人間を謳歌せよ   作:雲間

30 / 49
三十話

 

「何故私は……えーっと、ジャパニーズ土下座? をさせられているんだい?」

「おめーがしているのは正座だぜ」

 

 承太郎からのツッコミが入る。常人ならば痺れて大変なことになるらしい。が、リヴィンはそんなことは起こらないので無駄だと言っても、うっすらとした笑みを浮かべた花京院からの「やってくれますよね」の一言で大人しくしている。

 病院内にある会議室を借りて、行く義理はねえとクッションで丸まったまま動かないイギー以外の一行が集まっていた。今はリヴィンが床に正座をし、目の前に花京院とポルナレフが立っており、他の面々は椅子に座ってその様子を眺めている。ちなみに承太郎も花京院も制服を仕立て直して新しいのを着用していた。

 

「リヴィン、何故こうされているか分かりますか?」

「分からない!」

「おっまえなァ〜〜!!」

 

 元気よく答えるリヴィンに、はあああああ……とポルナレフはでっかいため息をついた。花京院も腕を組みながらどう話していいものかと頭を悩ませている。ポルナレフの足を再生させた昨日からずっと、やけにリヴィンは元気溌剌としていた。

 

 最初はちゃんと全員椅子に座って今回の戦いについてまとめた話をしていたのだ。そして別行動していたリヴィンの話とスタンド、DIOとの戦いの結末、リヴィンがジョナサンの体を吸収したこと。それらを全て話し終わった時、花京院が立ってリヴィンに近くまでくると、片膝をついて目線を合わせながらリヴィンの手を取り話し始めた。

 

「リヴィン、ありがとう。君がいなければ僕は死んでいた。……僕は、あそこで死んでも後悔はないと思っていたんだ。でも話を聞いて、君の目的上変な話にはなるんだけど……。DIOではなく僕を、仲間を優先してくれたと分かって、生きて知れて良かったと思っているんだ」

 

 リヴィンに「DIOを殺してジョナサンの体を取り戻す」以外の目的がないことをずっと心配していた。この旅が終わった後、リヴィンは何をよすがとして生きるのだろうと。仲間達と連絡を取りはするだろうが、このままいけばリヴィンはエリナとジョナサンの墓守として、ただ生き続けるのではないかと思っていた。

 だからこうしてリヴィンが目先のDIOを殺すという目的だけで動くのではなく、方法は分からずとも花京院を助けたいと動いてくれたことが何よりも嬉しかったのだ。リヴィンという人物の『大切』に近い存在になれていたと、分かったのだから。

 

「……私は花京院に死んでほしくなかった。みんなに死んでほしくなかった。それだけだよ」

 

 困っているのか、指先をところなさげに動かしている。そんなリヴィンの手をしっかりと握り、黒衣のその先にある暁の瞳に合わさるように視線を向けて言った。

 

「その気持ちが嬉しいんだよ、リヴィン。……でも、命を助けてもらった僕が言うのもなんですが、リヴィンにはあまりそのスタンドを使ってほしくない」

「あっ、それ俺も言おうと思ってたのよ!」

 

 ポルナレフがガタガタ音を立てて椅子から立ち上がり、花京院と同じくリヴィンの前にくると言い募り始める。なおポルナレフは右足を再生された後、リヴィンがぴょんぴょんしているのに逃げ切ったせいで1人だけ騒ぐなと怒られていた。右足については騒ぎを聞いて飛んできたジョセフによって誤魔化されている。

 

「おまえさァ〜、いくら再生できるからって自分の体粗末にしすぎ! 前にも盾になるなって花京院が言ったよな? 約束したよな?」

「また同じ話になるけれど、それとこれとは違わないかい?」

 

 ああ、ダメだこれは。

 

 そう分かった花京院が先に動き、冒頭の通りリヴィンを床に正座させたのである。

 重苦し目な雰囲気になってきたにも関わらず、リヴィンは元気いっぱいな言い方のまま言葉を続けていく。

 

「私がやらなければ花京院が死んでいたし、ポルナレフは右足が不自由になったまま生きることになっていた。そんなのは嫌だ! 私はいくらでも再生できるし、何も問題はないだろう?」

「僕達はリヴィンがいなければ、ここに五体満足でいられていないのは確かだ。けれどリヴィン、君はどんな状況であってもやろうとするだろう? それが原因で君が死ぬことになったら、僕達は悔やんでも悔やみきれないよ」

 

 元から再生が効くからと体を粗末にしがちだったが、体を素体として使うスタンドを手に入れてしまい、ぞんざいに扱うことが加速確定してしまっている。今まではなんとかなっているが、今後もそれでなんとかなるとは言い切れない。それで共倒れしたら元も子もなくなってしまう。ましてや旅が終わり、この面子は解散となる以上、誰かしらがフォローするということもできなくなる。リヴィンに死んでほしくないからこそ言っているのだ。

 

「私は君達が死ぬことの方がもっと嫌だね! 私の力で君達が死なないならなんだってやるよ。生きてるって素晴らしい!」

「おいリヴィン、いい加減にしろよな! 俺達は体を大事にしろって言ってんだ!」

 

 ガン! と大きな音がして部屋全体が震え、皆の注目が音のしたところへと集まる。それは、リヴィンが床を強く叩いて手の跡を残した音だった。

 

「……そっちこそいい加減にしてくれないか。人間の基準に私を当てはめないでくれ。私は闇の種族なんだ。人間じゃない」

 

 リヴィンは先程までの活気あふれた空気を一切感じさせない、冷淡な物言いに変化させた。今まで敵に対して激怒することはあっても、仲間に対しては一切なかった行動に全員目を疑う。ましてや今までは素直に言われたことを聞いていたリヴィンが、だ。

