二十五話

 

 「リヴィン」という人生は、ジョナサンに会った時から始まった。だからジョナサンとエリナの為だけに生きるのだと、それがリヴィンというモノなのだと考えている。

 

 ⭐︎

 

 脚を限界まで前へと伸ばし、できるだけ建物の上や路地裏を通りながら、地面を思いっきり踏み締めて駆ける。いくべき場所はDIOの館。思ったよりも距離を離してしまっていた事実に、ただでさえ険しい表情がもっと深くなった。

 もう陽はなく、何処へでも行こうと思えば行けてしまう。イギーに待っていてほしいと伝言はしたが、もしかしたらDIOの方から仕掛けられているかもしれない。あれだけ暴れ回ったのだ、何もないということはないだろう。どうか間に合ってくれお願いながら、リヴィンはひたすらに進むことだけを考える。

 

「アギーッ!!」

 

 どこかで大きく吠え立てるイギーの声が、僅かながらにリヴィンの耳に届いた。こちらを呼んでいるのだと思って、リヴィンは足首を捻り声のした方向へ走り出す。数十秒でイギーのいる細い路地へと辿り着くと、そこにはイギーとアヴドゥルが何かを探しながら走っている姿が目に入った。

 

「アヴドゥル、イギー! 今どうなっているんだい。待っていてほしいとイギーに伝えたんだけれど……」

「お前リヴィンかッ!? しかしその姿は……いや、そもそもイギーに伝えられてもだな。……違う違う、簡単に状況を説明をしよう」

 

 どうしてかリヴィンを見てアヴドゥルは混乱していたようだが、すぐに理性を取り戻してリヴィンに説明をし始めた。

 

 そもそもの話はリヴィンが離脱した時から始まる。リヴィンがイギーがいなくなっているからと探す名目で離れていった時、とっさに花京院がハイエロファントの触脚をリード代わりにつけていた。確かにイギーをそのまま放置するのはと、リヴィンの離脱を黙認し、少ししたら回収をしようと思っていたところ、その触脚が切られたと花京院から申告があったのだ。リヴィンはスタンドに干渉することができない。イギーもわざわざ触脚を切るような面倒事をしない。ならば敵に襲われたのだろうと全員で触脚が切られた場所へと向かったのである。

 そうしてDIOの館に辿り着き、氷と砂だらけの庭と息も僅かな鳥、蹴破られた扉を確認し、リヴィンとイギーが先に入ってしまったのを察した。何故先に入ってしまったのだと思ったが、リヴィンのDIOへの殺意を考えたらそうなってしまうだろうとは納得したらしい。そのまま全員で入ったはいいが、以前対決したスタンド使いダービーの弟、テレンスとの対決になったという。そいつを無事に倒すことができたが、対決していた地下部屋から出て上がると、一階が凄まじくボロボロになっていた。なおこれについては、リヴィンがヴァニラ・アイスと戦っていた時のものだ。こちらを探していたらしいイギーと合流し、リヴィンとDIOを探しに2階へ行った。

 途中敵の吸血鬼に出会い、ボコしてDIOの元へ案内させたのだが、DIOの未知数なスタンド能力に圧倒され一時撤退。日も暮れてしまい引くに引けなくなった一行は、ジョセフと花京院が逃げながら、承太郎とポルナレフが一度隠れて追いかける形をとり、イギーを頼りにアヴドゥルがリヴィンを探すということになって、ここにいるのだという。太陽で殺すという手段が取れなくなった以上、リヴィンの吸収する対応があった方が断然良い。

 

「もう既にDIOは動き出し、ジョースターさん達を追いかけに行っている。我々も早く追いかけて加勢をしなければならない」

「……どっちに行ったんだ!?」

「西の方へ向かうと……お、おいリヴィン!」

 

 西という言葉を聞いてすぐに、アヴドゥル達を置いて、リヴィンは壁の上を登って高いところから道を見下ろしつつ走っていく。気持ちばかりが焦ってたまらない。どこか現実味のない感じが付き纏ってきてもいる。

 

 これが、これで、本当に。終わりが。

 

 少し遠い前方でざわざわと騒ぎが起こっているのが見えた。どうやら事故を車が起こして建物に激突をしたらしい。騒ぎの元に何かあるかもしれないと、注視をしたその先。

 そこにいたのは、黄色い衣服を着用した金髪の男。

 ジョナサン・ジョースターの命を、体を奪った男。

 エリナの幸せを奪った男。

 リヴィンがこの世で最も消滅させたい男、DIOがいた。

 

 ──返して。

 

 DIOのスタンドの対処方法など、どうすればいいのか考えなくてはならないのに、リヴィンの思考はそれ一色に染まっていく。

 

 ──返せ!!

 

 DIOは事故った車を覗いた後、上を確認していた。見ていた方向にはジョセフと花京院がおり、正しく逃げていた最中だったのだろう。2人を追ってDIOも飛越していく。

 ああ、早く、もっと早くいかなければ!

