ラバーソールを倒してから5分後、ジョセフ、一緒にいたアヴドゥルと置いて行かれていた本物の花京院と合流をした。少女についてはホテル待機とさせたらしい。ちなみに着替えはなかった。緊急事態ということもあり、さほど重要といえない事項だったから忘れてしまったのだろう。リヴィンは特に気にせずジョセフに着替えが欲しいと伝え、後々SPW財団に代わりの着替えを持ってきてもらうこととなる。もちろんリヴィンは潜水服でホテルに着いて行けない故に、人通りの少ない陰になっている裏路地で一人待機が決まったのだが。
「万が一に備えて、僕はリヴィンと一緒にいてもいいですか? 一人になったら今度はリヴィンに化けてくるスタンド、スタンドでなくても変装した敵が出てくるかもしれない」
と、花京院が提案をしてきた。
そもそも今のリヴィンに変装しようと思えばいくらでもできる。極論体が隠れるものであればなんでもいいのだ。本人自身の言動が良くも悪くも怪しいところがあるので、ジョセフ以外の付き合いの浅い面々が見破れるかどうかも分からない。ラバーソールがリヴィンの存在を知らなかったので、しばらくは大丈夫かとは思われるが用心に越したことはないと、花京院も残ることとなった。
気絶したラバーソールを持っていった三人が去ってから、なんともいえない沈黙が場を支配している。その沈黙を生み出している一人のリヴィンは、内心は分からないが特に気にせずぼーっと突っ立っているように見えた。
花京院があまり知らない仲の二人きりという、対処はできるが得意ではない状況に自ら持ち込んだのには訳がある。
「あの、聞いてもいいですか」
「なんだい?」
花京院が残ろうと思ったのは、海上で聞けなかったことを聞くためだ。もちろん偽物を防ぐという意味合いが一番大きいが、花京院個人がやりたかったのはこっちの方が大きい。勿論ここでない場所で聞くことはできるだろうが、敵だったり誰が聞いているか分からないので中々話を聞ける状況になりにくいと判断からだった。
「リヴィンがこの旅に……、DIOを倒す旅についてこようと思った理由を教えていただけませんか」
承太郎とジョセフは身内の為、アヴドゥルは友人の助力および凶悪なDIOに立ち向かう為、ポルナレフはDIOを追えば仇に辿り着けるだろうが為、そして花京院は死ぬはずだった命を承太郎に救われたが故に、ひいてはDIOという恐怖に打ち勝つ為に旅へと参加した。ならばリヴィンは一体何の為に参加をしたのか、気になるのが普通というものだろう。
そんな問いかけにリヴィンは少し間をおいてから、しっかりと花京院へ体を向けて喋り始めた。
「……DIOから、私の一番だったものを取り返して戻すのが目的なんだ」
「一番だったもの?」
少し、不思議な言い回しだった。
「一番だけど、今は少し違うというか、一番ではあるんだけれど……。……ああ、すまない。そこを説明しようとすると怒りで冷静に伝えることができなくなってしまうんだ。ジョセフに聞いた方が早いよ」
そのリヴィンの口調は何かを抑えるかのようなもので、相当の我慢をしているのが感じてとれる。キツく拳を握り、今も少し呼吸が荒くなっているのが金属板越しでも分かった。実際にあるわけではないが、怒りの熱気のようなものを感じる。
「ええっと、ジョースターさんからは直接聞いてくれと言われていて」
「ジョセフが? ああ、どうしてまた……。いや、いやそうか、うん」
はぁと深いため息をつき、その場にしゃがんでうずくまってしまう。両手を頭に乗せて唸っていたものの、自分の中で結論がついたのか今度は顔だけ花京院に向ける。
「そのうち、話せるようになる……と、思う。理由を自分から話したことがなくてね。とにかく、私がDIOを殺したい気持ちは一生変わらない。それだけは信じて欲しいんだ」
「大丈夫、信じますよ」
リヴィンがどう説明していいのか分からない子供のように見えて、──少しだけ幼い頃の自分と重なって、花京院は安心させるようにと、同じ目線になるようにしゃがんで返事をしたのだった。