 正座を解いて立ち上がったリヴィンが歩いてドアの前まで行くと、何か言おうとしたのか一度立ち止まったが、そのまま部屋から出ていってしまった。

 バタンと扉の閉まる音が場に響き、中には暗澹たる雰囲気が漂ってしまう。誰も何も言えない状況を打破しようと、一番リヴィンの心情を理解していたジョセフが口火を切った。

 

「元々、空元気だったんじゃよ。取り戻したかったおじいちゃんの体をそのままエリナおばあちゃんへ返せなかったことが、よっぽどこたえたんじゃろうな」

 

 ジョナサンの体を取り込んだのだと言った時のリヴィンは、「こんな形だけれど、エリナの元に帰ってることには間違いないからね!」というものだった。痛々しさはなく寧ろ誇らしげだったので、吸収する現場を見ていたジョセフ以外全員納得をしていたのだと勘違いしたのだ。

 

「言っていた通り、もうリヴィンは誰も失いたくないんじゃ。そして、その方法も手に入れてしまった。エリナおばあちゃんとの『人間のように生きる』という約束を破ってでも、護りたいと思ったんだろう」

 

 生きているならば、死ぬ前ならば如何様にでも生かせる手段がある。『大切な人』の為ならば、死のシンボルが頭上で輝いている中で活動することも厭わないリヴィンには、自分の体がどうなろうと関係ない。それが約束破りの結果だったとしても。

 アヴドゥルがそれを聞いて、少々唸り声を上げながら口を開いた。

 

「しかしジョースターさん、将来誰かに何かがあったとしても、すぐにリヴィンがどうこうできる訳でもない。割り切りをしてもらわなければ……」

 

 そもそも物理的に離れていたら再生もなにもできない。今回のように即再生でもできない限り、欠損などがあった場合に対応するのは不自然になってしまう。それに、人というものはいつ死んでしまうか分からない。普通、残された人間は歳を重ねることによる忘却で傷は浅くなっていくが、『ずっと全てを覚えている』と語ったリヴィンにはその方法はとれないのだ。リヴィンがあの姿勢を続けていると、『仕方がない』を出来ずにいずれ身体も精神も崩壊するのが目に見えていた。

 

「それについては時間をかけて分かってもらうしかない。みんな、協力してくれんか?」

「……僕は、リヴィンにリヴィン自身を大切にしてもらいたい。リヴィンに死んでほしくない。だから何十年かかろうともやります」

 

 花京院の言葉に反論する者は誰もいない。各々頷いたり、帽子を深く被ることで返事をする。全員の意思を確認したジョセフは、仕切り直しだとパンと手を叩いてから今後の予定について告げていく。

 

「これからダミーとして作ったDIOの体を太陽に晒しに行く。完全に消滅させたという証拠作りじゃ。その後わしらでDIOの館に入り、DIOの残党などの危険なものがいないかを調査する。そこまでやってからが一区切りじゃな」

 

 ★

 

 SPW財団の車でDIOの体のダミーを運び、日に晒して燃やし尽くしてやった後、DIOの館へと一行は向かった。リヴィンが怒り落ち込んでいた、いつかと同じように気まずい空気が車内に漂っている。もっとも今度はリヴィンの刺々しい態度によって、ではあるが。リヴィンは石像のごとくそこにあるだけになっており、声をかけても反応をしなかった。リヴィンなりの怒っている表現である。

 DIOの館については、皆としては何もなければそれでよく、残党に繋がる何かがあるのが一番良い。リヴィンにとっては、此処こそが旅の終着点になる。

 

 館に着いた途端にリヴィンは車から飛び降り、仲間が声をかける暇もなく中へと入っていく。ヴァニラ・アイスとの攻防であちらこちらに穴が空いている1階は無視し、2階へと上がっていった。とにかく部屋という部屋を開けまくり、ざっと中を見回して目的のものを早足で探していく。数ある部屋の中で、吸血鬼の館のくせに神に祈りを捧げる為にある礼拝堂が存在していたことに顔を顰めつつも、2階を全て探索し終わり3階へと上がっていった。

 3階は部屋数が少なく、すぐに全ての部屋を回って確認をすることができた。そのひとつに、一際大きなベッドルームが存在しており、リヴィンの訪れを待っていた。

 ギィ、と扉の開く音が鳴る。リヴィンの中に入っていく足音が響いていく。暗い室内には天蓋のあるベッドにサイドテーブル、チェストに火の灯っていない燭台が存在しており、本棚と戸棚が壁際に並べてあるくらいのシンプルな部屋だった。

 そのサイトテーブルの上。記録帳らしき本と共にあったもの。蓋部分が金で彩られているガラスケースに仕舞われている、白いなにか。

 

「あ……」

 

 足が止まった。これで一昨日に続いて2回目だ。リヴィンにとって、現実を直視しなければならない事態は。

 分かっていた。言葉にしていた。頭では理解していた。当然だ。でも、それでも。

 もつれそうな足を機械的に動かして、前へと進む。段々と近づいていくにつれ、はっきりとわかる『それ』。

 

「うう、……」

 

 真正面から見た瞬間、分かってしまった。間違えようがない、骨格がそうだったのだ。膝をつき、震える指先でガラスケースに縋る。頭をその額へと寄せて、涙した。

 

「ジョナサン……ッ」

 

 新婚旅行へと行くジョナサンとエリナを見送った、あの日以来の再会だった。

 

 ケースを胸に抱きしめて包み込むようにする。言いたいことが沢山あったのに、口から出てくるのは嗚咽ばかりで。後悔ばかりが押し寄せてきて、ようやく出せた言葉はごめんなさいの一言だけだった。

 

 エリナに帰すべき人の骨が、確かに此処にある。帰せるものがちゃんとあった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。