 血が滲むほど力を込めて地を蹴り、同じ場所を目指していく。そうして移動をし、少しの距離に縮めたリヴィンの瞳に映ったもの。

 

「かきょ……」

 

 それは、花京院が瞬く間もなく吹っ飛ばされて給水タンクにぶち当たり、水と血を散らしながら腹に向こう側が見えるほどの空洞をぶちあけた姿だった。

 

「え……?」

「花京院ッ!」

 

 ジョセフの悲痛な叫び声が聞こえる。DIOがジョセフに向けて「次はお前だ」と声をかけているのが耳に響く。

 

 DIO。DIOを殺さなくては、追いかけなくては。ジョセフを守らなければ。今ならまだDIOに気付かれていないからチャンスだ。そう気持ちがせって仕方がないのに、足はDIOの方へと動かない。

 花京院が給水タンクで磔にされている。腹には大きな穴が空いて、もう助からない状態なのは明白だ。行くべきはDIOの方だ。爪先を向けて、一歩を踏み出せばいい。そうするだけだ。

 

 なのに、なのに。

 

 体が震える。目が限界まで開いていく。リヴィンの頭の中で、かつて言われた言葉が星のように駆け巡る。

 

『そーなのよねん! アイツら人の手を自分のものにしちゃったんだぜー? おまえもできたりするの?』

 

 ジョセフの言葉。

 

『逆に考えるんだよ、リヴィン。僕達にここで出会えて幸せだったんだって』

 

 ジョナサンからの言葉。

 

『リヴィン。貴方は貴方の人生を生きなさい』

 

 エリナからの言葉。

 

 どうして今、そんなことを思い出したのか。わからなかった。分からなかったが、きっとこれこそ、神の思し召しというものなのではないか。ジョセフからの、ジョナサンからの、エリナからのお告げなのではないか。

 

「ああああああああああああああーーッ!!」

 

 ──どうにでもなれ、どうにかなれ、やらなきゃ、やらなければ、でもやるべきなのは、今やるべきことは、わからない、わからない、でも、でも。

 

 リヴィンは今、本能の命じるがままに走った。飛んだ。

 

 

 花京院の、空いてしまった穴に向かって。

 

 

 やり方なんて知らない。分からない。それでもやるしかない。

 

 ──死なないで。これ以上僕の前から消えないで。……いなくならないでくれ!

 

 穴から入り込んで支配をする。この体は『自分』のものであると塗り替える。なくした部分は自分で埋める。支配をする。あらゆる箇所を繋いでいく。細胞を動かす。血液を動かす。支配をする。同じだと認識をさせる。支配をする。元からあったものだと思わせる。支配をする。支配をする。支配をする。

 

 ──そうして、……どうする?

 

 どうすればいい。分からない。分からない。返さなければ。どうやって。思考が回らない。どうしよう。時間がない。このままでは支配し切ってしまう。変換してしまう。それだけは駄目だ。何か方法は、方法は!

 

 ひとつ。覚えのない感覚が、リヴィンの中から『甦ってくる』。全てを記憶しているはずなのに、そうとしかいえないものだった。同時に少し前に味わった気分の悪い感覚も浮かんだ。

 そして別にもうひとつ。翠の何かが、こちらへ働きかけてきている。『それ』に、リヴィンは何がなんでも応えなければならないと感じていた。離してしまったら、終わる。

 ふたつを手繰り寄せ、ひとつを手放さないようにしっかりと握りながら手助けしてもらう。気分の悪いひとつは、正直握りたくすらないがこれも必要不可欠なのは分かっていた。酷い拒否感に苛まれれる。えずきも止まらない。それでも、それでもやらなければいけない。ここで諦めてしまったら終わってしまう。また失ってしまう。あの絶望を味わうのは嫌だ。もうこれ以上終わらせたくないのだと、思っているからこそ──ひとつを、呑み込んだ。

 

 そして、『理解』をし。

 

 実行をした。

 

「うぐっ……、えほっ、けほ、ふ、……は、」

 

 ぐちゃり。

 

 花京院の腹部あたりから、胸から上『だけ』になったリヴィンが、血と水が溜まった床に投げ出されていく。

 

「は……、はっ」

 

 荒い息をどうにか整えながら、肘をついて後ろを振り返った。

 花京院は目を瞑ったまま、給水タンクに埋まっている状態から変わっていない。しかし制服こそ破けているものの、リヴィンが見た腹部の穴はもう存在していない。微かではあるが、呼吸音もしっかり聞こえる。腕を懸命に伸ばして、花京院の足首を掴んだ。探って触れた肌の内側から伝わってくる血管の動きも、生きていることを教えてくれる。

 

 リヴィンは、やり遂げたのだ。

 

「ああ、うう……ぐ、うう」

 

 花京院は生きている。生きている!

 

 瞳から水が勝手に溢れ出てきて落ちて止まらない。手の甲で拭えども、次々に新しい水が生まれ続ける。止めることができるはずなのに、どうしてか止められなかった。

 ぐちゃぐちゃになった感情をおさめようと、乱暴に頭を地面に打ち付ける。まだやらなければならないことがリヴィンを待っていた。

 体を再生させようと、力を込めていく。リヴィンにはDIOを倒すという、リヴィンとしての存在意義がすぐそこにある。しかし軽く周囲を見渡すと、ジョセフもDIOも移動してしまったのか、もうこの場にはいなかった。時計が壊されているが、戦闘の余波かなにかだろう。

 けれど力を入れれども入れれども、一向に体が再生しない。いくらエネルギーを使ったとはいえ、ここまで再生しないのは初めての経験だ。何かが、ストッパーとなっているかのようだった。……先程使った『力』のせいだろうか。

 だからといってリヴィンは止まることなど許されない。眼から涙を零し続けながら、腕を使って体を転がしつつ動き始めた。

 

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