真剣な眼差しの花京院にほっとしたのか、リヴィンは張っていた気持ちを落ち着かせる為にひとつ息をはいてからお礼を述べる。
「ありがとう、花京院」
「気にしないで下さい。あと、差し支えなければ教えて欲しいんですが、リヴィンは何歳なんです?」
「正確には分からないけれど、成人期にあたるはずだよ」
「誕生日が分からない……?」
「……まあ、そんなところだね」
そうこうしているうちに、着替えを持ったSPW財団が到着した。近くにある建物の一角を借りたらしく、そこで着替えてくるらしい。花京院はリヴィンの着替えが終わるまで、まずいことを聞いてしまっただろうかと頭を悩ませるのであった。
★
「おまえ結局そういう格好なのかよォ!」
承太郎と花京院の部屋に集合とSPW財団の人から伝言を聞いて二人で戻った矢先に、警察から解放されて戻っていたポルナレフから言われた言葉だ。花京院も同意見であったのか、頷きそうだったがすんでのところで踏みとどまっている。
それもそのはず、リヴィンの格好は真っ黒な布で全身を覆った民族衣装のようなもので、僅かに露出しているのは目元くらいだった。しかしその目元も基本的に陰になっており、しかも透けているレースで覆われていて中身が見えないように徹底されている。時折長い袖から見える手も防刃仕様が追加されているグローブを装着しており、1ミリも肌を見せない仕様になっている。
本人とジョセフ曰く、これしか着れない。とのことだ。今まで金属製の潜水服越しから聞こえてきていた声よりハッキリと聞こえるようになったものの、中性的な声で性別は分からない。唯一分かったことといえば、身長は165センチ前後という情報だけだ。
「どっちなんだ?」
「どっち、とは?」
「性別だよォ性別。小せえけど流石に男だろ?? な、な?」
「おい、失礼だぞポルナレフ」
「性別を知ってどうするんだい? 別にどっちであれ困ることはないと思うんだけど」
「あるに決まってるだろッ! なんだァその飲み物頼んだ時に性別聞かれたかのような反応!!」
煙に巻いている訳ではなく、本気で分かっていない様子にポルナレフは近くにあったテーブルを叩いてからくたびれた。
アヴドゥルは呆れた様子で首を横に振っている。
「コイツ疲れるぅ……」
「ポルナレフ、そいつの相手しても意味ねえぜ」
「そもそも人か? 人なのか? 実はその服の下なんにもありませェ〜んとかじゃねえのかァ??」
「変なことを言うんだね、中身は普通にあるよ。……そうだジョセフ、今度何かの機会の時にし」
「ダメじゃダメじゃ! おっほん、いい加減話を戻すぞ!」
本来の目的から脱線し続けた話をようやく戻し、ラバーソールから引き出した情報をジョセフが共有し始める。
ハーミットパープルによって覗いたラバーソールの情報は、「死神」「女帝」「吊るされた男」「皇帝」の四人が一行の追っ手としてきており、その中でも「吊るされた男」は鏡を使うスタンド、くらいだった。本当にただDIOに金で雇われただけで、これ以外にろくな情報をもっていなかったのである。その為ラバーソールについては、SPW財団に弱点を念入りに伝えてから引き渡しとあいなった。
僅かな情報ではあったが、その吊るされた男はDIOにスタンドを教えた魔女の息子でJ・ガイルという名前の、ポルナレフの妹の仇であるらしい。
平和に暮らしていたポルナレフの妹を辱め、殺した男。共にいて斬られた友人からもたらされた情報は、ポルナレフにスタンド使いの人間が犯人だと判断させるに十分なものだった。
「会えるのかッ! ついに俺の妹の仇にッ!!」
復讐の為だけに旅を始めたポルナレフは、とうとう相まみえることができるのだと気持ちを昂らせている。
そんなポルナレフを見て、リヴィンも状況も違えど似たような感情が自分の中で燃え盛っているのを感じていた。ずっとずっとずっと、リヴィンの中でその炎は消えることなくあり続けている。DIOが蘇ったのだと知ってから、より一層炎は増していった。ずっと隣にあり続けた炎は、生きる気力でもあり、苦しさでもあった。
──だからこそ、気持ちを知っているリヴィンは徹底的に助力をしようと密かに決意を固めていたのである。