人間を謳歌せよ   作:雲間

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二十七話

 

 リヴィンはDIOを仲間から引き剥がす為に攻撃をしおびき寄せてから立ち止まるまでの間に、DIOのスタンド能力について確認をしていた。スタンドの能力を行使するためのインターバルはおおよそ15秒、時を止めていられる秒数は移動距離から計算して4〜5秒かと思われる。つまりリヴィンは5秒で止めを刺される位置にいてはいけない。その上、DIOにどう攻撃を仕掛けるかも考えなければならなかった。触れれば勝てるが、下手に近づくと時を止められて何かをされ、頭を潰される可能性がある。なのでリヴィンが取るべきはなるべくDIOを衰弱させて、遠くから頭を潰すことになる。

 だが皆から引き離すのを優先し、住民の被害の及びにくい人口が少なめな場所へ移動したせいで、取れる手段もなかなか見当たらない。けれど、今のリヴィンには取れる手段がひとつだけあった。DIOのスタンド確認と並行に隠れて行っていたこと。これに間違いがなければリヴィンに勝機は存在する。一度拳を力強くと握りしめてから、リヴィンはDIOへと向き合った。

 

「……さて、ジョナサンの体を返してくれるかい?」

「フン、無駄無駄無駄無駄。もはやこの肉体は我がものと化している。それに今更何処に返すというのだ?」

「エリナの元だよ。お前のものじゃないし、お前が好き勝手に奪ったんだ。お前のところにあっていい体じゃない。返せ」

「死んだヤツにどう返すというのだ? 馬鹿馬鹿しい、付き合っていられんなァ!」

 

 DIOが足を踏み出して動き出す。同時に背後に揺らめいていたDIOのスタンド──ザ・ワールドも動いてリヴィンへと向かってくる。

 DIOはリヴィンのことを知っていた。ならばリヴィンがスタンドを使えないことも知っていると考えるのが自然だろう。現にDIOが左側から迫ってくるのに対して、ザ・ワールドは右側から先行してリヴィンに攻撃を仕掛けようとしているのが見えている。目線でバレないようDIOを視界の真ん中に置き、端でザ・ワールドを確認しながらリヴィンもまた動き出した。

 

「……ジョナサン、ごめんなさい」

 

 今すぐにでもDIOの首を切り取り殺し、ジョナサンの体を取り戻したい。頭蓋骨を探しに行きたい。ジョナサンをエリナの元へと返しに行きたい。骨を一緒になるように埋めて、そうして……。

 リヴィンという存在の望みはそれだけで、その為にだけに生きている日々だった。けれど、今はそこに別のものが入ってきている。花京院の腹の穴を見て、花京院が死んでしまうという状況がリヴィンに大きな自覚をさせた。

 今を生きている仲間を守りたい。死なせたくない。その為に、一番大切なジョナサンの体を傷つけてでも、DIOを殺すことを優先しなければならないと思ってしまった。本当はジョナサンの体に自分が傷をつけるなどやりたくない。でも、それ以上に仲間を失うのが怖くなってしまった。

 先程仲間を助ける為にジョナサンの体に傷を付けたが、凄まじい心臓の鼓動と吐き気がリヴィンを襲った。やりたくない、やりたくない、やりたくない。やめたい。だけれど、……仲間が殺されてしまうのが、なによりも怖くて仕方がなかった。

 自分の存在意義と戦って、自分の中の矛盾と戦って、今リヴィンはここにいる。

 

 一筋の涙を流してからリヴィンは、自分の腹から4本肋骨を動かして外へと出し両手で掴む。骨を真ん中でバキンと折って8本にすると、高速で8本の骨をDIOの顔に当たるように投擲する。顔に当たってくれれば一番良かったが、当然ながらザ・ワールドの拳によって粉砕されてしまう。しかしながらリヴィンにとってはそれでも良かった。

 

「W、WRYYYYYYYYY!?」

 

 ザ・ワールドからのフィードバックがDIOに襲いかかり、拳を中心に腕が酷く焼け爛れていく。DIOがコントロールが効かないからと封印していた気化冷凍法を、構わず腕全体に発動させ凍らせておさめるほどの酷いものであった。痛みを少しでも抑えようと、DIOは荒い息をしながら何が起こったか把握しようと立ち止まっている。DIOには、破壊したはずの骨が変化して赤黒くなったように見えた。

 

「貴様ッ! スタンドに目覚めたな!?」

 

 スタンド相手に非スタンド使いは攻撃ができない。逆に言えば、攻撃できているならばスタンド使いである。DIOの言葉にリヴィンは吐きそうな顔をしてこう答えた。

 

「美味しくなかったよ、君の部下」

「……ヴァニラ・アイスを喰らって得たか!!」

 

 そもそも人間自体が不味いと思っているが、それは言わないでおく。

 リヴィンの推察が正しければ、このスタンドはヴァニラ・アイスを吸収して得たものだと思っている。ジョースター家の人間がジョナサンの体を介してスタンド能力を目覚めさせたのだから、吸収したリヴィンがスタンドに目覚める因子を持っても不思議ではない。最も、リヴィンが花京院を死なせたくないと願い、おそらく花京院のハイエロファントと思われる翠に手助けをしてもらわなければ目覚めることはなかっただろう。

 その願いが、リヴィンのスタンド発現のきっかけとなったのだ。

 

「さあ、続けようか」

 

 先程と同じように肋骨を取り出し、今度は細かめに折ってからDIOへと広範囲に渡るようばら撒いて投げつけていく。

 骨が何になったのか判断つかなかったが、触れなければいいということは理解したらしいDIOは、腕を再生させてから、今度は払ったりせず時を止めて回避をすることにしたようだ。気がついたら左端からDIOが迫ってきている。

 流石にこれ以上肋骨を取るのはバランスがとりにくくなるのでやめ、今度は左の指先を関節ごとに千切って取ってを繰り返し投げつけていく。DIOは直接当たるまいと、近くにある看板や壊した壁を盾にしてリヴィンへと近づいてきている。そうして徐々に徐々に右へと移動をし、DIOが所定の位置にいるのを確認したところで、残りの左手の甲を時止めでしか対応できない速度で投げつけた。案の定、時を止め差を縮めてこちらに迫ってきているDIOとザ・ワールドがおり、そのザ・ワールドへと当たるようにリヴィンは髪の毛を右手で毟り取り風に乗せていく。

 

「何をする気だ貴様ッ!?」

「お前に痛みを贈るよ」

 

 苦しんでくれ。

 

 リヴィンは軽く微笑むと、ばら撒いた髪の毛を『濃硫酸』へと変化させた。ザ・ワールドはなんとか避けようと左側へ動いたようだが、結果右側に集中して濃硫酸がかかりDIOの右側が焼け爛れていく。

 

「うぐ、ああ、がああああああああ!!」

「ほら、まだまだだよ」

 

 左手首からライターを生成し、着火をさせてから苦しんでいるDIOの足元へと投げた。そこには、リヴィンが2回目に投げた肋骨片が転がっており、その骨は『火薬』へと変貌していたのである。少量ながらにブワッと大きな炎を発生させ、DIOの体に引火していった。暴走寸前といった感じの気化冷凍法を発動し鎮火をさせたようだったが、DIO自身は再生が追いつかないほどボロボロになっている。補給をしようにも、人の少ない場所に来ているので吸血はできない。詰みに近い状態にはできたがまだ油断は禁物であると、次の時を止めるリキャスト終わり5秒までに距離をとって頭を潰すをしようとした矢先。

 

「き、貴様は、ひとつ勘違いをしているッ!」

「うん……?」

「その勘違いで貴様は死ぬのだァ!!」

 

 ザ・ワールド!

 

 リヴィンの目と鼻の先にキャタピラが──ブルドーザーがリヴィンを押し潰そうと迫っている。おかしい。『リキャストまであと5秒あったはずなのに』。

 

 ……ああ、これが勘違いか。

 

 本当のリキャストは10秒なのに、リヴィンが15秒だと勘違いするよう誘導されていたのだ。その事実に気がつき、目を見開いて。

 

 血をぶちまけて、潰された。

 

 ➖

 

「承太郎。やはり死んでいなかったか」

「てめー……、何してやがる」

 

 アヴドゥルにジョセフとポルナレフとイギーを託し、承太郎はDIOがいった先に足を進めていった。一番いいのはリヴィンがDIOを倒していること。二番目にいいのはまだ戦闘中であること。そして承太郎の目の前で起こっているのは三番目の最悪なもので、『リヴィンは殺されてDIOに血を吸われている』だった。

 リヴィンは胸部から上をブルドーザーで押し潰され、血が滲み出ている。左腕は欠けており、わずかに出ている腹部は何故か凹みが生じていた。

 

「何してやがるって聞いてんだ!!」

「見て分からないのか、承太郎ォ! 血を吸ってやってるんだよォ血を! ジョースター家の血が体を馴染ませてくれると思っていたが……、コイツの血も中々に良いなァ。流石、闇の種族といったところか」

 

 DIOはリヴィンの右手首を掴み、脈に牙を立てて血を吸っていた。腕から吸えるだけ吸ったのか、腕を離して口元に付いた血を舌で舐めて味わっている。

 

「足らんなァ〜。コイツに傷つけられた分が足らん。もっと貰わんとなァ!!」

 

 口角を最大限に上げる邪悪な笑みをしたDIOはリヴィンの腹に手を突っ込み、そこからも血を吸収していく。元々細めだったリヴィンの体はどんどん血を失っていき、萎んで干上がった体へと変貌する。リヴィン本人が誰よりも嫌っていた人物に、大切な人を奪った人物に、回復の材料とされていた。

 

「野郎……ッ!!」

「フフフ、フハハハハハハハッ!! ジョースターの血統がこのDIOを完成させる為に、闇の種族というものまで献上してくれるとはなあ! 実に面白いものよ!!」

 

 リヴィンはそんなことの為にここまで来たのではない。ただひたすらに恩人であるジョナサンとエリナの為に走り続けていた。ひたむきで純粋で、永く生きているのに子供のようで、呆れるようなことをしたのも何度だってある。それでも懸命に学んで成長して、人間を分かろうとしていたのだ。『約束』を守ろうと一途に生きていた。

 決して、DIOに献上される為に生きていた訳ではない。

 

「てめーはこの空条承太郎が直々にブチのめす」

 

 承太郎の怒りが、爆発した。

 

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